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『THEATER 010』とイマーシブシアター

福岡に新しくできた『THEATER 010』に2022年12月9日に行ってきました。(記事にするのが遅くなってすみません)
この施設ですが、食事をしながらイマーシブシアターを楽しめる、というのがアピールポイント。
地元福岡ということで、いつも東京や関西にイマーシブシアター遠征を余儀なくされる私にとっても興味津々の施設です。

ただ、実際に行ってみて、施設側が説明している「イマーシブシアター」とややズレがあると感じたのと、レビューもあまり見かけないので、どんな内容だったかできるだけ詳しく(まだ行ったことのない人の体験感は損なわない範囲で)書いてみたいと思います。
ただし、私が行ったのがもう3ヶ月くらい前なので、一部内容が変わっている可能性もあります(少なくとも演目は変わってないようですが)。そこはご容赦ください。
また、参加当日の室内は一切の写真撮影禁止だったので(最近は少し緩くなったという噂も聞きましたが)、残念ながら説明の補足となるような写真もありませんので、ごめんなさいです。


『THEATER 010』のショウ概要

『THEATER 010』は基本的に食事をしながらショウを見る形式の施設です。ショウとショウの間はDJがずっと音楽を流しているので、クラブ風でもあります。
事前に予約(2名以上)しますが、入場時間は営業中であれば15分単位で決められますので、ほぼ自由ですね。ただし、営業時間内であっても深夜遅くからはショウがありませんので、ショウの終了時間を確認した上で入場時間を決めましょう。滞在可能時間は最大2時間半です。

中に入ると普通にメニューが用意されて、食事やお酒を頼む形になります。なので、入場料のようなものはなく、席のチャージ代+自由に頼む料理やお酒が必要な料金となります。(食事がセットになったコースもあります)

客層はみごとにバラバラでした。スーツを着たサラリーマン風の集団、若い女性のグループ、この施設や出演者に縁のある人っぽい人たち、若い女性を何人か連れたおじさん etc.
開業したばかりの金曜夜ということもあってか、私のいた2Fは常にほぼ満席でした。

私が滞在した2時間の間に4つのショウが行われました。ただ、間隔はけっこうバラバラで、最初と次のショウは40分以上空きましたが、次は20分くらいで行われるみたいな状態で間隔に決まりはないようでした。滞在時間が2時間半ということと、それなりに間隔があるということを考えると、MAXでも1回で見ることのできるショウは5つくらいかなと思います。

上で書いたようにショウとショウの間にもDJが曲をかけているので、いつも音が流れている感じで、それなりにうるさいです。食事とお酒を楽しみながら終わったショウの感想をゆったりと語り合うとかできるかなと思っていましたが、そういうのには向かなさそうです。

ショウは以前Twitterで「生で見るEschatonみたいだった」と書きましたがまさにそんな感じ。
『Eschaton』って何?という方は山肩さんのnoteをどうぞ。

さまざまな演目が、ステージだったり席の間の演台だったりフロアだったりで繰り広げられます。福岡では絶対にお目にかかれないだろうなと思える内容のものも多く、私は楽しめました。

『Eschaton』みたいだと言っても、別々の部屋に行けたり、だんだん部屋が増えたり、謎の部屋が現れたりするわけではありません。 あくまでもショウの内容が『Eschaton』ぽかったということですね。

ただ、個々のショウやショウ全体で何か物語があるということは、私の観た範囲ではなかったです。
全体的なテーマやモチーフはありそうですが、それも前面には出ていない感じです。(少なくとも私はわかりませんでした)
また、参加者が能動的に行動したり働きかけたりする要素も自分が観た範囲ではありませんでした。
ステージに引き上げられたり、演者がフロアに降りてきて話しかけたりとかはありますが、まあ普通のショウとかでもある範囲かなと。

我々はA席テーブル席だったのですが、ショウを見る分にはまったく問題なかったです。そこまで広いフロアではないので、舞台に十分近い距離感です。ただ、A席は横並びなので3人以上だとボックス型のS席の方がよい気がします。
あとS席のど真ん中に演台の1つがあるのでゼロ距離感を楽しめたり、ショウが終わったあと演者がやって話をしたり、クロージングで舞台に引っ張り出されたりといった体験感はあります。

イマーシブシアターの定義との齟齬

ここまで書いたように『THEATER 010』は、回遊型演劇のようなイマーシブシアターではありません。
イマーシブシアターという言葉が指す範囲は海外でもかなり広がってきているので、その言葉を使うこと自体はまあ自由かなと思うのですが、気になるのは『THEATER 010』側がプレスリリースの中でイマーシブシアターとは何かを説明していて、それが『THEATER 010』のショウとけっこう乖離があるということです。

プレスリリースではイマーシブシアターについて

観客が客席に座り、ステージ上の演者を鑑賞する」伝統的な演劇スタイルを、「観客が自ら行動し、演者と同じ空間に同居しながら物語の一部として作品に参加する」形式へと転換し、綿密な空間設計や五感を刺激する演出を通じて、観客を物語の世界に深く没入させることを特徴とします。

と書いています。
しかしながら、ここまで書いてきたように『THEATER 010』のショウは、観客が自ら行動する要素もありませんし、物語の一部として作品に参加する要素もありません。

これの何が良くないかというと、プレスリリースを元にいろんな媒体が
『THEATER 010』の紹介記事を書いているのですが、明らかに誤解しかねない記事になっているということなんですね。
例えば、この記事はおそらくプレスリリースを元に書かれており、シンプルにまとまった良い記事だと思うのですが、もしこの記事を読んで行こうと思った人は実際のショウとの落差に戸惑うと思います。

演出を担当しているOTBAの公式サイトでも、自分たちの手掛けるものを「VARIETY THEATRE」とか「IMVERSIVE DINING」といった言葉で表現していて、イマーシブシアターという言葉は見つけられなかったので、『THEATER 010』のショウについても、「イマーシブショウ」とか「イマーシブダイニング」とか言った方がイメージに近いのではないかなあと思います。

結論としては『Punchdrunk』とか『DAZZLE』とか『ego:pression』とか『泊まれる演劇』のようなイマーシブシアターを期待すると肩透かしを食らうかと思います。他方で、おいしい食事とお酒を堪能しつつイマーシブなショウを楽しむ、という方向なら十分に楽しめると思います。

そもそも福岡はあの『劇団四季』すら観客不足で常設劇場から撤退するくらい、ショウビジネスについては厳しい土地柄です。そんな中で『THEATER 010』がこのような挑戦をしてきたのはとても素晴らしいと思います。
なので、そういったチャレンジが「イマーシブシアター」という言葉によって掛け違いになるのはとてももったいないなと思いました。次の演目に変わるタイミングでもいいので、アピールポイントを変えてみてはと思う次第です。

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