ノッティンガムのシェリフ変遷記

まさか『Sheriff of Nothingham』の日本語版が出るとはねえ……

嘘やハッタリ、フリーフォームの交渉を含むので万人向けのゲームとは言えないし、コアなユーロゲーマーにとっては場が荒れすぎ、ライトなパーティーゲーマーにはルールが多すぎ、ではないかしら?と思っていたのですが、逆に言うとコアなユーロゲーマーも軽い気持ちで遊べるし、ライトなパーティーゲーマーが少しゲーム的な要素を加えて遊ぶ場合にも使えるし、案外こうした中間的なゲームは少ないので良い選択肢になるかもしれません。ソーシャル系・パーティー系・ロールプレイ系の要素を含みつつ、ゲーム的な基盤もあって良いゲームだし、6人まで遊べるし、楽しめる層にしっかり届くと良いなあ、と思っています。
ところで今回日本語版が出るのはCMONから出ている第2版がベースなんですが、実はその前にもいくつかのバージョンがあります。古い方から順に

  1. Hart an der Grenze (Kosmos, 2006)

  2. Robin Hood (Galápagos Jogos, 2011)

  3. Sheriff of Nottingham (Arcane Wonders, 2014)

  4. Sheriff of Nottingham: 2nd edition (CMON, 2020)

となっています。デザイナーはブラジル人のSérgio HalabanとAndré Zatzの両氏で、このシリーズ以外だと知名度が高いのは、ドワーフ採鉱系のQuartz (2015)、あとはBruno Faiduttiと組んで作ったFormula E (2014)(これは確かFaidutti氏にプロトタイプを送ったのがきっかけだったような気がします)とWarehouse 51 (2015)くらいでしょうか。多作ではないし最近の洗練されたゲームのトレンドにも乗っていませんが、ある意味古き良きインタラクション多めのドタバタゲームのデザイナーという印象があります(いかにもFaidutti氏が好きそう)。
またBGGだとHart an der Grenzeは1950年のContraband(デザイナー不詳)のリメイク、という扱いになっています。これだけリメイクが続いているゲームの、それぞれのバージョンでどれだけ違いがあるのか、ルールを読んでチェックしよう、という軽い企画です。特にオチも結論もないので気軽に(そしてあまり期待せずに)読んでいただければ幸い。
なお私自身はHart an der GrenzeとSheriff of Nothingham(AW版)を遊んだことがありますがどちらもやり込んだわけではありません。

0. Contraband (1950)

デザイナー不詳の古典ゲーム。3-6人。税関と密輸がテーマ。
プレイヤーの一人が税関職員となり、その左隣のプレイヤーは4枚の手札を裏向きにして通関申請をしなければならない。税関職員は申請を信用してそれに見合った正規の料金を徴収するか、あるいは荷物検査を行うことができる。検査をして虚偽申請が判明した場合は罰金を徴収(当然正規料金より高額)することになるし、申請が正しかった場合は税関職員が対象プレイヤーにお金を払わなければならない。これを順番に税関職員以外のプレイヤーが1度ずつ行うのが“1ラウンド”になるのだが、荷物検査を行わなかった場合はその手札をそのまま次のプレイヤーに引き継ぐのがポイント。引き継がれたプレイヤーは「密告して荷物検査を行う」か「1枚山札と交換して自分が通関申請をする」かを選ぶことになる。基本的なアイデアはHart an der Grenze以降のゲームと同じではあるが、これを以って“Hart an der Grenzeはこのゲームのリメイク”とするのは言い過ぎではなかろうか。荷物検査をひとりずつ順番に行うところや、通関申請する側が基本的に失点ベース(無事に通関したことで得られるものがない)であるところが気になる。良くも悪くも古いゲーム。ゲーム終了条件が明確に決まってないあたり(いくつかオプションがある)、おおらかだなあ、と思います。今のゲームなら「全プレイヤーが○回税関職員を行ったら終了」に決まってますよね。

1. Hart an der Grenze (2006)

Sérgio Halaban & André Zatz, Kosmos。実際にはこの前年にブラジルのEstrelaからJogo da Fronteira(国境ゲーム、くらいの意味か)が出ており、これをKosmosが買い取ってリリースしたものと思われる。3-6人。税関と密輸がテーマ。『手荷物検査』の邦題で和訳ルール付きで国内流通していた(メビウスゲームズ)。
各ラウンド、一人が税関職員となり、他のプレイヤーは手札から1~5枚を選んで裏向きにして通関申請する。税関職員は通関申請をしたプレイヤーから1人を選んで手荷物検査をすることができ(誰も検査しなくても良いし、5~6人の場合は2人を検査することもできる<ただし回数制限あり)、虚偽申告が見つかった場合は罰金を(銀行に)払う/申告が正しかった場合補償金を(銀行から)受け取る。無事通関したカードはラウンド終了時に売却できる。手荷物検査されそうになったプレイヤーは税関職員に賄賂を送って検査をパスすることができる、税関職員は検査しなかったプレイヤーの荷物を“押収”できる(虚偽申告品を没収して自分のものにすることができる)、物品売却時に個数制限がある、といったルールがアクセントとして効いている。

2. Robin Hood (2011)

Sérgio Halaban & André Zatz, Galápagos Jogos。ブラジルでの再販。3-5人。ロビン・フッドがテーマ(だがロビン・フッドはほとんど登場せずに、ロビン・フッド伝説に登場する悪役“ノッティンガムの代官”と城内に出入りする農夫がテーマ。
基本的なルールはHart an der Grenzeと同じだが、6人プレイに対応しなくなったことによりカード総数が減少。また、物品申告時にいくつの物品を申告できるかに制限がついた(3~5個を申告できるのは各ラウンドそれぞれ1人まで)。また、申告前にロビン・フッドトークンを使用することで手札を任意の枚数捨てて、好きなカードを選んで山札から補充できる。Hart an der Grenzeのマイナーバリアント、と考えて良さそう。申告可能な個数に制限をかけるのは、プレイヤーがみんな5枚入れる、みたいな状況を打破したかったのだろうけれど、実装方法としてはあまりクリーンでない印象。

3. Sheriff of Nottingham (2014)

Sérgio Halaban & André Zatz, Arcane Wonders。3-5人。ノッティンガムの代官がテーマ(ロビン・フッド伝説が元なのにロビン・フッドは登場しない……)。プレイヤーは代官と商人になる。リードデベロッパーはArcane WondersのCEOであるBryan Pope。デザイナーがわざわざ謝辞を述べているので、この版での変更点はBryan Pope(とArcane Wondersのチーム)の功績が大きいのではないかと思う(CMON版のルールブックでもArcane Wondersのデベロップチームがデベロッパーとして挙げられている)。
主な変更点は「合法品・禁制品ともに3種類から4種類に増加(これに伴いカード総数も増加)」「それぞれの合法品を多く売ったプレイヤーへのボーナス追加」「高級品(禁制品扱いだが前記ボーナスに関して合法品として加算できる)の追加」「申請前に手札を交換できる(任意の枚数を山札か捨札と交換できる)」「代官は好きな人数のプレイヤーの荷物を検査できる(上限なし)」「代官との交渉の柔軟化(金銭の受け渡しだけに限られていたのが、カードの提供や将来の約束も交渉材料として使用可能に)」「罰金は銀行ではなく代官に支払う」「補償金は銀行ではなく代官が支払う」あたりか。
カードが取引可能になったことと多数ボーナスが導入されたのは交渉に非対称性が生まれて良い(商人プレイヤーにとってはさほど意味のないカードだが、代官プレイヤーにとってはトップ争いに関わる重要なカードだったり)し、各ラウンド一人しか検査できない制限が廃されたのも良い。経済が閉鎖系になった(金銭のやり取りがプレイヤー間で行われるようになった)のも基本的には良い変更だと思います。Hart an der Grenzeだと賄賂以外に税関職員の実入りがなかったので(特例的に押収ができるけれど、それは本筋ではない)、一番中心になる税関職員の当事者性が薄かったんですよね。
また交渉がフリーフォームになったのも、ルール構造としては無秩序になるわけですがその分多くのインタラクションが生まれることになり、ゲームの魅力をより強化していると思います。Hart an der Grenzeだと、“賄賂の交渉は検査の対象に選ばれてかつ虚偽申告をした時に限り、金銭を送ることで検査を見逃してもらうための交渉ができる”という極めて限定的(かつ賄賂を送る側は損益分岐点が明確)なものだったのですが、Sheriff of Nottinghamでは、検査対象に選択されるかどうかの時点から交渉可能ですし、嘘をついていなくてもわざと賄賂を送ってもいいですし、ライバルプレイヤーを検査させるために賄賂を送ってもいいし、交渉材料も金銭に限定されないので、かなり自由な交渉ができるようになっています。もちろんそれが苦手、という人もいるでしょうが、基本的にはゲームコンセプトに沿った変更だと思います。

4. Sheriff of Nottingham: 2nd edition (2020)

Sérgio Halaban & André Zatz, CMON。3-6人。基本的にArcane Wonders版とほとんど変わっていません。ルール面での変更はラウンド開始時の手札交換では山札から補充することになったくらい(捨札の山からカードを補充する選択肢がなくなった)。テンポが悪くなりうる部分だったのでこれは改善ではないでしょうか。そこで考えるようなゲームではないので。さらに追加で旧版の拡張に含まれていた6人用ルール(代官役が2人になる)と闇市ルールが含まれています。今年は拡張も予定されているようなんですが、それも日本語化されるといいですね。

というわけで、ルールの変遷を見ると、Contraband (1950)とそれ以降は別物、Hart an der Grenze (2006)とRobin Hood (2011)はほぼ同じ、Sheriff of Nottingham (2014, 2022)はその改良版(リメイクと言ってもよいが、別ゲームとして扱えるくらいには違いがあると思う)、という感じでしょうか。Hart an der GrenzeよりもSherif of Nottinghamの方がゲームコンセプトとして一貫して強力になっているし、よりロールプレイと交渉を誘発しやすいデザインだと思います。税関テーマとロビン・フッド伝説テーマのどちらが良いかは好み次第。私は現実に近い設定の犯罪テーマが苦手なので後者の方が好きかな。冒頭に書いた通り万人向けのゲームではないと思いますが、“そういうゲームだ”とわかった上で遊ぶならばかなり広い範囲の人が楽しめるし、ロールプレイや交渉が好きな人には特にお勧めできるゲームだと思います。日本語化されるので、これを機に是非試してみて欲しいと思います。

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