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2022/03/18 雨

久しぶりに寒い。
ついこの間まで雪降る日もあったというのに。すっかりここ数日の陽気で耐性がなくなってしまった。雨が降りやまない金曜日はひどく静かで、腕の中で聞く雨音はあんなにも落ち着くのに、そうじゃない時はただただぼんやりとした気持ちになってしまう。体温や寝息を感じながらそっと雨音に耳を澄ます時間は必要な時間だった。ここにいても他所にいても誰といても結局はずっとひとりなのだ、という確信。その、つよくさみしくおだやかな確信による安堵は何物にも代えがたい。お迎えしたばかりの犬が膝の上から笑いかける。もちもちすべすべとした、白く小さなぬいぐるみ。
「あなたはもたれ掛かるわけでも自立するわけでもなくひどく不安定だ。一体どうやって僕なしで生きていくつもりだったんですか」
「君がいないなら君がいないなりにどうとでもしたでしょう、そしてこれからもそれは変わらない」
ちろりと飛び出した灰色の舌をきゅっと掴んでそう答えてやると、犬は満足そうにやわらかく目尻をさげた。