見出し画像

音声AR『博多流』は残念まち歩きコンテンツだった

今日、前から気になっていた音声AR街歩きコンテンツ『博多流~はかたながれ~』を遊んできたのですが、音声ドラマ部分の内容以前に問題点が多々あり、思わず以下のようにTwitterでつぶやいてしまいました。

このままだと単なる悪口になってしまうので、『博多流』の何が良くないのかの話をしたいと思います。
『博多流』だけの問題と考えず、周遊にエンタメ要素を入れたコンテンツで同じようなミスを起こさないための参考になればと思います。

企画意図は良いと思う

『博多流』は一言でいうと、スマホのGPS機能を使って、博多の由緒ある場所を訪れることで音声ドラマが進んでいくエンタメ要素の入った周遊コンテンツです。スマホアプリ「SARF」の1コンテンツとして提供されています。

コンテンツの詳しい内容は、以下の2つのリンクを読んでいただければ分かると思います。

まず、音声ARを使って観光を促進しようとする試みそのものはとても良いと思います。
音声だったらいちいち歩きスマホをしなくても、その場所に来た所でGPSが判断して適切な音声を流すことができます。
また、その場所に合ったドラマを流せれば、時代を飛び越してそこにいたような歴史的な体験感を得ることもできます。

また、福岡はそもそも観光がショッピングに極端に偏っている街です。街としての歴史はそうとう古いのに、知られていない場所も多く、そういう所にはなかなか観光客も来ません。
そこに音声ARとドラマを組み合わせることで興味を引いてもらおうというアプローチはいいと思います。

無駄に重なるルートの謎

で、そのルートがこれになります
(後で出てくるスマホの画面ではプロローグの博多駅が0番スタートなので番号が1つずれていますがルートは同じです)

博多駅を起点に、祇園のあたりから大きく左周りするルートですが、1周ではなく、なぜか20番のゴール地点まで、約1周半くらいのルートになっています。

つまり、一度歩いたエリアに後半また来なければならない場所があるということです。
わざわざこのような面倒なルートにした以上は、ルートとしての意味があると普通は考えると思います。すなわち、その場所にちなんだ音声ドラマが展開されるために、その都合で順番が決まっているのだと。

……場所にちなんだドラマ、一切ありませんでしたw
いや、途中でリタイアしたので、ひょっとしたらこのあとどこかではあるのかもしれませんが、6番までの時点では少なくとも1つもありませんでした。

その場所をなぜ単なるトリガーにするのか

以前プレイして「その場としての意味がなかったのが残念」とTwitterで言った『大正浪漫』は、まだ全国で同じシナリオを使っているからという諦めがありました。

しかし、『博多流』は完全に博多オリジナル。このために書き起こされたシナリオです。そのシナリオで、由緒ある場所が、その場所とは何の関係もないドラマのトリガにしか使われないとは。

もちろん、その場所に合わせてシナリオを書くのは大変です。
石川も10年以上昔に『福ぶら』という、テーマに沿って福岡の街を歩きながら、その場所にちなんだ小説が展開されるというスマホアプリを手がけて苦労したので、その大変さはある程度分かっているつもりです。
(↓古いサイトで更新していないため、表示が崩れたりリンクが切れていたりしますが、参考まで)

しかし、『博多流』はそれを考慮してもよく分からない部分があるのです。たとえば5番(下のアプリ画面では4番)の場所は福岡の老舗商店街「川端通商店街」です。
そして、画像にあるように、ここでうどんの話が始まります。

ところで、博多にはうどん発祥の地の碑が承天寺にあります。
(うどんの発祥はどこかの議論はひとまず置いておきますw)
承天寺が『博多流』に登場しないならまだ分かるのですが、なんと承天寺もちゃんとドラマのルートに入っているのです。(地図の15番)
なのに、なぜか承天寺を使わずに川端通商店街でうどんの話をする。

当然このポイントの近くに有名な老舗うどん屋があるなどということもなく、一番近いうどん屋は福岡で最大級の大衆うどんチェーン店「ウエスト」です(笑)
せめて、GPSの中心点をもう少しキャナルシティ寄りのポイントにすれば、最寄りのうどん屋は明治から続く老舗「かろのうろん」になって、少しは繋がりが出たのに!(ローカルネタすみませんです)

さらに、その音声ドラマはGPSのエリアから一歩でも外れると、再生が止まります!
つまり、ドラマを聞きながら次の場所に向かうこともできず、プレイヤーはドラマとまったく関係のない場所に、ドラマを聞き終えるためだけに留まっておく必要があるのです。

観光情報のまったくないコンテンツ画面

そして、観光アプリとして致命的ではないかと思うのは、その場所が何なのか、『博多流』をプレイしている時には一切表示されないということです。

この画像は2番目(スマホ画面では1番)のチェックポイント「出来町公園」(九州鉄道発祥の地の碑がある公園)ですが、歴史的な由来どころか、九州鉄道発祥の地の碑や出来町公園という名前すら出てきません。物語の情報がすべてです。
せっかく歴史的な場所に足を運んでも、その解説がないのでは、なぜここに観光案内されたのかすら分からない。

たとえば出来町公園はぱっと見、普通の公園にしか見えないので、九州鉄道発祥の地の碑がここにあるということを教えてもらわなかったら、その碑を見落としてしまう可能性だって十分にあるのです。
この時点で観光支援アプリとしてはよろしくない。

ただ、アプリの中から『博多流』ではなく通常の観光案内のルートを選ぶと、そちらで確認することはできます。
が、そのためにはいちいち『博多流』を終了しなければなりません。同じ情報を『博多流』に載せるか、飛べるようなリンクを貼ればいいだけのように思えますが、なぜこのような仕様になっているのかよくわかりません。

「SARF」内の通常観光案内コンテンツ「博多寺社めぐり」より

物語体験として致命的な仕様

そして、ドラマの続きを楽しみに次の場所に向かうという音声AR『博多流』を台無しにする致命的な仕様があります。

一部のルートを切り出しました(スマホ画面なので番号が最初の地図と1つずれています)
最初にルートを1周半ほどする必要があると言いました。この画像でいうと、3から4に向かう途中に16~19(最終ポイント)の間を抜けていくことになります。

最初に言ったように音声ARの良い所は、GPSによってその場所に行くと、自動的に音声を流してくれることです。
その親切設計はもちろん『博多流』でも踏襲しています。そう、その場所に行くと必ずその場所のドラマを流してくれるのです。たとえ、まだプレイヤーの聞いたドラマがそこまで進行していなくても!

どうやら、『博多流』では、どこまでドラマを聞いているかといったフラグを一切管理していないようです(爆)
おかげで、いきなりラスト付近の話をネタバレ的に聞く事ができましたw
わーい、あのキャラがラス前で××してしまうのを教えてもらったよ!😢

まあ、『博多流』はアプリ「SARF」の1コンテンツなので、「SARF」がフラグ管理的な機能を持っていないのかもしれません。
であれば、ルートが重ならないように工夫すれば良いだけです。上で書いたように、どうせシナリオ的にその場所でなければならない意味はないのですから。
(そもそも、普通に実装テストすればルートが重なっているとこういった問題が起きることはことは分かると思うのですが……)

もう少しの工夫で最悪は避けられたのに……

最初に書いたように音声ARを活かしたドラマを作ることによって、観光の手助けをしようという切り口は悪くないと思いますし、周遊エンタメコンテンツや音声ARの可能性についてはとても期待しています。
また、ドラマ内容については序盤でリタイアしてしまったので判断できませんが、掴みはけっこういい感じでした。

しかし、本来求められているはずの観光まち歩き支援のコンテンツとしては、ここまで書いたように、さすがに好みとか以前のレベルでひどい。

  • 長い距離を歩かせるのに、その場所に来る意味のない物語

  • その場所の名称や歴史的価値を一切説明しない解説画面

  • エリアを1歩でも外れたら音声が止まるGPS処理

  • その場所に来ると順番関係なくドラマが始まるネタバレ仕様&そういうことが起きるルート選定

私は地元の人間なので、これはダメだと思った時点でさっさと離脱して帰宅しましたが、もし自分が県外から来てドラマを楽しみながら観光することを期待してこの内容だったら、博多の魅力を伝えるどころか逆効果だと思います。

せめて、多少なりとも場所に合わせたシナリオ展開と、ネタバレが起きないようなルート選定だけでもやっておけば、ここまで悲惨なことにはならなかったと思うだけに残念です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?