ゲームプレビュー:Samurai Spirit
FunForgeからこの秋発売されるAntoine Bauzaの新作協力型ボードゲーム、Samurai Spiritの紹介です。このタイトル日本語にするの難しいですね……先週のGenConで先行発売されたようですので、限られた数が既に出回っているようです。設定を見ればわかる通り、黒澤明『七人の侍』のオマージュ的なゲームです。7人の侍の名前も、基本的には『七人の侍』からとられています。七郎次だけは大輔という名前に変更されていますが、これは欧米圏の人にとって発音しにくいから、だそうです。英語で綴るとShichirojiになって、これは確かにちょっと読めないですね。
プレイ人数は、1~2人プレイ用の特別ルールもありますが、3~7人用と思っておいた方が良いでしょう。プレイ時間は概ねプレイヤー数×7分、だそうですから、20~50分で終わる軽量級のゲーム、というところでしょうか。プレイヤーはそれぞれ村を守る侍となって、山賊の襲撃に立ち向かいます。3回におよぶ襲撃から村を守りきることができれば侍たちの勝利です。逆に言うと、敗北条件は「侍の誰か1人でも死亡すること」「家屋敷をすべて略奪されること」「家族をすべて奪われること」の3つになります。1回目の襲撃は雑兵のみで行われますが、2回目には山賊の用心棒が、3回目には山賊の頭目が加わりますので、状況は徐々に厳しくなっていきます。
各プレイヤーは自分の担当する侍を表すボードを持ちます。両面仕様で、片面は通常状態(左側・人の姿)を、もう片面は獣憑き状態(右側・獣人の姿)を表しています。ボードの右側には戦闘トラック(A)があり、個々に記載されている数の分だけ山賊と立ち合って食い止めることができます。戦闘トラックの最大値は気合い値(B)と呼び、立ち合っている敵の戦闘値(後述)の合計がこの値を超えると、次の手番ではパスをしなくてはなりません(そのラウンドから脱落)。ただし、敵の戦闘値の合計が気合い値ちょうどになった場合、敵の1人を切り捨てて、更に気合い能力(E)と呼ばれる各侍固有の能力を使用することができます。ボードの左側には侍が守るべき対象を示したアイコン(C)が並んでいます。左上に記されているのは手番ごとに使用できる侍の特技(D)ですが、これは手番を消費して援護することで他の侍に“貸す”こともできます。
一方で、敵となる山賊カードはこのような感じになります。左上には戦闘値(A)が記されており、これが立ち合う時に参照する値になります。先ほどの菊千代であれば、通常状態であればこの合計が10になるまで山賊と立ち合うことができますし、獣憑き状態であれば合計が13になるまで立ち合うことができるわけです。右上には防衛アイコン(B)が記されており、これは山賊の狙いを示しています。このアイコンがあるカードに対しては、その狙いを防ぐために防衛することを宣言して侍ボードの左側に配置することができるわけです。左下にあるアイコンは戦闘ペナルティ(C)を表しています。立ち合っている山賊の一番下のカードにアイコンがある場合、手番の開始時に記載されているペナルティを受けてしまいます。このアイコンは「侍が負傷を受ける」ことを意味しています。2回負傷すると強制的に獣憑き状態になり、更に2回負傷すると死亡してプレイヤー側の敗北となってしまいます。獣憑き状態になると能力が強化されるのですが、死亡のリスクも高まるわけですね。右下にあるのは略奪マーク(D)で、このマークがある山賊が村に侵入すると、ラウンド終了時に村が破壊されてしまいます。山賊が村に侵入する、というのは一部の戦闘ペナルティでも発生しますが、他の侍を援護する場合にも侵入者が出てしまうので注意が必要です。
それぞれの手番にできることは戦うか、援護するか、パスするかのいずれかです。好んでパスするメリットはほとんどありませんので、主に戦うか援護するかの判断となります。戦う場合には、山賊カードを1枚引き、それと立ち合う(ボードの右側に配置する)か、防衛する(ボードの左側に配置する)かを判断することになりますが、これについてはそもそも判断の余地がなかったり自明だったりする場合もありそうです。気合い能力が発動できる状況を作ることができれば非常に強力ですので、援護して特技をうまく使って狙っていくことが重要になるでしょう。
Samurai Spiritは長期的な展望を見据えた判断が要求されるような深い戦略的なゲームではありません。スピーディな展開の中、その場その場で現れた敵に対応していく戦術的なゲームだと思います。その中で、次に現れる敵を予想し、可能性を吟味してタイミング良く特技を使用することで戦局を変えることもできるでしょう。そのために要所で援護するのも有効でしょう。個々の判断で悩むことは少ないと思います。だからといって判断の価値が小さいわけではなく、判断する要素が単純な形に集約されている、という方が適切ではないかと思います。あるいは運ゲー、めくりゲー、と感じる人もいるかもしれませんが、深さよりもテンポの良さと大人数でのプレイ感を重視した結果なのではないかと思います。ちゃんと遊んでみないとわかりませんが、必ずしも運だけのゲームではなく、選択肢がシンプルな割にはプレイヤーができることは少なくないように感じています。個人的には気合い能力のルールが「多勢を相手に複数人を引き付けておいて、隙を見て一刀の元に切り捨てる」という殺陣の感じが良く出ているのではないかと思って期待しています。
(誤解を招きそうな気もしますし、実際に遊ぶまではわかりませんが、パンデミックではなく禁断シリーズ+、的な位置づけになるのではないかと思います)
アートワークは日本人からするとちょっと違和感があるかもしれませんが、悪くはないと思います。コンポーネントに言語要素はないので、和訳ルールがあれば問題なく遊べると思います(リファレンスシート的なものは欲しいですが)。5~7人で盛り上がれる、短時間協力型ゲーム、というのはありそうであまりなかったゲームなので、そういう意味でも注目のゲームです。
ところで今回縁があってAntoine Bauza氏とメールのやりとりをすることがありました。折角の機会なのでいくつかゲームについて質問してみたところ、お忙しい中快く答えて下さいました。ありがとうございます。短いですが以下に紹介します。インタビュアーは私で、インタビュイーはAntoine Bauza氏(以下AB)です。
Q: Samurai Spiritは黒澤明の『七人の侍』から着想を得ているそうですが、映画についての印象と、なぜこのテーマをゲームにしようと思ったのか教えて下さい。
Q: Samurai Spiritはとてもテーマ性の強いゲームに見えますが、ルールは明解でどこか数学的ですらあります。どうやってデザインしたのでしょうか?よくある質問になりますが、テーマとメカニクスのどちらからデザインしたのでしょうか?
Q: Samurai Spiritには空間的な要素がありませんね。あなたがデザインしたゴーストストーリーズを含めて、多くの協力型ゲームには空間的な要素があります。特定のアクションを行うためにはある場所へ移動しなくてはならないとか、同じ場所にいる相手しか助けることができないとか。Samurai Spiritでは空間的な要素はなく、ボード上を移動することもありませんが、援護のアクションによって位置関係を抽象化しているように思います。これはどういう意図があるのですか?
Q: これはよく聞かれる質問だと思いますが、Samurai SpiritはGhost Stories/ゴーストストーリーズとどこが似ていてどこが違うのでしょうか?Samurai Spiritをデザインする時に、この点について気にしたのでしょうか?
Q: より一般的な質問になりますが、あなたはアジア、特に日本をテーマにしたゲームを多くデザインしていますが、特にアジアに思い入れはありますか?
Q: (Twitterを見ていて)あなたが日本の漫画を読んだり、ビデオゲームを遊んでいることを知りましたが、好きな漫画やビデオゲームがあったら教えて下さい。
自分で聞いておいてなんですが、予想以上に素晴らしい答えが返ってきて非常に面白かったです。ゲームデザインの最初にあるのは「プレイヤーのゲーム体験」というのは確かになるほど、という答えでした。「テーマが先かメカニクスが先か」というのはよくある話ですが、その元にプレイヤー体験を置くのは(もちろんこれが唯一の正解ではないですが)1つのスタイルだと思いますし、個人的には感銘を受けました。ちなみにBauza氏とやりとりする切っ掛けになったのは、Samurai Spiritのプロトタイプの話からで、BGGにアップされている画像をご覧になればわかる通り、侍カードに記載されている日本語名が一部すごいことになっているのを指摘したのが始まりです。製品版の画像を見る限りちゃんとした表記になっているようなので一安心です。言ってみるものですね。
追記:BGGにて和訳ルールを公開しました。快く公開を許可して下さったBauza氏とFunforgeにこの場を借りて御礼申し上げます。
http://www.boardgamegeek.com/filepage/107895/samurai-spirit-japanese-rule
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