ハイテク×レトロ+ファンタジーの良方程式。Vtuber「蟹」氏をご賞味あれ



 Vtuberという存在は21世紀の技術の粋を活かしたハイテクな存在である。トラッキングがどうだとかモデリングがなんだとかそんな話をしては、すごいねぇ成功だねぇ3次元のヒトに近いねぇなどとそういった方向の良さを語る流れがあるわけだが、ゲームの業界で超美麗グラフィックが評価される一方で古き良きレトロなドットグラフィックを愛す者が居るように、Vtuberの世界でもバーチャルだからこそローテクを貫く存在が居てもいいやろがい!というファン層が居るわけだ。

そんな【ロー】を愛するファンへ朗報です。ローポリゴンでファンタジー、初代プレイステーション時代のグラフィックを彷彿とさせる動画を輩出するVtuber、【蟹】さんを本日はどうぞ覚えてお帰りください。


 蟹氏の最たる特徴としては、『動画作成にVHSデッキ&テープ』を用いている点である。今の若い子はVHSってなーに?と思うことだろう。要は『ビデオテープ』というヤツである。あの黒くてデカいヤツ。下手すると若い子は『ビデオテープ』ってなーに?とお思いかもしれませんがもうそれは検索をして下さい。

蟹さんはFANBOXもお持ちであり、無料全体公開で「こうやってビデオテーープを使って動画を作ってますよー」という図解を公開してくれているのだが、かえすがえすもなんだかちょっと感動モノである。ビデオテープ。もう21世紀になって久しいというのにビデオテープ。レトロ感を出すのに物理的レトロガジェットを使うという発想は相当頭が柔らかくなければ出て来ないだろう。あとある程度の年齢(小声)。

実際、新しく美しく均整の取れてノイズが無い、最先端のバーチャル技術でレトロ、ノスタルジー方向の演出をするというのは一工夫要るところなのではないだろうか?と一般消費者としては思っている。

単純にカラーをセピアにしたところで、衣装を古めかしくしたところで、バーチャルには古い時代の汚れやかすれ、荒れなどを意識的に混ぜ込まなければ混ざらない以上、現代のバーチャル世界というのは遠く古錆びた過去へとは(あくまでバーチャル単体では)真に迫れるモノではないのだ。

それに対して、自然に画質の荒れを馴染ませる手段としてのビデオテープ録画は本当に蟹氏の目の付け所が良すぎると思えてならない。さすが猫っぽい電脳体なだけあって、目端がきいている御仁である。


 肝心のコンテンツに関して。やはり目玉はYoutubeチャンネルにも記載されている『空想料理店』動画シリーズである。文字通り、リリカルでファンタジーな空想の食材を用いて、調理行程とその完成品である料理を紹介する中々にメシテロな動画だ。


こちらは蟹氏本人がTwitterでショート版の動画を上げたところしこたまおバズり申し上げた作品である。私も確かこれで知ったんだったかと思います。

このどっぷりと幻想に浸れる作品の世界観も素晴らしいが、動画で流れる蟹氏のナレーションも相まっての魅力が評価されている所であったりする。「甘えるな」「特別やで」「言うのがおそいねん あきらめや」といった、ちょっとカワイく調子をハズした台詞の数々は良いアクセント。これにハマると(今回はどういうパワーワードが出てくるんだ…!)という楽しみ方もできてオススメです。

 他にも定期的に生配信を行っており、この『空想料理店』の製作裏話や雑談配信のファン交流、ちょっとした企画投稿を募っての配信とそのバリエーションにも工夫が見られる。


個人的に好きな生配信回はコレ。

生放送の特徴的な点として、いい意味で距離が近くてユルい雰囲気なのが居心地の良さを出している。この『生配信で問わず語りの雑談をする』、というのは結構なクセモノで、配信者側が一方的にプライベートであった事色々を話すばかりではメリハリが弱くダレるし、あまりファン側に歩み寄り過ぎてしまっても今度は配信者の持つ良さというのが出きらない。蟹氏の生放送はあたかも気さくな店主とそれを囲む常連客の寄り合いのようで、距離感が心地良い。技術的な話を聞きに行ったらすっかり取りこまれてしまったファンも少なくないのではないのだろうか。

さすがは自己紹介動画で悪の怪人をやってた前歴を明かす御仁である。悪事を働くにはまずターゲットに寄って来てもらわねばならないということ。人を引っ張り込むのがお上手…!

↑の動画、いわゆる音MAD系で脳のはしっこがバグりそうでバグらない絶妙な心地良さでたまに引っ張り出しては聞き返してしまる引力を感じるので、知らない人はまずとりあえずこれを視聴して踏み入るのもアリや。


 このように「いわゆる『インターネット老人会』層に刺さる逸材…!もっと評価されるべきでは…!」などと注目していたわけだが、これほどの才ある御仁なので当然と言うべきことに最近メチャクチャ大活躍されているんである。

同じVtuberの分野からは、あのにじさんじ、緑仙氏のオリジナル曲のミュージックビデオを製作。

Vの外の実績として、テキストサイト世代のネット民の多くがご存知だろうあのサイト、「オモコロ」内コンテンツ「匿名ラジオ」のグッズデザインを手がけた。

特に、オモコロの案件のお知らせが出た時に「あ~やっぱりか~!やっぱりな~!!」と思ったんである。この【蟹】氏というVtuberコンテンツは全体的に言って「オモコロ」が刺さるくらいの世代に刺さる、ということだ。

学校から帰って来てランドセルを下ろして、初代のあのゴツいゲームボーイと通信ケーブルを手に友達と遊びに行くくらいの世代からすると、蟹氏の動画コンテンツは青春時代のノスタルジーを刺激されるし、蟹氏の生配信はなんとなーく気の置けない友人との駄弁りに似たあの感覚も甦るような甦らないようなフワッとした楽しさがそこにあるような気がするのだ。

 面白いのは、これは蟹氏がそれくらいの世代のおじさんではない、と感じる点にある。やってる事などに古さは感じるわけだが、実際いざ蟹氏の生配信を視聴してみるとそんなにおじさんおじさんしていないんである。むしろ好青年のお兄さんくらいの雰囲気あるじゃん?くらいのもので、そこがまた後ひく美味しさであったりする。

「若い子のVtuberには馴染めないが、真正面からおじさんであることを直視するのも心が痛い」―――そんなナイーブな、Vtuberに興味を持つオタクに対するひとつの解。蟹氏はそんな存在なのかもしれない。


 と、これだけ魅力を紹介したが、これがまた納得いかない事に蟹氏のYoutubeチャンネル登録者数は1.2万人ほどと、個人勢としては健闘している方だがもっとあってもよくない?というのが正直なところだ。

今からでも遅くありません。この記事を呼んで興味を持った方は是非今この機会に登録をよろしくお願いいたします。


昨今何かと、現実のあれこれが世知辛い世の中です。そんな日々の癒しにおひとつ、空想料理はいかがでしょうか。オススメですよ。

えっサポートしていただけるんですか?ほんとぉ?いいの? いただいたサポートはものを書くための燃料として何かしらの物体になります。多分。