ワインコラム38:官能的なもの
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Ryoko☆Sakata
食物の中には、妖しいと言っても良いほどの官能的な味を持つものが、有るような気がする。
果物でたとえれば分かり易いと思う。私の勝手な種分けによると、マンゴー、パパイヤ、桃、メロンなどがそれに当たる。
私の好きな果物でもある。
その共通点を考えた時、3つの条件に行き着いた。それは、1.甘いこと、2.食感が柔らかいこと、3.風味に、感覚に訴えてくる官能があること。これらの官能的な果物を食べている時の私は、幸福感に満たされているのだ。
肉や魚に関しては、1つ目の条件が、「甘い脂があること」になる。
やはり脂がある程度無ければ、官能的とは言えない。とは言え年齢的に、鮪のトロやサシの入ったA5ランクの肉などは苦手になってきた。私の舌が高級な食材に対応しないのか、焼き鯖のお腹のところに官能を覚えたこともある。
角煮のあのトロトロした脂のところも・・・。
やはり脂が官能的な味を作りだしている。
もちろん官能的なものは食物だけに限ったことではない。
以前、3、40本の深紅の薔薇を有刺鉄線で巻いて、立たせてある写真を見て官能を覚えた。また、ローラ・フィジーの「Bewitched」を聴けば、官能で背中がザワザワする。
ワインではどうだろう。
白ワインでは、ソーテルヌの上物、コルトン・シャルルマーニュ、ピュリニー・モンラッシェなどが官能的と言える。
赤ワインで言えば、ジュヴレ・シャンベルタン、シャンボール・ミュジニー、ヴォーヌ・ロマネなどのニュイのワインが当てはまるような気がする。 もちろん良い造り手、良い畑を選ぶことは言うまでもない。
その中でもジュヴレ・シャンベルタンは独特のものがある。
いわゆるアニマル臭だ。ムスクとも称されるその香りは、飲む人を引きつけてやまない強い個性がある。ジュヴレ・シャンベルタンのワインには、ムンムンするアニマル臭(ムスク)があるのだ。
ムスクとは、ヒマラヤなどの高地に生息する麝香鹿(ジャコウジカ)が発する香りと言われている。
中村祥二著の『調香師の手帖』(朝日文庫)によると、「この香りは雄の麝香鹿が、発情期に雌を引き付けるためと、縄張りのにおいづけのために発するものである」とある。
ムスクとは、異性を引き付けるフェロモン系の香りなのだ。
ワインに於いては、ムスクの要素と他の香りの要素が合成されて官能的な香りとなる。
「私は雄鹿のフェロモンに引き付けられたのか?」と割り切れない思いをしたのだが、ムスク系の香水に男達が引き寄せられていることから、私がそうなることも至極当然のことと思われる。
ムスクの要素が強いジュヴレ・シャンベルタンは、それによってより官能的になっている気がする。
ジュヴレ・シャンベルタンの官能の向こうには雄鹿が潜んでいたのだ。
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