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エリリンの時差日記

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#小説

最適な家族なんて存在しない【第8話】 インタビュー

フリーライター・早島チサ43才、独身。政府主催の親子マッチングプロジェクトに不正があると疑い、参加することで真偽を確かめようとした。「親」としての役割が振り分けられ、17才の少年との共同生活がはじまる……はずだったが、そうはならなかった。 なぜなら「息子」として指定され、「家」で待つ保取コウジは、もうすぐ還暦を迎える男だから。 たぶん理想な関係。  事態が急転する——まではないが、チサが大きく切ってくるカーブに、コウジは少しばかりついていけなかった。数秒程度だが、顔から

最適な家族なんて存在しない【第11話】ハイリターン

フリーライター・早島チサ43才、独身。政府主催の親子マッチングプロジェクトに不正があると疑い、参加することで真偽を確かめようとした。「親」としての役割が振り分けられ、17才の少年との共同生活がはじまる……はずだったが、そうはならなかった。 なぜなら「息子」として指定され、「家」で待つ保取コウジは、もうすぐ還暦を迎える男だから。 セーブポイント。  シューティングゲームの始祖とも言える『スペースインベーダー』。侵略してくる敵、インベーダーが最下段に到達するまで、移動砲台を

最適な家族なんて存在しない【第10話】マザーハッカー

フリーライター・早島チサ43才、独身。政府主催の親子マッチングプロジェクトに不正があると疑い、参加することで真偽を確かめようとした。「親」としての役割が振り分けられ、17才の少年との共同生活がはじまる……はずだったが、そうはならなかった。 なぜなら「息子」として指定され、「家」で待つ保取コウジは、もうすぐ還暦を迎える男だから。 似た者同士だからの齟齬。  一人目は老婆だった。  最初から人を頼んでシステムの解析などのハッキング作業をさせたが、一回目はデータをいじらずに

最適な家族なんて存在しない【第9話】 ソフトリブート

フリーライター・早島チサ43才、独身。政府主催の親子マッチングプロジェクトに不正があると疑い、参加することで真偽を確かめようとした。「親」としての役割が振り分けられ、17才の少年との共同生活がはじまる……はずだったが、そうはならなかった。 なぜなら「息子」として指定され、「家」で待つ保取コウジは、もうすぐ還暦を迎える男だから。 壊れて、入れ替われる。  さすが大先輩——綿貫サブローこと保取コウジは評論家として、ゲームや映画制作畑で活躍する業界人の取材を長年こなしてきたか

最適な家族なんて存在しない【第7話】 いらない子

フリーライター・早島チサ43才、独身。政府主催の親子マッチングプロジェクトに不正があると疑い、参加することで真偽を確かめようとした。「親」としての役割が振り分けられ、17才の少年との共同生活がはじまる……はずだったが、そうはならなかった。 なぜなら「息子」として指定され、「家」で待つ保取コウジは、もうすぐ還暦を迎える男だから。 狂いはじめるあべこべ。  煽ってくるね——綿貫サブローはテレビでいじられキャラとされていたが、もともと学校や職場にいてはいじめられっ子にされやす

最適な家族なんて存在しない【第6話】 過去の人

フリーライター・早島チサ43才、独身。政府主催の親子マッチングプロジェクトに不正があると疑い、参加することで真偽を確かめようとした。「親」としての役割が振り分けられ、17才の少年との共同生活がはじまる……はずだったが、そうはならなかった。 なぜなら「息子」として指定され、「家」で待つ保取コウジは、もうすぐ還暦を迎える男だから。 思い出しちゃったよ、その二。  綿貫サブローがテレビで活躍した時代は、今からだともう30年前にもなる。当時中学生のチサは父の転勤で台湾にいたから

最適な家族なんて存在しない【第5話】 たて糸

フリーライター・早島チサ43才、独身。政府主催の親子マッチングプロジェクトに不正があると疑い、参加することで真偽を確かめようとした。「親」としての役割が振り分けられ、17才の少年との共同生活がはじまる……はずだったが、そうはならなかった。 なぜなら「息子」として指定され、「家」で待つ保取コウジは、もうすぐ還暦を迎える男だから。 思い出しちゃったよ、その一。  本やネットサービスのプロフィールならともかく、初対面の人への自己紹介に「小説家です」や「漫画家です」とセットで名

最適な家族なんて存在しない【第4話】 微笑む男

フリーライター・早島チサ43才、独身。政府主催の親子マッチングプロジェクトに不正があると疑い、参加することで真偽を確かめようとした。「親」としての役割が振り分けられ、17才の少年との共同生活がはじまる……はずだったが、そうはならなかった。 なぜなら「息子」として指定され、「家」で待つ保取コウジは、もうすぐ還暦を迎える男だから。 出会ってしまったよ、その二。  左手には大量な雑誌や封筒が整然と並ぶ、壁一面の本棚。斜め後ろにはプリンターなどの事務機器で、トイレか洗面所に続く

最適な家族なんて存在しない【第3話】 笑えない女

フリーライター・早島チサ43才、独身。政府主催の親子マッチングプロジェクトに不正があると疑い、参加することで真偽を確かめようとした。「親」としての役割が振り分けられ、17才の少年との共同生活がはじまる……はずだったが、そうはならなかった。 なぜなら「息子」として指定され、「家」で待つ保取コウジは、もうすぐ還暦を迎える男だから。 出会ってしまったよ、その一。  長い長い商店街を通り抜け、チサは指定された「家」にたどり着いた。  古びたレトロマンションの一室。  マニュ

最適な家族なんて存在しない【第2話】 想定外のミス

フリーライター・早島チサ43才、独身。政府主催の親子マッチングプロジェクトに不正があると疑い、参加することで真偽を確かめようとした。「親」としての役割が振り分けられ、17才の少年との共同生活がはじまる……はずだったが、そうはならなかった。 なぜなら「息子」として指定され、「家」で待つ保取コウジは、もうすぐ還暦を迎える男だから。 出会うまでのその二。  最適な家族。  パートナーこそはマッチングできるのだろうけど、家族は到底無理だと思う。  親としての適性があるから子

最適な家族なんて存在しない【第1話】 親子マッチング

フリーライター・早島チサ43才、独身。政府主催の親子マッチングプロジェクトに不正があると疑い、参加することで真偽を確かめようとした。「親」としての役割が振り分けられ、17才の少年との共同生活がはじまる……はずだったが、そうはならなかった。 なぜなら「息子」として指定され、「家」で待つ保取コウジは、もうすぐ還暦を迎える男だから。 出会うまでのその一。  どういうわけか、親になってしまった。  まあ正確に言うと「『親』に振り分けた」のだが。  「親になりたい/子であ

解釈

ダジャレから発想したお話ですが。全然シャレにならないのでした。ケイタイで書くとなぜかこんな後味悪いのばかり。自分で書いててもやるせない。いちおう犯罪モノです。  ぼくだよ――なあ、わかるか。  なぜこんなことをするかって? そうだな、どこから話そうか。  父さん、また病院だよ。今度は仕事場で倒れたんだ。年を跨いでからもう二回目。  まだ三月にもなってないのに。  どうせ結果はまた過労だろうけど、何日間は検査入院だって。  しかし、過労と言うだけでは、さすがにはしょ

おにいさん、こちらへ

たぶん初めて日本語で書いた小説。クリープハイプの『鬼』を聞きながら書いたショートショートで、基本はホラーだが読順を少し変えると「真犯人がいる」仕組みになっている……はずです。  妹の様子が異様だ。  とはいえ、鬼のような形相で迫ってくるとか、とろんとした目で誘ってきたとか——そういうのではなく、ただただ静かに、居間の座椅子に腰掛けているだけだが。  灯りもつけず、明かりもない居間に。  とても静かに。  見えるはずもないのに——微笑みでも浮かべているような顔でじっと