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■ 其の167 ■ 大資本vs個人のエネルギー

ファミリーマート / 三連ディスプレー / 思考の整理学 / 松本大介


昨年末だったか、今年に入ってだったか。
ファミリーマートのレジの上に、次々と画面が変わりゆく3連の巨大ディスプレーを見たとき、これは凄い!と度肝を抜かれました。
ここまでお金を掛けて宣伝に力を入れるなんて、コンビニ競争は本当に激しいんだなと思いました。
ファミリーマートのホームページを見ると、今年3月時点で全国10,000店に導入すると書いてあります。導入費用が何億、何十億掛かるのか分かりませんが、大企業の組織力を感じさせる宣伝ツールです。
ところが、そんなわたしでも、2~3回も見るとインパクトは無くなり、
今では見上げることも気に留めることも無くなりました。
ファミマに来店するお客さんは、意識的にしろ無意識にしろ、この広告戦略の影響を受けているのでしょうか。

ファミリーマートのディスプレイ


話は変わって、


書店に行くと、平積みでよく見かけるのが
『東大生・京大生に1番読まれた本』として紹介されている外山滋比古著『思考の整理学』です。
あまりの「推し」ぶりが気になっていたので、少し前に古書店で見かけた際、いい機会だと思って買いました。
『思考の整理学』は、今年の二月時点で累計287万部だそうです。
この本の帯には、⇩こんな宣伝文句が書かれています。 

松本さんが書いたPOP

そこまでの派手さや特別感はありません。これを書いたのは岩手県のさわや書店で働いていた松本大介さん。実は入社6年目の2007年に書いたこのPOPがきっかけとなり、200万部超の大ヒットにつながったというのです。
実直で飾らない言葉の強さなのか、
手書き文字の心地よさなのか、
赤・青・黒三色のバランスが絶妙に良いからなのか、
普通そうに見えて、普通ではない力を持っているのでしょう。たぶんこれを書いた瞬間、松本さんの人生が奇跡的なくらい凝縮されて、このPOPになったのだろうと思います。

大企業の文句なしのパワー。
時として、それに引けをとらない個人から生みだされるエネルギー。
大きさは天と地ほど違うのに、まるで原子における陽子と電子のような対等性を感じます。
たった一人が、世の中や時代を変えることだってあるということですね。



POPのエピソードについて、松本さんが当時のことを書いた文章がありますので、最後にそれをご紹介します。

 数か月に一度、各出版社から営業の人がやってきて、アレコレと自社のおすすめや、販売実績を置いていったりするのだが、文庫の売れ行きの悪さをやんわりとは指摘しても、わざわざ軋轢を生むようなことを担当者に言うはずもなく、私はひとり悩み苦しんでいた。
 そんな時、私より年下の筑摩書房の彼が営業に来た。「ウチの文庫の販売数が下がっています。これは外的要因ですか? それとも担当者が(あなたに)変わったからですか?」と、初対面から直截的な物言いだった。外的要因とは、ライバル店の出店や他社の文庫のヒットによるシェアの低下などを指す。自店の文庫ジャンルは満遍なく下がっていたので、原因は明らかに私にあった。事実を指摘され、ちくま文庫だけでも実績を伸ばしてやると、仕掛け販売を目論み、手に取った一冊が『思考の整理学』だった。読後、率直な感想を自作のPOPにしたためた。もっと若い時に読んでいれば‥‥‥云々。
 三か月後、再訪した彼に、ちくま文庫の売り上げ冊数が急増したことを鼻高々に報告した。その大部分は『思考の整理学』が担っていて、突出した売れ行きの「核」を文庫売り場に作れたことで、他社の文庫の売り上げも同時についてきた。若手の彼は、その結果を社に持ち帰り、全国の書店に営業をかけた。
 発売から約二十年間、一年平均八千部の刷部数だった本が、その後、一、二年の間に100万部を突破し、2024年2月現在、累計287万部の大ヒットとなっている。

ちくま No.636

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