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『韓国文学ガイドブック』監修者黒あんずさんによるおすすめ韓国文学リスト

今年7月にジュンク堂書店福岡店とブックファースト新宿店にて、『韓国文学ガイドブック』と合わせて監修者の黒あんずさんのセレクトによる韓国文学のフェアを展開していただきました。

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両店ともフェアは終了しましたので、改めてリストとコメントを公開します。読書の秋のご参考にどうぞ。

◎ハン・ガン『少年が来る』
現代韓国文学最高峰の一冊。光州事件の鎮魂歌であり暴力に抵抗する祈りのようなこの傑作を、とにかく読んでみてほしい。人は、人が傷つけられる怒りや悔しさで泣く。読み返して涙が止まらなかったです。

◎チョン・セラン『屋上で会いましょう』
魔術師チョン・セランの才能を味わいつくす、バラエティ豊かな短編集。最後の一編までどれも面白く、ハッとするリアルさやユーモアに満ちあふれています。フェミニズムへの力強い信頼を感じる一冊です。

◎イ ・ギホ『誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ』
表題作をはじめ読み終わったあとにそのタイトルに含まれている意味を吟味するとハッとする短編集。「あとがき」まできっちり読んで、イ・ギホの語りのトボけた面白さと恐ろしさを堪能してほしい。

◎ファン・ジョンウン『ディディの傘』
現代韓国社会を大きく揺るがしたセウォル号事件とキャンドル集会を描いた傑作中編2編。社会で起きたできごとを真摯に見つめるファン・ジョンウンの作家としての姿勢が最も力強く美しい形で現れています。

◎チェ・ウニョン『ショウコの微笑』
高校生のソユは日本からの留学生「ショウコ」と出会い、憧れと嫉妬心を抱く…。女性同士の交感を豊かに描きだしたチェ・ウニョンの鮮烈なデビュー短編集で、どの小説も女性同士のすれ違いや分断を描いて切ない。

◎ピョン・ヘヨン『アオイガーデン』
「不快の美学」とも評されるピョン・ヘヨンの世界を堪能する短編集。清潔で安全な日常の皮膜の下に覆い隠された生々しさや不気味さが強烈な印象を残す。ひと味違う韓国文学を求めている日にぜひ。

◎キム・ヘジン『娘について』
介護施設で働く母親の元に、レズビアンの娘とそのパートナーが転がり込んでくる…それをきっかけに浮き彫りになる自らの差別意識や自分自身を縛りつけてきた社会規範を描いたクィア文学の傑作です。

◎パク・ワンソ『新女性を生きよ』
現在の韓国女性作家に多大な影響を与えた朴婉緒による自伝的小説。少女の目から見た当時の生活や景物を描くみずみずしい筆致がとにかく素晴らしいので、ぜひ読んでみてください。

◎キム・ジュンヒョク『ゾンビたち』
社会から断絶した「無通信地帯」、そこはゾンビと人間がひっそりと暮らす村だった…作者は言う「これはゾンビたちの物語ではない。忘れていた記憶についての物語なのだ」と。キム・ジュンヒョクらしいポップさが漂う。

◎キム・グミ『あまりにも真昼の恋愛』
旧世代の価値観が崩壊したあとの不確かな世界の感触を描いて、若い世代に熱烈に支持されたキム・グミの短編集。曖昧な世界に現れるひりつくような感覚に、ページをめくっていて思わずぎくりとするはず。

◎チョ・ナムジュ『彼女の名前は』
『82年生まれ、キム・ジヨン』の作者による短編集。韓国フェミニズム小説の入門としても最適な一冊。ハラスメント、アイドルファン、生理の貧困など文学に取り上げられることの少ない声を拾いあげています。

◎キム・ヨンハ『殺人者の記憶法』
アルツハイマーを患ったことにより記憶の抜け落ちていく殺人鬼の手記。かつての殺人鬼が新たな殺人鬼と出会うという物語も驚くが、何より殺人鬼の世界観や哲学といったたわいもない語りがひたすら面白い。

◎クォン・ヨソン『春の宵』
腕のいい猟師のように、理解不能な〈他者〉として近しい者とのコミュニケーションを切り取ってみせるクォン・ヨソンの傑作短編集。どの話も仲間内での気まずさ、罪の意識、他者への苛立ちがリアルに迫ってくる。

◎チョン・ミョングァン『鯨』
2000年代に登場した新しい寓話のようなメガノベル。文章というよりナラティブでぐいぐい引っ張っていくような物語の力があって圧倒されます。読む人によってさまざまな話型を読み取れるのではないでしょうか。

◎ユン・イヒョン『小さな心の同好会』
作者の「書くこと」への姿勢が最もストレートに表現されている短編集。家事労働や育児に追われる立場の女性たちが書き、表現し、立ち上がるまでの小さな連帯を描く表題作はぜひ!本当に素晴らしく勇気づけられます。

◎カン・ファギル『別の人』
読みながら叫び出しそうだった。この痛みも声を上げる正しさもわかっているのに、実際のDVやハラスメントがどれほど曖昧で複雑かを知っているから。性暴力を扱った、フェミニズムの最も鋭い切っ先を走る小説です。

◎チェ・ウニョン『わたしに無害な人』
女性同士の関係性の機微を描いたらピカイチの作者による短編集。目のくらむような人と人との出会い、過ごしたかけがえのない時間のきらめきと苦しさに息をのんでしまう。デビュー作『ショウコの微笑』もぜひ。

◎イ・ギホ『原州通信』
ずるい。同級生が近所に高級クラブ(しかも屋号が…)を開いたと訊いて、無職独身実家暮らしの男がのそのそと遊びに行く…それだけの話なのに、どうしてこうもトボけたチャーミングさがあるのか? イ・ギホはずるい。

◎『目の眩んだ者たちの国家』
ハン・ガン、ファン・ジョンウン…現代韓国文学にも多大な影響を与えたセウォル号事件を作家や研究者たちが語るアンソロジー。胸をえぐられるような言葉に息ができない。この言葉は私たちの社会にも向けられている。

◎チョン・ウニョン『生姜』
ハン・ガン『少年が来る』が民主化運動で弾圧される側の物語だとすると、これは加害者側からそれを描いた力作。彼らからは歴史がどのように見えていたのか。ぜひ『少年が来る』とあわせて読んでほしい。

◎パク・ソルメ『もう死んでいる十二人の女たちと』
人間や社会そのものではなく、もっとニュートラルで自然や物を包括した存在を描くさらに新しい韓国文学。変身する釜山タワー、自分たちを殺した男を殺し続ける12人の女、縮んだ恋人。犬になりたい友達。

◎チョン・ソヨン『となりのヨンヒさん』
ジェンダーの越境やゆらぎが描かれるだけでなく、女性と女性との関係性の多様さに目をみはるやさしい世界が描かれる韓国SF。作者のチョン・ソヨンは弁護士で、フェミニズムや人権問題について声を上げています。

◎李光洙(イ・グァンス)『無情』
韓国近代文学の代表作。これが韓国ドラマみたいな設定で面白く読めるのでぜひ読んでみてほしい。啓蒙小説ではあるけれど、女性の自学自立、そして連帯が描かれるシスターフッド小説でもあります。

◎チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』
1970年代経済成長の陰で虐げられてきた人々の悲鳴を描いた、今なお読み継がれる韓国文学の伝説的な名作。現代の作家たちがイシューとして扱う問題の根源がここにあると思います。世界は残酷なのに、なぜ美しいのか。

◎チョン・セラン『アンダー、サンダー、テンダー』
長らくジャンル小説を書いていたチョン・セランが初めて書いた純文学は、30代になった人間の心を痛いほどにえぐる青春小説の傑作。同時に韓国の地方都市の風景、音楽、映画を記録した愛おしい郊外小説にもなっています。

◎ペク・スリン『静かな事件』
どうしてペク・スリンは名前もつけずに葬った感覚を、こうもあざやかに描き出すことができるのだろう?くらもちふさこや岩舘真理子など往年の少女漫画を思わせる味わいで、現実の生々しい裂け目を描き出す小説です。

◎クォン・ヨソン『きょうの肴なに食べよう?』
無類の愛酒家である『春の宵』の作者クォン・ヨソンが筆を執った食エッセイ。韓国の食材と調理法を興味深く読めるし、何よりも誰とどうやってそれを食べたのかに想いを馳せずにいられない名エッセイです。

◎キム・ハナ、ファン・ソヌ『女ふたり、暮らしています』
電子書籍もあるけど、断然紙がおすすめ!女2人が1つの家を買う…それだけの話なのに、新しい家族のあり方、人生の楽しみ方、何かにチャレンジすることはすべてフェミニズムなんだと気づく傑作エッセイです。

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