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種苗法改正について考えたこと

もはや改正案は通ったから今更感すごいんだけど、私の周りの人たちの中でも賛成反対がわかれていたこの問題。以前話題になった際に少し調べたところ、特に反対する理由はないように思えた…が、しかし最後までNOを言い続けた人たちがいる。しかもいつもなら自分に近しい考えや主張を持っている人たちに反対論者が少なくない。そんなに危ない問題が潜んでいる…のか?改めて考えてみた。素人@勉強中なので間違いもあるかもしれません。

個人的な結論から言えば、反対派の主張する問題点は種苗法の改正内容の外にある気がした。つまり今回の改正単体ではクリティカルな事態にはならないけど、今の農業をめぐる流れで種子・種苗は大丈夫?っていう懸念。でもそれは別の法律や規制で対応すべきで種苗法改正に反対しても有効な手にはならない。

それにしても、どうしてこんなに解釈が割れてしまったのだろう?反対派の主張の中に「農業者への周知が不十分なまま拙速に法案を通そうとしている」との意見があったので、一番はコミュニケーションミス(あるいは単なる不足)かもしれない。あとは農業や食に関して知見のある人たちが反対の声を上げていることか。
加えて、私が調べた時にはいくつかの誤解されやすい表現を見かけた。「海外流出防止」とか「自家増殖一律禁止」などがそうで、なぜこれが誤解を招くかといえば、例えば「海外流出防止」については「直接の歯止めにならないのに不要な改正案を通そうとするのは、何かウラがあるからではないか」(おそらく立ってる前提が違うと思われ)とか、「自家増殖一律禁止」は「農家の権利が奪われる」(一般品種・在来種には及ばない上、登録品種も許諾を得れば可能)とか。言葉だけが独り歩きしてしまうと、それぞれの解釈で語られてしまうので常に文脈の中で言葉を伝える/捉える必要がある。

以下、いくつかの論点で気になったことについて、考えの変遷をメモ。

〜ココがわからなかったよ種苗法改正(目次)〜
・海外への持ち出し制限
・自家増殖一律禁止
・育種の民営化なの?
・一般品種をすべて把握できていない、在来種を守る法律がないから危険?
・まとめ

海外への持ち出し制限

種苗法改正案で、まずわからなかったのが、なんでこれを改正理由にしたんだろう?ということだった。育成者の権利を守ることは必要だけど、反対派の意見「海外で品種登録しない限り、根本的な流通の抑止力にならないので、法改正の理由にならない」は本当その通りだよな〜、って。

これは日本の登録品種が海外で流通することを防ぐっていうよりも、それによる機会損失を防ぐためのコントロールをかけたい、ということなんだと理解した。海外で流通してほしくないのではなく、品種の輸出戦略とセット(当然、外国での品種登録も手段として使いつつ)で育成者権者の利益確保をするためのもの(「無断で自由に」を「指定した国だけ」、「許諾を得て」に変えるのがポイント。種苗の輸出戦略という前提が、意外と共有されていない気がする)。他にも海外で勝手に普及して安価に逆輸入されたら国内のブランド価値が下がるとかのリスクもある(海外リスクについては日弁連の意見書がわかりやすかった)。

農水省の資料では海外への持ち出し制限を最初にあげているけど、本来は育成者権が守られ、育成者が然るべき対価を得るという目的があり、国内では産地指定が可能で(この話はほとんど見かけなかった)、海外では国の指定が可能、というシンプルな話。

自家増殖一律禁止

詳しい解説はネットにたくさんあるので割愛するが、一言でまとめれば一般品種・在来種は対象外であり、あくまでも登録品種に限定されるので、であればむしろ育成者が適正な対価を得られるべきと思う。
そんな中で、気になる記事を見つけた。「日本の育種力は、農家の自家増殖が支えている」。要約すると、「自家増殖を繰り返すうちに突然変異(新品種)が生まれる。自家増殖を原則禁止にしてしまうと、むしろ育種家の促進にならないのではないか」という主張。確かに、自家増殖をする農家全員が育種家になる可能性があると考えれば、裾野は狭まってしまうのかも。でも農水省の資料をよく読めば、「許諾が必要」とあるので絶対禁止ではない。苗を毎年更新して買う農家と、許諾料を払って自家増殖する農家のどっちの割合が多くなるのかはわからないけど。

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(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/attach/pdf/shubyoho-23.pdf)

育種の民営化なの?

前述のように自家採種の許諾制=一般農家の育種機会減↓という可能性がある一方で、実は育種の民営化なの?という大きな流れも気になるところ。本改正が公的種苗事業の衰退を後押しするのみならず、農家だけが育種家を支える構造はかえって共倒れの危険も孕むのではという指摘もあった。

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(https://www.youtube.com/watch?v=N6rsrg6Fh3Q)

これまで官to民への安定安価な種苗提供だったものが、民to民になるのか?種苗は農業にとっての根幹で、インフラみたいなもので、民営化はまずいんじゃない?と思い、現在の育成権利者の官と民の割合を調べてみた。すると育種家の類型別では半数が種苗会社なので、すでに民営化はかなり進んでいると感じた。

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https://www.maff.go.jp/j/kanbo/tizai/brand/kentoukai/attach/pdf/dai1kai-5.pdf

草花・観賞樹を除いてもこんな感じ↓。(ちなみに農水省は上図の品種登録出願数の減少を危惧しており育成者権の保護を図ることで出願数向上にもつなげたい考え)。

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https://www.maff.go.jp/j/shokusan/attach/pdf/shubyoho-23.pdf

すでに民間参入が進んでいる現状において、今回の法改正がさらに公的事業の弱体化を後押しするかどうか。大きく見れば、国は公的機関への予算と人員を削ってあらゆる事業を民営化していく流れの中に種苗事業もある。実際に国の品種登録件数も落ちている。だから不安ではある…予算はますます削られてしまうのかも。食料生産は国の根本だから、国にはきちんと登録品種だけでなく一般品種や在来種も保護して、農家も育種家も存続できる政策を取ってほしい。その中で家族経営や小規模農家も取りこぼさないでほしいと思う。(余談だけど農水省は霞が関1−1−1にあって、まさに国家政策の一丁目一番地だったはずなんだけどなあ)。

一般品種をすべて把握できていない、在来種を守る法律がないから危険

民営化とともに語られるのが、海外企業の国内進出の恐怖。一般品種や在来種に+@の特性を持った種苗を海外企業が開発し、品種登録or特許登録により権利を独占し、農家は高額で種苗を買わされる上に種採りもできなくなる、というもの。これが本当ならいやだ。実は私が反対派の意見を無視できない、ちゃんと調べたいと思ったのも、昔見た「種子を守れ!アグリビジネスとたたかううインド農民」という映画に触発され、種苗の大切さを感じたからだった。

種苗法において権利侵害が問題になるときは、登録品種と一般品種・在来種の区別が重要になる。賛成派は、ちゃんと見分けられるから大丈夫(そうでなければ本制度が成り立たない)と言うし、反対派は必ずしも見分けられるとは限らない(種は変異する、知らず交雑してしまうかもetc)と主張する。一体どっちなのよ〜。
種苗法本文では、一般品種等のことを「公然知られた他の品種」と表現しているので、わずか1軒の庭先だけで細々と残っている在来野菜なんかは太刀打ちできないかもしれない。でもそれこそ土地々々に適した育ち方をした数多の品種の中で、人気のない・メジャーでない品種に企業が目をつける可能性ってどのくらいあるのだろう?とはいえ地方の隅々を歩く種苗ハンターみたいな人が現れるかもしれない。もし在来種や固定種を守りたいのであれば、都道府県で認定するとか、種子条例で保護するとか、ジーンバンクを作るとかの方法がある。種苗法に反対するより、そっちで運動を仕掛ける方が建設的な気がする。そもそも種苗法は一般品種や在来種を守るものではないから…。

と、つらつら書いたが、それよりも私の不安はこのnoteにてだいぶ解消された。いわく、日本の種子マーケットは規模が小さく、その割に種苗会社の数は多く(シェアを取りに行くには非効率)、また中には世界のトップ10に入る企業もあり種子事業に誇りを持っている。だから日本中の種子を海外企業に牛耳られることはまずないという見解。納得。

まとめ

最後に、そもそも種苗法の目的に立ち返れば、品種登録制度によって育成者権を保護すること。そして世界において種苗の市場規模が拡大し、日本の輸出入額も増加傾向にある中(農水省資料より)で、日本の種苗の知的財産保護が十分とはいえない現状を改善するという趣旨は十分に納得できた。

ここまで賛成・反対双方の意見を比較しながら見てきて、例えば「自家増殖一律禁止」のところで述べたように、新品種登録の促進を図りたいという改正意図に反して、自家増殖の制限が育種の裾野を狭める可能性はあるかもしれない。また、公的な種苗事業の縮小への不安も残っている。けれど、まずは育種家が努力に見合った対価を得られるようにするということは前向きな変化だと私は思う。
それはそれとして、在来種・固定種を積極的に守ることはぜひ進めてほしいと思います。


参考
農林水産省資料
 種苗法 
 新旧対照表
 種苗制度をめぐる現状と課題
 種苗をめぐる情勢

youtubeここから見始めました
種苗法について考えよう 林ぶどう研究所
 第一回 農林水産省知的財産課種苗室長 藤田裕一氏
 https://www.youtube.com/watch?v=FXAm_0yMNT4
 第二回 元農林水産大臣 山田正彦氏
 https://www.youtube.com/watch?v=tg9J-1J2lgY
 第三回 在来種・固定種専用の八百屋 高橋一也氏
 https://www.youtube.com/watch?v=ZhOG5_pd78w
 第四回 フリーランスで食の問題に取り組む 印鑰智哉氏
 https://www.youtube.com/watch?v=N6rsrg6Fh3Q
 https://www.youtube.com/watch?v=oDa3y3YBAKs
 第五回 東京大学大学院生 岸本華果氏
 https://www.youtube.com/watch?v=IBYy6mng2Wg
 第六回 JA全青協副会長 果樹農家 高原弘雅氏
 https://www.youtube.com/watch?v=sWpSEtVQwXs

賛成派

林ぶどう研究所
https://note.com/grapelabp

「種苗法改正」について1人の農業者の意見  色々な意見がある中で自分の意見を言うことはとても勇気がいることです。しかし、今回は日本の農業や食料の未来にとってとても大切な事ですので自分の思いをさらされる痛みを覚悟で書きました。この法律改正に関...

Posted by 澤浦 彰治 on Friday, May 22, 2020

日弁連意見書
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/opinion/2020/opinion_201021_2.pdf


反対派
鈴木宣弘氏
https://www.jacom.or.jp/column/2020/05/200507-44177.php?fbclid=IwAR01nizK-4L8QHlyLhnGet42X5OMi85IFXdtDmlig4HVYGrfuAeHboCMEnk

現代農業「日本の育種力は、農家の自家増殖が支えている」
http://www.ruralnet.or.jp/gn/202012/ikusyu.htm

SHIFT「種苗法改正・賛成派の意見を考察し、見解を述べる」
https://shift-pn.com/2020/05/17/%e7%a8%ae%e8%8b%97%e6%b3%95%e6%94%b9%e6%ad%a3%e3%83%bb%e8%b3%9b%e6%88%90%e6%b4%be%e3%81%ae%e6%84%8f%e8%a6%8b%e3%82%92%e8%80%83%e5%af%9f%e3%81%97%e3%80%81%e8%a6%8b%e8%a7%a3%e3%82%92%e8%bf%b0%e3%81%b9/

上記以外にも多数の方のブログ、youtube等で勉強させていただきました。ありがとうございました。








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