見出し画像

アースとグランドとオカルトについて

 アースは、感電事故を防止するために地面から出ている電極です。

 家庭用電気は、電柱のトランスから出た2本の100V線のうち、片方の1本(3本の200V線の場合、中点の1本)がトランスの直下地面に繋がっています。いっぽう、洗濯機や電子レンジ専用のコンセントには、住宅の直下地面から出ているアース電極がついていて、洗濯機や電子レンジの筐体から緑色の電線を繋げるようになっています。
 洗濯機や電子レンジが漏電すると、筐体に漏れた電流が緑色の電線を通り、コンセントのアース電極を経由して住宅の直下地面に流れます。水分を含む土は電気を通すので、電流は大地を流れ、トランスの直下地面の線から電柱のトランスに戻ります。アースに繋いでいれば、漏電中に洗濯機や電子レンジに触れても、人体のほうがアース電極より対地抵抗値が高いため感電しません。同時に、屋内配線の戻り電流が激減することで漏電遮断器が反応し、電気をカットします。

 グランドは、
①電子機器の内部回路で、不平衡信号の基準電圧点(または線)。
②電子機器の内部回路で、静電誘導ノイズの反射電位面。
のふた通りの意味があります。

 ①について、複数の電子機器を繋ぐ場合、通常はお互いの基準電圧点(線)=グランドを繋いで同一レベルにする必要があります。ほとんどの機器はケーブルで繋ぐと、自動的にグランドが繋がるように設計されています。障害が発生してグランドの繋がりが不安定になると、基準電圧が不定となり、グランド浮きと呼ばれる大きなノイズが発生します。

 ②について、電子機器の筐体は内部回路の反射電位面=グランドに繋ぐと、内部回路と低インピーダンスを形成しバリアとなり、外部から来る静電誘導ノイズを反射します。また、一般的にケーブルはシールドされていますが、これも適切な設計により反射電位面=グランドに繋がってバリアとなり静電誘導ノイズを反射します。加えて、筐体の端から端までの抵抗値が低く、かつ基準電圧点(線)・反射電位面・筐体間のインピーダンスが低いほど、グランド電位自体も安定します。
 よく混同されるのですが、“電磁誘導ノイズ”に対抗する磁気シールドやツイストケーブルは、同時に静電誘導ノイズに対抗する必要がなければ、グランドに繋ぐ必要はありません。

 結果的に、グランドが関係するノイズ発生の問題①②が、たまたま同じトポロジーで解決するという、視覚的混乱が発生します。

  アースやグランドについて、さらに混乱する要因として、
 a)高電圧大電流を扱う電子機器は、感電事故防止のためアースに繋ぐ電線が出ている。
 b)家庭用電気由来のコモンモードノイズを除去する機器から、ノイズの帰線としてアースに繋ぐ電線が出ている。
 c)理由があって単独でシールドが機能しない電子機器は、他機器のグランドに繋ぐ電線が出ている。
 d)放送やレーダーなどの電波は、グランドに地面を利用する。
 e)自動車の電装系強化に、アースと似て非なる“アーシング”がある。
が挙げられます。

 a)は、オーディオではハイパワーアンプやミキサーが該当します。気をつけるべきこととして、複数の電子機器を感電事故防止のためアースに繋いだ場合、ケーブルで機器同士のグランドを繋ぐと、グランドループという現象で電磁誘導ノイズを誘発します。この場合は対策として一台のみアースするか、二台以上アースする場合は、フローティングという処理をしてケーブルを繋ぎます。

 b)は、電源用ノイズフィルタや電源用ノイズカットトランスが該当します。家庭用電気由来のコモンモードノイズはアースから発生するので、送電線とアース間のフィルタやシールドで除去します。

  c)は、オーディオではレコードプレーヤーが該当します。レコードプレーヤーのトーンアームは、シールドして静電誘導ノイズを反射する必要がありますが、対象がカートリッジの信号線なので、トーンアームのシールドを信号線のコールド側または信号を受ける機器のグランドに繋ぐ必要があります。しかし信号線のコールド側に繋いだ場合、ヘッドシェルを外す時にグランド浮きによってスパイクノイズが発生し、アンプやスピーカーを破損する可能性があるため、通常はトーンアームから引き出した電線を信号を受ける機器の筐体に繋ぎ、筐体経由でグランドに繋がることでシールドが機能します。

 d)は、そもそも電波による影響が大きいとわかっているなら、行政に相談すべきです。部屋ごとシールドし、地面にアースではなく多点グランドしてください。

 e)アーシングは、自動車の電装系(バッテリーのマイナス側)をボディに落とし、戻り電流を流しているボディアースを、迷走電流の影響やボディの抵抗による損失を避けるために電線化することです。ボディの抵抗値より電線の抵抗値が小さくないとアーシングの効果がないので、アーシング用電線は極太になります。これが、通常のアースやグランド用電線も太い方が良いという誤解を招いています。アーシングの電線には大電流が流れますが、通常のアースやグランド用電線は正常であれば全く電流が流れないので、細い電線で大丈夫です。

 アースとグランドの違いや役割について、オーディオ評論家ですら理解できていない方々がほとんどのため、適切な接続をせずに不毛なノイズとの戦いを続け、ついオカルトに手を出してしまい、みごと朽ち果ててしまう例が多いのが現実です。

 お気づきになったと思いますが、洗濯機や電子レンジのアース線は、電柱がある地面に繋がっていないと感電事故防止対策になりません。つまり、メタルラックや植木鉢の土に繋いだり、水道管が樹脂製の水道蛇口に繋いだり、プロパンガスのガス管に繋いでも全く意味がないのです。

 いっぽう、筐体やシールドを、静電誘導ノイズを反射するバリアとして機能させるためには、電子機器内部回路へのグランド接続が必須で、感電事故防止用のアースはインピーダンスを形成しないため機能しません。電磁誘導ノイズに至っては磁性体で漏れなく遮蔽し、ケーブルをツイストすればグランド接続すら必要ありません。アース接続で軽減できるノイズは、電源用ノイズカットトランスや電源用ノイズフィルタを使用したときのみ可能な“家庭用電気由来のコモンモードノイズ”だけです。

 つまり、ノイズを下げると称し、何のノイズを消したいのかよくわからない、最近跋扈している「仮想アース」(金属電池をぶら下げたアンテナ線)は、アースとしてもグランドとしても機能しないのです。

 もし筐体帯電が由来のノイズを取りたいなら、静電気抑制シールやイオナイザー・プラズマクラスターのほうが何千倍も効果あります。

 バカ高いくせにケチって、大容量平滑コンデンサによる非安定化電源を、トランジスタ回路の電源除去比が高いから大丈夫という謎理由で採用しているパワーアンプが、家庭用電気由来のノイズを全く除去できず、部屋の電気入れるだけでスピーカーがパチパチいう様な場合は、電源用ノイズフィルタでせいぜい頑張りましょう(電源がフィルタ回路でできている真空管シングルアンプのほうが音が良いのは当然ですし、今時のシリコンアンプはスイッチング電源のほうがノイズ少ないです)。

 いやいや「仮想アース」は効果あるよ、グランド電位が変わるよという場合、「相当にトンチキな接続をして筐体間に電流が流れている」か、「機器の設計がヘボで、①筐体とグランド間が高抵抗・高インピーダンスで浮いていたり、②グランドポイントが不適切で筐体の電位が電源リプルで揺れていたり、③筐体と回路のインピーダンスについて熟慮のない多点グランドで筐体に電流が流れていたり、④筐体内部のマイコンから筐体へノイズが盛大に放射されていたりして、グランドが機能していない」状況です。そんな状況なら、ヘボ機器の筐体と単体フォノイコライザのグランドを繋げば「仮想アース」など買うまでもなくグランド電位が安定し、静電誘導ノイズを反射し、シールドが機能します。

 仮想アースのアース理論はイカサマです。好意的に考えてもせいぜい静電シールドと同等です。しかし仮想アースをアンテナと考えると、
①電磁・静電に関わらず、誘導ノイズがノーマルモードで発生している場合、仮想アースが同じ誘導を拾い、グランド側にノイズを注入することによって擬似コモンモード化し、差動アンプで除去される。
②誘導ノイズがコモンモードで発生している場合、仮想アースが同じ誘導を拾い、グランド側にノイズを注入することによってコモンモードのバランスが崩れ、平均ノイズレベルが下がる。
という「毒をもって毒を制す」理論が考えられます。高い金払って、効くかどうかもわからない、そんな対症療法で良しとするなら何も申しません。

 結論として。
①グランド電位安定のため、アンプは小さく重いものを使う。
②パワー部に安定化電源を使用したアンプを使う。
③家庭用オーディオでアースを行う場合、パワーアンプのみ行う。
④グランドループは確実に切る。
⑤静電誘導を阻止するため、シールドがしっかりしたケーブルで確実に繋ぐ。
⑥レコードプレーヤーの黒い電線は、アンプまたはミキサーに必ず繋ぐ。
⑦電磁誘導を阻止する場合、磁性体で遮蔽またはケーブルをツイストする。
⑧家庭用電気のコモンモードノイズは、ノイズ除去機器からアースに戻す。
⑨帯電はイオナイザーやプラズマクラスターで除去する。

⑩仮想アースはイカサマ。理論としてしっくりくるのはノイズインジェクター。

以上です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?