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【Wine ワイン】2021 Overstone Sauvignon Blanc

【Wine ワイン】2021 Overstone Sauvignon Blanc

クリーンな風味と瑞々しい果実味のソーヴィニョン・ブラン

楽天https://a.r10.to/h6dCiu
エノテカhttps://www.enoteca.co.jp/producer/detail/326

■Producer (生産者)
⁃ Overstone

■Country / Region (生産国 / 地域)
⁃ Marlborough / New Zealand

■Variety (葡萄品種)
⁃ Sauvignon Blanc

■Pairing (ペアリング) 
⁃ 甲殻類のグリル

■ Production area overview(生産地概要)
⁃ New Zealand

■プロフィール
18の公式地理的表示「G.I.」
2017年7月27日、ワインとスピリッツを対象にした「New Zealand Geographical Indication Wine and Spirits Registration Act ニュージーランド・ジオグラフィカル・インディケーション・ワイン・アンド・スピリッツ・レジストレーション・アクト(地理的表示登録法)」が成立・発効した。これを受けて生産者団体「ニュージーランド・ワイングロワーズ(New Zealand Winegrowers)」は、準備を進めていた18ワイン生産地域でニュージーランド知的財産局(IPONZ)に「G.I.」を申請した。2020年7月までに18地域が登録された。加えて、ニュージーランド、ノースアイランド、サウス・アイランドは法令によってG.I.認定されている。
 この「G.I.」登録をみてみると、マールボロやセントラル・オタゴのようにサブ・リージョン化が進行している大きな産地であっても、それぞれのサブ・リージョンでG.I.申請をしていないのに対して、歴史の古いオークランド地域は、そのなかでも歴史的に重要なマタカナやクメウ、独自の個性が分かりやすいワイヘケ・アイランドはG.I.登録されている。オタゴ北部の「ワイタキ」が、セントラル・オタゴとは異なる、独立した産地として「ワイタキ・ヴァレー・ノースオタゴ」として登録された。


■遅れてきた者の利点、活かしたワイン産地
 ニュージーランドワインが世界的注目を集めるようになったのは、1980年代後半のソーヴィニヨン・ブランの登場、1990年代末からのピノ・ノワールの登場と、ごく最近のこと。カリフォルニア、豪州、チリなどの新世界産地に比較すると、「遅れて来た」存在である。また、代表品種をソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールに据えた点でも、それまでの新興産地とは大きく異なる。
 「遅れてきた」者の利点は、欧州だけでなくカリフォルニア、豪州など先輩産地が積み上げた最新の知見や栽培・醸造技術の蓄積をそのまま活用できたことだ。産地の選定から、苗木の入手、ワイナリー設備の建築方法、プロモーションに至るまで、大きな迷いなく一直線に、短時間に産地形成することができた。
 また、赤ワインを気候的栽培適性の点から「ピノ・ノワール」生産に焦点を定めたことは、品種の特性上大きな資本による大量生産に馴染まず、むしろ世界中からピノ・ノワールでワインを造りたい「個人」を呼び寄せることになった。
地元の若い醸造家らも国内ワイナリーにピノ・ノワール造りの技術情報・好事例が乏しいことから、積極的にブルゴーニュやオレゴンに研修に赴き、帰国後に中心的な役割を果たしていった。
 比較的安価な栽培適地、ワイン産業のインフラ、教育環境がまがりなりにも揃い、「ライフスタイル」として、人生の選択として、ワイン造りやブドウ栽培を求める世界の「個人」の受け皿になりえたことが、「量」だけでなく「価値」の成長を促す大きな原動力となった。
 独特なスタイルのソーヴィニヨン・ブランで輸出をスタートできたことで、高価で売り出すことに成功した。異なる産地から生まれるピノ・ノワールも、これに続いた。外国人と新しい世代による産業基盤の構築が、90年代後半以降本格化することで、現在の「ニュージーランドワイン」のイメージを創りあげていった。日本人オーナー醸造家の数が増え、日本の造り手の研修先ともなり、間接的に「日本ワイン」の品質改善にも寄与している。
 多様性を支持・奨励するニュージーランド・ワイングロワーズは、より多くの女性の活躍や登用をサポートするため、2017年より 「Women in Wine ウィメン・イン・ワイン」 プログラムを実施している。
 ワイン業界で働くあらゆる立場の女性を対象に、メンター制度やネットワーキングの機会を設けたり、スキルアップのための情報提供を行っている。


■ソーヴィニヨン・ブランが生産量の7割以上占める
 ニュージーランドは南太平洋に浮かぶ、北島と南島の2つの主要な島から構成され、その距離は南北1,600kmにおよぶ。国土面積(268.680㎢)は、日本のほぼ7割の大きさをもちながら、総人口(469万人)は福岡県全体(505万人)にも満たない。首都は北島のウェリントン。オークランドが最大都市で、人口の3割が集中している。主要な産業である牧羊は減少し続けているものの、約3,000万頭と人間よりも依然圧倒的に多い。
 ワイン産地は大きく10に分けられ、南緯35度から45度の間に分布している。ブドウ栽培面積は40,323ha(2020年)で、ボルドー全体の3割程度の大きさだ。ワイナリー数は717(2020年)。ワイン総生産量は3,290,000hℓ(2020年)。2020年のブドウ収穫量は45万7,000tであり、品種からみれば、この72.3%にあたる32万6,058tをソーヴィニヨン・ブランが占める。産地からみると、南島マールボロ地域の収穫量が全体の75%の34万3,036tとなっている。生産量の大きな部分をマールボロのソーヴィニヨン・ブランが担っている。ちなみに1995年まで最大生産量を誇ってきた品種は、ミュラー・トゥルガウだった。96年から2001年まではシャルドネ、そして2002年以降現在までソーヴィニヨン・ブランが最大と、主要品種は目まぐるしく移り変わり、同時に「ギズボーンの縮小」と「マールボロの拡大」という産地の移り変わりも映し出している。
 2位がピノ・ノワール(3万4,105t、7.4%、赤ワイン用品種として最大)、3位がピノ・グリ(2万8,849t、6.3%)。シャルドネ、メルロ、リースリングと続き、ミュラー・トゥルガウは、ほぼ姿を消している。
 ワイン生産者を規模別にみると、全体の87.5%(628社)が年間販売量2,000hℓ(22,000ケース)以下の小規模生産者。40,000hℓ(44万ケース)以上販売する生産者はわずか20社(2.7%)で、大多数は小規模生産者だ。1995年当時のワイナリー数はわずか204社だった。


■輸出が全販売量の8割以上占める
 販売面はどうか。全輸出量286万461hℓのうち87%がソーヴィニヨン・ブラン(2020年実績)となっており、いかに1品種への産業依存度が高いかがうかがえる。国内ワイン消費量はおよそ横ばいだが、輸出量はこの25年間、若干のでこぼこはあるものの、右肩上がりで伸長が続いている。過去10年平均でニュージーランドワイン全販売量に占める輸出割合は80%程度で、輸出を前提とした生産構造となっている。近年ボトル商品の伸びよりも、バルクによる輸出の伸びが大きい(2021年3月発表の直近12ヶ月間実績で19%増)。これは英国など消費地でデイリーワインがボトル詰めされる傾向を如実に反映している。
 2020年の輸出額は、前年比5.3%増で19億2,269万NZドル。輸出先トップ3ヵ国の米国、英国、豪州で、輸出量の約8割、金額ベースで75%を占めている。上位2国は堅調に伸びている一方、生産者の間では、第2、第3のより高単価のワインの輸出先が模索されている。輸出先第4位のカナダは、ℓ当たりの単価が11.07NDドルと上位3国より高く、アジア勢は、 中国(@13.34NZD)、シンガポー ル(@14.40NZD)香港(@13.19NZD)と、高単価のワインを輸入してる。 日本は輸出国第11位であるが、ℓ当たり11.69NDドルと香港に次いで単価が高い(いずれも2020年実績)。
 ワインはニュージーランドにとって第7位の輸出品目で、100ヵ国以上に輸出されている。


■スクリューキャップの普及
ジェフリー・グロセットを筆頭に豪州クレア・ヴァレーのワイン生産者13社が、2000年ヴィンテージから白ワインにスクリューキャップ(STELVIN®︎ ステルヴァン)を使用することを宣言してから、これに呼応してニュージーランドでは2001年、Kim Crowford キム・クロフォードが初めてコマーシャルワインに導入。他のワイン生産者らもスクリュー栓の使用を積極化する。白ワインだけでなく、赤ワイン(主にピノ・ノワール)にも波及した。現在、「99%以上のボトルワインにスクリュー栓が使用されている」(ニュージーランド・ワイン・グロワーズ)。


■近年のヴィンテージ情報
 ニュージーランドは比較的冷涼な気候で、生育期間に雨の影響を受ける産地も多いことから、年ごとの収穫量が安定しない。ha当たりの収穫量をみると、2014年12.5t、2016年12tと豊作であった一方、2015年は遅霜の影響で9.2t、2017年(10.7t/ha)と2018年(11.0t/ha) は、収穫時期の雨に悩まされた。 2019年(10.6t/ha) は、観測史上3番目に暑い夏を記録。雨が少なく安定した天候に恵まれたため、収穫量は少ないものの全体的に凝縮度の高い上質なワインと なった。
 2020年は新型コロナウイルスの世界的感染拡大を受け、3月26日に政府が国境を封鎖。ワインは国の「Essential Busines(必須産業)」とされ、進行中の収穫や醸造作業を継続することは認められたが、収穫の人員を海外からの労働者に頼ることができなくなり、ソーシャルディスタンスを守りながら限られた地元の人員だけで執り行われた。幸い主要産地は天候に恵まれたため、収穫高は45 万7千トンで前年比10.6%増となった。ロックダウン中、営業停止となっていたセラードアやレストランは5月中に営業再開したが、各国同様、ワインメーカーの海外マーケットへ出向いてのプロモーション活動はまだ制限される中、オンラインでの情報発信が重要度を増している。
 2021年の収穫高は、全体で前年比19%減の37万トンと報告されている。春に気温が上がらず、シーズンを通して冷涼で、特に遅霜の被害が大きかったワイララパ、マールボロ、ネルソンでは21~33%の収量減、なかでも甚大なダメージを受けたワイタキ・ヴァレーでは、例年の2割のみの収穫高となった。一方、セントラルオタゴには被害はなく、前年比23%増の豊作となった。


■歴史
 前述のとおり、世界のワイン市場にニュージーランドワインが本格的に登場するのは1980年代後半以降にソーヴィニヨン・ブランが登場するようになってからである。その際に、主要ワイン産地は北島から南島へと移っていった。それまでは、他の品種による主に北島でのワイン造りにとどまり、国内消費主体の小さな産業だった。


■19世紀黎明期
 ニュージーランドに初めてワイン用ブドウが植えられたのは1819年。英国国教会(聖公会=Anglican)の英国人宣教師Samuel
Marsden サミュエル・マースデンが、オーストラリアのシドニーから持ち込んだ、種類の異なる100本あまりの苗木を、北島ベイ・オブ・アイランズのKeri Keri ケリケリというところに植えたのが最初だ。原住民マオリ族に農業を教える目的で、試みられた。しかし、この事象では、ブドウがワインに醸造された記録は残っていない。
 実際にニュージーランドで最初にワインを造ったのは、「オーストラリアのブドウ栽培の父」であるスコットランド人James Busby ジュームズ・バズビーだ。1836年に北島ノースランドのWaitangi ワイタンギに開いたブドウ畑から生産した。ワインは、英国軍に販売したという。同氏は、英国政府からニュージーランド駐在弁務官に任命されており、1835年に国旗の制定やマオリ首長による独立宣言署名などをとりまとめている。その後1840年5月に、ニュージーランド全土はイギリスに併合され、1852年「ニュージーランド自治領」となった(1947年に正式な独立国となる)。その後1850年に設立されたカトリック教会系の「Mission Estate Winery ミッション・エステート・ワイナリー」(ホークス・ベイ)や、1892年ベルナール・チェンバース氏が始めた「Te Mata テ・マタ」など、徐々にワイン生産が北島各地で勃興してくる。
 1898年から99年にかけてノースランドのWhakapirau ワカピラウにフィロキセラが発見され、1902年に政府のブドウ栽培技士Romeo Bragato ロメオ・ブラガートにより、アメリカ系台木が持ち込まれた。これにより台木に接木したブドウ苗木が普及するようになる。


■20世紀前半クロアチア(ダルマチア地方)移民によるワイン造り
 1902年、レバノン移民のAssid Abraham Corban アシッド・エイブラハム・コーバンが、オークランド郊外の「Henderson ヘンダソン」に4haの土地を購入。1909年から造ったワインを販売した記録が残っている。これが「コーバンズ」の始まりとなる(ニュージーランド2位の規模にまで成長し、2002年に最大手モンタナにより買収。現在ブランド名だけが残る)。
 ダルマチア地方(現在のクロアチアの一部)から、厳しい経済環境と徴兵を逃れるために移民したJosip Petrov Babich ジョシップ・ペトロフ・ビッチは、北島の「Awanui  アワヌイ」北部で1916年、ブドウ栽培を始める。1920年代からオークランド近郊のヘンダソンでワイン造りを本格化させ、現在までつづく「バビッチ」となる。「Babich バビッチ」(1916年設立)、「Nobilo ノビロ」(1943)、「Montana
 モンタナ」(1944)、「Kumeu River クメウリヴァー」(1944)、「Villa Maria ヴィラマリア」(1961)、それに「Providenceプロヴィダンス」(1990)にいたるまで、いずれもクロアチア(ダルマチア)移民をオリジンとしている。クロアチア(ダルマチア)からの移民が、母国で培ってきたワイン文化をもとに、オークランド周域でのワイン産業の基盤を整える役割を果たした。現在に至るまで、その存在感は小さくない。


■20世紀後半酒精強化ワインからテーブルワインへ
 20世紀前半までのワイン造りは、オークランド周城でハイブリット種による酒精強化ワイン生産が主体だった。その後ワイン生産者は、産業の拡大とよりブドウ栽培に適した気候を求めてギズボーン、ホークスベイと北島の東側へ移動していく。1970年代に入るまでは、南島はその寒さから、ブドウが育つとは考えられていなかった。1960年代にかけて、ドイツのガイゼンハイム研究所Helmut Becker ヘルムート・ベッカー博士の指導により、早生・豊産で、様々な土壌に適応するミュラー・トゥルガウの栽培が、ギズボーン地域で盛んになる。このことは、酒精強化ワインからテーブルワイン生産へと消費が移る大きな転換を反映したものでもある。酒精強化ワインから、テーブルワインへの転換は、日本を含む世界のワイン市場でみられた変化と同じ潮流にある。
 そして80年代後半になって、シャルドネやソーヴィニョン・ブランの生産が南島で高まるにつれ、これらハイブリットとミュラー・トゥルガウは、過剰在庫・安売りの原因となっていった。政府は1986年、haあたり6.175ドルの補助金を付けた「抜根政策」を打ち出す。すると当時の栽培面積の4分の1にあたる1.517haのブドウ畑が、処分された。これは、価格の安定と、南島での新たなシャルドネ、ソーヴィニョン・ブランの栽培拡大を後押しすることになった。
 また、1982年から90年まで政府のブドウ栽培技士を務めたRichard Smart リチャード・スマート博士の指導により、「キャノピー・マネジメント」が導入され、飛躍的に栽培技術も向上した。
 2004年から、オークランド大学がボルドー大学との共同研究を始め、ボルドー大学の故富永敬俊博士の指導の下で、ソーヴィニヨン・ブランのアロマ前駆体物質(チオール化合物:3メルカプトヘキサノール=略称3MHなど)の計測方法などを学び、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランの品質向上に寄与する研究をするようになっている。


■1970年代後半マールボロとマーティンボローの誕生
 1970年代前半、当時の大手ワイン生産者「モンタナ」は、ワイン生産拡大を念頭に、新たな土地開発の必要に迫られていた。この要請に応える形で、政府の研究機関「DSIR」(=科学、産業調査局)所属の土壌学者Derek Milne ディレック・ミルネ博士が、フランスやドイツの銘醸地の条件を調べ、その後ニュージーランド国内各地の気候や土壌を分析・調査した。結果、現在の「マーティンボロー」が、気候がブルゴーニュと似ており、ワイン用ブドウ栽培に最適だと推奨した。しかし栽培面積が狭いことから、この推奨は断念された。博士が2番目に推奨したのが、南島「マールボロ」だった。
 大きな土地を探していたモンタナ社は1973年、ごく短時問で秘密裏のうちに1,173haもの巨大な土地をマールボロに取得する。これが現在の「Brancott Estate ブランコット・エステート」となっている。当時、地元ではマールボロはブドウ栽培には「寒すぎる」として、可能だとは考えられていなかった。最初はミュラー・トゥルガウやカベルネ・ソーヴィニヨンが植えられ、75年にソーヴィニヨン・ブランが栽培された。風が強く、厳しい自然環境のために、栽培方法を確立するのに当初は試行錯誤をくり返した。
 その後、相次いで競合ワイン生産者が進出してくる。冷涼なことから、同産地は重要なスパークリングワイン産地としても、発展していく。
 一方、「マーティンボロー」がブルゴーニュの気候と似ているというミルネ博士のレポートは1978年、一般に公開された。この内容に興味をもった酪農青年クライヴ・ペイトン氏(1980年「Ata Rangi アタ・ランギ」を興す)、ニール・マッカラム氏(1979年「Dry River ドライ・リヴァー」を興す)、それにミルネ博士自身(1980年「Martingorough Vineyard マーティンボロー・ヴィンヤード」を興す)、アランチフニー氏(のちに急逝)の四者がマーティンボローでワイン造りを始めることになる。これが産地「マーティンボロー」の始まりとなった。


■1980年代前半限られた種類のピノ・ワール・クローン(苗木)
 ブルゴーニュに似ている気候条件だと分析されていながら、マーティンボローの生産者は、優良なピノ・ノワールの苗木入手に苦労していた。スイスのヴェーデンスヴィル研究所経由でもたらされたピノ・ノワール・クローンは「10/5(テン・バイ・ファイブ)」の名で、1960年代から存在していた。カリフォルニア州では「ヴェーデンスヴィル・クローン(Wadensvil)」と称される。他のクローンと比較されると、相対的に華やかさに欠け、やや地味で単調という評価を受けやすいが、この比率が高くとも高評価を得ている生産者は今でも少なくない。
 70年代には、カリフォルニア州デイヴィス校から「UCD5」など、複数のクローンがニュージーランドにもたらされる。UCD5は、「ポマール・クローン」と通称されるもので、デイヴィス校のHarold Olmo ハロルド・オルモ博士が1940年代に、「シャトー・ド・ポマール」の畑から採取してきたものだと、されている。色調豊かで、濃く、バイオレットの香り、肉厚な果実の特徴をもっている。これら2つのクローンが、70年代にニュージーランドで入手可能な代表的なピノ・ノワール・クローンだった。
 70年代後半からは、造り手らが工夫して、様々なクローンを入手していく。
 1970年代半ばのこと。オークランド空港で税関職員をしていたMalcolm Abel マルコルム・エイベル氏は、ある日フランスから帰国した客の手荷物から、ブドウ樹の枝を発見する。聞けば、ブルゴーニュの「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ」の畑から、取ってきたものだという。エイベル氏は、これを帰国客から没収する。自身もオークランド郊外でブドウ栽培ワイン造りをしていたエイベル氏は、この枝を検疫通関後に、自分の畑に植えてしまう。マーティンボローでワイン造りを始めようとしていたクライヴ・ペイトン氏は、ピノ・ノワール栽塔をしているエイベル氏の存在を知り、同所でワイン造りを手伝う。その見返りとして、この枝の来歴を知り、枝をもらい受けた。問もなくしてエイベル氏は急逝した。
 アタ・ランギのブドウ樹のほとんどは、当初このエイベル氏のクローンによるものだけで仕込まれていた。現在は苗木屋を通じて「DRCエイベル」「アタランギ・クローン」などと呼ばれて流通するようになっている。特徴は、成熟がやや遅く、骨格(タンニン)がしっかりとしており、黒系のフルーツをもたらす。素性ははっきりしないものの、優れたクローンのひとつとして、ニュージーランドで位置づけられるようになっている。


■1980年代後半ピノ・ノワール「ディジョン・クローン」の登場
 そして1988年以降もたらされるピノ・ノワールの苗木が、ディジョン・クローン通称「Dijon Clones」だ。クライヴ・パットン氏は、より複雑な味わいを求め、新しいクローンが必要だと考え、オレゴン州の友人に問い合わせる。曲折あり、直接フランスに依頼し、1988年に「115」番を入手する。その他複数のルートから、他の番号のものがニュージーランドにもたらされる。
 80年代、新世界で普及当初「ディジョン・クローン」「ベルナール・クローン」(ブルゴーニュの造り手にこの名称は現在も通じない場合がある)と呼ばれていたのは113、114、115、667、777(トリプルセブン)の5種類で、いずれもモレ・サンドニの「ドメーヌ・ポンソ」から採取された枝だった。
 ディジョン・クローン5種類の大まかな共通の特徴は、比較的早く適熟し、房は手のひらに取収まる大きさで、密着している。アロマ華やかでエレガント、明るい赤いフルーツに持ち味があるとされている。あまり暑すぎる栽培地では、その魅力が出にくいとの指摘もある。
 ニュージーランドでは現在、これら「10/5」「UCD5」「DRCエイベル」「Dijon Clones ディジョン・クローン」が、ピノ・ノワール生産の基礎を成すようになっている。一つのクローンに偏るよりは、求めるワインのスタイルに応じて、複数をバランスよく組み入れるブドウ栽培が一般的だ。ピノ・ノワールほど変異しにくいソーヴィニヨン・ブランのクローンについては、これまであまり語られてこなかったが、「ソーヴィニヨン・ブランのマスセレクション」を意味する「Savvy MS」が大部分を占めている。これは「UCD Clone 1」がニュージーランドで繁殖を繰り返し定着したもの。2000年代になり、ギズボーンのRiversun Nursery社がロワール(ENTAV-INRA ®︎ Clones 242、376、530)、ボルドー(ENTAV-INRA ®︎ Clone 905)、イタリア(M1、M2)からクローンを輸入して適性を調査している。また、シャルドネについては、Mendoza Clone、UCD Clones 6と15、Clone B95の4種が主に栽培されている。


■国際的ワインシンポジウムの成功と発展
 ニュージーランドのピノ・ノワールが、短期間に発展した要素の中に、生産者間の情報交換を活発にし、品質改善に寄与した国際的ワインシンポジウム「Pinot Noir NZ」があげられる。2001年から4年に1回、ウェリントンで3日間にわたり開かれ、20周年記念となる第6回Pinot Noir NZは2021年にクライストチャーチでの開催が発表された。過去5回の開催では、Jancis Robinson MW ジャンシス・ロビンソン、Oz Clarke オズ・クラーク、Matt Kramer マット・クレイマー、Tim Atkin MW ティム・アトキン、Allen Meadows アラン・メドウズ、James Halliday ジェームス・ハリデーなど海外のワイン・ジャーナリスト、批評家や生産者・研究者を招き、ニュージーランド各産地のピノ・ノワールがどのように発展・成長しているかをさまざまなトピックで議論したり、各産地のワインを試飲したりする、消費者ワイン業界関係者一体の大きなイベントへと発展してきた。
 同様に、米国オレゴン州で開催されている「International Pinot Noir Celeblation (IPNC)インターナショナル・ピノ・ノワール・セレブレーション」をヒントに始まったセントラル・オタゴの生産者が主催する「Central Otago Pinot Noir Celebration」は毎年開催されており、やはり国際的なピノ・ノワール産地としての注目を高めている。一方、2016年には「International Sauvignon Blanc Celebration」がマールボロで発足。2回目の開催となった「Sauvignon NZ 2019」では、世界中から200種類以上のソーヴィニヨン・ブランを集めて専門家によるセミナーや食との相性などが検証され話題となった。これらの国際的ワインシンポジウムはジャーナリストに情報を世界に発信してもらう点でも、強力なマーケティングツールとなっている。


■マオリ文化との融合
 ニュージーランド政府は80年代後半以降、国の重要政策として、先住民であるマオリ民族文化との融合を積極的に進めている。自国のアイデンティティーをマオリ民族の自然観から導きだそう、という大きな潮流にある。ワイン産業にもこの影響は色濃く浮かびあがりつつある。象徴的なのは、「テロワール」と重なるマオリ語の概念「Turangawaewae トゥーランガワエワエ」と呼ばれるもので、「人間が結びついている土地」を意味する。つまり「土地が人間を形づくり、人間が土地を形づくる」土地と人間の相互供与から、ワインが生まれる、と考える。人間が「テロワール」を顕在化させた発見者という高位の立場ではなく、土地に働きかけた人間も、土地に形づくられ、土地の一部となる存在だ、と説く。2017年開催のPinot  Noir Conference ピノ・ノワール・コンファレンスで、主要テーマとして、ワイン生産者らにより語られた。本格的なワイン産業の勃興からわずか30年ほど。欧州人を先祖にもつワイン産業ながら、アジア・南太平洋に源流をもつマオリ文化から、「テロワール」に代わるワイン造りの言葉を導きだそうというところに、強い自立心と自信がうかがえるようになっている。


■気候風土
 日本列島のように南北に長い。北島の亜熱帯な雰囲気があり、トロピカルな植生がみられる「ノースランド」や「オークランド」。風が強く、昼夜の寒暖差の激しい「マーティンボロー」、唯一の半大陸性気候で、年間降雨量が400mmと極端に乾燥している南島「セントラル・オタゴ」まで、多様な気候条件がみられる。一般化して語るのが困難なほど違いが大きい。南島には中央を背骨のように「サザン・アルプス」山脈が走っている。このアルプスが、主に西側からの悪天候を遮る役割を果たしている。タスマン湾に近いネルソンは例外で、サザン・アルプスによる庇護(ひご)が限定的で、降雨量が多い。



■食文化
 移民国家であることから、多様な食文化がみられる。 英国の影響を受けたポテト料理や「フィッシュ&チップス」羊・ 牛肉のバーベキューを始め、80年代以降の移民政策の緩和を受けて、イタリア、タイ、マレー、中華、韓国、和食(寿司)など、様々な食文化が花開いている。 先住民マオリ族のハンギ 「Hangi料理」(熱した石の上で葉や布でくるんだ食材を蒸し焼きにする)やポリネシア料理などの伝統食も現代的なアレンジを得て存在している。また、Pavlova パヴロヴァはニュージーランド伝統のメレンゲと生クリーム、フルーツを使った子供から大人まで人気のスイーツだ。
 大都市オークランドやウェリントンにおけるレストランの流行は、シドニーやメルボルンとよくシンクロしているといわれているが、オーストラリアと比較するとホスピタリティー産業のスタートが20~30年ほど遅れているので、まだまだ発展途上である。また、 コロナ禍による営業規制の影響で残念ながら閉店してしまったレストランやワインバーもあり、ワイン・レストラン業界は苦難に直面している。
 各家庭にはバーベキューの器具が整っており、週末のタ食によく楽しまれている。日本でも近年人気の高いラムは世界一の輸出量を誇る。新鮮な魚介類も豊富で、ムール貝や牡蠣(かき)の養殖が盛ん。 Green Mussels グリーン・マッスルはマールボロの特産 物、 Bluff Oyster ブラフ・オイスターはニュージーランド国内で最高級と称される。沿岸部に住む人々は、 クレイフィッシュ (伊勢エビ) やアワビ (Paua パウアというNZ固有種) を獲ることを楽しんでいる。また、春にワイパラなどで獲れるトリュフは、レストランシーンでも重宝されている。
 ワインは、これら日常の食事を楽しむのによく溶け込み、主要な酒類として重要な役割を果たしている。 人口1人当たりワイン消費量は18.4ℓ。なお、大量のソーヴィニヨン・ブラン をオーストラリアに輸出しているのとは反対に、歴史的にも現在も、豊かな果実味と骨格をもつボルドー系品種やシラーズなどの赤ワインは豪州産が好まれている。ワイン輸入は、豪州産が331万ケースと断トツで、2位フランス以下を大きく引き離している (2020年実績)。


[2021年の主な品種別栽培面積とブドウ生産量]New Zealand Winegrowers:Vineyard Resister 2021 / Annual Report 2020


[白ブドウ] 
面積(ha)2021年

生産量(t)2020年
Sauvignon Blanc ソーヴィニヨン・ブラン
25,326
326,058
Chardonnay シャルドネ
3,194 
27,568 
Pinot Gris ピノ・グリ
2,774 
28,849 
Riesling リースリング
634 
4,510 
Gewurztraminer ゲヴュルツトラミナー(ゲヴュルツトラミナー)
193
1,167 
Sauvignon Gris 
ソーヴィニヨン・グリ
106
880 
Viognier ヴィオニエ
69
235 
Albarino アルバリーニョ
54
284
Gruner Veltliner グリューナー・ヴェルトリーナー
40
369 
Semillon セミヨン
28
292
Arneis アルネイス
10
162
Muscat Varieties マスカット系
7
234

[黒ブドウ] 
面積(ha)
生産量(t)

Pinot Noir ピノ・ノワール
5,779
34,105
Merlot メルロ
1,086
11,166
Syrahシラー
434
2,392 
Cabernet Sauvignon カベルネ・ソーヴィニヨン
217
1,210
Malbec マルベック
101
793
Cabernet Franc カベルネ・フラン
90
452
Tempranillo
20
N/A

白ブドウ+黒ブドウ合計
40,323
457,000
*合計には、表記していない品種も含む



■主なブドウ品種
 主なブドウ品種の栽培面積は、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・グリ、メルロ、リースリングの順で大きく、量産・販売しやすいソーヴィニヨン・ブランの面積が圧倒的に大きい。また、赤ワインはピノ・ノワールが、最大。ソーヴィニヨン・ブランの栽培は、マールボロに偏っている傾向が強いものの、ピノ・ノワールは、マーティンボロー、セントラル・オタゴ、マールボロ、カンタベリーなど各地に広がり、それぞれから特徴あるものが造られている。
また、近年ではアルバリーニョやグリューナー・ヴェルトリーナー、ガメイなども注目されている。


■ワイン法と品質分類
 ニュージーランド食品衛生安全局(NZFSA)が、オーストラリア・ニュージーランド食品基準規約、1981年制定の食品法、2003年の改訂ワイン法など一連の法律に基づいて、ワイン生産の基準とラベル表記を管理している。ラベル表記は、2007年ヴィンテージから「85%ルール」が適用されている。単一の品種名・収穫年・産地名を表記する場合は、それぞれ85%以上の当該品種・当該収穫年・当該産地のブドウを使用しなければならない。複数の品種・収穫年産地を表示する場合は、使用比率の多い順に表示する。
 亜硫酸、ソルビン酸、アスコルビン酸といった添加物の表示だけでなく、国内ではアレルギーをもつ消費者に配慮して、醸造過程で用いられ、製品には残っていないと考えられる卵白などの表示も2003年から義務づけられている。
 また輸出されるすべてのワインに対して、輸出適格審査を受けることが義務付けられている。

 2006年11月に地理的表示(Geographical Indication ジオグラフィカル・インディケーション)制定法が成立、2017年7月に「地理的表示登録法」が成立。18ワイン生産地域でG.I.を申請、2020年7月までに全18G.I.が登録された。なお、ニュージーランドワインの輸出振興マーケティング活動は「New Zealand Wine Growers ニュージーランド・ワイン・グロワーズ」が担っている。事業は、ワイン生産業界向けの調査・統計の整備、イベントの主催など。現在、ブドウ栽培者とワイン生産者からの賦課金により運営されている。正式な成立は2002年。また、独自の環境保全型農法「Sustainable Wine Growing New Zealand サステイナブル・ワイン・グローイング・ニュージーランド」の推進を積極的に行っている。現在ブドウ栽培地の96%が、この認証を受けている。2016年の報告書によると、92,000㎥の廃棄物が埋め立て処理から転換され、2,500haの農地が、生物多様性保護の為に確保されている。
 さらに、有機農法への取り組みも推進しており、2019年ヴィンテージ時点で、111のブドウ栽培者と73ワイナリー。ニュージーランド・ワイン・グロワーズは、生産者団体「Organic Winegrowers New Zealand(OWNZ)」の活動も支援している。


■ワインの産地と特徴
[2021年産地別栽培面積(ha)とブドウ生産量(t)
出典:New Zealand Winegrowers:Vineyard Resister 2021/Vintage Indicators 2021

面積(ha)
生産量(t)
Marlborough マールボロ 
28,360
269,521 
Hawkes Bay ホークスベイ 
643 
41,153 
Central Otago セントラル・オタゴ 
2,024 
10,324 
Gisborne ギズボーン 
1,183
17,450 
Waipara Valley ワイパラ・ヴァレー 
1,479
7,291
Canterbury カンタベリー 
1,092 
7,804
Nelson ネルソン 
1,092
7,804
Wairarapa ワイララパ 
1,096
3,131
Northland ノースランド
74
245
Waitaki Valley
ワイタキ・ヴァレー
65
23
Waikato/Bay of Plenty ワイカト/ベイ・オブ・プレンティ
19
132
合計 
40,323
370,000
*合計には、表記していない品種も含む


■北島
1.Northland ノースランド(G.I.)
 1819年にベイ・オブ・アイランズのケリケリに、ニュージーランド初のワイン用ブドウが植えられた。ワイタンギは、初めてのワインが造られた場所。暖かく、湿気があり、ブドウ栽培に必ずしも好適とはいえないエリアだが、カベルネ・ソーヴィニヨンやシラーで興味深いワインが登場している。2021年の栽培面積は74ha、ブドウ生産量は248t。

2.Auckland オークランド(G.I.)
[ブドウ品種]
白:シャルドネ
黒:カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ
 ヘンダソン、クメウを含む歴史的に重要で、まだ大手ワイン生産者が残っている「オークランド西部」、北部の「マタカナ」、そして「ワイヘケ・アイランド」と大きく3つのエリアに分けられる。それぞれが、あまりにワインの特徴が異なるために、一般化するのが難しい産地だ。

Kumeu クメウ(G.I.)
 20世紀初めから、クロアチア(ダルマチア地方)移民によってニュージーランドワイン産業の礎が築かれた地域。火山性土壌由来の粘土質で、砂岩や泥岩もみられる。年間降雨量は1,200mmと多く、湿度も高い。にもかかわらず、この地域にはニュージーランドを代表するシャルドネ生産者のひとつ「Kumeu River クメウ・リヴァー」が存在する。醸造責任者Michael
Brajkovich マイケル・ヴラコヴィッチは1987年、ニュージーランド初のマスター・オブ・ワインになっている。

Matakana マタカナ(G.I.)
 オークランドから北へ30kmほど。丘がちな地域で、湿度があり、緑濃くトロピカルな植生がみられる。乾燥したワイン産地が多い中で、亜熱帯の雰囲気がある。注意深く栽培場所を選ぶ必要がある。鉄分を含む赤い火山性の土壌にブドウが植えられている。オークランドからの地の利を生かして、小規模生産者によるワインツーリズムも発達している。栽培品種は多岐に渡り、シャルドネ、ピノ・グリ、アルバリーニョ、メルロ、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨンなどが含まれる。麻井宇介(あさい・うすけ)(本名浅井昭吾/元メルシャン技術者)氏の著作「ワインづくりの思想」執筆に重要な着想を与えたメルロのワイン生産者「Providence プロヴィダンス」で有名。クロアチアの祖父のワイン造りを踏襲し、自然発酵と亜硫酸を添加することなく、瓶詰めにいたる醸造方法。極めて清潔なワイン造りと、長期熟成を実現していることから、多様な話題を呼んだ。

Waiheke Island ワイヘケ・アイランド(G.I.)
 オークランドからフェリーで1時間弱。東西15kmほどの美しい景観をもつ小さなリゾートの島。温暖な気候を利用して、島西部の海からすぐ近くのブドウ畑で、ボルドー系品種による少量生産の高級ワインが産出されている。ニュージーランドで最も高額なワイン、「Destiny Bay Magna Praemia デスティニー・ベイ・マグナ・プラミア」や、北向きの緩やかな斜面の畑から生産される「Stonyridge Larose ストーニーリッジ・ラローズ」など、長期熟成タイプのボルドーブレンドワインが有名。また、Sam Harrop MW サムハロップは、2013年から「Cedalion セダリオン」という名でシャルドネとシラーを生産している。


3.Gisborne ギズボーン(G.I.)
[ブドウ品種]
白:シャルドネ、ピノ・グリ、ゲヴェルツトラミナー
 ニュージーランド最東端のワイン産地。年間降雨量は900〜1,000mm。年間の日照時間は2,200時間弱と、ニュージーランドの産地の中で最も長い産地のひとつ。夏場(1月)の最高気温は28℃、最低気温は13℃。ドイツのへルムート・ベッカー博士の指導の下、1960年代にミュラー・トゥルガウが積極的に栽培された産地。モンタナ、コーバンズ、豪州ペンフォールズがワイナリーを構え、ニュージーランドの主要産地として成長した。その後、ミュラー・トゥルガウは1986年以降減少し、ほぼ姿を消した。現在はシャルドネ主体で、栽培面積で5番目のワイン産地となっている。シャルドネは、パイナップルやイエローピーチ、トロピカル・フルーツなどよく熟した、ソフトな味わいが特徴。オークランドの生産者も、この土地のブドウを購入している。1984年創業の「Millton Vineyards&Winery ミルトン」は、ニュージーランド初のオーガニック&バイオダイナミック認証(Bio- Gro/Demeter)取得のワイナリーで、ギズボーンに4つの自社畑を所有、シュナン・ブランやシャルドネが有名。

4.Hawke's Bay(Hawkes) ホークス・ベイ(G.I.)
[ブドウ品種]
白:ソーヴィニヨン・ブラン
黒:メルロ、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨンなど
 総栽培面積4,643haは、マールボロに次いで2番目の大きさ。ワイナリーはネイピア、ヘイスティング周辺に集中する。ボルドー系赤品種とシラーの産地として、ニュージーランドのなかで重要な地位を占めている。メルロ、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨンの国内最大の栽培面積と生産量を誇り、2021年のこれら3品種の生産量は国全体の86.9%を占める。日照時間は2,200時間弱と長く、年間降雨量は800mm程度。夏場(1月)の最高気温は27℃、最低気温は14℃。
 1851年、マリスト宣教師がホークス・ベイで初めて植樹し、歴史あまるMission Estate Wineryが設立された。ホーク湾に向かって3本の川が流れ込む流域に比較的なだらかで広いエリアが生まれ、この沖積土を選んでブドウ畑が集中している。このなかのナルロロ川沿いに「Gimblett Gravels District ギムレット・グラヴェルズ・ディストリクト」、「Bridge Pa Triangle ブリッジ・パ・トライアングル」と2つの有力なブドウ栽培地区がある。両者とも沖積土壌の堆積した地区だが、対照的な赤ワインを生み出している(いずれもG.I.ではない)。

Gimblett Gravels District ギムレット・グラヴェルズ・ディストリクト
 約800haの栽培面積。1981年に始めて植栽。ホークスベイの20社程度が、ここにブドウ畑をもつ。赤ワインの特徴は、スパイシーでタンニンが豊か、骨格がしっかりしている。「Gimblett Gravels Winegrowers Association」が2001年に設立され、現在20社以上が加盟している。地区内に自社畑を所有し、その95%以上がHeretaunga Plains ヘレンタウンガ プレーンズの土壌分布図内に分類されていることが加盟の条件となる。メンバーは協会規定を満たすことで「Gimblett Gravels」と「Gimblett Gravels Winegrowing District」の表記が認められる。

Bridge Pa Triangle ブリッジ・パ・トライアングル
 ギムレット・グラヴェル・ディストリクトよりも西側(上流)に近接した、川沿いに三角形の形状に広がる地域。ホークスベイで最もブドウ畑が集中している地区で、栽培面積は2,000ha。赤ワインの特徴は、柔らかなテクスチャーと滑らかな果実感をもつ。
 両地区で近年注目度の高いシラーは、隣のオーストラリアとは特徴の異なる、冷涼気候のシラーとして売り出すことを念頭に、国際シンポジウムを開くなど、品質への期待が高まっている。
 ヘイスティングスの南、標高399mの石灰岩の丘Te Mata Peak テ・マタ・ピークの斜面に位置するHavelock North ハヴロック・ノースには、 1896年設立の歴史あるTe Mata Estateが居を構え、 ボルドーブレンドやシラーなど、高品質な赤ワインを生産している。

Central Hawke's(Hawkes)Bay セントラル・ホークス・ベイ(G.I.)
 ホークスベイの南半分の地域が「セントラル・ホークスベイ」としてG.I.に登録された。ホークスベイの中でもより南側に位置することから、より冷涼。また石灰岩質土壌が分布。比較的新しい産地で、ワイナリーは少数。栽培品種はシャルドネ、ピノ・グリ、ピノ・ノワール、シラーが中心となり、ヘイスティング周域とは異なる。


5.Wairarapa ワイララパ(G.I.)
[ブドウ品種]
白:ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・グリ、シャルドネ、リースリング
黒:ピノ・ノワール
 首都ウェリントンの北東にある産地。総栽培面積は983ha。年間降雨量は600〜700mm。ワイララパ(G.I.)には、国内を代表するピノ・ノワール産地「Martinborough マーティンボロー(G.I.)」のほかに、さらに北に「Gradstone グラッドストーン(G.I.)」、「Masterton マスタートン」と計3つのサブリージョンがある。
 山に囲まれた半海洋性気候で、夏場(1月)の最高気温は30℃、最低気温12℃。昼夜の寒暖差が激しく、昼間は北西からの強風と鋭い太陽光線にさらされ、夜間は急激に冷却される特徴をもつ。ブドウは、そのおかげで品種を問わず果皮が厚く、酸度豊かで、ボディがはっきりとしている。


Martinborough マーティンボロー(G.I.)
 マーティンボロー(G.I.)は、最初にニュージーランドのピノ・ノワールの存在を世界に知らしめた「Martinborough Terrace マーティンボロー・テラス」地区と、その南に続く「Dry River ドライ・リヴァー」地区、「Te MunnamTerrace テ・ムナ・テラス」地区などから構成されている。
 先駆者のAta Rangi アタ・ランギやMartinborough Vineyard マーティンボロー・ヴィンヤード、日本人の造り手のパイオニア「kusuda クスダ・ワインズ」が所在するマーティンボロー・テラスはHuangarua River フアナルア(ハンガルア)リヴァーが2万年以上前に流れていたかつての河床で、流域が1kmほど北側にずれたことで現れた。北西から南東に連なる細長の形で、ぶどう畑が集中的に展開されている。サブソイルは沖積土壌で、水捌けは極めてよい。南に行くほど、粘土質が多くなる。テラスの面積は、約600haと見積もられている。
 ブドウは、強い太陽光線と風のおかげで果皮が著しく厚くなり、黒ブドウの色調は濃く、アントシアニンが豊富だ。ワインのスタイルは、品種を問わず骨格がはっきりしたものになりやすく、現地の造り手らは共通して「core コア=芯がある」と表現するほど、特徴づけられている。
 マーティンボロー・テラスをフアナルア川沿いに南(上流)に遡った「テ・ムナ・テラス」地区には、「Escarpment エスカープメント」「Craggy Range クラギー・レンジ」、「Te Kairanga テ・カイランガ」などによる新興のブドウ畑がみられ、マーティンボロー・テラスとは異なるスケールの産地を形成しつつある。

Gladstone(G.I.) グラッドストーン
 水はけの良い河岸段丘と日照に恵まれた冷涼な気候が特徴。 粘土質を含む石の多いシルトローム土壌から、 上質 なピノ・ノワールやアロマティックなソーヴィニヨン・ブランを産する。
 1845年創業、富乃宝山や吉兆宝山などの芋焼酎で知られる焼酎蔵 「西酒造」が、Gladstone URLAR グラッドストーン・アーラーを買収。小山浩平氏を栽培醸造責任者に迎え、2018年よりワイン生 産を始めた。

新しいサブリージョンŌhau オハウ
 ウェリントンの北に位置する沿岸地域で、2009年に初め て収穫が行われた新しいサブリージョン(非公式)。オハウ川によって堆積した砂礫(されき)由来の石が多く肥沃(ひよく)な土壌で、ピ ノ・グリやソーヴィニヨン・ブランからアロマティックな白ワイン が生産され、注目を集めている。


■南島
6.Marlborough マールボロ(G.I.)
[ブドウ品種]
白:ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ピノ・グリ、リースリング
黒:ピノ・ノワール
「マールボロ」(G.I.)のブドウ栽培面積は28,360ha(2021年)。同国全体のブドウ栽培格面積のほぼ7割を占める。2位ホークスベイを大きく引き離した最大の産地だ。このうちソーヴィニヨン・ブランが、栽培面積の8割(22,777ha)を占め、ニュージーランドワイン産業の屋台骨を支えている。
 南島の東端に位置しており、北東は「クック海峡」に面し、北側のリッチモンド・レンジが悪天候を遮り、南側のウイザー・ヒルズが太平洋からの強風など厳しい天候から守っている。夏場(1月)の最高気温は27℃ 最低気温は 13℃。 年間降雨量は652mmと乾燥している。
 マールボロは3つのサブリージョン (G.I.ではない)から構成される。

Wairau Valley ワイラウ・ヴァレー
 ワイラウ川流域に広がる古い河床の沖積土壌で、石を多く含み水はけが良い。リッチモンド・レンジとウィザー・ヒルズ によって雨が遮られ、豊かな日照量が得られる。内陸に行くほど冷涼で乾燥し、沿岸部の近くでは気候は穏やかになるため、エリア内にもメソ気候がみられるが、おおむね力強い果実風味とボディのあるワインが生産される。

Southern Valleys サザン・ヴァレー
 ワイラウより古く、粘土を多く含む重い土壌で、より保水力に優れる。南に行くほど冷涼で乾燥した気候。ウィザー・ヒルズに向かって複数の丘や谷が広がり、北向きの日当たりが良い斜面にブドウ畑が築かれている。特にピノ・ノワール やアロマティック品種に適している。 

Awatere Valley アワテレ・ヴァレー 
 ウィザー・ヒルズを越えて南側、3つのサブリージョンのうち最も冷涼で乾燥した気候で、太平洋からの強風を受ける。 アワテレ川がダイナミックな河岸段丘を形成し、水はけ良い沖積土壌に、粘土と砂岩を含むサブソイルが分布している。標高のある斜面の畑では、収量が低く、アロマが豊かなワインが生産される。

●マールボロソーヴィニヨンブランの誕生と発展
 マールボロのソーヴィニヨン・ブランはどのようなきっかけで生まれ、世界的に名声を得るようになったのか。
 大規模なワイン産地としての土台は、モンタナが1973年に進出したことで、できあがっていた。また、すでにモンタナほか、複数のワイン生産者らがソーヴィニヨン・ブランを生産していた。
 1983年、豪州マーガレット・リヴァーのワイナリー「Cape Mentelle ケープ・メンテル」にニュージーランド・マールボロ地域の複数のワイン生産者らが、自らのワインを携えて訪問してきた。当時豪州国内で名声を確立しつつあった「ケープ・メンテル」のオーナー醸造責任者デイヴィッド・ホーネン氏は、その中にあったソーヴィニヨン・ブランに「オーストラリアでは造れ得ないスタイル」と感銘を受けた。直感的にマールボロ進出を決断。当初は自社畑も設備ももたず、「Cloudy Bay クラウディ・ベイ」の名で1985年ヴィンテージで初めてソーヴィニヨン・ブランを生産する(同年8月にワイナリーを建設する。ケープ・メンテルと共に2003年に「モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)」グループ傘下)。
 この85年産リリース後、英国市場を中心に「マールボロ・ソーヴィニヨン・ブラン」の国際的評価が急速に高まることになる。ワインは、パッションフルーツやグアバなどトロピカルフルーツの香味に、清涼感あるカット・グラス(青草)やハーベイシャス(ハーブのよう)な香りが調和したもので、真新しいスタイルだった。この「トロピカル・フルーツとハーベイシャス」のアロマのコンビネーションが、2000年代前半まで「ニュージーランド・ソーヴィニヨン・ブラン」の代名詞として、産業を大きく発展させる原動力となった。高値で輸出され、ニュージーランドのワインの高級イメージを確立することに成功した。
 2000年代に入ってから、このワインスタイルは南アフリカやチリに急速に追随され、似たものが安価に生産・輸出されるようになった。その人気ぶりの証左として、2004年に南アフリカの大手ワイン生産者2人の醸造担当者が、「ソーヴィニヨン・ブラン」生産で、ハーベイシャスな香りを強調するために、醸造過程でグリーンペッパーを添加していたことが発覚し、スキャンダルに発展したほどだった。この従来のニュージーランド・スタイルのソーヴィニョン・ブランに徐々に差別性が薄れ、世界の飲み手が特徴に慣れてくると、マールボロのソーヴィニヨン・ブランのスタイルはより細分化・個性化がみられるようになってくる。マールボロの中で、地域性の違いが確認されるようになったことも、個性化を後押しした。
 生産者はよりフルーツの熟度を重視するようになり、過度の「カットグラス」「ハーベイシャス」の香りは敬遠されるようになっている。沖積土壌由来の成熟が早い「ワイラウ・ヴァレー」は果実の凝縮感とボディの強さが特徴とされ、粘土由来で豊かな粘性やフルーツの柔らかさのある「サザン・ヴァレー」、厳しい栽培環境で収量が少なく、より堅牢で酸豊かな「アワテレ・ヴァレー」というように、地域性の違いが打ち出せるようになっている。
 2番目に大きな栽培面積のピノ・ノワール(2,721ha)も非常に重要で、他の産地と比較して「赤いフルーツが豊かで、丸みのある柔らかな味わいが特徴」とされている。また、マールボロは冷涼な気候を生かした伝統製法のスパークリングワイン生産も盛ん。ペルノ・リカール・ニュージーランドは、1988年にシャンパーニュDuetz ドゥーツとモンタナ(現ブランコット・エステート)のコラボレーションでスタートしたDuetz Marlborough Cuveeを生産している。
 マールボロには、フランス「Clos Henri クロ・アンリ」、オーストラリア「Cloudy Bay クラウディ・ベイ」、スイス「Fromm フロム」「Hans Herzog ハンス・ヘルツオーク」、オランダ「Staete Landt スタート・ランド」、日本「Folium Vineyard フォリウム・ヴィンヤード」「Kimura Cellars キムラ・セラーズ」など海外から進出した生産者が多数存在する。
 2018年には 「Appellation Marlborough Wine (AMW) アペレーション・マールボロ・ワイン」 が商標登録された。 100% マールボロのサステイナブル認証を取得したブドウ畑で生産されたブドウを使用し、 国内で瓶詰めされたワインを認証する。 卓越した品質を保証することで「マールボロ」 ブランドを確立しようとする取り組みである。
 近年、世界中で低アルコールや低カロリーワインのトレンドが広まる中、 1981年設立の 「Gisen Wines ギーセン・ワインズ」 は、2020年2月、 マールボロ産ソーヴィニヨン・ブランとして初となる、Spinning Cone Column (SCC) スピニングコーンカラムを使用してアルコールを除去した「Gisen 0% Marlborough Sauvignon Blanc」を発表。特徴的なマールボロ・ソーヴィニヨン・ブランの風味はそのままに、通常のワインと比べてグラス一杯 (125mℓ) 当 たりのカロリーは85%オフ、 「Sober Curious ソバー・キュリアス」 という脱アルコールのムーヴメントに対応した商品として注目されている。


7. Nelson ネルソン(G.I.)
[ブドウ品種] 
白:ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・グリ
黒:ピノ・ワール
 マールボロよりも西側に位置し、 西からの低気圧の影響 で、降雨量は約1000mmと比較的多い。 そのお陰で南島のワイン産地の中では、潤いがあり、 緑がより濃い。 ネルソンの 町から内陸に入り、西側に連なる丘 「アッパー・ムーテリー」 と、タスマン湾に流れ込むワイメア川の川沿い 「ワイメア・プレインズ」にワイナリーが点在する。 ワイナリー数は3や8社。 丘がちな風光明媚(ふうこうめいび)な地域で、 リゾート地・別荘地として人気があり、ビールに用いられる 「ネルソン・ホップ」の重要な産地でもある。趣味として始めたような小さなワイナリーの数が多く、マールボロとは雰囲気が大きく異なる。栽培面積は1,092ha。
「アッパー・ムーテリー」のワインは、品種を問わず果実の充実感があり、骨格がしっかりしたものがみられる。


8.Canterbury カンタベリー(G.I.)
[ブドウ品種]
白:リースリング、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・グリ
黒:ピノ・ノワール
 カンタベリー地方は、最も大きな 「カンタベリー (G.I.)」、このうちワイパラやワイカリ地域を含む、 ワイン生産者が最も集中する北側部分を「ノース・カンタベリー (G.I.)」と称し、さらにその中の「ワイパラ・ヴァレー (G.I.) 」 と、3つのG.I.が重なっている。
 カンタベリーで最初のワイン生産者 「St. Helena セントヘレナ」がクライストチャーチ北部にブドウ樹を植えたのは、1978年。 しかし1980年代半ばまでは、冷涼なカンタベリーでブドウ栽培は困難との見方が根強かった。
 白ワインは、ソーヴィニヨン・ブランの畑が圧倒的に多いが、ワインの評価はシャルドネや、引き締まった、時に貴腐の要素ももつ、リースリングに集まっている。 ピノ・ノワールは土壌が多様なことから、様々なタイプがみられる。 夏場 (1月) の最高気温は29℃ 最低気温は11℃。 年間降雨量は 610mm。

Waipara Valley ワイパラ・ヴァレー(G.I.)
 ワイパラ・ヴァレーは、クライストチャーチから北へ車で1時間ほど。内陸にサザン・アルプス山脈があり、これが西から来る悪天候を遮っている。太平洋側には、太平洋プレートの沈み込みによりかつての海底が隆起して形成された低い山々が沿岸に連なっている。これらが海風を遮ることで、ワイパラ・ヴァレーは、クライストチャーチよりも温暖な特徴をもつ。
 海岸線の低い山々には石灰岩が分布しており、麓に石灰岩質が堆積した土壌がみられる。これらの場所にブドウ畑がみられるほか、川の流域の礫質、内陸の粘土質と大きく3種類の土壌に植えられている。土壌によってワインの質には違いがみられ、テクスチャーが滑らかでミネラル感豊かなものから、黒系の果実感が充実したものまでみられる。ワイパラ・ヴァレーに最初にブドウ樹を植えたのは「Pegasus Bay ペガサス・ベイ」と「Daniel Shuster ダニエル・シュスター」で、1986年のこと。1970年代にドイツから移住し、クライストチャーチのリンカーン大学で、ブドウ栽培を教えていたダニエル・シュスター氏は、ピノ・ノワールであれば南島でも可能性があると考え、推奨した。同氏はカリフォルニアからのクローン導入など70〜80年代にかけてのピノ・ノワール栽培の基礎づくりに貢献した。ワイパラ・ヴァレーからさらに内陸の「Waikari ワイカリ」地域には、石灰岩質(チョーク質)が広く分布していることが90年代末にわかった。同地域に「Bell Hil ベル・ヒル」「Pyramid Valley Vineyard ピラミッド・ヴァレー」が設立され、ごく短期間で国際的な評判を博すものを生産している。チョーク質由来の柔らかいミネラル感と、滑らかなテクスチャーを特徴としている。
 クライストチャーチ南部、ワイパラ、ワイカリを含むこれらカンタベリー北部を「North Canterbury ノース・カンタベリー(G.I.)」と呼ぶ。総栽培面積は1,479ha。


9.Waitaki Valley North Otago ワイタキ・ヴァレー・ノース・オタゴ(G.I.)
 ワイタキ・ヴァレーは、オタゴの北端。カンタベリーとの境界となるワイタキ川南岸(北向き斜面)に沿う新興産地。石灰岩質が発見されたことをきっかけに、2001年以降開発が始まった。セントラル・オタゴとも、カンタベリーとも、区別される。ゆっくりとブドウの成熟が可能な暖かい夏と長く乾燥した秋となる冷涼な気候、黄土(leoss レス)の下層に分布する、石灰岩(limestone ライムストーン)、硬砂岩(Greywacke グレイワキ)と片岩(Schist シスト)由来の沖積土壌の複雑な土壌組成という注目の産地ながら、寒冷で気象条件が厳しく、収穫量が安定しない。畑の拡大スピードは緩慢である。代表する造り手は「Ostler オスラー」「Valli ヴァリ」が挙げられる。生産者数は13、栽培面積は65ha、2021ヴィンテージは遅霜の被害により収穫量80%減の23tと報告されている。


10.Central Otago セントラル・オタゴ(G.I.)
[ブドウ品種]
白:リースリング、シャルドネ
黒:ピノ・ノワール
 セントラルオタゴは、南緯45度に位置する世界最南端のワイン産地のひとつ。ニュージーランドの中で唯一半大陸性気候の産地で、昼夜の寒暖差が非常に激しい。サザン・アルプスのおかげで、西からの悪天候は遮られている。降雨は冬場に限られ、夏場はほとんど雨は降らない。年間降雨量は300〜400mmと極端に乾燥している。総栽培面積は国内3番目に大きく2,024ha。最大品種はピノ・ノワール(1,627ha)で、8割超を占める。ピノ・ノワールの産地である。空港がある最寄りの大きな街はクイーンズ・タウンで、スキーやミルフォード・サウンズ観光などの拠点となるリゾート地だ。
 ワイン造りの最も古い記録は、アレクサンドラ周辺にフランス人ジャン・デザイア・フェローが1864年にブドウ樹を植え、1881年にシドニーで金賞をとった、というものが残っている。
 1973年にWilliam Hill Vineyard ウィリアム・ヒル・ヴィンヤード(アレクサンドラ)、76年にRippon リッポン(ワナカ)、Brack Ridge ブラック・リッジ(アレクサンドラ)、81年にGibbston Valley ギブストン・ヴァレー(ギブストン)がそれぞれの地域にブドウ樹を植えてスタートしている。しかし、ピノ・ノワール産地として世界的に有名ならしめ、多数の追随ワイナリーと投資を呼び込み、産地発展へと「引火」したのは、「Felton Road フェルトン・ロード」だった。初収穫年は1997年で、米英に輸出され、瞬く間に「シンデレラワイン」となった。
 加えて90年代後半、海外研修帰りの若い造り手が集まり、協力して盛り上げる機運が産地全体にあったために、短期間のうちに英国・米国のジャーナリストの心をつかみ、世界的な「発信」に成功した。任意のマーケティング団体(会社組織)「COPNLコプネルを(= Central Otago Pinot Noir Limited)」を生産者が出資してつくり、これが産地のプロモーションを担っている。独自に消費者イベント「Central Otago Pinot Noir Celebrationセントラル・オタゴ・ピノ・ノワールセレブレーション(COPNC)」を毎年開催している。
 気候は、他の産地より南にあるため、春の訪れと開花は遅く、また夏が比較的短いために生育期間が比較的短いという、弱点がある。年ごとに気候の振り幅は大きく、作柄は毎年大きな違いがある。極端な霜害や、干ばつがありうる。年間の日照時間は2000時間程度。夏場の最高気温は34℃まであがり、夜間は10℃にまで下がる。おかげで、酸を保持したまま、黒々と熟したブドウになりやすい。
 土壌は、母岩が石英などを含む極めて硬いシスト(変成片岩)が分布し、これがこの地域全体の基盤となっている。クイーンズタウンから車を走らせると、周囲に見える渓谷の岩山はほとんどシストで、谷底を紺碧の川が流れている。他の産地では見られない風景の色の鮮やかさに目を奪われる。
 レス、砂、円礫、シストといった構成のため、土壌中の有機物が非常に乏しい。ブドウ栽培を長期に持続するためには、有機栽培を取り入れ、畑に有機堆積物を増やしていかなければならない状況。オタゴのワイン生産者が早くから「有機栽培」や「ビオディナミ」を導入しているのは、この事情による。
 また、地域の土壌の特徴によっては、ピノ・ノワールの「骨格」がつくりにくいとの見方が広まると、現在は骨格豊かな「DRCエイベル」クローンが見直され、導入されている。最も新しい産地だからこそ、90年代には人気の高いディジョン・クローンの苗木が大量に導入されたが、現在は慎重に好適な苗木が検討されている。
 非常に広いエリアで、サブリージョンは7つに分かれ、土壌や気候の違いから、すでにワインスタイルの大まかな特徴の違いが生産者間で語られるようになっている。

Gibbston Valley ギブストン・ヴァレー
南極からの冷たい南風(Southerly サウザリー)が入り込むために、オタゴの中でもっとも標高が高く、冷涼な産地。比較的繊細なワインを産出する。ラズベリーなどの赤い果実と豊かな酸が特徴で、黒い果実がみられることは少ない。それが他のオタゴと分けるマーカーになっている。収穫はバノック・バーンよりも数週間遅い。

Bannockburn / Cromwell バノックバーン/クロムウェル
  地図上のダンストン・レイク周域の盆地を「Cromwell Basin クロムウェル盆地」といい、4つのエリア(バノックバーン、ピサ・レンジ、ローバーン、ベンディゴ)を含む。バノックバーンは、丘陵の下部は非常に深いレス土壌。土壌中に石灰岩と間違えそうな、雨で流されリン酸カルシウムの凝固したものがみられる。骨格の柔らかい、丸みのあるたっぷりとした黒系果実のワインを生み出す。これがセントラル・オタゴを象徴するワインスタイルとなり、90年代末から国際的評価が高まった。

Pisa Range ピサ・レンジとLowburn ローバーン
 ピサ・レンジは上流のワナカレイクから流れてきた川石や砂の堆積土壌が分布。さらにその下流であるローバーンは、砂主体となる。ワインのスタイルは、骨格の柔らかい、丸みのあるバノックバーンに近くなる。

Bendigo ベンディゴ
 石英を含むシストの丘にブドウ畑が開発された地区で、オタゴの中でもっとも暑い地区のひとつ。丘の上部ほど、岩がちとなる。この地区のピノ・ノワールは色が濃く、シスト由来の強烈なスパイシーさとミネラル感が感じられる。リースリングも同様。

Wanaka ワナカ
 サザン・アルプスに最も近く、オタゴの中では比較的冷涼。ワナカレイクに向かってシストの母岩がスロープ状に分布する。ワインには、ピノ・ノワール、ガメイ、リースリングなど品種問わず、シスト由来のスパイシーな味わいがみられる。

Alexandra アレクサンドラ
 表土の薄いシストから、川沿いのシルト土壌まで多様で、ワインのスタイルもこれを反映する。シストの畑から、香り高いリースリングが生まれる。1981年植樹の「Black Ridge Vineyard ブラック・リッジ・ヴィンヤード」 や、ハリウッド俳優 Sam Neill サム・ニールが所有する Two Paddocks トゥー・パドックスが1998年に植樹した 「The Last Chance Vineyard ザ・ラストチャンス・ヴィンヤード」 は、世界最南端のブドウ畑の1つに数えられる。

参考資料 日本ソムリエ協会教本、隔月刊誌Sommelier  

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