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YouTubeからおすすめされる絶妙な音楽たち


 YouTubeで音楽を漁る事は多い。取り敢えず「full album」と検索にかけてみる。検索履歴に蓄積された残骸により好みの傾向がある音楽へ誘われる。選んでいるようで選ばされている。そしてふと気付けばよく知らない日本のアーティストの作品が何百万再生を記録していたりするのを横目にする。コメント欄を覗けば日本人は少数派だと知る。
 個人的にはYouTubeの選曲センスに一定の信頼を置いている。何なら音楽を紹介して欲しいが為に音楽以外の動画はシークレットタブで見たりして住み分けている。履歴を音楽だけにしておきたいからだ。何聴くか迷ったらトップページ。

 YouTubeのセンスに気付いたのはいつ頃からだったか。Gabor Szabo「Dreams」やWilliam Basinski「Watermusic Ⅱ」、高橋竹山「津軽三味線」などなど、思い返せばYouTubeから色々な音楽を勧められてきた。小久保隆、ススムヨコタ、喜多嶋修、福居良、言い出せばキリがない。結構忘れてるんだろうな。
 Worldhaspostrockというチャンネルや、名前は忘れたがストーナーロックというジャンルのチャンネルもやたら目に付いた時期もあった。あんま聴いてないけど。

Gabor Szabo / Dreams
William Basinski / Watermusic Ⅱ
(この画像は動画のサムネであってジャケットではない)
高橋竹山 / 津軽三味線
福居良 / Scenery


 Alfa Mistが流行ったのもYoutubeのおすすめが起爆剤ではないだろうか。後にCDになってタワレコに並んでいた。

Alfa Mist / Antiphon


 アルバムばかり触れていたが、アルバム単位でないものも多い。Aphex Twinの「Stone in focus」に猿が温泉に入っている映像が使われている動画は7年前からあり、再生数は800万回を超えている。通常版には未収録(英アナログ盤とカセットに収録されてるらしい)のこの曲の知名度を飛躍的に上げたのではないだろうか、と勝手に推測している。


 個人的にヘビロテしていたのをもう一つ。毛沢東のプロパガンダ曲の抱き合わせの動画。男性が歌っている「Red sun in the sky」という曲の真ん中に女性が歌う「The people of Yanbian love chairman Mao」という曲が挟み込まれているという変わった構造になっている。実際は別の曲だが毛沢東のキャラソン?という点ではコンセプチュアル?な作品だ。11年前からあり、再生数は3000万に迫る。凄っ。


 オジー・オズボーンのギタリストのザック・ワイルドが日本のテレビに出演している動画がおすすめに出てきた事もあった。ギター好きの方は記憶にないだろうか。おすすめされたタイミングは特にアップロードされたばかりだった訳でもなかった。「YouTubeのアルゴリズム」というヤツは気まぐれなのかな。おすすめ常連動画みたいな構造が出来上がっているのかもしれないし、それならやたら再生数を叩き出す動画があっても不思議はない。運の良い動画たちだ。

 YouTubeではジャケ買いではなく「ジャケ聴き」だ(語感極悪)。買わずとも聴ける。音楽の履歴を吸い取ったYoutubeのトップページは自分だけ宝の山に見える。しかし実際には自分だけではなく、多くの人が聴いたことのないマニアックな雰囲気漂うアルバムを自分と同じようにおすすめされているのだ。
 そういう意味ではYouTubeが年代、国境など見境なく勧めるからこそ海外での邦楽ディグに火が着いたのではないかと思う。もちろん邦楽に限らずだが、日本人からすれば「邦楽ディグられてるなぁ〜」という感覚が強い。
 「こんなニッチな音楽に辿り着いたのは俺だけに違いない」そう悦に入らせてくれる絶妙さがYouTubeのおすすめにはある。まぁ再生数とか見たらどう考えても「俺だけ」が知ってるワケではないんですけど。

 先述の通りクリックするかどうかの決め手はジャケットにかかってくる。フィジカルなら金を出すかどうかの真剣な吟味だったのが試食でいくらでも食える時代。裏を返せばジャケットの魔力が問われる時代なのかもしれない。俺の場合洒落っ気のあるジャケならハズレはそんなに無いだろうとクリックしてしまう。なんと適当な。
 Haircuts for men、MacroblankなんかはジャケでクリックしたくなるVaporwave。無理矢理な日本語がたまらない。

Haircuts for men / ダウンタンブルと死にます
Macroblank / 絶望に負けた


 再生数を稼ぐきっかけはYouTube側のおすすめだろうけど、その後も再生数を伸ばすのは再生数という数字自体かもしれない。全く知らないアルバムが100万再生ぐらいあればちょっと気になるし、ジャケが良ければ尚更だ。数十万再生でも十分気になる。いや、再生数なんか関係なく惹かれるジャケなら見てしまう。アートワークと数字の相乗効果とかありそうだな、くらいの話だ。
 他にもいい感じのアニメのサムネだと再生数が多いのをよく見かける。その感覚は商業利用されるようになっている。と言うか、元々盗まれたものだったのか。Lo-fi Girlは最初ジブリの映像を盗用していた後、似たような娘に変わっていた
 再生数稼ぎの話に戻ると、他には可愛い女のサムネ。谷間。クルアンビンのパンツ姉さん。下らないように思う人もいるだろうが軽視できない気がする。アーティストのライブやらを配信しているチャンネルもサムネが女性だと露骨に回っている印象。この現象は音楽に限らないか。

 YouTubeのおすすめは音楽シーンに多大なる影響を及ぼしている、と思う。よそのサブスクで聴いていても元を辿ればYouTubeで見つけてきた音楽だったりする(個人的な話ですが)。YouTubeで見つけた面白い音楽をサブスクで探しても無かったりもする。
 サブスクに無いニッチ過ぎる音楽とか掘り出し物感の強い音楽はYouTubeに結構ある印象。というかYouTube以外で聴く方法が分からなかったりするものもある。クリーンな音楽が多く陳列されているサブスクに比べると混沌としていて面白い
 オウムソング、北朝鮮のポピュラー音楽、アウトサイダー、著作権的に難しい作品など、楽しいグレーゾーンが広々。先程の毛沢東と一緒に触れたかったが別の機会に。
 YouTubeはあまり浄化されないでいて欲しいと願うばかりだ。今後とも混沌とした音楽を見境なく届けておくれ。


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