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生物多様性条約と先住民族 / 国連の先住民族の権利宣言から15年

さて、筆者はなぜか15年前の今日(9月15日)だと思いこんでいたのですが、正しくは15年前の2007年9月13日、国連総会の場で「先住民族の権利宣言」が採択されました。

生物多様性条約では、前文をはじめ、条文上でも先住民族や地域コミュニティ(IPLCs)の人々の役割を重要なものと位置づけ、条約交渉の議論においてもまた、彼らを大切なステークホルダーとみなしています*1。

まずは、この条約がどのように先住民族と地域コミュニティの人々について触れているか、条文を確認してみましょう。
注目すべき条文上の文言としては、以下3か所があります。

Preamble 前文より
The Contracting Parties ・・・・Recognizing the close and traditional dependence of many indigenous and local communities embodying traditional lifestyles on biological resources, and the desirability of sharing equitably benefits arising from the use of traditional knowledge, innovations and practices relevant to the conservation of biological diversity and the sustainable use of its components,
締約国は… 伝統的な生活様式を有する多くの原住民の社会及び地域社会が生物資源に緊密にかつ伝統的に依存していること並びに生物の多様性の保全及びその構成要素の持続可能な利用に関して伝統的な知識、工夫及び慣行の利用がもたらす利益を衡平に配分することが望ましいことを認識し、 

和訳は環境省のHP掲載のものに基づきます

Article 8. In-situ Conservation / 第8条 生息域内保全
Each Contracting Party shall, as far as possible and as appropriate:
(j)  Subject to its national legislation, respect, preserve and maintain knowledge, innovations and practices of indigenous and local communities embodying traditional lifestyles relevant for the conservation and sustainable use of biological diversity and promote their wider application with the approval and involvement of the holders of such knowledge, innovations and practices and encourage the equitable sharing of the benefits arising from the utilization of such knowledge, innovations and practices;
締約国は、可能な限り、かつ、適当な場合には、次のことを行う。
(j) 自国の国内法令に従い、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関連する伝統的な生活様式を有する原住民の社会及び地域社会の知識、工夫及び慣行を尊重し、保存し及び維持すること、そのような知識、工夫及び慣行を有する者の承認及び参加を得てそれらの一層広い適用を促進すること並びにそれらの利用がもたらす利益の衡平な配分を奨励すること。

和訳は環境省のHP掲載のものに基づきます

Article 10. Sustainable Use of Components of Biological Diversity
/ 第10条 生物の多様性の構成要素の持続可能な利用
Each Contracting Party shall, as far as possible and as appropriate:
(c) Protect and encourage customary use of biological resources in accordance with traditional cultural practices that are compatible with conservation or sustainable use requirements;
締約国は、可能な限り、かつ、適当な場合には、次のことを行う。
(c) 保全又は持続可能な利用の要請と両立する伝統的な文化的慣行に沿った生物資源の利用慣行を保護し及び奨励すること。

和訳は環境省のHP掲載のものに基づきます

特に、8条j項については、今後どうなっていくかはわかりませんが、この条文を具体的に遂行していくための特別作業部会も隔年開催がされていたりと、先住民と地域コミュニティの人々の意見は非常に重要なものとみなされています。

生物多様性条約の締約国会議(COP)やこれら各作業部会に参加している先住民と地域共同体(IPLCs)の人々は、この生物多様性条約を単なる技術的な環境条約として精緻化させるだけでは生物多様性を守ることができないという観点にもとづいて、人権や社会的公正に関する条約としての側面をより重視した言論活動、ロビー活動を行っています。

また、それゆえ、生物多様性条約が、国連憲章、国際人権規約、先住民族の権利宣言などとの整合性を明確にしながら運用されていくことも、求めているのです。

とくに、この「先住民族の権利に関する宣言(Declaration on the Rights of Indigenous Peoples)」は重要で、生物多様性条約の会議の中でもよく耳にする言葉です。
全部で44条にもわたるこの宣言はとても広い範囲に及ぶ先住民族の権利を掲げていて、いずれの権利も重要なものだと思われるのですが、今日は、その中で述べられている権利の中には以下のようなものが含まれていることを紹介するのみで、いったん、このnoteを公開いたします。

・自己決定権
・土地や資源の返還や賠償などを求める権利
・自治を求める権利
・文化的・宗教的な慣習を実践する権利
・独自の言語で教育を行い、受ける権利
・伝統的につながりを持ってきた土地や資源を利用する権利 など

なお、国連先住民族の権利宣言の和訳に関しては、筆者は、こちらのサイトを参照しています。
また、今後、いろいろな面からここで紹介した先住民族や地域コミュニティと生物多様性条約の関わりについても触れていけるといいなと思っています。


*1 先住民族と地域共同体(IPLCs:Indigenous Peoples and Local Communities) の人々とこの条約との関わりについては、ネット上にも多くの記事を見つけることができますし、とても多岐にわたる重要論点なので、これからnote上でコツコツ整理していけたらと思っているところです。

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