直流と交流の電力
直流の電力
図1に示す直流回路において、電力$${P}$$は、
$$
P = VI \tag{1}
$$
で求まる。オームの法則を用いると、
$$
P=VI=RI^{2}=\frac{V^{2}}{R} \tag{2}
$$
の関係が求まる。
交流の電力
交流電力の基本
図2に示すように、交流の場合はベクトルで考える必要がある。交流の場合、電力といっても皮相電力、有効電力、無効電力の3種類がある。単相皮相電力$${\dot{S}}$$は、
$$
\dot{S}= \dot{V}\bar{\dot{I}} \tag{3}
$$
で定義される。式(3)では、電流ベクトルの共役複素数をとっているが、電圧ベクトルの共役複素数をとっても良い。ただし、電圧ベクトルの共役複素数をとる場合は、電流ベクトルを基準にする必要がある。
電流ベクトルの共役複素数をとると、図3のように電流ベクトルは向きが変わる。
図2および図3で共役のイメージが分かったが、実際に式で見ていく。
今、力率を$${\cos(\theta)}$$、基準ベクトルを図2のように電圧ベクトルとする。電圧ベクトルの大きさを$${V}$$、電流ベクトルの大きさを$${I}$$とし、電流ベクトルを複素表示すると$${I\left(\cos(\theta)-j\sin(\theta)\right)}$$となることから、式(3)は、
$$
\begin{align}
\dot{S}= \dot{V}\bar{\dot{I}} &= V\overline{I\left(\cos(\theta)-j\sin(\theta)\right)} \notag \\
&= VI\cos(\theta)+jVI\sin(\theta) \tag{4} \\
\end{align}
$$
となる。式(4)において、右辺の第1項を、
$$
P=VI\cos(\theta) \tag{5}
$$
と定義して、有効電力という。また、右辺第2項を、
$$
Q = VI\sin(\theta) \tag{6}
$$
と定義して、無効電力という。よって、式(4)から皮相電力$${\dot{S}}$$は、
$$
\dot{S}= P+jQ \tag{7}
$$
と表され、その大きさは、
$$
\begin{align}
S &= \sqrt{P^{2}+Q^{2}} \notag\\
&=\sqrt{{(VI\cos(\theta))}^{2}+{(VI\sin(\theta))}^{2}} \notag\\
&= \sqrt{(VI)^{2}(\cos(\theta)^{2}+\sin(\theta)^{2})} \notag\\
&= VI \sqrt{(\cos(\theta)^{2}+\sin(\theta)^{2})} \notag \\
&= VI \tag{8}
\end{align}
$$
となる。
共役複素数を取らないとどうなるのか
式(3)において、共役複素数を取らない場合、どのようになるのかを見ていく。
$$
\begin{align}
\dot{S}= \dot{V}\dot{I} &= VI\left(\cos(\theta)-j\sin(\theta)\right)\notag \\
&= VI\cos(\theta)-jVI\sin(\theta) \notag\\
&= P-jQ \tag{9}
\end{align}
$$
式(7)と式(9)を見比べると、無効電力の符号が変わっただけで、どちらでも問題ないように見える。実際どちらでも良い。では、なぜ共役複素数を取るのか。それは、現実問題として電力系統は、遅れ力率であることが多いためである。身の回りの生活を考えてみても、洗濯機や扇風機、エアコン、掃除機、電源アダプターなどコイルやモーターを利用したものが多い。特に工場やビルなどでは、大容量のモーターが使われている。図4に示すように、負荷に無効電力が流れている場合を考える。もしも無効電力が正であれば、負荷が無効電力を消費していることになる。
しかし、図5のように無効電力が負とすると、ベクトルにおいて負は、矢印の向きを逆にする操作になるから、負荷が無効電力を発生しているかのようになる。
これでは、通常の場合、電力は、電源から負荷へ流れているという考え方と異なることになる。そこで、共役複素数をとって、遅れの無効電力を正として扱うことで、図4のように電力は、電源から負荷へ流れるという考え方にできる。そのため、共役複素数をとることを一般的にしている。
三相電力
三相電力の場合を見ていく。三相の場合は、単相を3倍すれば良いので、相電圧の大きさを$${E}$$、相電流の大きさ$${I}$$とすれば、
$$
S = 3EI \tag{10}
$$
となる。また、Y結線では、線間電圧の大きさ$${V}$$は、
$$
V = \sqrt{3}E
$$
であり、相電流の大きさと線電流の大きさ$${I_{L}}$$は等しいので、
$$
\begin{align}
S &= 3\frac{V}{\sqrt{3}}I_{L} \notag\\
&=3\frac{V}{\sqrt{3}}I_{L} \times \frac{\sqrt{3}}{\sqrt{3}}\notag\\
&= \sqrt{3}VI_{L}\tag{11}
\end{align}
$$
となる。Δ結線では、線電流の大きさ$${I_{L}}$$は、
$$
I_{L} = \sqrt{3}I
$$
であり、相電圧の大きさと線間電圧の大きさは等しいので、
$$
\begin{align}
S &= 3V\frac{I_{L}}{\sqrt{3}} \notag\\
&=3V\frac{I_{L}}{\sqrt{3}} \times \frac{\sqrt{3}}{\sqrt{3}}\notag\\
&= \sqrt{3}VI_{L}\tag{12}
\end{align}
$$
となる。式(11)と式(12)は、三相電力を線間で見た場合であり、Y結線およびΔ結線によらず同じ結果を得る。そのため、三相の電力は、
相で見たとき
$$
皮相電力の大きさ = 3 \times 相電圧の大きさ \times 相電流の大きさ \tag{13}
$$
線間で見たとき
$$
皮相電力の大きさ = \sqrt{3} \times線間電圧の大きさ \times 線電流の大きさ \tag{14}
$$
となる。
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