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本のある生活_2023年12月

先日所属する派遣会社主催のセミナーに参加して、トーハン桶川センターというところを見学した。Wikipedia曰く「世界最大級の書籍物流施設」。仕事を通じて聞いているセンターの役割は「既刊の書籍を搬入、出荷するセンター」。ぼんやりとしたイメージだった。

百聞は一見にしかず。目の当たりにするとぼんやりしたイメージは具体化する。

既刊書籍とは、新しく出版された本ではなく、市場に出回っている本を取り扱うということ。センター内で、そうした既刊書籍はフロアごとに4つのタイプに分けられていた。

1階は、書店からの注文品を出版社からセンターで受け入れ、センターから書店へ出荷する、取次作業のフロア。
2階は、書店から返本された本をセンターで受け入れ、センターから出版社へ出荷する、返本作業のフロア。
3階は、トーハンという取次会社が出版社から独自の基準で取り寄せた書籍をストックしておいて、書店が出版社を介する時間を節約して出荷できるようにする書庫のようなフロア。
4階は、ネット書店のための本をストックして、注文があると出荷するフロア。

以下の数字は私の走り書きのメモに基づくもので、数字の正確性に欠けることを前提として読んでいただきたい。
1階の通常取次作業のフロアは、1日24時間の作業で54万冊処理ができるという。一日の出荷量は2.5万件(多分「件」は本のタイトル数で、「冊」は物理的な本の冊数という意味と理解しました)。そのうち5万冊はデータがないので手作業処理だという。それも含めて書籍がセンターへ搬入されてから出荷まで、基本的に翌々日には出荷するという。その処理速度に驚いた。
2階の返本作業のフロアでは、120名がシフト制で24時間従事して毎日24万冊が返本作業をされるという。2007年から導入したソーターで本をスキャニングする、伝票レスのシステムだからできるという。なるほど、以前ニュースか新聞で、出版業界の「返本」という仕組みがコスト高の原因と聞いてはいた。だが、それは24時間作業しなければならないほどの量だとは想像だにしていなかった。
3階は出荷を待つ本の書庫のような趣で静かなフロアだった。とはいえ毎日25万冊搬入されるというから、図書館のような静けさはない。薄暗く、ところどころ平積みの本の山がある。書庫というより、倉庫という趣だ。
4階は、2000年からスタートしたEC書店のための倉庫というのが正しいだろう。出荷スピードが1階より早い。当日午前中に注文を受けたら、首都圏であれば翌日には配達されるという。ここで興味深かったのは、書籍管理方法だ。棚は細かく仕切りがされていて、搬入されたものは空いている区画に収めて区画単位で管理する、フリーロケーションという仕組みだという。

出版業界の勢いが衰えているとはいえ、物理的な書籍が不要になることはない、と私は信じている。とはいえ、出版物の流通のスピードとそのコストを突き詰めると、コンピューター管理と機械の力が必須となることはやむを得ない。そのために働く人間は、コンピュータと機械を24時間365日管理するために24時間体制のシフトで働く。人の心を豊かにする出版物を、それを求める人に手渡すために、人間らしい生活を犠牲にして働く人がいると思うと、複雑な気持ちになる。

願ったときに、願ったものを気軽に手にすることができる環境の裏で、身を粉にして働く人がいる。在宅勤務ができない仕事こそ、本当に必要な仕事だと気付かされる経験となりました。

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