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モータルコンバット(2021)の感想

ツイッターで投稿していた、『モータルコンバット(2021)』の感想をまとめたものです。表記や言い回しに変更はありますが、内容に変更はありません。

原作シリーズや過去の映像化作品の(割とライトな)ファンの一人として、映画内のここにグッと来たぜ!みたいなのが中心になります。

また、完全ネタバレです。リアルにモータルコンバットファンの友達が居れば、「あそこってアレだよね!」とかそういう話で盛り上がれるのでしょうが、僕にはそういうフレンドシップが無かったので、全部吐き出していたというのが正しいです。

なので、実際は単なる誤読、深読みのし過ぎ、的外れ、勘違いなどもあるかもしれません。「そういう見方もあるよね」ぐらいの気持ちで見ていただければと思います。

あと、最後に上映方式別の感想を書きました。

なお、便宜上、ゲームタイトルはMK、映像作品はモータルコンバットと表記します。

■オリジナル設定のまとめ

まず最初に「映画オリジナルの設定」についてまとめてみます。
まず主人公コール・ヤングは、観客に世界観を説明するために置かれたオリジナルキャラです。
更に、ドラゴンの刻印に関する設定(選ばれしものには刻印が浮かぶ、刻印を持つものだけが修行で特殊能力・アルカナに目覚める、相手を殺すと刻印を奪える)は、完全に映画だけの設定です。
ゲームだとジャックス、ソニア、カノウは、完全に肉体と科学の力で闘います。
95年版では、映画のリアリティラインに合わせた結果、主人公側がゲームの技をほとんど使えなかったので(※)、この改変は良かったと思います。
(※ジャン・クロード・バン=ダムをリスペクトした相手の股間を殴る技は、バカ丁寧に映像化されており、一見の価値があります)

■アバンタイトル


ビ・ハンvsハサシハンゾウ
舞台は1617年の日本。白井流の隠れ里から始まります。
このシークエンスは2011年のwebドラマ版『モータルコンバット レガシー(以下:レガシー)』が下敷きになっています。見比べると、ハンゾウの屋敷の立地、森の雰囲気など、かなり寄せているのが解りますね。
冒頭で『ずいずいずっころばし』を歌いながら登場するのは『レガシー』でジュウベイが『てるてる坊主』を歌う事のオマージュでしょうか。

ちなみに『ずいずいずっころばし』の起源と言われる御茶壷道中ですが、制度化されたのは1633年。1617年に歌っているのは、時代考証のミスとも言えます(※諸説あります)。ただ、これは「赤ん坊がビ・ハンの襲撃を隠れてやり過ごす」事を歌で暗示するために、あえての選曲とみるべきでしょう。

ビ・ハンの登場の前兆として「部屋が寒い」という表現が良いです。中国語で問い詰めるビ・ハンに対し、「何を言っているのか解らない」というひきつった笑顔のハルミ。余裕を漂わせながら、日本語で諭すように脅すビ・ハン。この緊張感が本当に素晴らしい。『イングロリアス・バスターズ』の冒頭に匹敵するといっても過言ではないでしょう。

悲鳴を聞きつけて駆けだすハンゾウが、桶の水を全部こぼします。95年のポールWSアンダーソン版(以下、95年版)で、サブゼロの倒し方が「手桶の水(=生命の源)をぶっかける」というトンデモなものだったことを考えると、手桶の水をすべて溢す=勝ち目がないことを暗示しているのかもしれません。MKシリーズじゃないと成立しない暗喩なので面白いですね。
凍り付いたハルミとジュウベイが悲しくも美しい……。江戸川乱歩の『吸血鬼』を思い出しました(『レガシー』の時は親子離れ離れなうえに、死体の目が凍傷で黒くくぼみ落ちており、グロかったです)。
2人の遺体を見て、気が遠くなるけど踏みとどまるハンゾウの仕草。遺体に寄り添って、最初に発するのが、絞り出すような「すまぬ……!」なのも、以前から妻子を危険に晒している自覚があったことを思わせます。悲しみから闘いに気持ちを切り替える瞬間が、全身の動きと表情で見えるのも凄い。このシーンはアクション以外のシーンも、常に全身が最高の演技をしている。「俳優の言葉は肉体だ」という言葉を思い出しました。
ハルミの形見のクナイに縄を付け、即興の武器としてバトルハープーンをDIYするハンゾウ。代名詞ともいえる武器のオリジンに「家族との絆」を重ねる新解釈。ファンならずとも思わず胸が熱くなったのではないでしょうか。
ここからのアクションシーンは、とにかく動きが綺麗でほれぼれします。燐塊の刺客13人を次々と切り捨てるハンゾウは、まるでニュータイプ。
殺意に満ちたハンゾウを、落ち着いた様子で待っているビ・ハン。ただものではない雰囲気を漂わせます。ビ・ハンの頬に傷がつくことで、原作の顔に近くなるのも良いです(傷があるのは弟のカイ・リャンだった気がするけど)。ビ・ハンがハンゾウの頭を岩に叩きつけるのは、MK Xから追加されたステージオブジェクトというステージギミック(背景にあるものを闘いに利用できる)の再現でしょうか。また、ハンゾウが胸を刺される動きは最新作MK11のスコーピオンのレバー投げの動きと同じです。
ここでのサブゼロの「燐塊(リンクェイ)のために」というセリフは、後の「白井流のために」と対になっていますね。
余談ですが、ゲームだとずっと「シライラユー」っていう発音だったところが、ちゃんと「シライリュウ」と発音されているのは嬉しいポイントでした。

瀕死のハンゾウが赤子の鳴き声で目を覚まし、力尽きるまでのシーンは迫真の演技もあって引き込まれました。
ライデンの登場時のポーズはゲーム最新作そのままなので、ファンならニヤっとしてしまうポイントです。ライデンがハンゾウの娘を抱きかかえ、ワープしたところでタイトル。
アルファベットがこちらを向くタイトルロゴの出方は95年版にそっくり!
また、この時引きで写る森の全景は、95年版でジョニーVSスコーピオンの舞台となった森を思い出させますね。当時のパンフレットによれば、元ネタは原作ゲームMK2のステージ背景(Screaming forest)らしいです。

このシークエンスは殺陣、演技、演出、テンポ全て完成度が高く、歴代のモータルコンバット映像作品の中でも屈指の名シーンだと思います。
また、タイトルが出るまでアジア人しか出てこなくて、英語のセリフが全くなかったのが印象的でした。日本人役を全て日本人俳優が演じ、ネイティブな日本語を話しているというのは、ハリウッド映画としては革新的ではないでしょうか(中国人のビ・ハン役はインドネシア人ですが)。

■試合前のコール・ヤング


コールの衣装、すべてのカットで差し色に黄色が入っていて、ハンゾウとの関係性をサブリミナル的に印象付けています。
MKシリーズでは、
・青=燐塊(リンクェイ) サブゼロの所属する中国忍者組織
・黄色=白井流 ハサシハンゾウが統領を務める日本の忍者
という色分けが伝統的にあり、ゲームでもタイ出身の白井流忍者タケダ・タカハシ(タケダが名前でタカハシが名字です)が、黒のボディスーツに黄色の差し色を取り入れた衣装でした。

試合のシーンは、異能力バトルの要素がない分生々しく、後半の(人死にが出る)闘いとは違った痛々しさがありました。
ピンチの時に娘が叫ぶ「アッパーカットを使って!」は、原作ファンならニヤリとするセリフです。ゲームで全キャラが持っている↓強Pのアッパーカット。吹っ飛ばし属性もあるので、追い込まれていてもクリーンヒットすれば状況をリセットできる、高性能な基本技です。「アッパーカットを使う=試合の流れを変える」というMKならではの文法ですね。
ただし、ここではまだアッパーは出ず、締め技を食らってギブアップ。これには見に来ていたジャックスもガッカリ。私もガッカリ。

■魔界


魔界の様子は東映の仮面ライダー映画みたいで受け入れやすかったです。この映画は、悪役側の描かれ方に何とも言えない東映ヒーロー映画のゲスト悪役感がありますね。『モータルコンバット』、ひょっとして凄いお金をかけたライダー春映画なのでは?

三国無双などコーエーテクモのゲームを思わせる、中国風の鎧を着たシャン・ツン。
シャン・ツンというキャラは、95年版のケイリー・ヒロユキ・タガワがとてもハマり役で、ファンの間でも異常に人気が高いんですよ。『レガシー』では、テコ入れでシャン・ツン役が途中からタガワさんに変更されましたし、ゲームの最新作MK11でも、最新のCGでタガワさんが演じるシャン・ツンが登場します。
つまり、映像化作品におけるシャン・ツンって、他のキャラとは違った意味でめちゃくちゃハードル高いんですよ。そんな中、原作ゲームの狡猾な老人とも、タガワさんの“魔人”シャン・ツンとも違いながら、出てきた瞬間「あ!シャン・ツンだ!」と解る、新しい世界観にマッチした見事なキャラ造形でした。今回はあまり活躍の場がありませんでしたが、続編ではさらに掘り下げられた、新たなシャン・ツン像を存分に発揮してくれそうです。

ビ・ハンが400年以上(!)生き続けていることになりますが、これはシャン・ツンの能力で生かされているのかな。燐塊(リンクェイ)の一員だったビ・ハンが、どういった経緯で魔界の軍勢に加わっているのか、ハンゾウを襲ったのは燐塊(リンクェイ)の命令なのかシャン・ツンの指示なのか。いろいろ謎が深まります。

余談ですが、サブゼロを演じたジョー・タスリムさん、もともとMKファンでサブゼロ使いだったこともあって、この衣装着た時にはハイテンションで自撮りをしまくってたそうです。カワイイ!

■試合後のコール・ヤング


試合後は娘から黄色と黒のミサンガをプレゼントされます。アバンタイトルでのクナイとロープを合わせた事も考えると、白井流の血を継ぐことを、紐を紡いでいくことで表現しているようですね。
あのミサンガを劇場でグッズとして販売したら、メチャクチャ売れたと思う。
渡すときにエミリーが「強くなるブレスレット」って言うことに5回目で気づきました。マジじゃん!

ジャックスが「エディ・トバイアスを倒した元チャンピオン(字幕だと単にトバイアス)」とコールに話しかけますが、これは原作ゲームの開発者&デザイナーの名前のエド・ブーン、ジョン・トバイアスをくっつけたもの(余談ですが、原作ゲームには二人の名前をさかさまにくっつけた「ヌーブ・サイボット:Noob Saibot」というキャラもいます)。

コールが胸にある龍の痣を見せます。
痣が右胸にあってよかったなぁ、尻にあったら毎回確認するときに大変だ、などとバカなことを思っていましたが、よく考えるとこの痣の場所は先ほどのシーンでハンゾウが致命傷を負った場所と同じですよね?因果だなぁ。

ここでコールが「昔は強かったのに、なぜ勝てなくなったのか(力を解放できなくなったのか)」というのが明示されていたら、それを乗り越えて成長する過程が描けてキャラに深みが出た気がしました。ここは明確にこの映画の弱点だと思います。ディレクターズカット版とかではその辺も補完してほしいところ。

■サブゼロ襲撃


アイスクリームを食べているのは暑い季節という演出ですが、MK11サブゼロのフレンドシップとかけてる可能性もあるかな。家族との幸せな時間……という演出が冒頭のハンゾウと重なり、不穏な空気が漂います。
「7月なのに雪が降る」「机が凍る」など、前兆からもサブゼロの操る凍気が400年前の「妙に寒い」とは比べ物にならないぐらいパワーアップしていることが伝わってきます。この時点でコールとハンゾウの関係性はかなりにおわせていたのが伺えます。

突然氷の塊がそこら中に降ってくる→早く車に乗れ!の流れは、ディザスタームービーみたいでした。画面左側で氷が当たって倒れる人が可哀想。もし、直径10センチを超える雹を大量に降らせてくる青い忍者が突然街に現れたら、ゴツいSUVで逃げる以外に選択肢はありませんね。

なおSUB ZEROは「0度以下」という意味ですが、これは華氏0度以下なので、摂氏で言うと-18度くらいとなります。冬の帯広ぐらいの寒さですね。英語では「超クールだ」という意味で、スラングとして使われるらしいです。
たまに公式で「サブゼロ(絶対零度)」という漢字がふられてる時がありますが、絶対零度は「Absolute zero」です。

■サブゼロVSジャックス


ここは俺が止めるから先に行け!というベタなフラグを立てるジャックス。彼はゲーム版MK2での初登場時から、行方不明になった同僚(ソニア)を助けに行くために単身魔界に潜入するナイスガイ。こういう自己犠牲的な精神はとても彼らしくて好感が持てます。
冷気とともに、吸い込まれるように建物に消えていくサブゼロは、まるでホラー映画の幽霊。建物の中はあちこちにつららが生え、有機的で異様な形が『エイリアン』を思わせます。
予告編の時から指摘されていた壁にサブゼロの必殺技コマンド「↓→LP」が落書きされているシーン、思ったより結構長く映っていて思わず笑いました。
パンフレットでも解説されていましたが、ジャックスのショットガンを弾丸ごと凍らせるサブゼロは、95年版でソニアの銃を凍らせるシーンのオマージュ。
始終サブゼロがジャックスを翻弄し、力の差が圧倒的というのを見せつけてくれましたね。
両腕を破壊されるジャックス。初見だと、ここで「ジャックス死んじゃった!」と思った人が多かったみたいです。確かに致命傷に見えるし、そう思って見た方がのちに復活⇒リハビリの流れはもっと胸が熱くなったに違いない……。MKシリーズを追っていると、「腕に重傷を負って義手で復活」への伏線だと瞬時にわかってしまうので、そこは知らずに見た方がお得だ!と思いました。

余談ですが、MK3や97年の映画版『モータルコンバット2』でのジャックスは、バイオニックアームというパワードスーツを腕に付けているという設定でした。ワーナー資本でリブートされて以降は「敵との闘いで両腕を失った」という設定に変更されています。ゲームではエルマックという魔界の戦士、『レガシー』ではカノウとの闘いで、それぞれ腕を負傷しています。

■コールの旅立ち


ここで家族を家に置いて出かけていくことを決意するコール。「狙われているのは自分、自分がここにいたら家族も危険に巻き込まれる」というセリフは後の展開と明らかに矛盾するポイントですね……。家に家族を置いていく、というのも、冒頭のハンゾウの悲劇と重なって不安でしかないけども。
ここでも娘のミサンガにクローズアップしますね。これを公式グッズで出してくれ。マジで。

■ソニアの家


このシークエンスはファンサービスがてんこ盛りでした。その分、ファン以外の人には冗長で、ちょっとキツかったんじゃないかと心配しています。

スペシャルフォースの前線基地にしてはショボい小屋。ジャックスとソニアがバカ正直に「魔界と人間界の運命を決める格闘技大会があるので、参加させてください!」って上司に言い出したら、こういうところに飛ばされたのかもしれませんね。お金もないって言ってたし、下手するとモータルコンバットの事調べるために休業してるぞ、この人たち。(原作でもMK3までは誰にも信じてもらえなかったので、ジャックスが対魔界の専門組織OIA:Outerworld Investigation Agencyを作ったという設定があります)。
(追記:吹き替え版のセリフから、ここがソニアの生家であることが名言されました。昔から貧しかったのか……)

壁に貼られた写真や絵に、原作ファンなら「あ、今アイツが居た!」となるものがたくさん並んでいます。「続編ではこんなキャラも出るかもしれないのか」と思いながら見るのも楽しいかもしれません(インディアンとかアステカの民とか)。

・今作のツッコミ担当、カノウ。
カノウはゲーム初期だと日本人で、黒龍会の加納さんという設定だったんですが、「どう見ても日本人じゃねぇだろ」という事なのか、いつのまにかその設定は闇に葬られました。95年の映画版ではイギリス人俳優になり、紆余曲折合って今はオーストラリア人です。
なので「ロシア人か?」「俺がロシア人に見えるかよ!」というやり取りはちょっと面白いですね。『シュガーラッシュ!』でザンギエフと共演したのもネタにしているのかな。

■カノウVSレプテリアン


この「透明になるエメリッヒ版ゴジラ」みたいなヤツがリープテイルなの!?嘘だろ……。リープテイルは、MK1で登城した、格闘ゲーム史上初の隠しキャラ。2以降もほとんどのタイトルで参戦している超人気キャラなんですよ。さすがにこの扱いで退場ってことはないでしょ……。同じ種族のモブトカゲとかであってほしいです。ただ、サウンドトラックだと「KANO VS REPTILE」ってタイトルなんですよね……。うーん……。
ソニアの投げたナイフがカノウの足に刺さり「俺のナイフ!」と叫ぶシーン。よく見るとこのナイフ、黒いドラゴンの絵が入っていて、黒龍会のものであることが解ります。ゲームでもナイフアッパーカットという技がありますし、95年の映画でもソニアを挑発するときにナイフを見せびらかすシーンが印象的なキャラでした。やはりカノウといえばナイフ。ただ、今回はナイフで痛い目に合ってばっかりでしたね。ガンバレ!
ここの戦闘シーンは画面がちょっとくらいので、IMAXとかドルビーで見たほうが楽しいです。割と展開が多いのですが、印象に残るシーンは少ないので、二回目に見たときはちょっと長いなと感じました。ここではまだ3人で力を合わせても1人の敵に苦戦する、というのを印象付けるためだとは思いますが、全体を通しても若干冗長な印象があります。

■寺院に行くの行かないので揉める


カノウの「いきなり拉致られて、しばりつけられて、足にナイフを突き刺されて、デカいトカゲに顔を切りつけられて(中略)だからお前を助けたくないね!」は、マジで1ミリもソニアを擁護できないぐらい正論なので、これは本当にカノウが可哀想でした。
結局、もらえない300万ドルで道案内をするハメになるカノウ……。お前……。
カノウが痰を吐くのは、MK11でのラウンド終了デモ(taunt)の再現ですね。汚いなぁ、もう。

カノウの飛行機でライデンの神殿を目指すシーン。パイロットの役を演じたのはオーストラリアの超人気ドラマ『ウェントワース女子刑務所』でメインキャラの女囚を演じてたクリス・マクアイドさんでした。カノウは超犯罪者だから、あの有名な女囚とも仲良しなんだぜ!というシーンだったのか……。なるほど。

ここまでの一連のシークエンス、実はコールがいきなりライデンの神殿について、そこでソニアやカノウと初めて合流しても、ストーリーとしては全然成立するし、セットアップがだいぶ短縮できたと思います。
ただ、そうしなかった理由は、明らかに心臓を引き抜いて「KANO WINS」をやるためなので、モータルコンバットの映画としては完全にこれが正解ですね(ちなみにこの心臓ブッコ抜きは「魂奪臓破拳」という、たいそうな日本名がついています。かっこいいですね)。

■ライデンの神殿を目指して


飛行機から砂漠にダイブして、案の定迷子に……。この手の「砂漠でウロウロするシーン」は、どんな映画でもだいたい話が停滞するので見るのがキツいのですが、事前に『猿の惑星』を鑑賞しておくと「でも、あれよりは短かったな」となるのでオススメです。

カノウは心底嫌なヤツですが、強がっているくせにソニアに勝てないところなかはかわいげがあります。最低なのになぜか憎めないキャラ、カノウ。演じたジョシュ・ローソンさんは「先入観を持たずに演じるために、あえて原作キャラのことは調べていない」というスタンスだったそうですが、ファンがイメージする通りの、見事なカノウでした。さすがベテラン。キモを掴むのが上手いぜ。

実は当初、カノウ役はレガシーで演じたダレン・シャラーヴィさんが続投する予定でしたが、2015年に病死してしまいました。95年版で演じたトレヴァー・ゴダードさんも40代で亡くなっているので、ちょっと心配してしまいますね。健康に気を使ってくれ!

カノウを軽くあしらう、ソニアの体術がよかったですね!ダブルスタントかもしれませんが。
95年で演じたブリジット・ウィルストンは、正直アクションには不満がありました。
相手に支えてもらって、やっとフランケンシュタイナーっぽいことをやっていたり、最終的に「囚われのお姫様役」という前時代的なポジションに収まってしまったり……。
(後に、リュウ・カン役のロビン・ショウが、「ダブルスタントより本人が演じたほうがいいんだよ!」と共演者を次々に口車に乗せていたことを告白しています。お前らも仲良しだな!)
続編の『モータルコンバット2』ではサンドラ・ヘスさんにバトンタッチしていましたが、それでも最大の見せ場が「いきなり出てきたミレーナとのなんかエロい泥レス」という、ちょっとあんまりな扱いでした。
今回のソニアは格闘ゲームのメインキャラの名に恥じない強さを兼ね備えており(おそらくこの時点で、3人の中で一番強い)、今後の活躍にもかなり期待しています。

■リュウ・カンの登場

いよいよゲームでの主人公、リュウ・カンの登場です。太陽をバックに登場するリュウのシルエットがカッコイイ!この演出は予告編の時点で大興奮でした。何しろリュウは最終的に世界を背負う運命にあるキャラなのですから……。
あいさつ代わりにカノウに打ち込む炎は「鳳凰北拳」。リュウを代表する飛び道具で、95年版ではボス戦でのフィニッシュホールドにも選ばれました。

それにしてもリュウを演じるルディ・リン、顔がめちゃくちゃかわいい。しかも95年版の映画は繰り返し見るぐらい好きだったらしい。ありがとうルディ・リン。ありがとう。

リュウ・カンといえば、95年版と続編で演じていたロビン・ショウも忘れてはいけません。
「香港のナンちゃん」の愛称で親しまれるロビン・ショウは『タイガーコネクション』でドニー・イェンとも共演していた実力派アクションスターです。95年版でハリウッドデビューすると『ビバリーヒルズニンジャ』や『デッドオアアライブ』、『レジェンドオブチュンリー』、『デスレース』シリーズなど、殺したり殺されたり、殴ったり殴られたりする映画でキャリアを重ね、今も第一線で活躍しています。シリーズファンにとって、ロビン・ショウのリュウはゲーム版と並んでアイコニックな存在です。

これまでのリュウ・カンは、ストーリー上の主人公ということもあり、いずれも経験を重ねた戦士という印象でした。今回の「主人公のメンターとして実力は高いが、少年の面影を残している」というリュウ・カンは新鮮です。どんなふうに転がっていくか楽しみですね。

■ライデンの寺院

神殿を目にした時のソニアの表情が本当にうれしそう!目が輝いています。ソニアは純粋にモータルコンバットが好きなんだな。コールが新規のお客さんの案内役として配されたキャラだとすると、ソニアはシリーズファンに一番近い視点の持ち主かもしれません。

ライデンの神殿は97年の『モータルコンバット2』のものとそっくり!正直『2』は作品としても商業的にも失敗でしたが、こういう形で引用されていると何か報われたような気がします。
寄り道の多すぎる移動シーンとか、どういう事なのか解るような解らないような修行とか、全部『モータルコンバット2』へのオマージュだったのかもしれませんね……まあ、さすがにこじつけですが(ちなみにゲーム版のRAYDEN’S SKY TEMPLEは、『ドラゴンボール』の「精神と時の部屋」みたいなデザインです)。

案内するリュウが「カムカム!」っていうところ、無邪気さがあふれ出てしまっている。かわいい。

神殿の壁画は、モータルコンバット前史を表しています。ゲーム版でも前日単となります。
一枚目の絵に映っている怖い顔をして仁王立ちしている人は「グレート・クン・ラオ」。過去のモータルコンバットでシャン・ツンを破り、地球を救った英雄です。後に登場するクン・ラオは彼の子孫。
次の絵では、4本腕の怪物・ゴローによって、先ほどのグレート・クン・ラオが引き裂かれています。なので、ゲームの時点でも95年の映画でも、ゴローが現在のチャンピオンという設定。カノウが「これが気に入った」というのは、いかにも彼らしいですね。
魔界の絵で描かれているのはシャオ・カーン。MK初期のラスボスで、魔界=アウトワールドの支配者です。映画ではカットされていますが、絵の全体を見ると背後で血を吐いている龍のような生き物が描かれており、シャオ・カーンが以前の魔界の支配者・オナガを毒殺した場面であることが解説されていました。

宝物庫でカノウが盗もうとするデカいメダルは、MK Xなどで登場するキーアイテム「シノックのアミュレット」。めちゃくちゃ凄い力を持ったアイテムで、これ持ってると世界が支配できちゃうような、よくあるアレです。このシーンよく見るとカノウがアミュレット返してる描写が無いので、どさくさに紛れて持ったままかもしれませんね……。
追記:後で同じ場所が何度か映るのですが、台座に戻していませんでした。これはカノウが持ったままだな……。リュウ、うっかりしすぎだろ。ドジっ子か?

なお、奥にチラっと見えている青い扇はキタナという女性キャラクターの武器です。

両腕を失ったジャックスとの再会。やはり痛々しいですね……。ソニアもショックの表情。リュウ・カンはやっぱりライデンのテレポート技術で移動してきたのかなぁ。

■ライデンの登場

浅野忠信さんの演じるライデンが偉そうに登場。今回のライデンは本当に偉そうだなぁ~!
95年版では『ハイランダー』シリーズのクリストファー・ランバートさんが演じていました。その時は技を使う時だけ目が光ってたんですが、今回は原作通り始終目が光っていますね。ただ、原作に比べると目の光方が多少控えめだったという点は主張させてください。目の演技が見えるギリギリのラインで調整した結果だと思います。いや、どう見ても面白いけども。
今回のライデンは無精ヒゲ姿で、人類の危機にいら立っているようにも見えますね。原作だと、ライデンとリュウ・カンはかわりばんこに悪堕ちしたり正気に戻ったり、ゾンビになったり破壊神になったり、めちゃくちゃ忙しい人たちです。今回のライデンはいかにも悪堕ちしそうな雰囲気で出てきたけど、リュウもこの先耐え難い試練が待ってそうなので、これはどっちにころぶか本当に読めないです。

ライデンがコールとソニアに「お前は戦える状態じゃない。お前にはマークすらない。」と厳しいことを言い、カノウを無視するシーン。これは95年版でライデンがジョニーとソニアにアドバイスした後立ち去ろうとして、リュウ・カンが「ちょっと、俺は!?」ってなるシーンがあるんですが、そこのオマージュっぽいですね。ここのやり取りは、見ながらずっとニコニコしていました。

ここで、ライデンに謁見するまではちょっと得意そうだったリュウが、「どいつもこいつもダメ!」って言われてションボリした顔になるのが、子犬みたいでなんともカワイイです。
なんというか、コール・ヤングとリュウ・カンは子犬的な可愛さがありますね。コールは迷子の柴犬みたいだし、リュウはムキムキのチワワ。

余談ですが『レガシー』だと、「ライデンが地上に降りてきたときに力を失ってしまい、モータルコンバットの存在を周囲に主張していたら、ヤベーヤツだと思われて精神病院にブチ込まれる」という凄すぎるエピソードがあります。これは当時賛否両論でしたが、話としては面白いので、理不尽な浅野ライデンで心が荒んだら、ライアン・ロビンスの可哀想なライデンで癒されるのもよいのではないでしょうか。

■魔界と人間界の関係

ここで人間界と魔界の関係について、おさらいしておきましょう。

モータルコンバット・ユニバースにはいくつかの異世界(レルム)があり、レルム間でのモータルコンバット(大会)に10勝すると、相手の世界を併合できます。

映画の時点で地球(Earthrealm)は魔界(Outworld)とのモータルコンバットに9敗しているので、あと一回負けると併合されます。人間界にも、地球を守る戦士もいれば、魔界を含む別なレルムに協力する組織もあります。

今回の映画で当てはめるとこんな感じ。

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原作ゲームだと、ここに更にいろいろなレルムや組織があるのですが、今回の映画ではあまり言及されないので省略します。

■シャン・ツンの襲撃


サブゼロを筆頭に、いきなり乗り込んでくるシャン・ツンたち。え?ライデンの神殿、敵側には場所バレてるのかよ。ソニアたちがたどり着くのに苦労したのは何だったんだ……。ライデン様、仕事して……?

サブゼロの猛攻に、いきなり追いつめられるリュウ・カン。この映画のサブゼロ本当に強いな……。この400年互角に渡り合えた相手って、マジでハンゾウ以外いないんじゃないでしょうか。
最高のタイミングで登場するクン・ラオ(功老)。帽子を基軸にワープして出てくるのが完全にゲームと同じ動きでアガります。鋭利な刃物の山高帽で闘う姿が最高にカッコイイぜ。

クン・ラオはゲームではMK2から登場したキャラ。クセはあるけど火力が高くて、ワープ技も持っている強キャラ。余談ですが、初期のころは服にでっかく「武」ってかいてあったので、一部では「タケシ」と呼ばれていました。
『レガシー』ではシーズン2から登場。なんとあのマーク・ダカスコス(『ダブルドラゴン』のジミー・リーや『ジョンウィック3』の寿司屋の人)が演じています。が、ギロチン山高帽は使っていませんし、そもそもあんまり戦いません(せっかくマーク・ダカスコスなのに!!)。
なので、山高帽を使って縦横無尽に活躍するクン・ラオが観られるのは嬉しい限り。

軽く言葉を交わし、ファイティングポーズを決める二人。やっぱこういうダブルライダーっぽい構図は、いやおうなしにアガる。DNAに刷り込まれている。

地球の戦士をみて舐めた態度のシャン・ツン、刻印の無い事を気にするソニア、まだ状況を呑み込めていないように見えるコール、空気の読めないカノウ。怒ったライデンが結界を張り、撤退するシャン・ツン。コールを見て何かを感じているサブゼロ。
このシーンは表情で全員の考えがだいたいわかるのが面白かったです。マジで状況が読めていないコールくんの迷子の子犬のような目とか。

クン・ラオ「俺はクン・ラオ。伝説のグレート・クン・ラオの子孫だ!」
カノウ「知らねぇ」
の流れは、先ほどの壁画のシーンを合わせてみると、ちょっと味わいが変わってきますね。

■訓練の始まり


というわけでアルカナ発動のための訓練が始まります。
ここでリュウ・カンが言う「test your might.」は、ゲームのボーナスステージ(ボタン連打で瓦を割ったりする)のナレーションが元ネタ。エンディング曲『テクノシンドローム』でも定番のサンプリングワードです(※『テクノシンドローム』については長くなるので後述)。
コールと組み手をしたクン・ラオがチェーンパンチを繰り出しますが、これはMK11の基本コンボに組み込まれています。一度ダウンをとられてからの「じゃあちょっと本気出しちゃうかな」って表情が最高。ここでズームアップから解りやすくレフ板で顔に光が入るの、アニメっぽい演出で嫌いじゃないです。

リュウ・カンのムキムキな体!ルディ・リン、これまでのリュウと比べて若いので、ちょっと頼りないかな?と思ってたんですが、この筋肉で説得されます。
連続足払いは、ゲームで初心者相手に舐めプしてる感が良く出てて好きなシーン。初期のゲームでは、1人プレイのEASYだとこれだけで勝てるケースがありました……。
カノウが「すぐに脱ぎやがって、ストリッパーかよ!」と毒づきますが、このあとリュウはずっと上にシャツを着ているので、地味に気にしてたのかなぁ。だとしたらかわいい。

選ばれしものの訓練でハブられたのに、腐らずジャックスを叱咤激励するソニア。それに応えるジャックス。短い中で二人の信頼関係が見え、全体の中で地味ではありますが、凄く好きなシーンです。好きなシーン多いな。

怪我をしたコールを治療しながら、過去を語るリュウ。この辺は、ちょっと彼の心の闇をほのめかすシーンですね……。リュウのセリフに出てくるボー・ライ・チョーは、酔拳を使う太ったおじさんです。ゲロ吐いたりオナラで攻撃してくる正義の人です。

■カノウ覚醒


みんな大好き食事シーン。
ソニアに食事を勧め、コールのケガを心配するリュウ。やさしい!と思いきや「明日も修行だ」と厳しい一言。リュウは心の優しさを、使命のために抑えこんでいる印象があります。
ジャックスの義手に最悪な弄り方をするカノウ。コイツはマジで……。
さらにクン・ラオを「クン・パオ」と言い間違う(わざとか?)カノウ。これはカンフーコメディ映画『クン・パオ!燃えよ鉄拳』の事なのか、タイ料理のクンパオチキンなのか。英語字幕で観ないと解らないな。
と思ってたらついにキレたのか、カノウを煽りまくるクン・ラオとリュウ。それまでの反動から、笑ってしまうソニアとジャックス、爆笑するコール。笑いすぎだぞ。カノウがマジなトーンでキレ始め、さっきまで笑ってた3人がめっちゃ気まずくなっちゃう。ここの「からかわれたクラスメイトがキレた時の空気」感が妙にリアル!
からの目からビーム!えぇー!それでアルカナ覚醒するんだったら今までの特訓は何だったの(問題提起)!?でもカノウらしくて良いですね(問題解決)!
てか、カノウのアルカナって、目からビームなのか。

カノウが目からビーム出したのは、ゲームMK3のFATALITYが初出です。その後、いつの間にか必殺技になりました。ただゲームではサイボーグ化された義眼から出すんですよね。まあだからと言って「空中でくるくる回る能力(カノウボール)」だと、劇中でどう使えばいいか解らないからな……。
カノウがアルカナ覚醒で喜んでる時の「ヨシ!狙い通り!」みたいな表情のリュウ、クン・ラオと、「ウワァー……。」っていうリアクションのコール、ソニア、ジャックス。
このシーン、カノウを煽る前に最初にリュウとクン・ラオが一言だけ打合せするところ、ビームが出ることをわかっていたのか山高帽で反射させるクン・ラオ、自分で出しといてビームに一瞬ビビるカノウなど個々のリアクションが良かったです。
次のシーンで、コールに痛みを耐える訓練をさせたことからも、リュウとクン・ラオは全員が何のアルカナを持ってるか知ってるのかもしれません。

■コールの帰還


スマホで家族の写真を見るコール。よくバッテリー持ってるな。ひょっとしたらライデン様の電気を使って充電している……?
スマホ見てたらライデン様に「やる気がないなら帰れ!」って言われちゃうコール。授業中にスマホ弄ってるのがバレた生徒かよ。この一連の学園パロディ感は何?
しょんぼりして帰っちゃうコール。おいおい、さっき自分で「俺がここに居たら、家族が皆殺しにされてしまう」って言ってたばっかりじゃないか!大丈夫かコール。
ここは完全に脚本が取っ散らかってしまいましたね。

■魔界の戦士たち


魔界。シャン・ツンのもとに5人の戦士が集います。ここは本当に東映ライダー映画っぽさがあるぜ。

ミレーナは出自が複雑なキャラ。
モータルコンバットの世界には、魔界とは別にエデニアという異世界があります。エデニアは過去のモータルコンバットトーナメントで10連敗しており、魔界に併合されました。そのエデニアの王女・キタナのクローンが、ミレーナです(下図参照)。なお、ミレーナには飢刃一族(カルカタン族)という魔界のモンスターのDNAも混ざっているため、口が裂けています。
魔界の皇帝シャオ・カーンは、ミレーナとキタナを娘として手元に置き、部下として使役しています。
ミレーナは今回描かれなかった設定が多すぎるので、ファンは復活を期待しています。クローン人間なので「私は三人目……。」とか言ってシレっと出て来てほしいですね。

MK相関図②

ニタラはゲームだと2回しか出てきてない、割とマイナーなキャラ。なので出てきただけで結構「おお!」って感じでした。パンフレットだとミレーナとの確執があるような書かれ方でしたが、劇中では本当にそんなこと全くなかったですね……。「吸血鬼の一族なので、人間界の太陽が苦手(魔界の太陽なら平気)」という設定は、今回オミットされた模様。
シャン・ツンがニタラを紹介するときに、エコーのかかった声で「しーいず びゅーてぃほー!」っていうのが妙に面白かったです。ここのモノマネが流行らないかな。

レイコ将軍はMK4から登場するキャラで、不本意な議論を巻き起こしました。家庭用移植版のエンディングムービーで、レイコが、過去作のラスボスであるシャオ・カーンの仮面を被ったのです。この映像が原因で、ファンの間では「レイコはシャオ・カーンと同一人物なのか?」と大議論になりました(賛否で言うと否が多かった)。
それを受けて、後のシリーズでは「レイコは、シャオ・カーンが留守の時に、こっそり忍び込んで仮面を被るのが趣味のコスプレおじさんです」というあんまりな設定が付与されました。がんばれレイコ。

カバルは新たに出てきた3人の中では圧倒的にメジャーなキャラです。カノウと同じ黒龍会のメンバーで、魔界軍の侵略で瀕死の重傷を負ったという設定。初登場時は人間界側の戦士として、ライデンやリュウとともに魔界軍と闘いました(97年の映画『モータルコンバット2』でも「人間界の戦士、カバルとストライカーを殺しました。」というセリフで、名前だけ登場しています)。
その後、色々あって黒龍会のボスになったり、ソンビになったり、今では基本的には敵側として描かれることが多くなりました。何しろカノウと仲良しだからな。
なおMK9以降の作品では、カバルが瀕死の重傷を負ったのはカノウが魔界軍に売った重火器が原因です。ただ、瀕死のカバルを拉致って、サイボーグ手術で蘇生させたのもカノウです。複雑な関係!

ここでゴローがシルエットだけ登場!半龍人ショカン族のプリンス、ゴロー。95年版でも、初登場シーンではシルエットだけ出てきて主人公たちをビビらせるので、このシーンは狙っている気がします。

■カノウの裏切り


カバルがカノウを訪ねて行った時の「カバール……。」っていう言い方が好き。「やっと話しやすいヤツが来たぜ」感。カノウを口説くカバル。ここのやり取りから、二人の関係が一朝一夕のものではないことがうかがえます。
お互いに「お前、下っ端かよwww」「いやちげーし、何なら俺が上だし」って言いあってるの、バイト先に友達が来ちゃったときの高校生かよ。「こっちの方が時給いいぞ」じゃないんだよ。
「希望の金額を言え。その倍の倍の額を払おう」。言われてみたいセリフだ。ただ、「この寺院をカジノにだってできる」は惹かれないなぁ……。まあカノウにとっては魅力的な提案なのかな?
そもそもカノウは「300万ドル欲しい⇒スーパーパワー欲しい」だけでここまで地球側にいただけなので、考えてみたらこの時点で、もう地球の味方である必要がないんですよね。裏切るのも当然というか……。まあ、ストーリー見たときに「カノウが地球の戦士!?絶対裏切るだろ!」と思ったけれども。『アンパンマン』で言うと、ばいきんまんが占い師の恰好して出てきたぐらいのフラグですからね。

■コールvsゴロー


家に戻ったら、案の定敵がやってくるコール。だから言ったのに!
納屋から出てきたゴローが、圧倒的な破壊力で襲ってくる様子は、モンスターパニック映画のようです。納屋にあったバールとロープが映り、バールを手に取るコール。冒頭のハンゾウとつながりますね。ちょっとここの待ち伏せシーンはジュラシックパークっぽいので、その後の展開でよけいにビックリしました。
しかしゴローはやっぱり強い!4本の腕でコールをがっちりとらえ「脊髄を引きずり出してやる」と予告FATALITY(脊髄抜きはモータルコンバットの伝統的なFATALITYです)。
絶体絶命のピンチに、奥さんのアリソン、ナイスサポート!とっさに斧で怪物の脇腹を切り裂くなんて、やれって言われてもなかなかできるもんじゃないですよ。大したもんだ。

コールの代わりに狙われるアリソン。家族のピンチにコールのアルカナ発動し、娘にもらったブレスレットがパワードスーツに!まさかこれが変身アイテムだったとは!「強くなるブレスレット」はこの伏線だったんですね。これはバンダイが出資してたら「光る!鳴る!DX白井流ブレスレット」が発売されたはずです。今からでも遅くないので、どうですか?
変身後のコールはキン肉マンでいう「肉のカーテン」状態。ゴローの攻撃をひたすら耐えに耐えて、カウンターでアッパーカット!決まった!これは原作ファン大歓喜。さらに謎の武器を召喚してゴローを虐殺!内臓をまき散らして死ぬゴロー。かっこいいけどこんなところを娘に見せて大丈夫?
覚醒したタイミングで呼び戻すライデン様。あの野郎、これを狙って、家族が殺されかけるようにわざとコールを帰らせたな……なんてヤツだ。

ここは展開も見せ場も多くて満足でした。ただゴローは前述の通り、前回のモータルコンバットチャンピオンなので、この扱いで退場はちょっと納得いかないファンが多いような気が。「あの肌色のカイリキー、大して強くなかったね」と思われていたら心外だぜ……。違うんだ、どちらかというとカイリキーが、青いゴローなんだ(※MK1は92年、ポケモンは96年発売)。

95年の映画では、アニマトロニクスでやたらリアルに動く(そして今回のゴローに比べるとほっそりしている)ゴローが登場します。前回の大会を制したチャンピオンということもあり、何人もの挑戦者を簡単に叩き殺す、圧倒的強キャラとして描かれていました(※よく見るとこのシーンは同じ人、しかも前の試合で死んだ人まで何度も倒されています)。

■シャン・ツンの侵攻


ライデンの寺院にも魔界の軍勢がやってきます。「FINISH THEM!」と珍しい複数形のセリフ。原作では2ラウンド制覇したプレイヤーが相手キャラにとどめを刺せるのですが、その時の合図が「FINISH HIM!」または「FINISH HER!」です。

■クン・ラオvsニタラ

いきなりボスの頭を狙って山高帽を投げるクン・ラオ!この帽子を飛ばす技はデスハッター。繰り出すときのポーズまで完全再現!これはうれしい。不自然な角度で、異常な速度で首だけ動かして避けるシャン・ツン。この一瞬で、「こいつ人間っぽい姿してるけど、人間じゃねぇ!」と解る良演出でした。この映画、脚本がとっ散らかっている一方で、言葉じゃなくて、映像とかしぐさで「こういうことだぞ」伝えてくるシーンが多くて、そういうシーン見るたびに「良い……。」が加算されます。まあもう少しセリフででも説明した方が良いのでは?と思うところもありますが……。
シャン・ツンの「マイビューティー」ニタラとクン・ラオの闘いに。死角から襲ってくるニタラを、気配だけで察して、カウンターFATALITY(MK XのFACE GRIND)をキメるクン・ラオ!まさに瞬殺!前半で透明になったリープテイルに苦戦してた3人との、格の違いを見せてくれました。
大画面いっぱいに真っ二つになり左右に広がるニタラの頭!
なんだかとっても景気が良い!
このシーンを幅26mのIMAXの大画面で観れたのは本当に幸運でした。10mのニタラの頭が、目の前で13mの左側と13mの右側に割れて広がっていく贅沢よ。
クン・ラオ「FLAWLESS VICTORY!(山高帽の鍔をなぞり、返り血をふき取る)」
このセリフは、ノーダメージで勝利した場合のアナウンス。サムスピで言う「完勝」みたいなヤツです。95年版ではサブゼロがモブ兵士をFATALITYしたときにシャン・ツンが、最後の戦いに勝った時にリュウ・カンが同じセリフを言います。全者はともかく後者はダメージ受けてんだろ、とコアなファンからはツッコミが入りました。まあいいじゃないの。そこは。ねぇ。

・レイコvsジャックス


義手の扱いに慣れていないジャックスを嬲るレイコ。ハンマーで殴られて、義手のパイプがゆがむのが痛々しい……。
首を掴まれるカットが、コールがゴローに首を掴まれるところとカットバック。この闘いを通じてアルカナに目覚める二人の状況が、映像的にも重なるのが面白いですね。

・ソニアvsミレーナ


アルカナに目覚めてないのに結構戦えるソニア。しかしなんでそんな安定性の悪そうなところに立ってるの?ミレーナの「ペロッ……これは選ばれし者の血じゃない!」っていうところが凄い好きですね。味で違いが解る、血液のソムリエ。その辺が吸血鬼のニタラとライバルとされる所以?カノウが「殺してやるぜ!」と登場しましたが、死亡確認しないのはいかにもカノウ。
ソニアとジャックスは、まだアルカナが覚醒していないこともあり、完敗でしたね……。耐えろ……。

・リュウvsカバル


カバルがリュウの鳳凰拳を避ける動きはMK11の登場デモと同じ!うれしい。高速移動に翻弄されるリュウ。今回のリュウはやはり少し若いというか、クン・ラオのほうが強いという描かれ方かな。

ここの闘いは、全員が最初押されるカットでつなぐことで、一気にピンチになった感が出ていてよかったです。その中で一人、一勝を挙げたクン・ラオの強さよ。

■覚醒するアルカナ


・ジャックスの覚醒
岩の下敷きになったソニアを助けられないジャックス。義手のネジが外れるのが悲しい。しかし「たとえできなくても自分がやらなければ」という状況で再度チャレンジし、その強い気持ちによってアルカナが覚醒。仲間を救うために両腕を失ったジャックスが、仲間を救うためにアルカナ覚醒する展開に、思わず涙が……。

・コールの帰還


覚醒したコールを呼び出してドヤ顔のライデン。「お前のおかげでこっちの戦士が覚醒したぞ」とシャン・ツンを挑発するライデン。何千年も生きてる守護神にしてはちょっとガキっぽい気もするけど、さんざん舐めた態度取られてたからな。
4回目で気づいたんですが、ライデンと初対面の時に、コールが「家族のためなら死ねる!」っていうじゃないですか。あそこでライデン「ははーん、これは使えるぞ」とか内心思ってた可能性ありますからね。とんでもねえ神様だよ。
ドヤ顔ついでに「こいつハサシハンゾウの子孫だから、予言通りになっちゃうよ!」とシャン・ツンをさらに挑発するライデン。この発言のせいでコールの家族がサブゼロに目をつけられて、また危険な目に合うんだぞ……。あれ?まさかこれも、スコーピオンを復活させるためにわざと仕組んでる?だとしたら本当にとんでもねぇ神様だよ……。

・クン・ラオの死

サブゼロの攻撃からコールを救うために飛び出したクン・ラオ。一瞬のスキをつかれてシャン・ツンにとらえられ、魂を吸われる……。リュウの名を叫ぶのが切ない……。カバルとの闘いを中断し、駆けつけるリュウだが、妨害もあって間に合わず。そのままシャン・ツンに魂を吸われるクン・ラオ。地球側の戦士の中で一番頼りになるお兄さんだっただけに、この展開はショックでしたね。

思えば95年版でも、リュウは弟(映画オリジナルキャラで、チェン・カンという弟がいました)の魂をシャン・ツンに奪われ、その復讐のためにモータルコンバットに参加していました。今回はその役割を、義兄弟のクン・ラオが担っているのか……。95年版と同じように、せめてクン・ラオの魂が救われることを祈ります。

魂を吸う技はゲームのMK2以降のシャン・ツンを代表するFATALITYで、吸胎邪魂拳という日本名が付いています。95年版でも、ケイリー・ヒロユキ・タガワの「YOUR SOUL IS MINE!」というセリフが印象的でした。

ここで取り乱すリュウをコールが抑え、二人がライデンの稲妻を使ってワープする瞬間に、クン・ラオの山高帽が滑り込むように飛んでくるのが見えます。最後の力を振り絞ってクン・ラオがリュウに託したんだろうな……。

■虚無界での作戦会議


全員あきらめムードな中で、全員を説得し、希望を持たせるコール。
ここは「なんでいきなりコールが仕切りだしたの?」とか「どういう理屈?」とか「ライデン様、だれでも好きなところに呼び出せる便利な能力があるなら、もっと何とかできたんじゃないですか?」とか「そもそも虚無界にシャン・ツン入ってこれないなら、最初からここで修業したらよかったのでは?」とか、よくよく考えると疑問点は色々ありますが、何度見ても
「コール・ヤング、立派になりやがって……!!」
という気持ちが最初に来て、他のすべての感情を追い出してしまうのでこのシーンはこれでオッケーです。

総力戦が不利なのはともかく「1対1ならこっちが有利だ!」はさすがに言いすぎでは?と思いましたが、「一人ずつ呼び出して、全員でボコろう!」とかじゃなくてよかったと思います。自分ならそう言っちゃう気がするので……。
(追記・吹替版だと「あいつらが避けてる、1対1の闘いに持ち込み、一人ずつ倒す!」と、もう少し自然な言い回しになっていました)
ソニアが「(私の対戦相手は)牙の生えた女?(=どうせ女同士で闘えっていうんでしょ?)」というセリフに対してコールが「”仲良しの“カノウだ」って言うシーン。ソニアの満足気な顔が良いですね。(追記・吹替版だとソニアのセリフが「牙が生えた女がやりたい」になっていたので、ここは考えすぎかも?)
ソニアはカノウに対して個人的な恨みのあるキャラ。何があったかはゲームでは描かれませんが、95年版ではソニアの元同僚をナイフで惨殺していることが説明されます。今回の映画では詳しくは描かれませんが、カノウがマークを奪ったときに殺害した相手というのが、ソニアの友人だったのかもしれません。
リュウがクン・ラオの山高帽からハチマキを外して自分の頭に巻くシーンは、グッときます。ゲームだとリュウはハチマキを巻いているのがデフォなので、そこに深い意味を持たせてきたのは見事でした……。冒頭のハンゾウのバトルハープーンもそうですが、原作のアイコニックな要素に、新たな意味合いを持たせて、深みを与えるのが本当に上手い。
ハンゾウのクナイを渡すライデン。やっぱこの人は、この先何が起きるのか解っているんだろうなぁ。

■ジャックスvsレイコ(第二戦)

なんか妙に治安の悪そうな橋の上で闘うジャックスとレイコ。この橋はゲームに出てくるthe Pitというステージです。MK9の同ステージ背景奥にモブキャラとしてレイコが居るので、それにひっかけたステージセレクトでしょう。
さっきは義手をボコボコにされていましたが、アルカナに目覚めたパワーアームにはレイコのハンマーも歯が立ちません。顔を連打されてフラフラになった様子が完全に原作ゲームの「トドメ待ち」しぐさで笑ってしまいました。間髪入れずにスクラップ・アーム・ヘッド・クラッシュ!MK2から伝統のFATALITYが飛び出しました!ここは見た人みんな「俺も嫌いな上司の頭をロボットアームで叩き潰してやりたい!」と思ったことでしょう。
それにしても、レイコは原作だとそんなに脳筋キャラでもないんで、結構改変されたキャラでした。こっちのレイコも「バカのサノス」みたいで好きですよ。

■ソニアvsカノウ


考えてみるとカノウってアルカナ覚醒は速かったけど、まともな訓練を積んでないから、レーザーを出す以外は登場時から成長していないんですよね。
凄い一瞬だけど、ダーツのまとに貼ってある、子供が描いたようなカノウの生首の絵(KANOと書いてある)にナイフが刺さります。「LOVE SONIA」ってサインも書いてあるので、これたぶんソニアが描いた絵ですよね?たぶんカノウがリープテイル倒したときに「俺はアーティストだから!」って言って描いてた絵を見て、自分も対抗して描いた(けどヘタ)っていうソニアかわいいポイントでした。
薬品掛けられたカノウの目が、ショートしてビーム出なくなるのは笑いました。どういう仕組みなんだ!
「300万ドルよこせ!」とか、ノーム人形とか、前半のシーンの伏線回収が多かったのもよかったですね。
カノウはここで死んだように見えますが、原作でも右目が義眼というキャラクターだったので、次回作以降であっさり復活する可能性は高い気がします。

■リュウvsカバル(第二戦)

リュウ&コールがカバル&ミレーナと戦う場所はおそらく魔界かな。魔界の支配者、シャオ・カーンの彫像が映ります。壁画にも書かれていましたが、この人がシャン・ツンの上司。トランスフォーマーでいうと、シャン・ツンはスタースクリーム、シャオ・カーンがメガロトンみたいな感じ。
カバルのフックソードがリュウの腕を切りつける技は「エクステンデッドフック」。通常よりリーチが長い打撃技なので、初見ではダメージを食らうのも仕方なしです。
その後の反撃でリュウが叩き込む、空中で連続キックを入れる技はバイシクルキック!日本語で空打裂傷脚というカッコイイ名前がついています。 95年の映画では、人間の姿になったリープテイルへのフィニッシュホールドに使われました。ゲームだとコンボの締めにも使い勝手が良い技で、「頑張れば自分でも出せそう」という気持ちにさせる、人気の高い技です。ここでテーマ曲のアレンジが流れるのも最高!
流砂?に埋まって動けなくなったカバルに放つ、炎のドラゴンは『MK11』のFATAL BLOW(超必殺技)!羽を広げるところから、噛みつく→地面に潜る動きが完全に同じ!すげー!大興奮!!
余談ですが、元ネタのさらに元ネタには、咬龍破惨撃というMK2からの伝統的なFATALITYがあります。リュウ・カンが名前の通り龍に変身して、相手の上半身をパクっと食べる技(ゲームギア版とゲームボーイ版だと、容量の都合で火を吐いて相手を爆発させる技に変わっています)。
字幕だと「クン・ラオの仇だ」って出ますけど、「(この勝利を)クン・ラオに捧げる」のほうが近いんじゃないかな。よく考えたらクン・ラオの仇は別にカバルではないので……。

■コール&ソニアvsミレーナ

ミレーナのワープ技に苦戦するコール。実はモータルコンバットって、シリーズを通してワープする技を持ってるキャラが多いんですよ。それこそ半数のキャラは何等かのワープ技持ってる感じ。今回の映画だと、ライデン、クン・ラオ、ミレーナ、レイコ、カバル、スコーピオンにはワープ技があります。画面外から降ってくるのも含めるとゴローも。改めて数えるとマジで多いな。
口が裂けるミレーナ。実際にはミレーナは普段マスクしていて、外すと口が裂けているというキャラ。ゲームだと、この牙だらけの口で相手の顔をパクパク食べたりします。今回は感情が高ぶると口が裂けるという設定になったようですね。
翻弄されるコールを、カノウを倒してアルカナに目覚めたソニアがサポート。ソニア強い!コール君ちょっと頼りない!ゴローを倒せてミレーナに苦戦することはないだろ、と思うけど、これは単純に防御全振りのコール君と、スピードと攻撃力重視のミレーナだと、能力の相性がわるいんだろうなぁ。
ミレーナさんの腹にデカい穴があいて、背骨だけ見えている所は、MK XのサブゼロのFATALITYを思い出しました。サブゼロはそのあと背骨を掴んで体を引きちぎるのですが、ここまではっきり背骨だけ残るFATALITYはそんなになかったと思うんだよな。背骨を首ごと引きずり出すのだと、凄くいっぱいあるんですけども。
実際にはソニアが使った技自体、FATALITYではなく普通のコマンド技(ソニアフラッシュ)だったので、これはFATALITYではないのかもしれないですね。
追記:MK11のソニアのFATALITYは、頭に大穴を開けてその向こうにソニアの顔がのぞくというものだったので、絵的にはそっちの方が近いかもしれません。

■家族のピンチ


ドアの外にサブゼロ!ジャックスを誘い出すときもそうでしたが、サブゼロはホラー映画の定番演出が似合いすぎる。さすが忍者。
コールの前に現れ、娘のブレスレットを凍らせて握りつぶすサブゼロ。ブレスレットの持つ意味を考えると、コールを精神的に追い込むだけでなく、「白井流を潰す」という強い意志を感じます。
「サブゼロは強すぎるから全員で対処しよう」って計画だったのに、思わず一人で飛び込んでしまうコール。相手を分断して1対1に持ち込む戦略を、逆に利用された形ですね。誘いこまれた先は、冒頭、コールが対戦相手に負けた闘技場。完全に凍り付いていたので初見の時は一瞬気づきませんでした。
これは「一度勝てなかった場所で、更に不利な状況で戦う」という映画的な演出だとは思いますが、チャンピオンだったはずのコールが試合で勝てなかった理由が描かれていないため、ちょっと上手く伝わってないという印象でした(コールがイップスを克服する話としては、あんまり機能してない)。
凍り付いたアリソンとエミリーは、ハルミとジュウベイが重なります。この闘いは、様々な要素が冒頭と対になっていますね。

一対一に持ち込まれて圧倒的に不利な状況。それでも家族を救うために食い下がるコール。コールは、耐えて食らいつく姿が絵になるキャラですね。

冷静に分析するなら、ゴロー戦に続いて2回も家族がピンチになるのは、脚本としてはちょっと変です。上記の「試合で勝てなくなった理由が明示されない」とかも含めて、物語上のカタルシスとして考えるなら、お膳立てが足りていない。話に乗れない人がいるのは、この辺りの要因が大きいのでしょう。
なんとなくですが、コール周辺の話を整理すると、ゴロー戦は途中から付け足されたんじゃないかと予想しています(旅立つときのセリフと行動の矛盾、家族のピンチが二度続く点、中ボスのゴローに勝ったのにミレーナに苦戦する点など)。でも「脚本にちゃんと整合性があるモータルコンバット」と、「脚本はとっ散らかるけど、ゴローがアッパーカットを食らい、腹を裂かれるモータルコンバット」だったら、どう考えても僕は後者の方が観たい。多分この映画が好きな人は、全員そうでしょうし、製作者もそう信じているからこそ、あえてこの作りに徹したのだと思います。

あと、よくよく考えたら、コールの家族が二回もピンチになるの全部ライデン様のせいじゃねーか(コールを自宅に帰らせた、サブゼロにコールがハンゾウの子孫だと教えちゃった)!悪質!
まあでもこの人が居なかったらそもそもコールが生まれてないしな……。ぐぬぬ。

■スコーピオン登場


絶体絶命のピンチに、
「これはハンゾウの!」と目を見開くサブゼロ。サブゼロがこんなに感情表すの、後にも先にもないよ。あと一目見ただけで解るんだな。ひょっとするとあの闘いが、サブゼロに傷をつけた唯一の機会だったのかもしれませんね。そうであってくれ。
腕に刺さるハープーン。
テクノシンドロームのフレーズをバックに登場するスコーピオン!
「GET OVER HERE!」
これはアガる!予告編でこのシーン見ただけで「おお、これは絶対に傑作だ……」と確信していましたが、スクリーンで見るとやっぱ100倍良かったですね……。このセリフはゲームのスコーピオンがバトルハープーンで相手を手元に引き寄せるときのセリフの一つ(他に「COME HERE!」がある)で、歴代のゲームタイトルと95年版の映画では開発者のエド・ブーンがずっと声を当てている、モータルコンバットの中でも特に重要なフレーズの一つ。それが、歴代の実写化作品の中で、最も完璧なスコーピオンと言っても、およそ異論がないであろう、真田広之演じるハサシハンゾウの口から発せられた。
初見の時はここから先はスタッフロールが終わるまで、終わった後も、駅の前で映画館に財布を忘れていたことに気づくまで、ずっと「ありがとうございます、ありがとうございます……」って思ってました(財布は映画館の人が見つけてくれました)。

あと、このセリフでいきなり英語を話すことの伏線として、ハンゾウが地獄からコールに話しかけるときに英語で「われらの血を解放しろ」って言ってるの、地味に良かったですね。子孫に話しかけるために地獄で英語を勉強していたのだ。ビ・ハンの言ってることは解らなくてもいいから、中国語は勉強しなかったんだな。そういうところ丁寧なの好きだよ。

■スコーピオンvsサブゼロ


「今俺は、スコーピオンだ!」ここの「スコォーピオンだっ!」の言い方、めちゃくちゃ良い。真似したい。真田スコーピオンの面頬も買ったし。

サブゼロを投げ飛ばして地面に突き立てた刀に当て、ハープーンで刀をキャッチする、流れるような動き!この刀を掴む手のアップが歌舞伎の見栄のようにバシっと決まります。
サブゼロが氷の刀を出す動きは、MKXの勝利ポーズ。飛び散ったスコーピオンの血を凍らせて突き刺す技は、スタッフのアイディアを採用したそうです。相手の返り血を武器にするのはスカーレットっていうキャラが使う技ですが、サブゼロが使うとまた違った印象に。そこから氷の壁に叩きつける流れはMK11のスライドキックEX版からのアレンジですね。
氷の壁に刺さったハープーン。顔を近づけて挑発するような表情のサブゼロ。勢いよく引き戻すスコーピオン。チェーンをしっかりとキャッチするサブゼロ。「その技は400年前に見た」と、表情が物語っています。
闘技場に投げ入れられたサブゼロが、自分と同じ姿の氷像を作り出す技はアイスクローン。触れた相手を凍らせたり、相手に投げつけたりする技です。しかしそんなゲームのルールは無視!刀で叩き壊し、破片を打ち込むスコーピオン!強い!
ここの闘いは、会話が一切ないのに、二人の気持ちがくみ取れるというか。「闘い=対話」っていうのが、この一連のシーンでどんどん流れ込んできました。

■スコーピオン&コールvsサブゼロ


アリソンとエミリーを救おうと氷を叩くコールに、サブゼロが打ち込む、細かい氷を飛ばす技は、デス・サークル・バラージだと思います(ゲームでは刀から出す技ではないけど)。
凍り付いたアリソンとエミリーを見て、400年前のハルミとジュウベイがフラッシュバックするスコーピオン。
「白井流のために!」の一言で、共闘するコールとスコーピオン!剣術とハープーンのアクロバティックなスコーピオンの攻めを、タックルと打撃を中心にしたコールがサポート。
ここでコールがサブゼロにダガーを突き立てる。
追いつめられたサブゼロがダウンして、立ち上がる時に肩当てを掴んで、「アッ違う!」って感じですぐ刀を掴むところは、ちょっとかわいいですね。ずっと冷酷な戦闘マシンだったサブゼロが見せた、妙に人間臭いしぐさ。滑稽なようですが、彼にも余裕がなくなっていることが解ります。

スコーピオンを凍らせて動きを封じ、一旦退却しようと出口に向かうサブゼロ。炎で氷を溶かして再び立ち上がるスコーピオンを見て、何を思ったか金網を叩きつけるように締め、自ら退路を断つ。マスクを投げ捨て素顔になり、スコーピオンをじっと見つめ、「燐塊(リンクェイ)のために」と一言。

冒頭でも書きましたが、燐塊は中国の暗殺者集団です。原作ゲーム一作目では、サブゼロは燐塊の刺客として、シャン・ツンを暗殺するために大会に参加していました。魔界と燐塊は、最初はそういう関係でした(その後、燐塊が魔界に雇われていたり、冥界と契約していたりしますが)。そして「サブゼロ」は、燐塊のコードネームです。

一方、映画の中では、ビ・ハンはシャン・ツン(=魔界)に仕えた後でサブゼロを名乗るようになってるんですよね。公式サイトでも「ビ・ハンの不名誉な行為により、サブ・ゼロとなった」と書かれていますし、サブゼロの名は、魔界に使えることになったことと関係している、ある種の呪いのような意味があるのかもしれません。

正直、これは劇中で説明しておくれよ!公式サイトとかパンフレットとかじゃなくてさぁ。いや、アメリカとかだと「燐塊って、中国暗殺者組織の名前だよね~」ってみんな知ってることなのかもしれないけど(「モンスターボールって、ポケモンを掴まえる道具だよね~」ぐらいの感覚で)、モータルコンバットに映画で初めて触れた人には絶対わかんないですよ。
一緒に見に行った友達なんて「魔界とは別に、地獄もあるの?」ってところで、もうビックリしちゃってるんだから。(※魔界はアウトワールド、地獄は冥界=ネザーレルムという全く別の世界です)。
以上、閑話休題。

400年の間ビ・ハンに何があったのかは、これらの情報から想像するしかありませんが、冒頭とこのシーンにしか出てこない「燐塊」の名に深い意味が込められているのは確かです。
ビ・ハンが、ハンゾウや白井流に対して、どんな感情を持っていたのか。本当のところは誰にも解りませんが、少なくともこの瞬間、彼は「魔界の戦士サブゼロ」ではなく、「燐塊の暗殺者ビ・ハン」に戻ったんではないでしょうか。ここで死ぬという結果になることが解っていても。
この闘いはサブゼロにとっても救いだったのではないかと思います。

ここで、スコーピオンの炎でアリソンとエミリーが目を覚ますのも良いですね。400年前家族を救えなかったハンゾウが、スコーピオンとしてコールの家族を蘇生させる。

スコーピオンが放ったバトルハープーンを避けるサブゼロ。さらにそれをはじき返し突き刺すコール!白井流ツープラトン!

すでに虫の息のビ・ハンに対し、スコーピオンが面頬を外して炎を吐く技は、TOASTY というFATALITY。日本名では魔焼波とか魔焼炎波と呼ばれています。覆面を外すと顔が骸骨になっていて、炎を吐いて相手をこんがり燃やす、MK1から続く伝統のFATALITY。今回もよく見ると、炎を吐く瞬間に口元が骸骨になっているのが確認できますね。

サブゼロをこんがり焼き、コールの家族の無事を確認すると「白井流の血を、守れ」と告げて地獄へ帰っていくスコーピオン。シカゴ生まれのコールに日本語は伝わったのかがちょっと気がかりだけど、共に闘ったことできっと気持ちは通じているでしょう。

■来るのが遅いライデン


闘いが終わって、スコーピオンが帰ってからやってくるライデンご一行。遅いよ!という気持ちと、「こいつらがいきなり来たら、スコーピオンが混乱しちゃうからな……。」という気持ち。
子孫との対面に水を差すのも悪いと思って、出てくるタイミングを計ってたのかもしれませんね。
ここでリュウが、凍えるアリソンとエミリーに「暖めてあげよう」って言うのが良いですね。リュウの炎は相手を焼き殺すこともできるけど、闘い以外の時は傷を治したり暖をとったり。「人を殺める力で人を救う」というのは、今作のリュウ・カンのキャラクターをよく表していると思います。彼自身が、ボー・ライ・チョーやクン・ラオ、そしてライデンに救われた過去と重ねると、こういった行動にも深みがありますね。
見事だったぞ、とライデン。干渉できないのでは?とコール。やっぱりライデン様、未来を予知していたのかな。この映画、多少シナリオの運びに無理があるところとかも「ライデン様はすべてお見通しだったのです」と思うと無理やり納得できて便利です。

■シャン・ツンと対峙するライデン


本編と関係は無いんですが、映画の文法だと画面に向かって右側が上座、左側が下座なので、ライデンが右に居るのは自然。一方で、格闘ゲームだとプレイヤー1=主人公側って画面の左側に立ってるのが一般的ですよね。特にこの場面は、左右に対峙するゲームっぽい絵作りだったので「ゲームと映画だと、主人公側の立つ位置って違うんだな」っていうのが際立って、面白かったです。
シャン・ツンがビ・ハンとゴローの死体を回収。そうだよね。ここに死体が残ってたら、コールたちが大変だもんね……。シャン・ツン、実は親切なのでは?
あ、でもソニアは家に帰ったらカノウの死体がゴロンチョと転がっている……?

それはさておき、ここでビ・ハンの遺体を回収して「この次は軍隊を引き連れてくるぞ」というセリフは、完全に次回作への伏線ですね。
シャン・ツンを雷で追い返すライデン様。それができるなら最初からそうしてくれたらよかったのでは……。いや、これもスコーピオンを呼び起こすための、ライデン様の計画だったのでしょう(本当に便利な言葉だ)。

■エンディングシーン


「ハリウッドに行くんだ」のセリフで、もう誰の話かわかっちゃいますね。もちろんジョニー・ケイジ。
ジョニーは原作の人気キャラ。ハリウッド映画俳優で、自分のアクションがフェイクだと批判されたため、自分の腕を証明するためにモータルコンバットに参加する、というちょっと(ちょっと?)チャラいキャラです。チャラくてウザいハン・ソロみたいなキャラ。
ベルトのバックルに「CAGE」って自分の名前を彫ってあるのが最高にバカ!でもゲームの衣装と完全に同じです。
ポスターに書いてある『市民ケイジ』は、『ニンジャ・マイン』や『ドラゴンフィスト』と並ぶ、ジョニー・ケイジの代表作です。もちろんどれも実在しない映画です。

実はこのキャラ、ジャン・クロード・ヴァンダムがモデル。「フェイク野郎だ」と批判されているのも完全にヴァンダムのエピソードですね。よく怒られないな。
『MK1』が、企画段階ではヴァンダムの主演映画『ブラッドスポーツ』をゲーム化しようとしていた名残です(この辺りはNETFLIXのドキュメンタリー『ハイスコア:ゲーム黄金時代』第5話『格闘ゲームの新時代』で詳しく解説されています)。
なので、同映画でヴァンダムが使っていた「相手の股間を殴る」という技をゲーム内で使います。以前は男性キャラにだけ有効な技でしたが、最近は男女同権に配慮したのか、女性の股間もぶん殴るようになりました。それでいいのか?

今作でジョニー・ケイジが出なかった理由は「ジョニーの自意識過剰ウザキャラが、カノウと被っちゃうから(byグレッグ・ルッソ)」と「今回の映画では白人男性が映画の中心人物になるのを避けた(byトッド・ガーナー)」とのことでしたが、続編があるなら必ず参加させることも名言していました。

■スタッフロール


・エンディング曲『Techno Syndrome 2021』
この曲は原曲があります。THE IMMORTALSの『Techno Syndrome』(1993)。
THE IMMORTALSは、ベルギーのエレクトロニックミュージシャン、プラガ・カーンのサイドプロジェクトで、92年にゲーム『MK1』のプロモーション用楽曲『Techno Syndrome(MORTAL KOMBAT)』を発表しました。ゲーム中のアナウンスをサンプリングし、ゲームタイトルを叫ぶダンスミュージックは瞬く間に人気となり、モータルコンバットシリーズのテーマ曲として定着。
キャラ名を叫ぶのは原曲からの伝統で、ゲームのキャラセレクトアナウンスをサンプリング音源として使用しているため。「カノウ、リュウ・カン、ライデン、ジョニー・ケイジ、スコーピオン、サブゼロ、ソニア、モータルコンバット!」のフレーズは、一度聞いたら頭から離れなくなります。
その音源を映画用にミックスしたのが、95年版映画のテーマ曲『Techno Syndrome 7 mix』で、これが最もポピュラーなバージョンとなりました(95年版サントラには、劇中のセリフをサンプリングし、リミックスしたUTAH SAINTSの『Utah Saints Take on the Theme from Mortal Kombat』というバージョンもあります)。
97年の映画『モータルコンバット2』では叫ぶ名前が劇中人物の名前に入れ替わり、サンプリングも1~3までの音源に増えた豪華版『Techno Syndrome 97mix』や、そのハイスピードミックス『Theme From Mortal Kombat (Encounter The Ultimate)』が登場。
少なくとも公式に出ているものだけで7バージョン以上のミックスがある、モータルコンバットの歴史を背負った記念碑的な楽曲です。
今回の映画では、劇伴にこの曲のフレーズをアレンジしたものが非常に多く出てきます。ライムスター宇多丸がラジオでこの曲の悪口を言っていましたが、制作陣が「テクノシンドロームは宇宙で一番カッコイイ映画音楽なんだから、たくさん使って良いんだよ!」と自信をもって叩きつけてくれたので、思わずガッツポーズが出ました。
この曲のイントロがスタッフロール前にうっすらかかったところで、もう涙目でした。

・スタッフロールにローレンス・カサノフの名前が!
ローレンス・カサノフはベテランのプロデューサーで、90年代のモータルコンバットの映像作品のほとんどにかかわっている人。95年版の映画を成功させた功労者であり、97年の続編、ドラマ版『コンクエスト』、アニメ『Journey Begins』『Defenders of the Realm』、果ては『モータルコンバット・ライブツアー』など、出来の良いものから悪いものまであらゆるタイトルを手掛けています。正直、出来の悪い作品も多かったので、功罪ともに語られる人ではありますが、モータルコンバットの世界観を広げた立役者の一人として外すことのできない人物です。
ところが、ゲームを作っていたミッドウェイが潰れて、ワーナーに丸ごと買収された時に、テレビドラマと映画化の権利をめぐって訴訟を起こしているんですよ。その後続報もなく、WEBドラマ版の『レガシー』にはカサノフさんの名前も無かったので、残念に思っていました。今回の映画でスタッフロールの最初のほうに名前が載っていたのはうれしかったですね。何があったのか詳しいことは解りませんが、こう、丸く収まったんだなぁ……って。

この2点だけでも、この映画が過去のすべてのモータルコンバットを“正当に”後継しようとしていることがバシバシ伝わってきて、しかもそれが映画のストーリーとも合致していて、本当に泣けてきました。

・スタッフロールでのハンゾウの息子の役名について
スコーピオンの息子については長年名前が無かったんですが、『レガシー』で「ジュウベイ」という名前が与えられました。ところがゲームの方では「サトシ」って呼んじゃってたので、後にコミックの方で「本名はサトシで愛称がジュウベイ」という苦しい設定が追加されたそうです。
スタッフロールでは SATOSHI "JUBEI" HASASHI という表記になっていたので、違和感を覚えた方もいるかもしれません。そういう事情です。
劇中で名前を呼ばれるシーンは、実は一度もないんですが、英語字幕では「JUBEI」でしたね。(追記:吹替版では「ジュウベイ!」とセリフで言っていました)
ちなみに妻のハルミも、媒体によって名前が「カナ」の時があり、「ハルミ(愛称:カナ)」というちょっと無理のある設定が付与されました。

■モータルコンバット映画化に至るまでの紆余曲折


95年版『モータルコンバット』(ポールWSアンダーソン監督)は、2000万ドルの低予算映画ながら、1.2億ドルの興行収入を記録。ゲーム原作映画としては異例とも言える、大成功を収めました。
評論家からは、長年否定的な評価を下されていましたが、当時としては革新的なアクション(実はハリウッドで最初に格闘シーンにワイヤーアクションを取り入れている)や、緻密なセットによる世界観の構築、ゴローのアニマトロニクス、CGキャラクター相手の格闘、テクノサウンドを融合させたアクションなどが、近年になって再評価されています。
「それ以前のゲーム原作映画(『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』『ストリートファイター』『ダブルドラゴン』の3作)から大幅に進歩しており、何度でも見返したくなる作品」
「ゲームを原作とした映画作りに一つの方向性を示した」
といった、ゲーム原作映画の歴史を俯瞰しての評価も得ています。

しかし、その続編である97年の『モータルコンバット2』(ジョン・R・レオネッティ監督)は、キャラの詰め込みすぎ、脚本の未整理など散々な出来で、興行的にも評価的にも大失敗となりました。
プロデューサーのカサノフさんによると、編集前のラッシュフィルムで試写会をやった際に、ニューラインシネマの上層部から「もうこのまま公開しちゃうから」と言われて強引に上映されたそうで、カサノフさんとしても不本意な仕上がりだったそうです。
更に、翌年から始まったドラマシリーズ『コンクエスト』もアクションシーンに一定の評価を受けながらも伸び悩み、打ち切りに。
立て直しのために、ポールWSアンダーソンとオリジナルキャストで映画3作目の企画が上がりましたが、ポールが『エイリアンvsプレデター』の撮影を優先したため、企画倒れに終わりました。

映画化の話が難航している間に、ゲームの発売元であるミッドウェイが倒産。モータルコンバットの権利は、まるごとワーナーブラザーズが買収。映画化どころではなくなってしまいました。

そんな中、2010年、ケビン・タンチャローエン監督が、『モータルコンバット:リバース』という自主制作のフェイク予告編を発表。モータルコンバットのクリーチャーたちが、生まれつきの奇形や、人体改造を繰り返したフリークスのサイコキラーとして再解釈され、刑事ジャックス&ソニアが、マフィアの殺し屋「スコーピオン」の力を借りて事件を追うというクライム・アクション。
これを元にワーナーに映画化の企画を持ち込んだタンチャローエン監督(この行動力は見習いたいですね)。
その企画は、2011年のwebドラマ『モータルコンバット:レガシー』として生まれ変わります。
ゲームの世界観を忠実に再現しながら、挑戦的な新解釈(ハンゾウとビ・ハンが幼馴染!)や、愛に満ちたキャラ間のドラマ(闇堕ちしたリュウとクン・ラオが戦う!)など、野心に満ちた作品でした。もともと劇場公開映画の前日譚となる予定でしたが、シーズン2を最後に企画が凍結。映画の話は白紙となりました。

そんな「映画化するよ!」「やっぱりなくなりました!」を繰り返し経験していたので、2016年に今回の映画が発表されたときも「また企画で終わってしまうんじゃないの?」とすっかりいじけていました。むしろ完成した後も「いやでも日本ではやらないんだろ……。」と疑心暗鬼になっていました。

画像3

モータルコンバット関連作品の年表。日本で展開があったのは、太字の部分とモバイルアプリ版だけです。(※『モータルコンバット VS DCユニバース』のタイトルを間違えました)

■映画全体の感想

それが映画公開されるし、見に行ったらこれがべらぼうに自分の好みにハマったんですよ。これは本当にうれしいし、映画に関わったすべての人に感謝しかない。

もちろん欠点の多い映画ではあります。
どう考えてもセットアップに1時間近くかけているのは長すぎるし、第二幕のツイストは話を混乱させています。主人公コールの物語はお膳立てが不足していて、キャラに魅力が無いと言われても仕方ないと思います。ファン以外には意味不明な、燐塊と魔界の説明が劇中に無いのもいただけません。そこが気に入らない人がいるのは、もうしょうがないと思う。

ただ、それを補って余りある魅力がある。欠点なんていくらあってもいいんですよ。それが自分にとって愛せる欠点や許せる欠点だったら、完璧さは求めてないというか。
確かに、欠点のない完璧な映画が観たいときもあるけど、それは別に『モータルコンバット』ではないので。

まず、この映画は、モータルコンバットの魅力をきちんと映像化している。それはもちろん、FATALITYのグロさだったり、キャラの造形だったり、技の再現などもあります。
でも何より、アクションが常に何かを語っている所が重要なんだと思います。
訓練でコールにダウンを奪われたクン・ラオが本気を出すところだったり、サブゼロがスコーピオンのバトルハープーン(クナイ)を二度目は見切るところだったり、リュウ・カンがカノウに足払いを繰り返すときの舐めプ感だったり。
闘いだけで、いろんなコミュニケーションが成立している。それって、格闘ゲームをやる意義というか、格闘ゲームの面白さそのものなんじゃない?と思ったんですよ。

更に、ゲームだけじゃなくて過去の映像作品にも、きちんと敬意を払っているのがうれしかったです。
95年版はもちろん、失敗作扱いの97年版や、志半ばで力尽きた『レガシー』など、過去作の要素を、きちんと拾って、新たな意味を持たせて、よりブラッシュアップさせて、なんか「あの作品も、この作品も、全部必要なものだったんだよ」と言ってもらえたようで、うまく言えないんですけど、「救ってくれてありがとう」って気持ちになりました。

私は『コンクエスト』も全話観れたわけじゃないし、最新作アニメ『レジェンド』シリーズもまだ見れてません。海外からソフトを取り寄せたり、北米版のPS2を買っていた本当に熱心な方々に比べたら、日本で普通に手に入るものしか見れていない浅めのファンです。そんな自分でも、これだけ過去作への敬意を感じられたってことは、全作品を追ってきたファンはどれだけ嬉しいでしょう。

更に、この映画で初めてモータルコンバットに触れた人が、この世界やキャラクターを楽しんでいるのがめちゃくちゃ嬉しい。
正直見終わったときは、「俺はこれ観れてめちゃくちゃ嬉しいけど、大丈夫なの?知らないで見た人に意味わからんとか話がタルいとか言われたらどうしよう?」という思いもあったんですよね。
でも初見の人のほうが、かえって先入観が無い分、細かい感情の起伏に着目していたり、キャラクターの関係性を見抜いていたりして。それを知って映画を見返すと、目とか表情、間の取り方だけで、画面で起きていること以上のものを伝えてくる、映画ならではの表現にも気づくことができました。
また、アジア系を中心にしたキャスティングがハリウッド映画で出来ている凄さみたいな、全然知らなかった映画界の情報も知ることができて、この映画に込められたメッセージの多さを知ることができました。
今では、この映画の楽しみ方を狭く見積もっていた自分を反省しています。

あと、この映画のキャラクター、敵も味方も全員好感度高くないですか?好感度の低いキャラが見当たらない。全員プレイアブルキャラクターとして使いたくなる良いバランス。
いや、ゴローとリープテイルの扱いには納得いきませんが。

■上映形式別の感想


・IMAXレーザーGTテクノロジー
とにかく画面が大きいので迫力があります。また、フレームレートが良いのか、特に動きに関しては最高でした。どんなに速い動きでも、ブレが感じられない。ハンゾウのクナイの動きが一番クッキリ見えました。「映画のアクション=多少はブレるもの」という感覚が有ったので、これは新鮮。今回特にアクションシーンの動きが早いので、この点は高ポイントでした。本来のアスペクト比で見られるというのもポイントが高いです。
日本全国に2か所しかなく、上映回数自体も少ないためレアですが、もう一度見ておけばよかったなぁと思うぐらいには良かったです。

・ドルビーシネマ
黒の諧調が良く、ダイナミックレンジ幅が広いです。暗い画面では本当に真っ暗になりますし、ソニアにライトを当てられるシーンなど、「まぶしい!」という感じが伝わってきます。画面内の人物とのシンクロ率が高まりました。
その一方、フレームレートはそれほど高くないのか、ブレを感じることが多かったです。また、これは日本側のデータの問題ですが、字幕の文字が画面のトーンに合わない高照度で、まぶしく感じるシーンがありました。手前の席だとより強く感じます。特にブルーライトカットの眼鏡をかけている方は、レンズに反射するので気を付けてください。
音に関してはIMAXより恩恵を感じました。特にニタラが上空を飛ぶシーンや、ハンゾウの娘の鳴き声、ライデンがしゃべるときの細かいパチパチ音など、「あ、ここから聞こえてたのか」という発見が多かったです。

・4DX
血しぶきが飛ぶたびに水が降ってきたり、画面に合わせて座席が傾くところは「おお!」という感じでしたが、とにかく闘っている間ずっと揺れと衝撃が続くため、後半はかなり疲れました。体力を奪われますので、ある程度元気な方向けの上映方法だと思います。
あと、画面に集中するのは難しいので、一度他の上映方法で見てから挑戦するのが良いと思いました。

・通常上映
IMAXやドルビーシネマとの比較のために見に行った部分も大きいんですが、ウーハーの使い方が上手く、ライデンが「サイレンス!」っていうところとかで腹にドンと来るものがありました。映写機の光漏れで天井など明るくなってしまうのが、欠点といえば欠点です。


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