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第2章:新しい競争

直立二足歩行がマインドを生み出し、マインドは道具という観念を生み出した。やがて農業革命が起こり、工業革命による科学技術の躍進を経て、情報革命ーー情報の収集量と解析力が加速度的に上昇する時代の只中を、われわれは生きている。

人間同士を始めとするあらゆる事柄の関係性が、数字によって表現される時代。数という抽象概念の解析に長けた者が、この星の権力構造の上方に座することができる。工業革命の結晶として核開発競争ーー東西を二分した冷たい戦争をみるとき、最強の解析力を担う超越的なマインド《超知性》の開発競争は、情報革命の結晶として、第二の静かな冷たい戦争の様相を成している。

超知性の開発は大きく分けて二種類に分類される。

一、生物学的強化
ゲノム編集やブレイン・マシン・インターフェースによって人類のマインドの向上を図る

二、マシン・インテリジェンス
自律的に自己のマインドを向上させることが可能なデジタル知性の創出を図る

前者は、優生学の発展系である。受精胚や精子や卵子のうちから優れた性質のものを選択し掛け合わせる。あるいは、ゲノム編集によって疾患の原因となる遺伝子を排除するといった方法がある。また、脳から発せられる信号を検知し、マシンやデジタル空間を操作するブレイン・マシン・インターフェースは、ロボティクスとの融合により身体能力の強化ーー出力:パワーの増大や、入力:各感覚器官の能力向上を可能とし、人間のあり方を一変させる可能性がある。これらはすでにある程度技術的に達成されており、倫理的障壁を緩やかに越えて次第に生活に溶け込んでくるだろう。

後者に関しては、様々な議論が交わされている。おそらく、まだ自律的に自己のマインドを強化するマシン・インテリジェンスは存在しない。しかしながら、前者で示された人工的超人類の登場によって、今日障壁となっているいくつもの技術的課題は解決される可能性がある。重要なのは、自律的に成長可能なマシン・インテリジェンスの創出は、世界のパワーバランスを大きく覆すということだ。特に、追随者との差をある程度開くことができれば、他の全てを超越したマインドが、ある種の世界統一を実行することも考えられる。

生物学的アプローチにせよ、デジタル的アプローチにせよーー仮に理想的な究極体が誕生しなかったとしてもーー強力なマインドは国家や企業にとって莫大な利益をもたらす。逆の見方をすれば、対抗勢力に遅れを取ることはその組織に圧倒的な不利益をもたらすことになる。国家間や企業間における戦略的重要性から、超知性の開発への投資は止むことがなく、むしろ拡大していくことが必然である。この状況は、それが人類全体を危機にさらす程の破壊的要素を含んでいるにも関わらず、ついに止まることのなかった核兵器開発競争ーーそれが経済競争であることを理解して欲しいーーと相似形を描く。もっとも超知性の開発は、単純に人と文化資産を焼き尽くすのではなく、より根本的に人間のあり方の変更を迫るものであるが。

第3章:四つの感覚器官

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