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おそるべし銀座

銀座で待ち合わせをすることになった。

大学を卒業後、就職で4年間東京に住んでいたその間に銀座に行った記憶はない。銀座についてはお上りさん同様の知識しかないのだ。銀座と言えばあの時計のある交差点で、あの交差点には三越がある。

今回は会う人は初対面の人なので、とりあえず間違いのない三越で待ち合わせをすることに決めた。行ったことないけど三越ならたどり着けるだろうと思ったから。確か今から9年くらい前。私はスマホをまだ持っておらず、Googleマップもなかった頃。

ゴロゴロと小型の黄色いスーツケースを引っ張りながら地下鉄の駅を出て歩いた。あの交差点だ。あの時計だ。三越発見。待ち合わせの細かい場所は決めていなかった。

座ってゆっくりと話ができるところがいいだろう。三越だったら喫茶店があるだろう。よし、喫茶店を探そう。

一階に喫茶店発見。ゴロゴロしながら入ってみた。席に案内された。メニューを渡された。

・・・。
・・・。
・・・コーヒーが1,000円。
四桁?

たぶん私は当時仕事をしていなくて傷病手当が収入源だったように思う。1,000円は高すぎる。ケーキを一緒に頼むと2,000円超えるじゃないか。無理だ、無理だ、全然無理だ。

おもむろにバッグからケータイを取り出し、ガラケーをパカっと開いてメールを受け取ったふりをした。何も届いてないけど。人は切羽詰まると何か道を切り開くものなんだな。

「ごめんなさい。待ち合わせ場所が変わったと連絡があったので出ます。ごめんなさい!」

ゴロゴロと急いでお店を出た。そうか、このお店が高すぎたんだな。別の喫茶店を探そう。

別の階にある喫茶店を発見。見るからに高そうな店構え。マカロンがジュエリーの様にショーケースに飾られている。まさに夢の国のよう。(今調べたらマカロンで有名な「ラデュレ」だった。)

「高いに決まってる。なんならさっきよりも高いだろう。だったら見てみたいじゃないか!」

むくむくと出てきた好奇心に任せてお店に入った!
席に案内された!
メニューを渡された!
開いた!!

うぉぉっほ!
高い!
1,000円以下のものがない!

周りのお客さんを見てみるとマダムの優雅なお茶会だったり、ビジネスマンが仕事の打ち合わせをしていたり。それがコメダ珈琲店とは全く違う。本気の上質感。あぁ、こういう世界は現実に存在するのだなぁ。しばしぼんやりと眺めた。でも、ここも私の現実世界ではないのだ。

となれば、さあ、またケータイを急いで取り出すのだ!
「ごめんなさい!連絡がありましてぇ~!」と意味不明な言葉をつぶやきながら、ゴロゴロとスーツケースを引っ張りながら店を出て行った。

おそるべし銀座価格…。

結局、三越の屋上庭園らしきところを見つけて、そこで会うことになった。ジューススタンドで買ったドリンクは普通の500円前後の金額だった。

あれから数年経ち、親族の結婚式で訪れた大阪の高級ホテルの喫茶店。大人になった私は勇気を振り絞り1,500円のカフェオレを注文してみた。驚きのおいしさだった。美味しいクッキーが付いており、満足感も1,500円分だった。なるほどな。金額には、もちろん場所代もあるけれども、おいしさの理由もあるのだなと知った。

いつか、あの銀座のマカロンのお店でお茶をしてみよう。

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