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代替医療に関して

私は文系出身なのだが、社会人になってから数学や科学を独学で勉強していたこともあり、代替医療などの非科学的なものは一切認めない立場だ。

ただ代替医療を認めないのはともかく、実際にその現場で働いている方に対してはどうするべきか?ということを10年ほど前に考えたことがあるので、そのことについて述べてみたい。

「ホメオパシー」という言葉も知らず、「カイロプラクティック」は名前を知っているだけで、どんな治療法かも知らなかった私が、代替医療に関して多少の知識を持つようになったきっかけは、当代きってのサイエンス・ライターであるサイモン・シンが、「代替医療のトリック」という本(日本では2010年発売)を著したからだった。

サイモン・シンはイギリス生まれ。ケンブリッジ大学で素粒子物理学の博士号を取得した人物で、1997年に発表した「フェルマーの最終定理」は世界的ベストセラーとなった。
その後に発表した「暗号解読」「宇宙創成」も素晴らしい作品で、私は彼の大ファンだったのだ。

「代替医療のトリック」では鍼、ホメオパシー、カイロプラクティックなどが取り上げられていたが、それらを厳密な方法で行われた臨床試験によって検証した結果は、その効果を示す証拠はほとんど無く、わずかに効果が認められる場合でも、通常医療に勝るようなものではない、というものだった(ちなみに厳密とは言えない臨床試験での結果も取り上げた場合は鍼には治療効果があると認められていた。その評価は、2003年にWHOが下したもので、そもそも調査委員会に鍼に疑念を持っているメンバーが含まれていない、という公正とは言えないものだった)。

そして最も印象的だったのは、厳密な方法とは言えないが、しかし代替医療の真実について強い示唆を与える調査だった。

アメリカの心理学者であるスティーブン・バレットは健康に問題のない29歳の女性に頼んで4人のカイロプラクターの診察を受けてもらった。そして、その結果はひどいものだった。
カイロプラクター達は皆、彼女の脊椎に問題があると言ったが、どの部分に問題があるのかという見解は全くバラバラで一致しなかった。しかし継続的な治療を勧めてきたことでは一致し、皆、週二回のペースで始めよう、と言ったのだった。
もちろんこの調査によってカイロプラクティックが完全に否定されるわけではないが、それに対する疑いを持つことは、むしろ当然だろう。

こうして代替医療に強い不信感を持つようになった私は、当時まだアカウントを持っていたmixiで代替医療を否定するグループに参加した。
もっとも、特に熱心に参加していたわけではなく、せいぜい情報集めをしていたくらいで、そこで投稿をすることも全くなかった。
そして、そういったグループにはありがちなことだとは思うが、とにかく代替医療の悪口を言うだけの、「この詐欺師ども!」「おーっ!」といった感じの投稿も多かった。

そして、あるとき、、、確か旦那さんが整体の先生をやっているという方から怒りの投稿があった。
「私の夫は整体師で、いつも患者さんのために勉強を欠かさず精進しています。私の夫は詐欺師なんでしょうか?」といった感じだったと思う。
代替医療を罵るのに一生懸命だった連中は黙ってしまい、全く反応はなかった。私は「情けない奴らだなあ」と思い、そこからそのグループに関心を失い、投稿を見ることも無くなった。

そして代替医療について一人で考えるうちに、それまでの私には「代替医療に携わっている方達も犠牲者」という視点がなかった、ということに気づいた。

私は以前、鍼灸の国家資格を取得するために頑張っていた青年と話したことがあるが、彼は医学部に入るのは学力的に難しかったが、やはり病に悩む人を治療したいので、その道を志したということだった。
代替医療に携わっている方達の中には問題のある方もいるだろうが、鍼灸師を目指していた彼のような良心に溢れた方も多くいらっしゃるだろう。
そんな真面目に頑張っている方が一生をかけて勉強を続けているものが、「代替医療のトリック」で主張されているように(サイモン・シンはコクラン共同計画によるデータを多く参考にしているようだ)、ほとんど効果のないものだとしたら、それこそ本当の悲劇だろう。
また良心より金銭欲に従って代替医療に携わるようになった者がいたにせよ、彼らもそれによって法律違反を犯しているわけではない。それが突然、代替医療が否定され、生業を失ってしまったら、それもやはり悲劇というべきだろう。

私は現在、代替医療を否定するための運動をしているわけではない。だが、代替医療に対して否定的な見解を持っていることは確かだ。
しかし、もし本当に代替医療を否定する運動をするのなら、現在、それに携わっている方達を「犠牲者」として救済する措置を講じないなら、決してうまくは行かないだろうと思う。
そして代替医療を否定するより、厳密な臨床試験の結果、効果があると認められた治療法を重視するという姿勢を紹介すること(つまり科学的な考え方を広めること)によって、代替医療のほとんどは淘汰されていくのではないかと思う。

そのやり方は遠回りではあるが、無用な歪みを生まないであろう。



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