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6月11日、スイカとスープと私。

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オールインワンで山登り

8:30起床。バスで無等山(무등산:ムドゥンサン)へ向かう。

無等山を知ったのは、BTS(防弾少年団)の「팔도강산」の歌詞がきっかけだ。メンバーが出身地の方言でラップバトルする曲なのだが、光州出身・ホソクさんのパートで〈無等山スイカ サイズ20kg〉というラインが出てくる(▼1:36~)。

「無等山に行ったら無等山スイカ食べれるかもー!」という軽い気持ちでバスに揺られ、無等山国立公園(무등산국립공원;ムドゥンサンクンニッコンウォン)で下車。すぐそばの探訪路入口へ向かう。

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まったく下調べをしていなかったので、てっきり、のんびり&癒しの自然公園だと思いこんでいたのだが……。

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テーマにそったトレイルコースがしっかり整備されていた。みんな、服装がガチ。

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私はというと、こんな感じ(▼)のオールインワン+エディターズバッグ+コンバース。完全に浮いていた。

昨晩のぼっちトッカルビに続き、若干の視線を感じる。まあでも、行けるところまで行ってみよう。ダメなら引き返そう。健康志向のご老人グループ、課外活動中の学生集団に交じり、山を登り始める。

この川とか山の感じ、故郷を思い出す。緑が深い。

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韓国も梅雨なのかな、と考えていたのだが、あとで調べてみたところ、韓国の梅雨は7月ごろらしい。単純に、自然が豊かなだけだった。国立公園だしな。

20分くらい登ったところで、体力の限界を感じ始める。坂道はつらい。普段まったく運動をしていないことを呪った。

中腹にお寺があるようなので、そこまでは諦めずに登ってみようと決意する。

合計30分くらい登り続けただろうか。517年創建の證心寺(증심사:チュンシムサ)というお寺にたどり着いた。

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山門をくぐり、境内に入る。

ここは、光州の代表的な仏教道場だそうだ。本堂では、読経にあわせ、何度もクンジョル(韓国で最敬礼となるお辞儀。体勢は日本の土下座に近い)を繰り返すおばあさんたちの姿があった。

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これは何の最中なんだろう。私も入っていいのだろうか。境内の端から、おばあさんたちのクンジョルをずっと眺めていた。何度か頭のなかでシミュレーションしてみたけれど、結局、私は静かにその場を去った。

私は、何かで迷ったら、なんだかんだ面倒なほうを選んできた人間だと思う。特に、旅になるとそれが顕著に出るようだ。とりあえず話しかけたり、食べてみたり、試してみたり。

だけど、ここではそれができなかった。信仰の場に、旅の高揚感と好奇心で入るのは、少し違う気がしたからだ。

みんな、何かを信じて生きている。誰かが大昔に築き上げた項目を信じる人もいれば、両親や友人の教えを信じる人もいる。自分との対話で気づいた何かを信じる人もいれば、手ざわりのあるものしか信じられない人もいる。

私も、何かを信じて生きてきたように思う。

そして、着るものも、食べるものも、住む場所も十分なこの世界で、信じるものに裏切られたり、信じることを諦めたりして死んでしまう人も、たくさんいる。

信じるということは、私たちの想像以上に、生きることに直結しているのだと思う。繰り返されるクンジョルの残像に、そんなことを思った。

私とオリタンスープを

無事、下山。バス停近くのスタバで一休みしてから、市街へ戻る。

昼食はすでに決めていた。光州名物、オリタンスープ。鴨をエゴマやニンニク、トウガラシで煮込んだものだ。

目指すは、創業約80年の老舗「ヨンミオリタン(영미오리탕)」。

昼過ぎには大邱へ向かうから、光州での食事はこれが最後だ。繁華街からちょっと遠いけれど、絶対、ヨンミオリタンで光州旅行を締めるんだ――そんな覚悟でお店に向かう。

炎天下のなか、何とかお店に到着。しかし、入店するやいなや、店員さんに「オリタンスープは2人前からだから、無理だよ」と断られてしまった。まじか。

店の前で少し考え込む――誰かナンパしようか。

あたりを見渡す。しかし、繁華街から遠く離れたこのエリアでは、地元のおじさん、おばさんくらいしか見当たらない。軽いノリでオリタンスープを一緒に食べてくれる感、ゼロ。これは無理ゲーすぎる。

ひとり旅でもっとも恐れていた展開が、こんなに早く来るなんて。

今思えば、2人前注文して1人で食べてもよかったかも(でも、断られちゃったし、もったいないし……)。ああ、オリタンスープ、食べたかったなぁ。そんな思いを抱えながら、ステイ先に戻った。

ところで、無等山スイカは…?

チェックアウト。ホストと会話。無等山へ行ったと伝える。

そういえば、と思い「無等山スイカってどこで食べられるの?」と尋ねてみた。無等山には、それらしきスイカが見当たらなかったからだ。

すると、とんでもないという表情を浮かべながら、「無等山スイカなんて、そう簡単には食べられないよ!」と言われた。

というのも、無等山スイカは超高級品なのだそうだ。古くは君主への献上品で、現代においても、日本でいう"皇室御用達"的な果物だという。インスタで見つけたこちらの無等山スイカ(▼)は、なんと₩320,000(≒29,000円)の値がついていた。

ここまで高価でなくとも、通常のスイカの価格の10倍以上はするそうだ。高級品ゆえ地元には出回らず、「ソウルの高級デパートにしかない」と言われた。

というわけで、オリタンスープに加え、無等山スイカも食べられなかった(あったとしてもスイカに3万円はちょっとな……)。

お世話になったホストに別れを告げ、高速バスターミナルへ。14:40、大邱行きのバスに乗車。

次回へ続く。