ゲームデザイナーインタビュー:Jamey Stegmaierその2

Stonemaier Gamesの『大鎌戦役/Scythe』の日本語版『サイズ - 大鎌戦役 -』(アークライト)の出版前にデザイナーに気になっていたことを聞いてみようの記事。「『大鎌戦役』はこんなゲーム」「ルールの概要説明」といった記事は既に存在しているので、ここでは少し違う角度で、デザイナー自身のことやデザイン過程について聞いてみました。なので『大鎌戦役』についてまったく知らない、という方向けの記事ではないかもしれませんがご了承ください。

Q:日本との繋がりを教えてください。
A:7年生(中学1年生に相当)から日本語を学び始めました。私の家族は日本からの交換留学生のホストになっていて、高校生の時、2回夏を広島で過ごして勉強しました。大学でも日本語の勉強を続けて、3回生を京都で過ごしました。日本は私にとって本当に第二の故郷のようなもので、懐かしく思っています。

Q:ボードゲーム(特にユーロゲーム)に触れたのはいつからですか?
A:子供の頃からたくさんのボードゲームを遊んできましたが、本格的にボードゲームを遊ぶようになったのは20代になってカタン、アグリコラなどに触れてからですね。

Q:ボードゲームデザイナーになったのはなぜですか?
A:子供の頃、趣味でたくさんのゲームをデザインしました。大人になってからもう一度やってみようと思いましたが、Kickstarterのプラットフォームを使ってみたかった、というのが大きな理由です。

Q:なぜ自分でボードゲームを出版しようと思ったのですか?
A:私はゲームをデザインするのが好きですし、同時にビジネスを行う上で発生するいろいろな問題(マーケティング、カスタマーサービス、生産、物流、価格に関する経済、セールス、プロジェクトマネージメントなどなど)に取り組むことも好きだからです。
(注:Jameyは大学卒業後、ビジネスマネージメント関係の仕事をしていたと聞いています)

Q:好きなゲーム、影響を受けたゲームを教えて下さい。
A:『テラ・ミスティカ/Terra Mystica』や『ノイシュヴァンシュタイン城/Castles of Mad King Ludwig』、『T.I.M.E ストーリーズ/TIME Stories』などが好きですね。私がデザインしたゲームはそれぞれ他のゲームの影響を受けています。『ワイナリーの四季/Viticulture』は『フレスコ/Fresco』の影響を強く受けていますし、『ユーフォリア/Euphoria』は『エイリアン・フロンティア/Alien Frontiers』の影響を強く受けています。『大鎌戦役/Scythe』は『テラ・ミスティカ/Terra Mystica』と『ケメット/Kemet』に影響されていますし、『チャーターストーン/Charterstone』は他のレガシーゲームと『祈り、働け/Ora et Labora』と『ウォーターディープの支配者たち/Lords of Waterdeep』に影響されています。

Q:日本発のゲームも遊びますか?
A:もちろん!日本のデザイナーのゲームで特に好きなのは『花見小路』と『エセ芸術家ニューヨークへ行く』です。

Q:『大鎌戦役/Scythe』はアートワークが先にあってその後にゲームがデザインされたそうですが、どのようにデザインを始めて、デベロップを進めたのですか?
A:その通りです。Jakub RozalskiのアートワークをKotakuのサイトで見つけて、この世界を舞台にしたゲームを作りたいと思ったのです。ゲームの“雰囲気”やJakubが作り出した架空の1920年代の世界をゲームに落とし込むにはどうすべきかについて、たくさんJakubと話をしました。それ以外は普通のゲームデザインと変わりません。数多くのブレインストーミング、プロトタイプ作製、知り合いとのプレイテスト、第三者によるプレイテスト、などなど。

Q:あなたがデザインした『ワイナリーの四季/Viticulture』や『ユーフォリア/Euphora』もテーマ性が強いように感じますが、これらはテーマとメカニズムのどちらからデザインしたのですか?
A:私の場合、初期のブレインストームではテーマとメカニズムの両方を扱いますし、両者は常に相互に関係しています。例えば、なにか面白いメカニズムを思いついたら、それがテーマ的に合致するかを考えます。テーマを思いついた時にはその逆です。結局のところ、私にとってはテーマやメカニズムよりも「楽しさ」を生み出すことのほうが重要なのです。

Q:『大鎌戦役/Scythe』の中心となるコンセプトはなんですか?プレイヤーにどのような体験をもたらしたいと考えていますか?
A:『大鎌戦役/Scythe』は架空の東欧を舞台にした、エンジンビルディングゲームで、テーマ性のあるユーロゲームです。私がこの世界のイラストを見た時に感じたものを、ゲームを通して体験して欲しいと思っています。2時間ほどの間、メックが近くを通り過ぎるのが当たり前である世界、あなたの決断があなたの評判(民心)に直結している世界、実際の戦闘よりも戦闘の脅威がより重要である世界、を体験して欲しいのです。

Q:『大鎌戦役/Scythe』は、ルールは単純ではないのにプレイするのは簡単であるところが素晴らしいと思います。例えば、メックをボード上に配備すると獲得した能力が読めるようになる、とか、技術キューブを動かすことでアクションのコストと利益の変化がひと目で分かる、といったことです。コンポーネントやユーザーインターフェースについて、ルールを実際のゲームとして実装することについて教えてください。
A:ゲームをデザインするときにはいつもユーザーインターフェースのことを考えています。プレイヤーが頻繁にルールブックを参照し、細かなことをいくつも覚えていなければいけないような状態は好きではないのです。プレイヤーにはむしろ意味のある決断に頭を使ってもらいたいのです。コンポーネント自体がこうした問題の重要な部分です。例えば、『大鎌戦役/Scythe』ではプラスチック製のフィギュアは戦闘可能ですが、木製のトークンは戦闘に参加できません。コンポーネント自体が、ルールを覚える助けとなるのです。

Q:デザインの過程で様々なプレイテスターで数多くのプレイテストをしたと聞いています。デベロップにおけるプレイテストの重要性を教えてください。プレイテストで実際にルールが変わった例はありますか?
A:たくさんプレイテストをしました。身内でのプレイテスト以外に、第三者によるプレイテストを1000回以上しています。プレイヤー間で非対称的なデザインなのでたくさんのデータが必要だったのです。最初は各勢力に固有能力はありませんでした(メック能力が違うだけでした)。しかし、プレイテスターたちは勢力ごとの違いがもっとあった方が良いと言いました。戦闘もプレイテストによって大きく変わりました。私はプレイヤーに攻撃するだけの理由(とはいえあまり頻繁すぎないように)と防衛する理由を持って欲しかったのです。建造物のルールも変わりました。元々はもっとルールが複雑で、誰も使わなかったのです。一番はっきりとした変化は渡河能力かもしれません。当初、渡河能力は全勢力に共通で、単に「川を渡れる」能力だったのです。しかしプレイテストの結果、これは内政的なプレイヤーには不満の大きいものであることがわかりました。攻撃的なプレイヤーがすぐに進行してくるために、自分の領地で生産サイクルを整える時間がなかったのです。そのため渡河能力に制限を設けてこれを修正しました。

Q:Stonemaier Gamesの今後の予定を聞かせてください。
A:2017年内には『大鎌戦役/Scythe』の二つ目の拡張『The Wind Gambit』と、村を広げていくレガシーゲーム『Charterstone』をリリースします。2018年にもたくさんのものを予定していますが、まだ公表はしていません。

Q:『ふたつの街の物語/Between Two Cities』はStonemaier Gamesから出たゲームの中であなた自身がデザインしていない唯一のゲームですね。他のデザイナーのゲームは違うものですか?こうしたゲームを今後もリリースする予定はありますか?
A:他のデザイナーのゲームを出版するのは違うものです。こうした場合(2018年にも他のデザイナーのゲームを予定しています)、私はデザイナーではなくデベロッパーになるのです。これは面白い体験です。私はできるだけ面白くて機能的で美しいゲームを作りたいと思っていますし、そのためには私と違う考え方をする他のデザイナーと一緒に働くことは役に立つのです。

私は2013年の『ユーフォリア/Euphoria』のKickStarterキャンペーンからStonemaier Gamesのゲームのルール和訳のお手伝いをしており(『Euphoria』『Viticulture 2nd Edition』『Tuscany』『Between Two Cities』etc.)、『大鎌戦役』もKickStarterキャンペーン開始時から見てきました。そんな中で、裏側のあまり見えない話を聞ければ、という気持ちで質問したのですが、快く回答いただけてありがたく思っています。多少なりともこれを読んだ方に面白く感じて頂けるなら嬉しいのですが。

『大鎌戦役』というタイトルは、KickStarterのキャンペーン中に私がつけた邦題です。元々こうした翻訳のセンスに乏しい私はタイトルをそのまま音訳して『サイズ』で良いだろうと思っていたのですが、Jameyに「それだと大きさを意味する『size』と一緒になるんじゃない?」と指摘されて、それはもっともだとわかりやすく独自性のある邦題を、と考えてつけた次第です。邦題としてそれなりに認知され、日本語版のタイトルも同様のものになったことはありがたいことと思っています。

Stonemaier Gamesのゲームについては、個人的に「革新的な、オリジナリティ溢れるものではないが、丁寧に作られた良いゲーム」という印象を持っています。システム面で見ると個々のパーツは必ずしも目新しいものではないのに、それらを注意深く丁寧に組み合わせて良い製品に仕立て上げているように思っています。コンポーネントのデザインも含めて場の“体験”を見据えたデベロップが徹底しているような。ユーザーインターフェースも含めて、プレイヤーのストレスを低減することに気を遣っていると感じています。とはいえ、この辺りのチューニングは、基本的に「北米のゲーマー」を基準にしているので(開発もプレイテストもKickStarter/Facebook/BGG Forumなどのオープンな場も、基本的には英語環境ですので当たり前のことではありますが)、基本的にユーロスタイルとアメリトラッシュのハイブリッドであり(『ワイナリーの四季/Viticulture』はピュアユーロにアメリトラッシュの要素が加わったもの、『大鎌戦役/Scythe』はアメリトラッシュに見せかけたユーロゲームマルチ風味、という印象)、このあたりのバランスが広く好まれる理由の1つではないでしょうか。

Stonemaier Gamesの製品のルール和訳は、拙作がBoard Game Geekの該当作品ページとStonemaier Gamesのウェブサイトからダウンロードできますのでご利用頂ければ幸いです。今後共ルール改訂などに合わせてアップデートしていくつもりですのでよろしくお願いいたします。二次配布や商用利用については個別にお問合せください。なお、日本語版製品については関与しておりませんので、訳語や細かな表現で日本語版製品と異なる部分があるかと思いますがご了承ください。

ちなみに最新作である『Charterstone』については、レガシーゲームの性質上、ルールブック本体は短い一方で、内容物の依存度が高く公開できない仕様になっており、ルールブックの和訳はする意味はあまりなさそうですね、という話になっております。『大鎌戦役』日本語版の売れ行き次第ではあるいはこちらも日本語版が?と個人的にちょっと期待しています。

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