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オデュッセウスを追いかけて(4)

 神話の世界に憧れて旅したギリシャ。2004年夏、英雄オデュッセウスの故郷とされるイタキ島を訪ねた時の思い出です。

名もなき島を巡る旅

 イタキ島4日目。アルバトロスという船での1日ツアーに参加した。アルバトロスはアホウドリのこと。
 ツアーの名称は、「Unknown Island」。未知の島、名もなき島、というところだろうか。「サンドイッチと赤ワイン付き」と書かれていたのにも惹かれた。

赤ワインとおつまみ付き

 小さいけれどきれいな船で、二人の男性が操る。日焼けした浅黒い肌。舳先で海を睨む姿はまさしく「海の男」。
 ギリシャの英雄オデュッセウスが「岩だらけの島」と表現したように、ゴツゴツした岩に覆われたイタキ島の姿を眺めながら船は進む。

 船は無人島で停泊し、誰もいないビーチで泳ぐことができる。透き通った水が美しい。船を降り、しばらく海辺で過ごしてから次の島へ。次第に風が出てくる。

 次に訪れた島は人が住んでいて、港には店も並ぶ。私は一緒に旅するMihokoと別行動し、少し離れた場所にある港を見に行くことにした。写真を撮りながらぶらぶら歩く。ぶどう棚を眺め、教会のそばを通り、ヨットや船が停泊する港へ出た。

 思ったよりも距離があり、島での自由時間が残り少なくなってきて、慌ててツアー船の場所まで戻る。途中、木製の電柱が立ち、カーブミラーのある風景が、日本の田舎町のようで懐かしさを覚える。

 Mihokoと落ち合いランチタイム。「シュリンプサガナキが絶品!」と日記に書き残している。サガナキとはフライパンのことで、小さなフライパンでチーズを焼いた料理のことをいうが、シュリンプ(エビ)のサガナキのように、フライパンで調理した料理のことも指すという。トマトソースで煮込んだ大きなエビが並んでいる。
 サラダの上にフェタチーズが載ったグリークサラダは定番の一皿。ビールを頼むと、冷やしたグラスが出てきたのが珍しかった。

エビのサガナキ
グリークサラダ

 食後、ちょっとだけ海に入ってから船に乗り込んだ。あと一箇所くらい立ち寄ると思っていたけれど、船から眺めるだけだった。もう少し泳いでおけばよかった。風のせいか揺れるので、帰りは寝てしまった。

 船が港に着くと、桟橋にハシゴをかけて降ろしてくれる。アルバトロス号の人から「またツアーに参加するなら10ユーロ値引きする」と言われる。明日にはレフカダ島に移動する予定なのだと話すと、ツアーの途中で降ろしてくれるというので、そうすることにした。

魚と船と刺繍

 日本語で「サカナオヨビフネ」と書かれた表示が気になった店へ行ってみる。店内はまさに魚と船の土産品がいっぱいだった。

 テーブルクロスなど特産の刺繍製品を揃えた店に入ると、店主の男性は日本へ行ったことのある元船員だった。海運国ギリシャには、かつて日本に行ったことがあるという元船員が多く、「ヨコハマ、コウベ」と寄港した町の名を挙げて話しかけられたことも何度かあった。
 おすすめのタベルナ(食堂)を教えてもらったが、一度行ったことのある店だったので、別の店へ行ってみることにした。

 フィッシュスープ、トマトサラダ、サバのグリル。サバはトマトソースで、と伝えたつもりだったが、伝わっていなかったようで、シンプルに焼いたもの。3泊だけの滞在だけれど、その中で「イタキナンバーワン」に認定したい美味しい店だった。

さよならイタキ

 翌朝、アルバトロス号でレフカダ島へ向かう。船が港を出て、赤い屋根のイタキの町並みが遠のいていく。

 船には船長たちの親戚なのか家族なのか、女性と小さな子どもたちが乗り込んでいた。子どもたちの中では年長の子が私たちのそばに近づいてきて座る。風があり、船は縦に揺れるのだが、子どもたちは喜んでいた。

 歩いて行ける場所から乗船できた上に、途中でツアーに組み込まれていた洞窟の中を眺めることまでできて良かった。レフカダ島のニドリという町で降ろしてもらった。

 私が子どもの頃に出会ったオデュッセウス物語の本には、表紙の裏に当時のギリシャ人たちが信じていた世界を描いた地図が載っていた。トロイア戦争の舞台となったトロイ、アテネ、スパルタ、などの地名と共に、地図の端にイタケー(イタキ)島が描かれていた。物語の主人公オデュッセウスがどうしても帰りたかった故郷の島。

 いつか行ってみたいと思っていた場所はいくつもあったけれど、その中でもイタキ島は特別な場所だった。この旅から数年経って、ロンドンの店で、私は滞在したイタキの港町が描かれた古い絵を見つけ、手に入れた。小さく素朴な美しい島。船から眺めた島の姿を、今もまだ覚えている。

(Text:Shoko, Photos:Shoko&Mihoko) ©️elia

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