レアメタルはいつ34鉱種になったのか、そしてその内訳は?

日本の金属資源政策を語る上で必ず登場する単語である「レアメタル」。その定義は時代によって変わりますが定義の変更を追うのは大変です。

レアメタルのはじまり

レアメタルという言葉が日本の政策の文脈で最初に使われはじめたのは1980年代で、通商産業省の鉱業審議会レアメタル総合対策特別小委員会による以下の定義が今でも使われています。

『地球上の存在量が稀であるか、技術的・経済的な理由で抽出困難な金属』のうち、現に工業需要が存在する(今後見込まれる)ため、安定供給の確保が政策的に重要であるもの

レアメタルが定義された年度については1987年度とする場合が多いですが*1レアメタル備蓄制度自体は7鉱種(ニッケル、クロム、マンガン、コバルト、タングステン、モリブデン、バナジウム)で1983年度から開始してるそうなのそれ以前にする場合もあります。このへんは一次文献で調べてないのでよくわかりません。(ネットの無い時代の文書だから発掘するの難しい。)

今問題にしたいのは、この時定義されたのが31鉱種で、下記に示す現在(2022年)の34鉱種より少ないじゃないかという点です。いつ、何が増えてん。

2022年現在のレアメタル。画像は資源エネルギー庁HPより

この鉱種の増加について、色々あってかなり時間を溶かして調べたのでまとめておきます。

31鉱種から何が増えた?

まず、経産省資料(*2)でよくみる、上の画像で言うと、増えたのはC, F, Mg, Si, Uです。
え、31鉱種から5つも増えてるから36鉱種にならないとおかしいのではって?ここにはからくりがあるのです。

31鉱種時代には2鉱種分として数えられていた、白金とパラジウムが金銀と同じ「貴金属」扱いにされてレアメタルの数に入っていません。上の画像だと、黄色の元素33個に加え、赤のレアアースを1鉱種として34鉱種になっています。

ただし、34鉱種はつねにこの34鉱種であるわけではなく、文脈が違えば違う34鉱種になっています。なんということだ

法的根拠のある34鉱種はこれだ

上記の34鉱種は実は、法的根拠のある34鉱種とは異なっています。
「34鉱種」という数字の出どころは、JOGMEC法に基づく経済産業省令である、「平成十六年経済産業省令第九号 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構の業務運営、財務及び会計並びに人事管理に関する省令」であると思われます。

この省令の第二十一条に、「機構法第十一条第五項の経済産業省令で定める金属鉱物」および「金属鉱産物」が定義されています。この「金属鉱物」が44鉱種、そのうちの「金属鉱産物」が34鉱種あります。

上の画像でいう「レアメタル」と比較すると、「金属鉱産物」にはBeとUが含まれず、Pと白金族が含まれているので、34鉱種になるのです。

レアメタルが34鉱種になったタイミング

レアメタルが31鉱種から34鉱種とされるようになったタイミングは、上記の省令の改正があった平成24年(2012年)の9月15日からです(平成二四年九月一四日経済産業省令第六七号)。

このタイミングで、それまで金属鉱産物に含まれていなかったC、F、Mg、Si、Pが追加されたものと思われます。

備蓄対象の鉱種はまた異なる!

実は、レアメタル備蓄制度により、現在備蓄の対象となっている鉱種も34鉱種ありますが、上記いずれとも元素の内訳が異なります

再び、上の画像でいう「レアメタル」と比較すると、備蓄対象の元素には白金族が含まれ、Uが含まれていません。1増1減なのでこれも34鉱種になるというわけです。経済産業省令に基づく「金属鉱産物」と比べると、Pが備蓄対象ではないのに対し、「金属鉱産物」ではないBeが備蓄対象に含まれています。

ちなみに備蓄対象の鉱種は、資源確保政策の一環として、国が備蓄方針を策定し、JOGMECが国の同意を得た上で備蓄計画を策定するもの(*3)なので、「金属鉱産物」よりは機動的に変更される可能性も考えられます。

中途半端な立ち位置の元素たち:Au, Ag, U

レアメタルというと「地球上の存在量が稀」というイメージに引っ張られがちなので、上記のような元素ラインナップは、どうしても一部直感に反する部分もあります。

だってSiとか地球上で一番たくさんある元素の一つなのにレアメタルに入ってるし。それに対して貴金属として名高い金や銀はレアメタルに入ってないし。

金、銀、ウランは採掘や利用の歴史が長いので、レアメタルというくくりで定義しなくても困らないのだと思われます。




*1: 1987年にしてる例:


*2: たとえばこれ

https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/sekiyu_gas/pdf/010_03_00.pdf

*3: たとえばこれ

https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/pdf/029_05_02.pdf


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