外来の風景)血糖値を割引する?

70歳代の男性。インスリンを1日4回打っており、自己血糖測定も行っている。今回は前回よりもHbA1cが上昇していた。話しでは、夕食後にお腹がへって菓子パンを食べることが多かったからとのこと。自己血糖測定を記入したノートを見ると、寝る前の血糖値は高くない。むしろ前回よりも安定している。はて?検査結果と話しでは、夕食後、寝る前の血糖値は高くなっていそうだが?
訊くと、パンを食べて血糖が上がった分、割り引いて血糖値を記入していた。いつも100ぐらい引いて書いていたとのこと。
血糖値を割り引く。思わず、患者さんと顔を見合って笑ってしまった。
この次は割り引かないで書いて下さいね。

自己血糖測定の信頼性について調べてみた。

「血糖自己測定の信頼性に関する研究 -虚偽の申告について-」(糖尿病34(5):409-416, 1991)があった。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo1958/34/5/34_5_409/_pdf

糖尿病患者17名にメモリー付自己血糖測定器を用いて、「実際の自己血糖測定器での測定値」と「記録用紙に記入した血糖値」を比較している。
自己血糖測定器は、点検するとの名目でメモリーがついていることを患者さんに告知せずにメモリー付自己血糖測定を渡した(今の血糖測定器はメモリー付が当たり前だが、1990年頃はそうではなかったよう)。

結果として、自己申告の精度は71.8%(±32.3%)、過少申告率は24.8%(±24.2%)。特に、高血糖になるに従い、高頻度で血糖値の書き換え、あるいは削除がされていた。血糖値300mg/dl以上では約30%で書き換えがあったとのこと。

やはり高い血糖値は見せたくないもののようだ。
今、使用が増加している持続血糖モニタリングでは高血糖でも患者さんは書き換えができない。

高血糖に対する指摘は、患者さんの「できれば書き換えたい」気持ちを汲んで、話をしていくことも必要だろう。

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