犯人争奪戦

連絡を受けた家津警部は現場の家に到着次第質問を開始した。
「まずは赤木昴さん。この家に空き巣に入り、被害者の清水泰造さんを発見したとのことですが…」
「いいえ、警部さん!殺ったのは俺なんです!」
「違います!殺したのは私です!」
もう一人の関係者…被害者の親戚、逢坂良太が反論するかのように言い出した。
「いいえ俺が…!」「いや私が…!」
言い争いを始めた二人を尻目に、隣の刑事に尋ねる
「先程からこの調子だと聞いたが本当かね、渡瀬君?」
「はい…」
疲れ果てた顔である。
「初めて聞いたぞ。殺人犯を名乗る人間が複数いるなどという状況は」
「自分もですよ…」

-◇-

さて、何が起こっているか説明しておこう。

まず赤木昴。空き巣を行おうとした事からわかる通り困窮している。
死体には驚いたが、殺人なら長い間衣食住の心配はしなくて済む、と思い直したのだ。
どうせ微罪を幾つも重ねた身、今更殺人一つで変わることはない…と高をくくっているのである。

次に逢坂良太。被害者の財産を管理していたが、いつの頃からか着服・横領を始めた。
半分ほどを使い潰し困っていたところに渡りに船と今回の事件である。
刑務所でほとぼりを冷ました後、隠しておいた金で再び遊ぶという魂胆なのだ。

-◇-

落ち着いた二人からアリバイや動機などを聞き出した刑事二人。
当然二人共都合のいい事しか言わない。
しかもその度に言い争いを再開するので家津も疲れ果ててしまった。
「渡瀬君、決定的な情報は出てこないし一度お帰りいただこうか…」
「そうですね…」
しかしその時、警備していた警官が入ってきた。
「警部、大変です!」
「これ以上大変なことがあるのかね…?」
「新しく犯人だと名乗り出てきた男が!」
刑事二人は顔を見合わせ、深いため息をついた。

【続く】

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