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【入院日記】 「なかなか過ぎない夜(後)」

 手術が終わるとICUへと運ばれた。その後も頻繁に何かをつけられたり、点滴を交換されたりしながら長い夜は続いていった。自分の寝ている場所からは時計も見られなかったが、とにかく時間は止まったかのようにゆっくり静かに流れて行き、時おりその静寂を計器のアラームがいたずらにかき回していく。そんな事の繰り返しでもあった。もちろん痛みでとても眠ることはできない。ましてや後から来た緊急手術の人の鼾がうるさくて到底眠る事などできない。

 時おり世話に回ってくる看護士に時間を訊いてみたが、だいたいいつ訊いても自分が思っていた時間と大した差はなかった。自分としてはとてつもない時間が過ぎたからそろそろ時間を訊いてみようと思うのだが、これで冗談でも2時間しか過ぎてはいないなと思えばその通り2時間くらいしか経っておらず、余計にガッカリさせられるものでもあった。こんな時は何故だか新しい傷が痛みだす。

 仰向けの姿勢が続いていたので少しだけ右傾姿勢を試みる。人差し指にセンサーが巻かれていることに気がつく。よく見るとセンサーのテープにはかわいいわんこのイラストがあり、それを眺めているとスーッと体が楽になるような気になった。励まされているんだなと気づき、また楽になれそうな姿勢を探す。しかし部屋中に響く鼾のお陰で眠らせてはもらえなかった。辛いなと思うと人差し指に付いているセンサーのわんこを見ればそれだけでもよかった。

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 こうして朝が来るまで時々わんこを眺めては痛みにじっと耐えていた。ただ朝が来ても大した変化はなく、ICUは真夜中の時に比べても賑やかになっていく一方だった。部屋が明るくなったって定期的に誰かが来て何かを計ったり交換したりと、そんな事の繰り返しだった。一番大きな違いは人の多さで時間の流れが感じられることだったかも知れない。そして朝が来たことでなかなか過ぎない夜は漸く明け、手術は無事に終了したんだなと次第に感じられるようになった■

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