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行け砂岡!

「行け砂岡!」録画しておいた箱根駅伝予選会。日本人トップを狙う集団がラスト1周に入ったとき、つい叫んでしまった。順天堂のルーキー三浦選手が日本人トップになったことや、どの大学が通過し、どの大学が涙を飲んだのか。結果はすでに知ってる。結果をなぞるつもりで観ていた映像で思わず、グッと拳を握ってしまったのは、ラスト1周の鐘とともに城西大の砂岡拓磨選手(3年)が集団からひとり飛び出してロングスパートを敢行した瞬間であった。

:追記 OBでもあるヤクルト金子元気選手から連絡をいただいた「ラスト一周で飛び出たのは砂岡では無く、菊地です笑」菊池選手が抜け出したあと、カメラは先頭を行く留学生集団とその後ろの日本人集団にわかれたため、菊池選手のその後の動きを追うことはなかった。そのため、日本人集団で先頭を走っていた砂岡選手だと観間違えたようだ。とはいえ、砂岡選手だと思って声をかけたことは事実だから、このページはそのまま残しておこう。この予選会では菊池選手は1:01:45で8位。砂岡選手は1:01:52で13位でゴールする。

筆者は砂岡選手と面識があるわけでも、熱烈な城西大学ファンでもOBでもない。3大駅伝への出場もまだない彼にちょっとだけ肩入れしてしまうには理由がある。これまでに彼が走っている姿を観たのはたった2回。どちらも12月31日に早稲田大学所沢キャンパスで行われる「漢祭り」でのこと。「漢祭り」については、「あまりに細かすぎる箱根ロスの過ごし方」で書いた項目があったので、ここに貼り付けておこう。

【漢祭り】早稲田大学には「男祭り」「漢祭り」とふたつの「おとこまつり」がある。前者は早稲田大学の学園祭「早稲田祭」において赤フンドシ一丁で己の夢をマイク片手に大声で叫ぶもの。後者は早稲田駅伝において箱根駅伝「0区」と呼ばれる学内タイムトライアルのことである。であるからして、表記にはくれぐれも注意が必要だ。「男祭たまらん!」「男祭の季節が待ち遠しい」などとツイートすると、趣味性あふれる同士が湧いてくる可能性があるので、気をつけたい。本稿でとりあげるのは、もちろん後者のほうである。毎年、12月31日は朝7時に下高井戸のローソンで友人のポールさんをピックアップ。環八を北上し、関越自動車道にのって所沢で降りて、「漢祭り」を観るために早稲田大学所沢キャンパスへ向かう。翌日、1月1日もニューイヤー駅伝へ向かうため、同じコースを朝6時に出発する。つまり、われわれは12月31日は漢祭、1月1日はニューイヤー駅伝、1月2〜3日箱根駅伝往路復路。1月4日は(優勝しなければ)二子玉川の駒澤大学で朝6時からはじまる朝練まで完遂する駅伝まみれの4日間。「EKIDEN NEWS4DAYS」始まりの日がこの漢祭なのである。初日から飛ばしてしまうと、箱根の往路序盤で我々がブレーキしてしまうことになるので、毎年、「今日はほどほどにしようね」といいながらグラウンドに向かうのだが、その日の10000mで学内最高タイムを出したものが「漢」という称号を手にするだけあって、長距離だけでなく、早稲田競走部が一体をなってムードにのせられ、箱根駅伝本戦を走ることが決まっている選手たちがジョグをしながら応援している姿から選手の調子をチェックしているうちに最終的にガッツリ最後まで見てしまうハメになる。通称「漢祭り」は正式には「早稲田長距離記録会」ちゃんとした公認記録会であり、日本学連のホームページにも「第3回早稲田大学長距離競技会~2019 漢祭~」と掲載されている。つまり、ここで競技を引退する選手にとっても持ちタイムが公認記録として残す最後のチャンスとあって、その走りはアツい。いつしか、早稲田大学だけでなく、他校の選手も出場するようになった。2019年は城西大、東京国際大、中央大、平成国際大、亜細亜大に加え、佐久長聖高校の選手も加わった。アツい戦いを見終えて、グラウンドを出ようとすると、外界と陸上界との結界のような橋のたもとには、早稲田大学競走部部員たちの記録や目標などが貼られている。その中でひときわ目立つのは「箱根駅伝まであと2日」と書かれた大きな日めくりカレンダーだ。「あと2日か」と毎年、つぶやきながら所沢を後にするのをもう何年も続けている。

最初に観たのは2018年の「漢祭り」。「漢祭り」は持ちタイムや走力で組分けされ、最終組が一番もりあがる。砂岡選手が出ていたのは一組目だったか。とにかく序盤のレースであった。

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城西大の集団の中で芸人のチャド・マレーン似というか、FacebookのCEOザッカーバーグ似というか、その顔立ちが目をひいた。(あれ、この集団の後ろで走っている中央大の選手は予選会で集団をひっぱり20位に入った森凪也選手か)

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後半結構きつそうだったな。ともかく、ここで砂岡選手の名前は強く印象に残ったのだ。

そして、翌年も「漢祭り」を見に行くと昨年は序盤の組で苦しんでいた砂岡選手が最終組に出てきた。「おっ。昨年の城西の選手だ。1年で伸びたんだな」そう思いながらレースを観ることにした。

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城西大は箱根駅伝出場権を逃したが、卒業後も競技を続ける荻久保寛也選手(現・ヤクルト)が後輩たちをひっぱった。昨年は序盤の組だった砂岡選手が城西のエース荻久保選手にくらいつく姿。「人は一年でここまで成長するものなのか」というような走り。そのうち、気づいた。これは箱根駅伝出場を逃した上級生として、荻久保選手は後輩になにかを残そうとしているのだと。

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自身の顔をゆがめるほどのペースに食らいついたのは砂岡選手だった。

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そして、男祭りトップでゴール。箱根駅伝は本戦だけでなく、いろんな場所でいろんな物語がつむがれている。縁もゆかりもない大学の、それも知らない選手の走りに感情移入してしまうのは、この物語のおかげだと思う。一昨年と去年の漢祭りの点と点を結ぶだけで、物語が産まれてしまう。箱根駅伝の面白さの本質とは、箱根駅伝以外の日に詰まっている。というのを改めて感じるのだ。

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