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世の中さ、こんな先生もいるんだよ ^^

高校の時に、変わった先生がいた。
体育の先生だった。
女性で髪がボサボサで、話の分かる、でもちょっとウザい先生だった。

ある日、クラスメイトが私に言った。
「Ellie、リレーの選手やってもらえるかな?
タイムが一番早かったの Ellie だったんだ。どう?」
私はそのとき、ちょっとビックリしてちょっと嬉しかった。
というのも、私は小学5年生までは足が速く、運動会ではリレーの代表選手の常連だった。
でも小学校6年生の時に、もっと速い子がクラスにいて負けた。
よりによって小学校最後の運動会!連続出場記録がぁっ………!!!
他のクラスだったら出られたはずのなかなか良いタイムだったけど、たまたま私のクラスに私よりもっと速い子がいたために、私は出られなかったのだ。
負けてショックを受けてる私にその子が言った。
「ごめんね。別にリレーの選手に興味があるわけじゃないけど、やるからには負けたくないじゃない?」
えぇぇぇぇ⁉と思ったし、今思い出しても信じられないくらい嫌なセリフ。
それが私の中でずっと不完全燃焼のまま心の中でくすぶっていたみたいだった。
だから、またクラスで一番になれた喜びと、あれから走るのを止めてしまったのにそれでも一番速かったという自信のないプレッシャーを同時に感じて、少し混乱したのを覚えてる。
だって、練習してない。子供の時とは違い、体も女性らしく重くなってる。
また負けるかもしれないという12歳の時の恐怖は、16歳になったときも鮮明だった。
だけど、何か気分が良かったし、「いいよ!」と私は答えていた。
「よかった!先生の言った通りだ。ありがとう」
そう言ってその友人は、内緒だけどね…と種明かしをしてくれた。

体育の授業でみんなで短距離走をした後、体育委員のその友人と先生は、生徒たちのタイムを比べてリレーの選手を誰に頼むか相談していたそうだ。
「Ellie に頼んでみます!」と言った彼女を、先生は1回止めたそうだ。
「頼むというより、決断はEllieにさせた方がいいと思うよ。こちらが主導権をもってお願いするより、彼女主導でやるかどうか決めてもらうように。
ないと思うけど、命令形はもってのほかよ」

それを聞いて私は、あまり理解できなかった。
ほんの少し、怒りも覚えた。
だって夢のリレーの選手をまたできるんだもん。
嫌がるわけないし、足が速いからってお願いされたら気持ちのいいものだと思う。
だから先生が、何でそんなことを言ったのかわからなかった。

それから20年近く過ぎ、さて、私は人に命令されるのが大嫌いな人種である。
人に多くを指図されるのがあまり好きではないし、決まったことを決まったように機械的にやる思考停止の作業も苦手だし、何なら「お願いします」と言われることも結構嫌いだ。
なぜなら「お願いします」は往々にして責任の押し付けをするときに便利な言葉だからだ。
思い返せば、国語や算数の問題で「~を答えなさい」と言われるのも嫌いだった。
解いてあげてるのに何で命令形?と子供ながらに疑問だった。
小学校から高校まではかなり自由な気風の学校で過ごし、その後フリーターをしながら夢を追いかけ、それに区切りをつけてからはイギリスへ行った。
そこで初めて正社員(いわゆるpermanent)として社会で働き始めた。
だから、私が「命令されるの好きじゃないな」「くだらないルールを強制されるの好きじゃないな」「何でも決められたことをただ単にやるのつまらないな」と意識して実感を伴ったのは、高校を卒業して10年たった帰国後のことだった。

だから、まだ自覚のなかった16歳の私の本質を見抜き、「お願いするよりEllie主導で『やる』と決めさせた方がいいよ」とアドバイスした先生に、私はいま心の底から感謝している。
それに気付くのが遅くて、もうどこでどうされてるのかわからない先生。
だけどもしもう一度会えたら、何でわかったのか聞いてみたいと思う。
そして確かに、「一番タイム良かったからやってよ、お願い!」と言われていれば、たぶん私は一度断っていたと思うのだ。
だってまた負けたくない。
もう自信もないし、走っててかなり体が重く、足が遅くなった実感があった後だったのだから。
でも、どうかな?と主導権を渡してくれたことで、私は素直に嬉しいと感じ、自分でやると決めたことで責任をもって、またある種の自信をもって臨むことができた。
それは私の高校生活の中でも良い思い出の一つではあるものの、実はその後の体育祭で勝ったか負けたかを覚えてない。
小学校6年生のリベンジを、勝ち負け関係なくこういうふうに昇華できたのは先生のお陰だ。
あの不思議で変なウザかった先生は、私の心の恩師だと今では思うのだ。

#忘れられない先生


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