ワインブックレビュー 『ワインづくりの思想』 銘醸地神話を超えて
**麻井 宇介 著
中央公論新社(中公新書)
2001/09 今は絶版の為Kindle版のみの発売 285p 880円(税込)**
麻井 宇介(本名・浅井昭吾、1930年7月16日〜 2002年6月1日)といえば、現代日本ワインの父とも言われる人で。彼に影響を受けた人は多く、河合香織のノンフィクション『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』を元にした映画も上映された。
映画は、なかなか、いろんな所がオモシロイです。DVDも発売されているようなので、興味があれば観てください。楽しめると思います。
「宿命的風土論」を超えて
良質なワインというものは、ボルドーやブルゴーニュのようなテロワールによってつくられる。
ワインは文化であり伝統が重要であると信じられていた。しかし本当にそうなのだろうか?
「ワインは風土を反映するものなのか」
「科学技術の進歩はワインをどう変えたのか」
「偉大なワインを目指すブドウに究極の品種はあるのか」
「銘醸ワインは『はじめにテロワールありき』か」
「ワインが表現するものはなにか」
など色々な視点からワインづくりを紐解いていく本である。
第二次世界大戦後における醸造技術の向上、品種の世界的な拡散と新しい産地の増加。ワインの新しい時代になりつつある現代において、何が大切なのか。それは『思想』ではないのか。
ワイン作りにおいて「伝統」や「技術」や「知識」も大切だが、『思想』が一番大切ではないのだろうか。その『思想』を具現化するワインをつくるには、『思想』を持つ人間がいなければ、偉大なワインは出来ないのではないだろうか。
ワインは人がつくるモノだという当たり前のことを思い出させる一冊。
◆ワインは日本の文化になったのか
出版された当時よりも今の方がワインもワインを取り巻く状況も変化している。
ワインといえばやっぱりフランスだよね!」なんてことはなくなった。
日本の輸入数量で言えば、第1位はチリワインだしなぁ。
出版時の2001年のワインの消費量は252,648klだったが、2018年には381,956klと1.5倍以上増加している。
ワインが日本の飲食文化の一部になっていると言うことだろう。
質はどうなのか?と言われれば、どう評価してよいのか迷うところであるが、言えるのは世界でもっとも、いろんなワインが買える国ではないか?多様性という観点から見れば、日本は評価できるのではないのだろうか。
ワインの本というのは、ワインをたくさん飲んでいる人やワインを売りたいと思っている人が書いたものが多い。
なのでワイン自体にフォーカスされがちであるが、この本は文化的、歴史的、社会学的な視点からのワインというものが語られている。
しかし、この本は「つくり手=醸造家」が書いた本なので、知識や学問上の話だけではない、体験というベースがある事によっての説得力がある。ワインを本当に理解したいという人に読んでほしい。
日本ワイン好きはには、もちろんのこと普通のワインラヴァーにもお勧めの本です。
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