2023年9月7日の記者会見と、思考停止と、テレビとの付き合い方について
某タレント事務所代表が過去に起こした未成年への性加害事件と、その後の対応について記者会見があったので雑感。
雑感と言いつつ、先日の調査委員の3人の怒り(これもなぜか気がついていない人が多い)の会見があったように、見過ごしてはいけない事件だと僕も思います。現時点での自分の疑問点が、後々確認できるように書いておきます。
新社長も言及している通り、人類史上稀に見る人権侵害があったことが事実認定されました。その重大さに対して、当事者、関係者ひいては日本国民があまりに矮小化して受け止めていることに呆れています。
所属タレントが社長就任、会社の名称も継続するのも矮小化の一環です。記者会見で誰かが、「犯罪者の名称を冠するなんてありえないですよね」と質問していたように、僕の常識でもちょっとありえない。時間もなかったしファンの意向もあってそうなった、と新社長は言っています。そんな理由もありえない。
警察および検察が動かないのもおかしい。未成年への性加害は親告罪ではなく、不同意わいせつならば12年+α、不同意性交ならば20年+α(プラスアルファは18歳に達するまでの期間がプラスされるため)という公訴時効が設定されています。現時点から遡ると、2000年代前半からの性加害が事件化される可能性があります。被疑者死亡だから不起訴確定ではあるものの、少なくとも時効でない案件については関係者に聞き取り捜査して書類送検するなど、やるべきことはあるはず。(警察には全件送致の義務があります。)ここまでの重大事案を無視するのは何か理由があるのではと下衆の勘ぐりをしたくなります。
マスコミ同罪というのもさんざん言われていますが、この期に及んで動きの悪さも目に余ります。不倫報道であれば親族友人のところまで押しかけて話を聞こうとするのに、調査委員会が報告書を発表してから事務所に直接取材したメディアはなかったと思います。不倫は民法、性加害は刑法の適用です。社会正義に照らしてどちらが重大なのか言うまでもありません。各テレビ局はレギュラー番組に毎日出演している所属タレントに、直接聞けばいいではないですか。芸能レポーターはもちろん、本来社会部が仕事をしなければいけない。職務放棄も甚だしい。
ここまで謹慎した所属タレントもなし。タレント無罪を主張する方も多いですが、僕は疑問です。メディアを通じて芸能界への甘い誘いを発信していたのは所属タレントです。性加害を知っていたのか知らなかったのか、当事者だったのかそうでないかは関係ないと思います。結果的に、自分のタレント活動が未成年への人権侵害の入り口になっていた。普通の会社員とは違い、それぞれが会社の看板であり、何も知らなかったとしても責任は免れない。ましてや自身が性被害に合っていて、それを通過儀礼だと感じていたのならば、痛ましいことではあるけれど、被害のバトンを安易に次の若者に渡していただけです。
あと、保護者は何をしているのだろう、と不思議に思います。誰も責任を感じていないのでしょうか。未成年を保護するのは親の義務です。それができなかったのだから、次のアクションを起こすときです。親は真っ先に事務所を訴えるべきでしょう。集団訴訟というのは、こういうときにするべきものなのでは?知らなかったでは済まされない。自分の子供を預ける先の安心・安全に無頓着過ぎます。考えたくもないですが、もし、親が通過儀礼だと感じていたのだとしたら論外です。カネに目がくらんだ人身売買にも等しい。
いつもは重箱の隅をつついては鬼の首を取ったように騒ぎ立てる野党のみなさんはどうしたのでしょう?こんな歴史上稀に見る人権侵害を前に黙り込み、政権転覆のチャンスをみすみす逃すのはなぜでしょうか。こんな長期間の人権侵害は、自民党の長期政権が悪いからだ、と真っ先に紐づけて言いそうなのに。普段の態度と比較して、それはもう卑怯以外の何物でもない。ファンの反感を買いたくないのでしょうか?公党なのであれば社会正義を第一に考えてほしいです。
とにかく理解し難い人たちばかりですが、僕がこの会社の存続に疑問を感じるのは、日本のエンタメ界のレベルを下げる方向に作用してきただろう、という点もあります。人気があって使い勝手が良い男性タレントを大量にメディアに提供する代わりに、他の事務所の若手の台頭を阻んでいたことは公然の秘密です。もっと実力のある人が芽を摘まれた例がたくさんあったでしょう。映画の吹き替え版の適当なキャスティングしかり、大河ドラマでも所属タレントのシーンだけクオリティが下がるのを歯がゆく感じます。日本の制作者は、いっときの視聴率や業界受けがあればよく、誰も長く残る良質なコンテンツを作りたいという気概はないのでしょうか。
全体的に、このままがいい、無かったことにしたい、という思考停止が蔓延しています。被害者が救われるとしたら、謝罪と金銭的補償だけではなく、この思考停止状態を打破することが真の救済だと思います。そうならないのだとしたら、旧来のメディアの終わり、旧来のエンタメ界の終わりが本当にもうそこまで来ていると感じます。個人的に、テレビ放送全体、あと一部の映画コンテンツが気持ち悪いと感じるようになったので、視聴時間がどんどん短くなってきてはいたものの、ついに見なくなるときが来たのかな、そんな気がしています。