箱根ゼロからの逆襲
ホクレン網走で選手コールに向かうGMO渡邉利典(トシノリ)選手が嬉しそうにスパイクを見せてきた。「おっ。アシックスじゃん。どうしたの?」「ようやく買えたので網走のホテルまで送ってもらったんです。このスパイク、ぼくにあってます」という。手にするのは桐生選手らが履くアシックスのピン無しスパイクの長距離版モデルだ。
トシノリくんとは、初戦ホクレン士別を走り終えた翌日、旭川に集まった友人たちと一緒に連続写真を見返しながらフォームチェックをした。今年のニューイヤー駅伝3区での好走したときもそうなのだけど、トシノリくんがいいときは、骨盤が前傾して、腕をくっと引くだけで肩甲骨が動いて足を置くだけで進んでいく。そんな走り。蹴らずに足を置いていくだけだから、安定して速いペースで走り続けることができる。それがトシノリくんの持ち味。ところが、士別ではなんだか接地がバッタンバッタンしてて、なんだかリズムが悪い。いいところがひとつもない。ストライドは伸びてるんだけど、スパイクで踏み込んで飛んでいて、肩甲骨から推進力が産まれていない。友人たちの見立ては「なんかスパイクうまく使えてないんじゃない?」というもの。「そうですね。ロングジョグ走ってリズム取り戻してきます」そんな話をしていたところであった。
網走で走っている姿をみて、「なるほどな」と思った。トシノリくんが「このスパイク、ぼくにあってる」という理由がわかった。前の組に走っていた川内優輝選手の走りと共通点があったからだ。
このホクレン。川内優輝選手が調子がいい。いや、ホクレンからじゃない。2月の実業団ハーフマラソンからか。そこから大きくレースを外すことなく、明らかにタイムが伸び、スピードが出ているのがわかる。2月の実業団ハーフから川内選手はアシックスのカーボンロードシューズを取り入れた。これが大いにハマった。そのままびわ湖毎日マラソンでも2時間7分27秒の自己ベストを更新。そこからさらなるスピード向上をもとめて春先からミドルディスタンスチャレンジを含めてトラック・レースで精力的にスピードを磨いたのであるが、そのときはソーティー等の薄いマラソンシューズでレースに望んでいたが、このホクレンシリーズから川内選手はアシックスピン無しスパイクでトラックを走り、好記録を連発している。
トシノリ選手と川内選手の共通点は接地にある。
ナイキのスパイクを履いている選手たちが前足部で接地をしているのに対して、川内選手は中足部から接地する。フォアフットではなく、ミッドフット着地だ。ナイキだけでなく、一般のスパイクは前足部にピンがある。そのため、接地は必然的に前足部から入らざるを得ない。川内選手やトシノリ選手といった、ロードの長い距離を淡々と走るタイプの選手にとって、キプチョゲや大迫傑のようなフォアフットで走り続けることを強いるナイキの一連のシューズはやっぱり合わないのだ。
「ピン無しだと、疲れてからもミッドフットで粘れるですよね」とトシノリ選手の弁が物語っている。この秋、多くの選手たちがナイキのスパイクを履いて、駅伝選考のためのトラックを走るはずだが、ハーフの距離を走る練習と、このスパイクで10000mを走る練習は異なってくるはず。アシックスのピン無しスパイクは接地するスイートポイントもおおらかにつくられているのはあきらかだ。
2021年度の箱根駅伝。アシックスのシューズを履いた選手はゼロだった。このピン無しスパイクとすでに発売されているロード用2種類のカーボンプレート入りシューズとの組み合わせはトラックと駅伝の走りをシームレスにする起爆剤となるポテンシャルを秘めている。
というようなことを書いたりしている
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