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バッテリー保護回路の製作(外形寸法32×50mm)

はじめに

ホビー用のバッテリーをロボットの電源として使っているチームから、割と頻度良く ”バッテリーが腫れた””充電できなくなった”  という話を聞きます。
バッテリーの種類にもよりますが500~1000回繰り返し充電できるにも関わらず、短命となる主な原因は過放電です。
ラジコンでは、バッテリーはスピードコントローラー(ESC)に接続されます。このスピードコントローラーにLDOが搭載されており、受信機に6Vを供給し、モータードライブと共に短絡保護、過電流保護、過放電保護を行います。

電動ラジコンカーの構造

ホビー用のバッテリーをロボットに転用する際にスピードコントローラーの役割を用意していない為に問題が発生しています。
そこで、ロボット用のLi-Fe6.6V / Ni-MH7.2V バッテリー保護回路を設計・製作することにしました。

保護回路の目的

保護回路の目的は危険の回避・低減です。
保護回路の仕様を策定するには、バッテリーを取り扱う上で起こり得る”危険”を明確化することが重要です。
今回は危険の明確化、保護回路の目的、仕様策定、保護回路の設計を行います。

最低限必要な知識

危険を正しく理解する上で最低限必要な知識について "おさらい" をします。
・燃焼の三要素
物が燃えるためには "可燃物""酸素""熱" の三つの条件が必要です。
・消火の三原則
燃焼の三要素のうち、どれか1つでも取り除くことができれば燃焼を止めることができます。
火災防止で、しばしば耳にする話ですので、一般常識ですね。

Li-PoLi-Fe電解質が可燃物内部短絡による熱の発生があり得ますが、熱暴走による酸素の発生はLi-Poのみに存在します。
熱暴走とは急激な温度上昇と酸素発生を伴う現象で、燃焼の三要素を揃えてしまう、とても危険なトラブルです。
Li-Feが燃えないリチウムイオンバッテリーと言われる理由は”酸素の発生がない”からです。

危険性の明確化

リチウムイオンバッテリーの危険性は状況によって異り、安全対策は以下の状態について、それぞれ存在します。
・充電
・放電
・輸送、保管
競技大会で発生する火災は競技中(放電)、パドックでの充電によります。
輸送(IATA Guidelines for Shipping Lithium Batteries by Air)でLi-PoLiFeの取り扱いの違いがないので、"危険性は同じ"と恣意的な判断をしている大会があると噂に聞きますが、Li-PoとLi-Feの危険性を区別したくない特別な理由があるのでしょうか?そもそも輸送の話を混ぜるのはナンセンスですが・・・
輸送の話ついでに、保管についてもLi-Poには厳しい制限があります。
バッテリー交換可能な機器のバッテリーパックの取扱説明書には必ず”高温になった 車の中 や炎天下など、60℃以上になるところで充電したり、放置しない”の文言があります。
Li-Poが熱暴走を起こす温度150℃を臨界温度と言いますが、この温度以下でも60℃を超えれば熱暴走を起こす可能性があります。前出の文言は、この危険性に対する警告です。
電池はエネルギーをコンパクトに詰め込んている性質上、皆さんの馴染み深い乾電池であっても漏液、発熱、破裂の危険性はあります。
全ての電池に危険性は存在し、安全に留意する必要がありますが、Li-Poには特有の発火、爆発の危険性があります。以下比較表を御参照下さい。

今回の保護回路では輸送、保管は対象外です。充電機能は無いので、放電時の保護をおこないます。

保護回路の目的

保護回路の目的は大別すると以下の3つです。
・過充電時の充電停止
・過放電時の放電停止
・短絡等の大電流放電の停止
今回の保護回路では、放電時の保護として短絡保護過放電保護を行います。

仕様策定

・短絡保護
Li-Poバッテリーは一瞬たりとも内部温度が150℃を超える事は許されません。この為、過電流保護回路は極めて短い時間で反応する必要があり、専用ICを用いて保護回路を設計する必要があります。※ヒューズでの保護は不可
熱暴走を起こさないLi-Feバッテリーは短絡によって発生するジュール熱による配線や部品の発火を防げれば良い事になります。
これはヒューズによる短絡保護でOKです。今回の保護回路では自動車用の低背ブレードヒューズを用いて短絡保護をおこないます。

・過放電保護
Li-Po、Li-Fe共に過放電によって充電池としての機能を失います。
バッテリーの内部構造は完全に均質ではなく、極小さな電圧の不均一は存在します。この為に過放電初期ではバッテリー内部に局所的な電池機能の失活が生じます。
充電器は電圧や内部インピーダンスの測定にて電池の異常検出を行って、異常時には充電を中止しますが、この様な局所的失活を検知できなかった場合には、充電が開始され "充電電流の2乗×失活部の抵抗=電力" によるジュール熱で局所的温度上昇が発生し、熱暴走が始まる場合があります。
Li-Poメーカーのデータシートが充電電流を0.7Cに規定しているのは、ジュール熱を1.0C充電時の半分に低減する安全対策です。
ちなみに Li-Fe(タミヤ LF1100-6.6V) は 4.0C の急速充電が可能です。
熱暴走のないLi-Feの場合はバッテリーの失活防止ができればOKです。
基板の仕様は以下の通りです。
・VHコネクタ(バッテリー接続)低背ブレードヒューズによる短絡保護
・Li-Fe6.6V / Ni-MH7.2Vバッテリー兼用過放電保護回路
・電源ON-OFFスイッチ(電源供給コネクタへの給電はバッテリー電圧確認後FETにてON)
・ESC等への電源供給コネクタ (XHコネクタ2p × 6)

保護回路の設計

・短絡保護(ヒューズ選定)
Li-Feバッテリーの短絡電流を放電レート(バースト)を用いて求めます。
近藤科学ROBO Power Cell F2-850の放電レート(バースト)は40Cですので、850mA×40C=34A となり、瞬間的な高負荷に対しての最大許容電流を意味します。
短絡時には34A以上の大電流が流れますが、短絡電流による配線や部品の温度上昇が発火に至らない時間に回路を遮断するのがヒューズの役割です。
ヒューズの溶断時間(回路を遮断するまでの時間)を0.1秒にします。
今回使用する "低背ブレードヒューズ" のテータシートの34A、0.1秒に線(水色)を引きます。
この交点(緑色)と各ヒューズの特性曲線(橙色)が交わるか、0.1秒の線上かつ、34Aより左側のヒューズを選択します。
この例では10Aヒューズとなります。

・過放電保護
近藤科学ROBO Power Cell F2-850の過放電保護電圧は ”2セル5.8V” の記述があります。
待機状態で放置などの負荷の軽い時に、5.8Vを下回って過放電保護が作動した場合は正しい残量となりますが、負荷の重い(放電電流が大きい)時の放電電圧はバッテリーの内部抵抗によって低値化するので、残量が充分にあるのに過放電保護が作動する誤動作が発生します。
この様に、バッテリーは放電電流によって放電電圧が変化するので電流と電圧を観測するのがベストですが、電流測定は回路規模が大きくプリント基板の面積がある程度必要となります。
次善の策として、DCモーターを使うロボットの負荷特性にあった過放電電圧の検知方法を考えます。
大電流が発生する場面は、ロボットの急加速、反転などモーターが停動電流に近づく時です。
これは、瞬間的で連続することはありません。
そこで、連続して検知している場合にカウンタ加算、一度でも非検知ならカウンタクリアとするプログラムで、"カウンタ値=連続検知時間" とし、過放電電圧とのANDで判断します。
これに加えて、充電が不十分なバッテリーが接続されることを想定して6.3V以下の場合に起動しない判断をします。

・Ni-MH7.2Vバッテリーとの兼用
電動工具や電動ラジコンカーに使用されているNi-MHセルは高出力型Ni-MHです。高出力型Ni-MHの終止電圧は0.6Vです。※汎用型Ni-MHは1.0V

高出力型Ni-MH放電特性

ただし、この様にデータシートがある場合は良いのですが、ラジコン用のNi-MHバッテリーの取扱説明書に放電特性が記載されている事は殆どありません。
そこで、電動ラジコンカー用スピードコントローラーの過放電検出電圧1セル当たり0.9Vを採用します
6セル(7.2V)バッテリーの終止電圧は 6セル×0.9V=5.4V となります。
Li-Fe6.6Vバッテリーの終止電圧を5.8Vとしていますので、Ni-MH7.2Vバッテリーを兼用する場合、Ni-MH "1セル換算" の終止電圧は 5.8V÷6セル≒0.97V となります。
"高出力型Ni-MH放電特性" の放電電流10Aの放電曲線(橙色)を見て頂くと0.97Vで過放電保護回路が作動しても殆ど残容量が無いことが分かります。つまり、終止電圧5.8VはLi-Fe6.6V、Ni-MH7.2V の2種類のバッテリーで実用上共用可能です。

Li-Fe6.6V、Ni-MH7.2Vは電動ラジコンカーの標準的バッテリーですので、非常に多くのモーターが製品化されています。
1/27~1/16スケールのラジコンカー用モーターはロボットにも使い勝手の良いサイズです。
1/16スケール用は1個のモーターで1kg弱の車重を20km/h以上で走行させるパワーがありますので、2~4個使用するロボットには完全にオーバーパワーとなります。モーターの4パラメータを確認・出力計算して慎重に選びましょう。

・回路図
PIC12F1572を用いて電源供給用コネクタ(XHコネクタ2p×6)とバッテリーの接続をON/OFFします。
電圧監視を抵抗による分圧を経てマイコンのA/Dコンバータで監視します。
分圧を行う抵抗の精度がバッテリー監視電圧の精度を決定しますので、公差の小さい抵抗を使用する必要がありますが、抵抗値のバラツキは製造時の抵抗体の調合や厚みに起因するので、集合抵抗の場合は自身の抵抗間は比較的揃ってます。
これを利用して一つの集合抵抗で分圧を完結することで、精度を保つ工夫を行ってます。
この部分を複数のチップ抵抗で構成すると、実装不良や使用中のストレスによるクラック時にバッテリーの電圧が直接マイコンのA/Dポートに印加されたり、過放電保護が正常に機能しない等のトラブルに陥ります。
リード品の集合抵抗を用いる事で、これらのトラブルを軽減する目的も担ってます。※Ni-MH7.2バッテリーより電圧の高いバッテリーを接続するとマイコンのA/Dポートの耐圧を超えて故障しますので、Li-Fe6.6V、Ni-MH7.2V以外は絶対に使わないで下さい。

回路図
3Dモデル 表面
3Dモデル 裏面

電源スイッチをONにすると3.3V LDOがマイコンに電源供給し、バッテリーの電圧を判断の上、FETをONにして電源供給用コネクタに給電します。その後、電圧監視を繰り返し行い過放電電圧を検出すると電源供給用コネクタへの給電が切断されます。切断後も、マイコンがバッテリーを使用しますので、過放電保護が作動したら直ちに電源スイッチをOFFにて下さい。・プログラムMPLAB X v6.15にて開発、MCCを使用したので以下のソースリストのみでは動作しません。

LEDは正常なバッテリーが接続された場合点灯、充電不足のバッテリーが接続された場合0.5秒間隔で点滅、過放電保護が作動した場合0.1間隔で点滅します。

出典:
yokomo OFFICIAL BLOG 電動ラジコンカーとは?
KONDO ROBO Power Cell F2/F3-850/1450/2100(LI-Fe) Instruction Manual
太平洋精工 自動車用ヒューズデータシート
リフェバッテリーの電圧チェックについて | 近藤科学 (kondo-robot.com)
FDK株式会社 ニッケル水素電池 高出力型データシート

※返金不可設定になっておりますので、ご注意ください。
製作を目的に記事を御購入される場合は、PIC12F1572にプログラムを書き込む準備を整えて下さい。この作業ができないと保護回路は動作しません!
大電流を取り扱うバターンの為、サーマルOFFにてパターン設計しており、100W以上の半田ごてや自動温度調節付きの半田ごてを使用しないと半田付けできない箇所がありあす。
有料部分では、以下のファイルをダウンロードして頂けます。
・Eagle 9xの回路図、PCBのファイル
 BMS_FET_6CH-3 v7.sch、BMS_FET_6CH-3 v16.brd

・Fusion360の回路図、PCB、3Dモデルのプロジェクトファイル
 BMS_FET_6CH-3 v17.f3z

・基板発注用ガーバーデータ
    BMS_FET_6CH-3 v16_2023-12-12.zip

・パーツリスト(秋月電子で全て部品調達できるように設計してますので通販コード欄を設けてあります)※低背ブレードヒューズはリストに含まれていません!自身のロボットのバッテリーや負荷に合わせて選定して下さい。
 BMS_FET_6CH.xlsx

・PIC12F1572用 過放電保護プログラム(MPLAB X v6.15 MPLABXProjects)
    PIC12F1572_BMS_500k_02.X.zip

・PIC12F1572書込み用 HEXファイル (MPLAB IPE v6.15 & Pickit3 にて書込み確認済み)
 PIC12F1572_BMS_500k_02.X.production.hex

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