ゲームデザイナーインタビュー:Matt Leacock

前書き:以下のインタビューはパンデミックのデザイナーとして有名なMatt Leacock(以下ML)に対して2013年4月に電子メール上で行われたものである。原文へのリンクはこちら。非常に面白い内容であったので、インタビュアーであるShannon Appelcline(以下SA)氏の許可の元、和訳を掲載して紹介する次第である。パンデミック2版およびForbidden Desertの発売前に行われたものであるためこれらのゲームに関する事前情報も含まれている。

SA: 何故協力型ゲームをデザインしようと思ったのですか?あるいはもっと具体的に、何故パンデミックをデザインしようと思ったのですか?

ML: Reiner Knizia氏の指輪物語を遊んで、協力型ゲームは本当に楽しいもの(興味深い、という意味ではなく)だと知りました。カードとボードだけでこれほどの緊張感を生み出す、指輪物語のシステムは魅力的でした。そして私は自分で協力型ゲームを作ったらどうなるかを考えたのです。当時、疫病(パンデミック)のニュースが多く報じられていて、疫病は“敵”として相応しいのではないかと思いついたのです。疫病には感情もなく、恐ろしく、拡散し、非常に簡単なルールでモデル化することができます。最後の2点が特に魅力的でした。私は創発システム(単純なルールから極めて複雑かつ多様な結果が生み出されるシステム)を用いてゲームをデザインしました。制御不能な形で次々と現れるようなシステム、というアイデアを考えずにはいられなかったのです。 

こうしたことを考えながら、幼い娘と散歩に出掛けたある日のこと、私はノートに書き留めながら、カードデッキについての新しいアイデアを思いついたのです。極めて初期から、私は捨て札を山札の上に載せることで一度感染した街が再度感染するというルールに取り付かれていたのです。

SA: 同じカードをゲーム中に何度もアクティブにするこのシステムは、少し複雑ではありますが、パンデミックの秀逸なデザインの1つで、ゲームをうまく機能させていると思います。指輪物語から協力型ゲームをデザインするようになった、というのは興味深いですね。指輪物語はパンデミック以前における最も優れた協力型ゲームとだと思いますから。指輪物語や初期の協力型ゲームの中で、パンデミックのデザインに特に影響を与えたメカニズム、あるいは他の要素はありますか? 

ML: コミュニケーションを促進し、同時に1人のプレイヤーが場を支配してしまう可能性を下げるために、プレイヤー同士がゲーム中に手札を見せ合うことを禁じるルールを(指輪物語から)取り入れました。

導入用のゲームモードでは、経験者が初心者にアドバイスできるようにこの制限をなくしましたし、パンデミックの第2版ではこの制限をオプションルールとしました。Knizia氏が指輪物語において、この制限ルールを裏切り者のルールのために採用したのか、制限のルールを正当化するために裏切り者のルールを導入したのかはわかりません。私の経験では仲間のホビットを裏切ろうとしたプレイヤーはいません。おそらくKnizia氏は、手札を見せるよりも手札について口頭で説明させた方が、アルファプレイヤーシンドローム【訳注:特定の1人が場を仕切ってしまう現象。いわゆる奉行問題】を抑えてプレイヤーそれぞれの自主性を強めるとも思ったのではないでしょうか。

Days of Wonder社のMark Kaufmann氏とEric Hautemont氏と話した後で、役職のルールを加えました。彼らはゲームの初期版をテストして、それぞれのプレイヤーが自身の特異性を感じられるようにした方が良いと勧めてくれました。今思えば当然のことなのですが、当時プレイヤー達は灰色のまったく同じ駒を3つ動かしていたのです。 

SA: 素晴らしい変更ですね!役職はパンデミックの最も面白い部分だと思います。これ以外にパンデミックのデザインで、協力性について特に重要だと思うことはありますか? 

ML: 同色のカードの5枚組を作る基本的な目標は1人で達成するのは難しく、多くの場合他のプレイヤーとの協力が必要となります。プレイヤー達は集結できるように数ターン前から計画をする必要もあるでしょう。これによって、プレイヤー間の会話と、共に問題解決をするという意識が促されるのです。

先ほど話題になった役職は、それぞれのプレイヤーに「特別に強力な能力」を与えます。ゲーム自体が難しいため、成功するためには仲間の特殊能力に頼らなければなりません。また、役職はプレイヤーに強い目的意識を与え、他のプレイヤーとの違いも浮き立たせてくれます。 

協力型ゲームは、時として、複数人ではなく1人ででも簡単に解けるパズルであるように感じられることもあります(実際には私は1人よりも複数人で考える方が良いことが多いと思いますが)。この「グループパズル」感を減らすためには、プレイヤーに自主性を与えると良いと考えています。例えば、パンデミックにおいてプレイヤーは自分の駒の移動を完全にコントロールすることができます。他のプレイヤーのコマを移動させることができる場合もありますが、その際にも担当プレイヤーの許可を得なければなりません。手札を他のプレイヤーに見せてはならない、というルールも同様の原則に基づいています。プレイヤーは自分の手札の情報をコントロールできるのです。他のプレイヤーは知りたいと思った場合には訊かなければならないのです。私はプレイヤーの自主性を高める方法をいつも考えています。これは協力型ゲームのデザインにおいて重要なポイントだと思います。 

パンデミックにおいて協力性を高めるシステムについてまとめてみましょう。 

「治療薬開発のためにカードの組を作るには他のプレイヤーとの協力が必要である」「難易度が高いため、他のプレイヤーの役職の能力を頼らなければならない」「それぞれの役職はプレイヤーにチーム内での目的意識を与え、プレイヤーが取り残されることがないようにする」「プレイヤーが自分の手札と駒をコントロールできることは、プレイヤーに自主性を感じさせ、誰が何を担当しているのかを明確にする」

SA: 難易度について何度か触れられていますが、確かに難しいゲームですね。私はパンデミックを10回遊びましたが、勝ったのは精々1,2回です。協力ゲームでの勝敗のバランスについてどう考えていますか?そしてその理由は? 

ML: 最も重要なことはプレイヤー達を良い流れにおくことです。つまり、プレイヤー達が創造的な問題解決に取り組んでいる状態を保つことです。ゲームが簡単すぎて退屈で冗長になったり、ゲームが難しすぎて不安と無力感に苛まれたりしないように気をつけなければいけません。プレイヤー達は、ほとんど勝利目前にまで辿り着けるような、ぎりぎりで失敗した状況を最も楽しんでいるように思います。もちろん、時には勝利することができなければなりません。そうでなければゲームは壊れているとみなされてしまうでしょう。私はプレイヤー達が最初の1,2回のゲームに負けるくらいの難易度を理想としています。しかし、ここからが大事なところなのですが、負けた時にもプレイヤーが自分達の失敗を理解し、次にどうするべきか良いアイデアを思いつけるようでなければなりません。

私のおおよその目安は、勝率3割を目標にして、それが徐々に上昇して次の難易度に上がった時には、また勝率が3割になる、というところです。これは大雑把なガイドラインに過ぎません。ゲーム内の要素、各プレイヤーの経験、プレイグループの方向性は多種多様で把握しきれるものではありません。 

こうした要素が実現されていれば、難易度だけを考えてもゲームには十分なリプレイアビリティがあるといえるでしょう。

パンデミックをデザインする前は予想もしていなかったのですが、多くのプレイヤーは勝った時よりもぎりぎりで負けた時の方がより楽しんでいるように思われます。これは面白いことだと思います。もしかしたらこれはパンデミックにはっきりとした終局がない(勝利は唐突になりがちです)からかもしれません。しかし、それでもやはり多くの人は勝利にあと少しという状況を楽しんでいるように感じられます。

SA: 私は協力型ゲームの中ではパンデミックを一番繰り返し遊んでいると思いますから、リプレイアビリティは非常に高いと思いますよ!  

パンデミックの新版が発売されましたが、これには新しい役職が2つ(災害対策員:Contingency Plannerと検疫官:QuarantineSpecialist)ありますね。なぜ基本セットに役職を追加しようと思ったのですか?これはゲームの協力要素をどう変えるのでしょうか?

ML: Z-man社から基本セットに役職を追加することを提案されたので、私はTomLehmannにこの仕事をリードするよう頼みました。基本ゲームを複雑にすることなく、幅を増やすのはよいことだと思います。基本セットに新鮮な興味をもたらしてくれるでしょうからね。

災害対策員はイベントを操作できるという、他の役職とはまったく違う能力を持っています。一方で検疫官は感染とアウトブレイクに対抗する直接的で強力な能力を持っています。両者は基本的にゲームの幅を広げてくれるものですが、同時に両者は仲間からのアドバイスが有効な能力でもあります。災害対策員はイベントの選択やタイミングについて、検疫官はターン終了時の場所について、アドバイスを受けることができるでしょう。

SA: 続編について、ということでForbidden Island/禁断の島について質問させて下さい。禁断の島パンデミックの簡易版だ、と言う人もいますが、あなたは禁断の島はまた別のゲームであると言っていますね。パンデミック禁断の島の協力ゲームとしての違いはどこにあるのでしょう?禁断の島の特徴はなんでしょう?

ML: 禁断の島をデザインするに当たって、Gamewright社と私は、より子供や家族向けに、パンデミックの緊張感と興奮を、新しくしかもまったく異なるゲームに詰め込みたかったのです。デザインの仕事の多くの部分はルールを簡潔にわかりやすく保つことに向けられました。理解して頂きたいのですが、これは簡単にすることとは違うのです。禁断の島はとても挑戦しがいのあるゲームです。私たちはルールの中から解釈に困ったりプレイ中に引っ掛かったりするような部分を出来る限り取り除いたのです。

例えば、準備の際に山札を分割してWater Riseカードを決められた位置に仕込む必要はありません。すべてまとめてシャッフルすればいいのです。このやり方はばらつきが大きいため、私はゲームシステム自体が不運によって崩れないかどうか確かめる必要がありました。この方法だと1ターン目に負けることがあり得ることはすぐに指摘されましたが、わかりやすさとのトレードオフとして容認することにしました。というのも、1)そのような状況は極めて希であり、2)むしろ楽しい話題にもなり、3)そのおかげで準備の時間を数分短縮し、ルールを1ページ以上短くできるからです。

また、私は禁断の島の終局は非常に良くできていると思います。プレイヤー達が4つの秘宝を集めた後には、急いでヘリコプターに戻って脱出しなければなりません。これは終盤をより映画的にしてくれます。ゲームは物語のクライマックスで終わるのではなく、ヘリコプターに向かう解決の時間があるのです。

それから、製品自体のデザインも優れていると思います。イラストやコンポーネントは素晴らしいですし、仕切りも機能的です。価格については言うに及びません。正直に言いますと、私はどうやってあの価格を実現できたのかわからないのです。遊びやすさ、見た目、価格を総合すると、禁断の島は新しいプレイヤーがボードゲームを始めるにあたってとても良い作品となっていると思います。

SA: 次に発売されるForbidden Desert/禁断の砂漠についてはどうでしょうか。あなたの協力型ゲームのデザインは、禁断の砂漠でどのように進化しているのでしょうか?

ML: 私は禁断の砂漠を、禁断の島が好きで続編を求める人達に対して、続きとなるようなゲームでありながら「似たようなもの」と感じさせないゲームにしなければなりませんでした。私は、これらの「禁断の」ゲームを昔の冒険活劇シリーズのエピソードのようにしたいと思っています。続き物のストーリーで、たくさんの興奮が盛り込まれていて、そして次に何が起こるか予測が付かないようなゲームです。

禁断の砂漠では、プレイヤーは2つの脅威の間でバランスを取らなければなりません。1つは灼熱の太陽で、これにさらされていると、最終的には渇きに敗北することとなります。これを避けるためには涼しく暗い洞窟に留まる必要がありますが、そのままでは今度は砂に埋もれることになってしまいます。局所的な危険とゲーム全体の目的との間でバランスを取り、リスクを考え、時に一方を意識しつつももう一方に果敢に挑む必要がある、という面ではパンデミックに似ていると言えます。

もちろんプレイヤーが協力できる新たなシステムなしでゲームを難しくしているわけではありません。禁断の砂漠では、プレイヤーを助けとなる装備品カードが導入されています。装備品カードは役職のように、プレイヤーに1回限りの追加能力をもたらします。装備品カードは所持しているプレイヤーにのみ使用可能で(自主性の強化)、またいつでも使うことができます(他のプレイヤーのターンにおいてもゲームに集中させてくれます)。これらのカードはゲーム中に少しずつ現れますから、最初からすべてを理解する必要もありません。また、これらの装備品カードはプレイヤー間の相互協力を促すようにデザインされています。たとえば、ソーラーシールドは、プレイヤーの駒と同じタイルにいる駒すべてを守ってくれます。もちろん自分1人に使うこともできますが、仲間を呼び寄せた後で使う方が良いでしょう?

こうした協力要素の他に、禁断の砂漠には挑戦的な仕掛けと移動するボードが盛り込まれています。禁断の島のシステムを逆転させる試みはなかなか楽しいものでした。大量の水に溺れる危険の反対に水を渇望し、ボードが次々と消えていく反対に(砂が周りに積み上がって)埋まっていくのです。

SA: とても面白そうですね。発売が楽しみです!これであなたは3つの協力型ゲームをデザインしたことになりますが、パンデミックをデザインする前には知らなかった、協力型ゲームについての重要な教訓のようなものはありますか?

ML: もちろんです。テストプレイの間に明らかになった、何が機能して何が機能しないのか、といったことは枚挙に遑がありません。こうしたものは、えてしてゲームが上手くいかない時にはっきり見えてくるものです。暗黙の裡に学んだことも、徐々に理解できるようになるでしょう。

こんなことを挙げておきましょうか。

プレイヤーを束縛して、選択肢を制限することでゲームを難しくしてはいけません。それは非常に苛立たしいものです。代わりにゴールを遠くに設定して、必要な道具を提供するようにするべきです。でもどうやって目標を達成すればいいかを教えてはいけません。

絶対に、どうすれば勝てるのかをプレイヤーに教えてはなりません。ルールに「役に立つヒント」が書いてあるのを見ると私は驚いてしまいます。それはプレイヤーからゲームを盗み取るようなものです!これは何かを教える時も同じですね。プレイヤーや生徒に、成功できる、あるいは学ぶことができる環境を与えれば良いのです。プレイヤーに協力型ゲームの勝ち方を教えるのは、生徒に問題の解き方を教えた後に問題を解くように指示するようなものです(こんな教え方をしたら数学は退屈なものになるでしょう?)

最後に、協力型ゲームが今後どのようにしてボードゲームに物語やストーリーテリングの要素を組み込む道を拓いていくのか、私にもわかりません。私はまだその表面に触れただけに過ぎず、まだまだこの分野から学ぶことがあると感じています。

SA: 私も協力型ゲームとストーリーテリングの関連の強さに驚いています!あなたが協力型ゲームのデザインを続けているのは、パンデミックの成功のためなのでしょうか。それとも何か他の要因があるのでしょうか?

ML: 今までに話したすべてのことのためですよ。

SA: 数々の質問にお答え頂きまして、ありがとうございました。


後書き:以前Togetterを用いてインタビューをまとめたものと内容的にはほぼ同じですが、仕様上の制限が少ないので、一部改訂してあります。可読性も良くなっているのではないでしょうか。協力型ゲームに限らず、ゲームデザインにおける重要なポイントがいくつも指摘してあり、非常に興味深く読みました。「プレイヤーの行動を制限するのではなく、代わりに選択肢を潤沢に与えてハードルを上げる」というのはいろいろな局面で大事なことなのではないかと思います。禁断の島を作るにあたって何を目的として何を許容したのか、という点もわかりやすく書けています。協力型ゲームはすでにボードゲームのトレンドの1つになっていると思いますが、確かにストーリー志向のものも増えていますし、今後更に発展しそうな分野ではないかと期待しています。

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?