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クレヨンしんちゃん『オラたちの恐竜日記』感想。クレしんオマージュのクレしん

総評

前半の恐竜のナナが家に来るまでの導入は十分に丁寧であり、シロとの親密さの深め方などが強調されている。ただしバブルの陰謀が露見し、展開が進み始める後半に関しては説明不足や脚本の思惑が透けて見えてクオリティを低く感じた。特に子供向けとして書いたようなシンプルな筋書きかつ特に構成もなくそれぞれの見せ場をただつなぎ合わせたような場面が多く、ギャグもなんとも言えずに場面の単調さが目立つ。
前半は80点、後半は40点というような感じでトータルでは60点くらいな印象でした。

タイトルの通り、クレしんオマージュをしているクレしんという感じで自分で名場面を生み出す気概を感じられなかった。大人帝国や戦国大合戦、ジャングルを思い起こされるところが多分に含まれているがそれはただ真似ただけ。クレしんの古参ファンってこういうの好きだろ?みたいな浅さが感じられる。

大人帝国の「ずるいぞ」もそうだが、本当にしんちゃんはそういうのだろうか?という疑問が残る。元の大人帝国のセリフでも死のうとする2人」に対して言うのではなく、バンバンジージャンプしようとしたことに対して言うのでそのような正道かつ道徳的な言葉をしんちゃんが言うのだろうかという思いもある。最近のしんちゃんはあまりにも道徳的になってきていて、ユメミーワールドのサキちゃんが風間くんに疑われた時に淡々と「かすかべ防衛隊だからしない」というように発言する。これも淡々と諭すようにいうだろうかという違和感を感じた。キャラが生きてるのではなく、言わせたいことを言わせているように感じてしまうことが増えてきている。今回はそういう場面が非常に目立った。

そして名場面を生み出す気概を感じられないということだが、実際に見たあとに印象的なシーンがほとんど残らなかった。例えば「ずるいぞ」(大人帝国)や逃げる時のケツだけ歩き(ジャングル)、最後の空を見上げて死んだナナを思い出す(大合戦)など主要なシーンがオマージュで構成されている。もちろんナナとビニールプールに入ったりそういう親睦を深める描写はあるのだが、今の主要シーンのようなインパクトに勝てていない。最後のナナの死も頑張りすぎて死んだというように若干ふわっとしている。本作で一番印象的なのはこの場面なのだが、そうなのであればちゃんと後日譚にその余韻があるべきだろう。大きな悲しみを共有したあとにみんなが幼稚園に行って「全部戻ってよかったね」って言うのはあまりにも淡白過ぎないか?名シーンは単体では生まれず、ちゃんとその前後のフリがあるものだが、本作はパッチワークのように出したい場面を繋げただけでそういうフリが雑だった。戦国大合戦であれば現代に帰り、しんちゃんが刀を金打して終わるという心に残ったことを示して終わる。

今回の恐竜というコンセプトは散々様々なコンテンツで擦られた内容だけに期待が大きかった。満を持してこのコンセプトが来たのだと思い、新しい方向性のクレヨンしんちゃんを期待して行った。だが中身はクレしんのオマージュとつまらないギャグ、あと説得力のない薄い悪役であった。脚本に言えるのなら「お前のクレヨンしんちゃんを見せてくれ!!オマージュに収まらないでくれ!何も新しいことがないんだ!!新しい一面を見せてくれ!!!」と叫びたい。

しんちゃん然

当然こういった長期の作品はしんちゃんの性格も変化し、社会環境も変換する。初期連載のグーパンが顔面に飛んでくる頃に比べれば今はしんちゃんらしくない。ただ映画で言えばある程度のしんちゃんらしさっていうものがある。しんちゃんは結構行動原理はシンプルで、皮肉は言わないし、大事なところは間違えず、あくまでおバカでシンプルな行動が結果的に深さを出して行く形だった。この精神性こそがおバカで難しいことを考えないしんちゃんであり、ここさえ変わらなければしんちゃんらしいと感じる。説教くさいしんちゃんっていうのは5歳児が説教するということだ。5歳児がそんな一般論で生きるかと言えばそんなことはなく、特にこのおバカであれば尚更だ。
例えば黄金のスパイでしんちゃんはヒロシにオナラを向けた。直情的でレモンちゃんを見捨てられなかった5歳児だ。このおバカだがちゃんと大事なものはわかり、シンプルな行動原理でまっすぐに動くのだ。そしてヒロシはこれを「俺はお前を止めた。お前は突っ走った。俺たちは本気でぶつかり合った。それでいいんだよ」と肯定する。子供は感情に従い、それを大人がちゃんと止める。この構図はケツだけ爆弾でも同様で、「シロも家族」と言ってしんちゃんは制止を振り切る。

別にゾウさんを出そうがゲンコツがあろうが尻を出そうがそんなのはおまけに過ぎない。キャラクターはそんなことじゃ死なない。そもそもこれらはあくまで「サービスショット」の部類であり、お色気みたいなもの。お色気がなくとも作品の面白さは変わらない。お色気のないシティハンターはそれはそれで面白いだろう?でもお色気があるとなお嬉しいということに変わりはない。

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