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#11. 女性が主体性を持つと叩かれるのか

先週、ATSUGIと日本モンキーセンターのSNSが炎上した。

前者は、タイツフェチイラストを使ったプロモーションで、後者は、女性の来場客の年齢差にふれる投稿をしたことで、それぞれ「性的搾取」「女性蔑視」と紐づけられ広まっていった(ただし、個人的には大多数がいわゆる“ツイフェミ叩き”のツイートだったように思う)。

この件に関してはさまざまなテレビ・ネット番組で取り上げられているが、今いちしっくりきていないので、私なりに整理してみる。

◆ATSUGI:ターゲットと施策のズレ

まず、ATSUGIの件は何が問題なのか。これは、ターゲット層とプロモーション施策のずれである。そしてその要因は、Abema Newsでハヤカワ五味さんも言っていたが、SNS担当者の公私混同である。

ATSUGIの場合、ターゲット層は女性で(もしかすると一部男性も履くかもしれないが、そこまで含めるとまた別の話になるので割愛)、その女性にATSUGIを選んでもらいたくなるようなプロモーションを展開する、というマーケティングを行うはずだった。また、そこには企業のモットーである「常に清く、正しく、明るく」という姿勢が反映されるはずだった。

しかし、SNS担当者の女性は話題作りに傾倒してしまった。また、タイツ愛は確かに強かったが、フェティッシュな傾向があった。もちろんそれ自体は悪いことではないものの、結果として、企業のプロモーションにもかかわらず個人の嗜好が全面に出てしまった。

公式SNSがリツートしたのは、タイトミニスカートのOLが車を降りるシーンや、オフィスチェアで体育座りをしているシーン。さらにはメイドが自らスカートをめくりあげているシーンなど、そのフェチにふれたことがない人にはおそらく「キツい」イラストである。

それは、ターゲット層の主観を無視するかたちとなってしまった。普段、制服などの一部としてパンスト・タイツを着用しながら働いている女性にはとんでもないイラストだろうし、私もパンスト・タイツを履く機会がある性として、そんな目で見られていることを全面的に肯定するプロモーションには「いや、キモすぎだろ」と思った。とにもかくにも、こうして企業への嫌悪感と不信感が生まれ、SNSで広まったのだと思う。

ただし重要なのは、一部の過激なツイフェミをのぞき、今回声をあげている女性はATSUGIに対して抗議をしているのであって、フェティシズムやそれを反映したイラストそのものを糾弾する意図はないということだ。もしそうだとしたら、すでに世に出ているフェチ写真集はとうに彼女たちによって糾弾されているだろう。

なので、基本的には「ATSUGI⇄消費者(ターゲット層の女性)」というシンプルな構図なのだが、そこにツイフェミやツイフェミ叩きも加わって(なんならそっちの人たちのほうが声が大きいので)、問題の本質がなんだかよくわらかないことになっている、という印象だ。

◆モンキーセンター:時代背景の読み間違え

日本モンキーセンターの件の根本にあるのは「結局私たちは年齢で価値を決められてしまうのか」という女性の反発なのではないかと思う。

SNS担当者はツイートで、いつもは「素敵なお姉さま」=おばさんしか来ないのに今日は初めて「女子」=若い女性が来てくれて、猿の「担当」が喜んでいる、と書いている。

これに対して、物珍しかった事実をツイートしただけだという意見もあるのだが、見方によってはやはり、女性は若いほうがいいというメッセージにとらえられるだろう。どちらの女性も、ただ動物を楽しみたくて来場した先でそんなふうに比較されたくなかっただろうし、若い女性の来場こそを喜ぶという目線はユーモアまじりで書いたのだろうが、これをおもしろいと思う時代は5年くらい前に終わったと思う。

街中や雑誌、インターネット広告などを見ればわかるが、女性は若さ=いいこと、老い=悪いことというメッセージを、あらゆるところで、幼いときから受け取っている。そうして時には、若さに付け込まれたり、自尊心を傷つけられたりしながらも、それを言葉にできないまま、沈黙を貫いてきた人も多いはずだ。

それが、近年の自己実現やフェミニズムのブームに後押しされて、沈黙を破る動きが起き始めた。「女性はこうあるべき」という社会からの抑圧に対して、SNSなどを通じてNOを提示することができるようになり、また、「NOと言ってもいいんだ」と感じる女性も増えてきたことがある。

そのなかで、今回の件では「他人に自分の価値を判断されたくない」という女性の反発が表面化した、という流れなのだと考えている。「おばさんがおばさん扱いされてキレてるwww」というような意見が散見されるが、それは本質ではないはずだ。

もちろん、担当者にはそこまでの悪意はなかったことも理解できる。「素敵なお姉さま」という過剰なまでの配慮が見られる言葉には、本人なりに気を遣っていたことがうかがえるからだ。ただし、前述のような時代背景では、それが本質的なリスク回避になることはなく、炎上してしまったのだろう。

◆女は主体性を持たない生き物とでも?

今回の2件を通して目に余ったのは、女性に主体性などない、持つべきではないと思っているような人たちの発言だ。

女性は、タイツ・ストッキングを実際に着用する性だし、長らく若さで価値を測られてきた性だ。したがって、これらの問題の当事者であるし、主体的に「いやだ」「おかしい」と声をあげるのは自然なことだと思う。

しかし、それを糾弾する声が多く見られた。SNSだけでなく、この問題を取り上げたニュース番組のコメントなどでも「批判しているのはおばさんだろ」とか「なんでこんなに女はうるさいんだ」という声がたくさんあった。

女性が主体性をもって、当事者であるはずの問題を論じることの、何がそんなに気に食わないのだろう。当事者ではないと思われるその人々には何の影響もないことなのに、何をそんなに脅かされると思っているのだろう。

ツイフェミ同様、このような発言をしている人たちは一部の限られた人なのだと思うが、「これが2020年かぁ......」と軽く絶望したのであった。

Top Photo by Cristian Newman on Unsplash