⒉交通事故に遭う前の「私」①

割引あり

幼少期の私は、基本的に本を読んでいた。学校の休み時間や帰宅後、物語の世界に没入することが本当に本当に大好きだった。あの頃は1日1冊読み終えることが当たり前、月に50冊近く読んでいただろう。授業中でさえ先生の隙をついて本を開く私を見て、休み時間に「外で遊ぼう」や「おしゃべりしよう」などと声をかける子はいなかった。私はたぶん、いや確実に浮いていたのだろう。そのことに気づかなかった。というよりそもそも周りへの関心がなかった。

生前、特に小学校低学年のマリン(交通事故以前の私)は内気で人見知りだったと記憶している。現在のエリーとは比べ物にならないくらい「人と関わる」ことが不得意だったため、仮に声をかけられたとしても滞りなく応じることは稀だったと思う。また、本を読むことに慣れきっており、何度読み返してもストーリーが微塵も変わらない安心感に肩までどっぷりと浸かっていた。しかし、人と人との、現実世界でのコミュニケーションにおいて、決まったパターンが繰り返されることは極めて少ない。小学生は特に、「話がさっきと違う」ことなどしょっちゅう起こる。しかしあの頃の私は、集団生活や人との会話に慣れていなかったからか、癖のように決まりきった挙動を何度もしていた覚えがある。周りの反応が毎回違うことに疑問を感じてはいたのだが、

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