6月10日、何者でもない私。
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芸術の都、光州へ
6月10日12:25、ソウル・セントラルシティ(高速バスターミナル)から光州行きのバスに乗る。チケットは₩7,600。所要時間は3時間半ほど。
光州に着くと、もう夕方だ。
今回の旅のおとも「地球の歩き方」には、光州自体にこれといって大きな見所はないとあった(そんな…)。そのせいか、Airbnbで予約したステイ先のホストには「あなたもアーティストなの?」と尋ねられた。
あなた"も"というのは、光州が「芸術の都」だからだ。1995年からは「光州ビエンナーレ」が開催されており、2003年には、政府主導の本格的な文化都市計画が始まった。2015年には、地下4階・地上4階建ての巨大アート施設「国立アジア文化殿堂」もオープンし、芸術の都を象徴している。
とはいえ、住民としては"芸術で町おこし"的な肌感なのだろう。ビエンナーレ以外の時期に観光客が来ることは珍しいようで、アーティストなのかと尋ねられたのもそのためだ。
私は「I'm nothing」と答えた。文法的に正しくないが、"何者でもない自分"。心もとないような、風通しのいいような、自分で口にしてみるといっそう不思議な感覚になった。
Airbnbのオーナーはアーティストらしい。リビングの掲示板には、オーナーやアート関連のインフォメーションが貼られていた。
到着後しばらくして、ホストの友人が来訪。急遽泊まることになり、本来使うはずだった部屋ではなく、キッチン・バスルームがついたワンルームにアップグレードしてくれることになった。ソウルで9晩、ドミトリーに泊まっていたので、久しぶりのプライベートルーム。まじで嬉しい。
図らずも聖地巡礼
ステイ先で簡単な荷解きを終え、とりあえず繁華街へ行ってみることに。
街頭には、いたるところにアート作品が。さすが芸術の都。
道中、ホソクさんが通っていたという「JOY DANCE & PLUG IN MUSIC ACADEMY」を発見。ここであのダンスが磨かれたのか……ちょっと感動。
そういえば、ストリートのステージで踊っていたとか話していたような。繁華街でストリートパフォーマンスしていたのかな?と思っていると、すぐそばの公園で、それっぽいステージを見つける(床板に穴が開いていたけれど)。もしかしたら、ここで踊っていたのかも。
そんなこんなで、光州の繁華街、錦南路4街(금남로4가:クムナムロサガ)に到着。時間帯的に、学校帰りの学生や若者であふれている。商店街の規模は小さいが、ソウルでも見かける飲食店やコスメショップが並んでいる。
私は、観光地とは程遠い、暮らしがある場所が好きだ。その原体験は、17歳のときの語学留学にあると思う。
英語が得意だった私は、中学生のときから留学を夢見ていた。そして、語学研修プログラムがある高校に入り、2年生の夏休み、イギリス・ソールズベリーへと旅立った。
プログラムには、約40名のクラスメイトが参加した。ホームステイ先は別々だが、語学学校は同じ。その結果、"留学あるある"が発生した。日本人同士で固まる、あの現象だ。
最悪だったのは、それが自分が意図したものではなかったということだ。英語が好きで、留学を夢見ていた私は、必然的にクラスでもっとも英語が得意な生徒だった。そして、それを知っている数人の友人は、英語への苦手意識と不安から、私のそばにいることが多かった。
……いや、本当に最悪だったのは、その状況を断ち切る勇気がなかった自分だ。だから、それは単なる憤りではなく、フラストレーションだった。
しかし、学校行事というものは個人の逸脱を許さない。また、友人との関係は今後も1年半は続く。今の私ならば好き勝手できるけれど(実際しているけれど)、クラス単位の語学研修は、実はめちゃくちゃハードモードなのである。
「こんなはずじゃなかったのに」。友だちと分かれ、1人になった帰り道。とぼとぼと歩く私の目に留まったのは、ある古本屋の看板だった。
白い一軒家。おそるおそる扉を開ける。
壁の本棚だけでなく、フローリングや階段にも積み重なる大量の古本。深紅の絨毯、大きなガラス窓から差し込む光。古本屋といえばブックオフだった17歳の私には、目覚ましい出会いだった。
しばらくすると、足音が聞こえてきた。階段をさっそうと駆け下りてきたのは、20代半ばくらいの若い女性。パーカーにジーンズ、スニーカーというカジュアルなファッション。後ろには、従順なゴールデンレトリーバー。
彼女は、快活な声で「Hi」と言った。私も「Hi」と返した。私は何冊か気になった本に目を通しながら、彼女の生活を想像した。
まるで秘密基地のような、1人と1匹の城。彼女の日常はおそらく単調で、その多くは静寂で、決して派手なものではないだろう。けれど私にはそれが、広大なカーディフ城よりも、歴史的なバースの街並みよりも、ずっと尊いものに思えた。今なお記憶のなかでキラキラと輝いて、異国の地にいても思い出すほどだ。
暮らしというものは、「星の王子さま」でいうところの、宇宙のどこかで咲く1輪のバラのようなものなのだろう。その人だけがなついた、唯一で、誠実な時間の蓄積。目には見えない、美しい何か。
だから、どこにいてもできるだけ、観光の向こう側にある暮らしを知りたいと思う。
1件だけ、レコードショップを発見。「25」という店名のようだ。ホソクさんも来ていたのかなぁ。
ぼっち飯、上等!
なんとなく繁華街を把握したところで、そろそろ夕食の時間。夜は、トッカルビを食べに行くと決めていた。
トッカルビは、光州の郷土料理だ。光州松汀(광주송정:クァンジュソンジョン)駅付近には「トッカルビストリート」があり、名店が並ぶ。
というわけで、錦南路4街駅から地下鉄に乗り込む。光州松汀駅までは約20分。T-money(日本でいうSuicaやPASMO)も使えるらしいのだが、初めてトークンを買ってみた。
せっかく写真を撮ったのに、なぜトークンを逆さに持ったのか、自分でも謎である。
光州松汀駅から5分ほど歩き、目的地である「ソンジョントッカルビ(송정떡갈비)」に到着。1976年創業の老舗で、光州トッカルビの元祖らしい。
混んでいるかと思いきや、平日の夜だったこともあり、すぐに席に着くことができた。客層も、観光客よりは地元の方が多いようだ。
有名店だけあって、メニューには日本語表記も。ちょっと助かる。ただし、注文票はハングル。とはいえ、口頭でオーダーするよりは、こちらのほうが難易度が低いだろう。
オーダーはもちろん、トッカルビ(₩11,000)。牛肉と豚肉を細かくみじん切りにしたあと、四角く整えて味付けし、タレを塗って炭火焼きしたものだ。もちろん、大量の小皿付き。韓国特有の食文化、バンザイ。
黙々とトッカルビを巻き、次々と口へ運ぶ。おいしい。ソウルでは食費を浮かすため、コンビニ飯が多かったこともあり、感動もひとしおだ。
とはいえ、韓国の"ぼっち飯"はちょっと難易度が高い。
韓国では、食事は家族・友人とにぎやかに楽しむのが通例だ。したがって、1人では入店できない飲食店もあるし、入れたとしても、"友だちがいないヤバい人"認定されかねない。それは、韓国人にとっては深刻なことのようで、若干の視線を感じながら食事をするはめになる。
まさに今の私。
しかし、実際ひとりなのだから仕方ない。そして、ひとりだからといって諦めるつもりもない(店側が許す限りは)。周遊中は各地の名物をちゃんと食べていきたいと思う。
腹ごなしにKORAIL見物
地下鉄に乗り、錦南路5街(금남로5가:クムナムロオガ)駅で下車。腹ごなしにKORAIL・光州駅を見に行く。
しかし、終電が終わったからなのか、中は真っ暗。入ることもできなかった。まだ20~21時くらいだった気がするが……まあ、いっか。
ホソクさんもこの駅を使っていた(いる?)んだろうなぁ。とはいえ、KORAILより高速バスのほうが便利だし安いし、今回の旅でKORAILを使う予定はない。
地下鉄に乗り、錦南路4街駅へ戻る。日中とはまた違う夜の繁華街。途中、ストリートミュージシャンのパフォーマンスを鑑賞。歌、めっちゃうまい。
深夜まで賑やかなソウルと違って、光州は22:00閉店の店が多いようだ。街には徐々に、深夜の静寂が忍び寄っていた。私も、Airbnbに戻ろう。
おまけ:今日のシートマスク
韓国はシートマスク大国なので、周遊中は毎日、違うシートマスクを試すことにした。購入先は、OLIVE YOUNGなどのドラッグストアから、コスメブランドの路面店までさまざま。
今日のシートマスクはこれ。
Dewytree(デュイトゥリー)の「DEWYTREE AC CONTROL DEEP MASK」(₩1,500)。
開けてびっくり、シートが若草色。グリーンエンザイムパパインという成分を配合しているからだそう。
アンプル(化粧水みたいな液)が28gも入っていて、ひったひた。おかげで、シート自体は分厚いほうではないが、長時間しっとりする。ペパーミントが含まれているので爽快感があり、夏は特におすすめ。
明日に続く。