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MTGアリーナを使用した小規模大会配信をワンオペで実現する為の手法と解説

皆さん こんにちは、杉村です。
前回は、Twitch上にカード名のオーバーレイを表示させるエクステンション「CardBorad Live」についての記事を書きましたが、

今回は「マジック:ザ・ギャザリング アリーナ(以下MTGA)」を使用した「小規模オンライン大会の配信」を、少ないリソースでどのように行うか
という内容を扱います。

主に、動機ある個人やコミュニティがプロユースの機材を使わずにPCだけで大会を主催し配信するための手法を解説していますが、考察的なパートもございますので13,000字と長いです。

ここでいう”小規模“の定義は、8~32名程度のスイスドロー形式のトーナメントを想定しています。
前述の通り、ストリーマーやコミュニティの数人で大会を運営し、その内の1名が配信スタッフとして、効率的に配信を行う為の知見を記述しています。
しかしながら、追加の人員や機材等のリソースを投入すれば店舗主催・企業主催等の32名以上のオンライン大会も開催できると考えます。



リモート型配信の増加

筆者はライブ配信を事業の一つとしておりますが、COVID-19の流行と比例するように配信案件もリモート型の需要が急増しました。

私たちが普段見ている公式大会も、昨年2月に行われた、「マジックフェスト・名古屋2020」を最後に、全てのオフラインイベントはキャンセルされ、オンラインのイベントに変更されています。

また、筆者とかつおぶし・石川さんとで運営しているコミュニティ、「何でもアリーナ!」は、定期的にオフラインイベントを主催していますが、こちらも昨年1月に開催したイベント、「パイオニア石川杯」以降、イベントを開催できていない状況です。

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[パイオニア石川杯の様子]

未だCOVID-19流行の波は途絶えず、今年もこのリモート配信の形は続きそうです。
比較的低予算で組めてフットワークの良いリモート型配信は、コロナ終息後も一定の地位を得て、ゲーム系ネット番組において定型の一種となって続いていくのではないでしょうか。


イベント主催の障壁

MTGAが日本語化されて久しいですが、日本語ローカライズ実装から現在に至るまでに、MTGAで大会やイベントを定期的に主催するTO(トーナメントオーガナイザー)は増えていないように見受けられます。
これに関しては資料がありませんので、私的な観察からの推測になります。

比較対象としては不適かもしれませんが、いわゆる、「草の根大会」のような定期的なイベントがMTGAにて起こりづらい・定着しづらい要因はあるのでしょうか。
「大会が増えづらい」では論じづらいのでここでは分解します。
「大会を開きたいと考えた人が”大会開催のハードルが高く感じられる”理由」として考えてみます。

まず、これがオフラインのMTGのイベントだった場合、どうでしょうか。
前述の通り、筆者はオフラインイベントを主催してきました。TSUTAYA北千住店さんで開催した「何でもアリーナ!ドラフト会」や、まんぞく屋さんで開催した「パイオニア石川杯」などです。
筆者がオフライン大会を開催するにあたって、

・開催場所の検討、確保、交渉
・店舗開催の場合、店舗にメリットをもたらす方法
・集客、告知の方法
・参加者への情報更新(募集開始から開催当日まで続く)
・ジャッジを呼ぶ場合の依頼方法、報酬
・WER(wizards event reporter)の扱いについて

このあたりが開催までに障壁だと感じた点です。
上記要素意外にも色々な準備が必要で、何度も店舗さんに脚を運び関係各所に調整をいただいて、初めてイベントが完成します。



観戦モードが無い事について

ではオンラインのMTGAにおける大会開催のハードルが高く感じられる部分とは、どんな所にあるのでしょうか。
これも一面的には語れませんが、筆者は一因として、「MTGAに観戦モードや大会機能が実装されていない」という点が挙げられると考えています。

観戦モードが無いと、どのような問題が起こり得るでのでしょう。

「日本選手権」や「Red Bull Untapped」といった、最近の公式大会に参加された方はご経験があるかもしれませんが、MTGAに観戦モード・観戦クライアントが無いために、主催者がフィーチャーマッチ(以下FM)を放送する為には、「FMに選ばれたプレイヤーにDiscordで画面共有をしてもらう」という作業が必要となります。
これは日本に限った話では無く、CHANNEL FIREBOALSCGといったの海外のオーガナイザーも同等の方法を取っています。
また、「Mythic Invitational」などの公式放送を見ていても、ゲーム開始時にDiscordの画面がブリンクしたりする所から、世界屈指のトッププロ達も画面共有をしてプレイしている事が推察できます。
”本国”には夢のような便利なツールがある、といったような事は無く、皆等しく画面共有をしています。(詳しく知りたい方はCFBやSCGのDiscordを観察してみて下さい。)

それに加え、テーブルトップからの流れを汲んで、MTGAの大会においても公式主催のものは、対戦している2人の手札が見えている状態で画面が構成されています。これは紙のMTGと同じく、キャスターが実況・解説する上で無くてはならない重要な情報と言えるでしょう。

つまり、ひとつのFMを放送するには、2人分の画面共有が必要になる訳です。

普段から配信をしている方ならご理解いただけると思いますが、「Discordの画面共有を、別々の人から2つ同時にもらいつつ、それらをキャプチャーし、リモートで出演する実況解説を配信に乗せる」という要件は、少し悩ましく思うのではないでしょうか。
XsplitやOBSなどの配信ソフトを普段から使い込んでいる方なら何通りかのやり方を思いつくかと思いますが、技術的難易度がそれなりに高いという事は間違いなく、また実況解説用にクリーンフィードを同時共有する方法も悩ましい所です。

また、MTGAには他のゲームで見られる様な「トーナメントルーム」の様な機能もなく、
それに加え、オポネント計算等のスイスドロー形式独特の大会運営の難しさなども相まっているのだと思います。



動機

ここまで、MTGAにおける大会主催の難しさを述べてきましたが、この記事の主題は、「ゆうてそんなに難しくないからやろうぜ」という点になります。


上記のような障害を前に、コミュニティが、小・中規模大会を開きたいと考えても、「公式っぽくゲーム画面を上下に配置してやりたいけどやり方わからんし難しそう、でも1画面だけの配信だとショボく見えそうでヤダし、色々難しそうだな」といったジレンマによって、大会の主催を諦めてしまう事は、MTGコミュニティにとって大きな損失と筆者は考えています。
ですのでその助けになる為にこの記事を書いています。

もしもあなたが、「大会やってみたいなぁ」と思いつつも、上記のような障害を言い訳にし、先延ばしにしているのであれば、今すぐTwiplaで募集ページを作って公開すべきだと考えます。今すぐ。今ここがエポックなのです。
この記事を読めば大体の事は理解できると思いますし、分からなかったり機材が足りなければ、筆者が配信を担当しますので連絡してください。
日程をすり合わせましょう。
「やってみたい」と思うのであれば今すぐやるべきです。


かの岡本太郎はこのように語っています。


「私も描けたらいいな」と思ったら、描いてみるんだ、
いや描いてみなければならない。



まつがん氏が「クソデッキを、作らなければならない」という”必要性”に駆られたように、我々はイベントを開いてコミュニティと自身を拡大させる使命を帯びているのです。

昨今の洗練されたスタイリッシュなゲーム配信を見ていると、
「自分も大会や配信をやるならカッチリやらなくてはいけない」といった気持ちになりがちですが、それは間違いです。

どんなに質素な見た目でも、参加者が数人の大会配信でも、それを主催して放送しているあなたは最高なのです。
ヤってない奴にはそれが分からんのです。



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以下に、自身がこれまで行った配信案件の経験を元に、配信の手法や、イベントを完遂するために注意すべき点を記しますが、できるだけ簡単な物を選択して記述しています。
ご自身のレベルに合わせて解釈していただければと思います。
この記事を読んで「自分も大会開いて配信してみよう」と考えてくれる人が1人でも増えれば幸いです。




要件

では、大会の要件を想定し、それを元に記述していきます。


あなたが属するコミュニティで、MTGAを使用した32名のスイスドロートーナメントを主催し、その模様を配信する事になりました。
配信スタッフはあなた1人です。
実況、解説がそれぞれ1人づつ、自宅からリモートで参加します。
トーナメントの運営・進行は、コミュニティーからの有志が行います。
毎ラウンド FMを1卓、実況解説付きで放送をします。



上記条件から、クリアしなくてはならない課題は以下と考えられます。

・対戦している2人の画面をミックスしてFMを配信しつつ、
・配信画面上にプレイヤーネームやスコアを表示・随時更新させ、
・演者には聞こえるが視聴者には聞こえない方法で指示を出し、
・演者に対戦している2人のゲーム画面がミックスされた状態で送り、
・演者はそれを見ながらタイムラグが無い状態で実況解説を行う。


これらの課題をクリアし安全に配信を完遂するために、配信スタッフであるあなたはどのような方法を取るべきでしょうか。
また配信スタッフとして、トーナメント運営・進行スタッフとどのようなコミュニケーションが求められるでしょうか。
(本稿では大会の運営・進行についての手法については触れず、あくまで配信・配信スタッフへの知見を主軸に解説をします。)


プランニング -配信のディレイ-

まず配信を行うにあたって、「配信のディレイ(遅延)」をどのようにかけるかを考えます。

配信のディレイは、オンラインの対戦ゲームについて回る"ゴースティング"、(対戦中にライブ配信を見て、プレイヤーが自分に有利となる情報を集める行為)の問題を解決する為の手段です。

例えば、MTGAの対戦をリアルタイムで放送してしまうと、FMプレイヤーが配信を見て相手の手札を知る事が可能になってしまいます。
少人数の大会であれば、FMプレイヤーの良心に委ねる手もあるかと思いますが、可能であれば出来る限り公平な状態を作るべきだと考えます。

個人の配信において『放送の遅延』は難しい問題です。放送に遅延をかけると、ありとあらゆる要素に影響をおよぼし、それによってまた対処が求められる事象が増えたりもします。プロダクションなどの事業者の様に、「最終段に3Playをかける」なんて事は勿論できません。

この問題については、①「配信ソフトで遅延をかける」もしくは、②「録画してラウンドを一つずらす※」というオペレーションによる解決が想像されます。

※(配信開始前にラウンド1を開始。ラウンド2開始時に、ラウンド1の録画を使用して配信を開始、以下、1ラウンド分ずらして進行)


結論から申し上げますと、今回の要件においては②を選択するのが賢明だと考えます。

①でももちろん可能ですが、上記の要件ですと機材が膨大になると感じました。
機材のセッティングについては後述しますが、①は、「実況しながら1PCで大会の全てを切り盛りするので、あまり複雑な事はしたく無い」というようなシチュエーションに向いていると思います。(※1)
配信ソフトに遅延を設定するだけでディレイが完成し、遅延による影響を考慮する要素がほぼなく、また特別な作業が発生しないからです。
ただ、配信ソフト上で遅延処理はPCに負荷がかかりますので、サイマル(複数媒体)放送などを予定している場合は特に注意が必要です。

②は複数のPCの操作が必要となり、オペレーションも複雑になりますが、ラウンドと大会全体の進行具合との時間の擦り合わせがしやすく、録画用のPCを増やす事によってFMの数を増やす事ができるので、トラブル耐性が高くなります。ある程度の機材リソースが必要となりますがこちらをお勧めします。

※1 このセッティングについては記事下部の「機材構成・図解」の項にて補足します。


準備 -Discordサーバー

まずは、大会用のDiscordサーバーを作成しましょう。
既にコミュニティで使用しているサーバーがあれば、大会用のカテゴリーを作成するだけでも良いでしょう。
FM用の部屋や実況用のボイスチャンネル、アナウンスやドロップ申請など、全てをDiscord内で完結するため、初見の方でも分かりやすいようにカテゴリを配置する事をお勧めします。

大会を運営するにあたってDiscord内でどんな要素が必要になるのかが実際にわかりやすい様に、サンプルサーバーを作成してみました。
レイアウトの参考にしてみてください。

以下、サーバーのカテゴリ順にお話します。

まず、サーバーに招待された人が最初に「サーバールール」のチャンネルに入る様にしておくと良いでしょう。
ここでいうルールとは、最も基本的な部分の事となります。
例えば以下のような事を禁止します。

・他のユーザーやスタッフ、特定の人物を侮辱する、気分を害する投稿
・プライバシーの侵害、個人情報の漏洩にあたる投稿
・人種、国籍、ジェンダー、セクシャリティなどの差別に当たる投稿
・公序良俗に反する物、ポルノ、卑猥な表現を含む投稿と、ニックネーム
・荒らしやスパムと見なされる行為
(「かつおぶし石川の何でもアリーナ‼︎」サーバーより抜粋)

利用者がマナーを守り、互いに尊重しあえる様に促しましょう。
同時に、それらを守れない方への対応も記します。


「質問」カテゴリーは重要な要素です。
大会中のとても忙しい時に、参加者から、
「○○について質問したいんですけど、どこで質問したらいいですか?」
といった、地獄のような質問が来ないように、質問カテゴリは分かりやすく細分化しておきましょう。

当日、大会開催直前は質問が多発しますので、スタッフを1人、質問対応に当てれるよう人員を配置しましょう。

MTGMELEE」などを使用する場合、
・「チェックイン〆切時刻は何時ですか」
・「デッキ登録〆切時刻は何時ですか」
・「デッキ登録が出来ない」
・「チェックイン出来てるか分からない」
といった、ごく初歩的な質問が来る事が多いので、FAQにあらかじめ記載し、質問が来た際は台パンしたい衝動をこらえながら誘導します。

ほとんどの参加者は、競技イベントではない大会のルールを真剣に読みませんので、大会開催前に@everyone等のメンション機能を使って逐次、注意喚起するのも良いでしょう。

ラウンドが始まると、
・「相手が来ない」
・「MELLEで連絡できてるけどゲームに来ない」
・「相手が落ちたのだが、どうしたらよいか」
・「相手がリストに無いカードを使ってきた」
などの質問が予想されます。
特に、R1の開始直後はこれらの対応に追われる可能性が高いので、しっかりと想定しておきましょう。

特に、「ゲーム(PC)が落ちた際の復帰ルール」「ゲームの再開に関する事」や「ゲーム戻れなかった際の勝敗の決め方」は細部まで想定し、ルール文章に明確に記載しましょう。
ゲームクラッシュは、Discordで画面共有をし高負荷になった際におこりやすいので、あらかじめPCスペックの低い参加者やネットワークの弱い環境にいる参加者には自己申告していただき、FMには選定しないようするのがよいでしょう。

ゲームクラッシュやネットワークエラーによる切断、それによる勝敗の左右は一番揉めやすい事案です。
必要であればデジタルイベント規定を読んでおくと良いかもしれません。
公式ルールへの準拠は説得力となります。​



「実況解説用のボイスチャンネル」は、大会参加者が入れないようにロールを設定します。
演者用にデッキリストやコメント窓URL、フィーチャーマッチの情報などを記載できるように、演者とスタッフだけが使用できるテキストチャンネルも準備します。
同様に、「スタッフ用」のカテゴリにもロールを設定しましょう。

「フィーチャーマッチ」は、FMに選定されたプレイヤーが入ります。
FMをキャプチャーする「配信スタッフ」と「FMプレイヤー」以外がルームに入れない様に、人数上限を設定しておきましょう。
トラブルがあった際には別スタッフが入れるよう、スタッフ全員が人数上限の変更方法を知っておくと良いでしょう。

FMにおいて、「FMプレイヤーの声が配信に入ってしまう」可能性がある点に注意します。
ルール文章にその旨を記載し、FMルーム内ではマイクミュートをしてもらいましょう。こちらでも入ったFMプレイヤーを「サーバーミュート」して対応します。

また、Discordの画面共有方法も統一ルールにする事をお勧めします。
例えば大会参加中に同時に配信をしたいFMプレイヤーが、配信ソフトを経由して画面共有したりすると、FMプレイヤーがALT+TABなどで画面を遷移する度にゲーム画面が揺れたり、デスクトップが映ってしまったりする危険があります。
スクリーンショット等で、画面共有方法を分かり易く記載しましょう。

また、Untaped.ggなどの配信に映る可能性のあるオーバーレイツールに対するルールも示しておくと良いでしょう。




準備 -配信素材、デザイン物-

大会の開催が決まりましたら、早めに告知を始めましょう。
イベントの開催が初めてですと認知も低く、参加者や同志を集めるのに時間がかかるかもしれせん。

告知をする際、文章だけでは目につきづらいので何かしらのイメージを付けたいです。告知にイメージが付いている方が目につきやすく、エンゲージ率も上がるでしょう。
例えば、Twitter等で告知をする際、
・大会ロゴ
・大会キービジュアル
・配信チャンネルのバナー
といったように、各所にイメージがある方が良いでしょう。


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皆さん、Canvaを使ってください。
Canvaはデザインプリセットを扱うサイトです。
サイト内をご覧いただければお分かりになるかと思いますが、様々なシーンや目的別にプリセットが用意されています。

前述しました「パイオニア石川杯」のポスターもこのサイトで作っています。

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Canvaの良い所は、サイト内で出力まで完結できる所にあります。

一般的なデザインプリセットはAiもしくはPSD形式が多いので、Adobe系のアプリケーションに明るくない方にとっては、たとえデザインが良くても手が出せません。
しかしながらCanvaは、サイト内でデザインを選び、ブラウザ上で編集し、そのまま書き出しまで出来てしまうのです。
ですので、宗教上の理由や、おばあちゃんの遺言でPhotoshopを使う事を固く禁じられている方でも、安心して使用する事が可能です。


ではここで、今回想定している大会のロゴを作ってみましょう。
大会の名前が無いとロゴを作りづらいので、「StandardCup」という名前にしましょう。

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一番最初に目についたロゴのテキストを変えただけなので、1分ぐらいで完成しました。
何だか胡散臭い自称e-sportsチームみたいな意匠ですが、これで良しとします。

経験則としてお話ししますが、デザイン系の制作は時間をかけてもあまり良い結果にならない事が多いですし、永遠にいじって時間をつぶしてしまいますので、細部は気にせず一度作り切りましょう。
そして後日、色々な準備がひと段落してから、ブラッシュアップを試みましょう。



では次に、配信ソフト上で使用するオーバーレイを準備します。ここでいうオーバーレイとは選手名やラウンド数の下にある、黒い枠の部分です。

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[※画像は「Magic: The Gathering Esports」より]

なじみの画面構成ですが、このオーバーレイに関しては代替できるものが無いため自作しなくてはなりません。

今回は、公式のオーバーレイを真似て、Illustratorで作成しました。

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このファイルは、DiscordでAiとPNGを公開しておきますので、改変も含め御自由にお使いいただいて結構です。


左側には下の図のように、選手の名前やデッキのキーカードのアート等を入れると良いかもしれません。
右上はロゴスペースですので、先ほど作成した大会ロゴを入れましょう。

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画像は「mtgjp - Twitch」より

また、資金がある程度あり、これから大会やリーグを運営していく、というような団体であれば、「VmixCall」を使うことによって、米公式放送のようにリアルタイムで選手の映像を取得することも可能です。


「Vmix Call」は、配信ソフトである「Vmix」に内包されている機能のひとつです。

4系統のVmixCallが付帯した「4k」は$700と少し高めの値段ですが、
・インプット上限1000
・パラ収録可
・VmixCall x 4系統
・インスタントリプレイch x 1
・SRT出力 x 4
と機能が充実しており、Stream DeckやMIDIデバイスと組み合わせれば、ハードウェアスイッチャーのような使い方も可能になります。

SRTは聞き慣れない単語ですが、簡単に言えば次世代の映像伝送プロトコルです。
不勉強で筆者も詳しく説明ができませんが、伝送時の遅延が少なく、信頼性の高いプロトコルのようです。

まだSRT自体が普及しておりませんので使用できるシーンは限定的ですが、今回、想定している要件に似た構成で、SRTを駆使したレシピを、
「有限会社オープンスフィア」の花山氏が記事を書いていらっしゃいますので、興味のある方はそちらをご覧下さい。

また、VmixCallがあると、Vmix上のプログラムアウト(PGM)を、通話をしている人に送出できるので、VmixCallで演者と通話している状態でVmixを配信に使用すれば、演者用の返し(Mixされた2人分のゲーム画面)がこれだけで解決できるやり方もあるかもしれません。
もちろんPGMですのでスイッチしてしまえば送出先の画面も切り替わってしまいますが、ゲーム中しか盤面を見る必要は無いと言えるので、割り切ってしまうのも良いでしょう。




準備-テキストオーバーレイ-

オーバーレイの上にのせるテキストは、
「Livestream Overlay Manager」を使用しています。

このLivestream Overlay Manager(以下LOM)が誕生するまで、個人で使用できるテロップ送出ソフトの選択肢はほぼ皆無と言えました。
TELOP BOXやNixuscelioといった現場でよく使われているテロッパーはとても個人で手が出せる価格ではなく、リアルタイムでテロップ編集がしたい場合は、配信ソフト上に直打ちしたり、配信ソフトでクロマキーをかけた上で、グリーンバックのパワーポイントを編集するという力技を駆使していました。

LOMの操作は簡単かつ直感的です。基本的にはLOM上で文字を打ち込むだけで完結できます。
今回は選手名とラウンド数ぐらいでしか使用しませんが、いろいろな事ができるソフトです。詳しくは開発者の記事をご確認ください。


配信ソフト上にオーバーレイとロゴを配置し、LOMから選手名のダミーを入れてみます。

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LOM上のUIは以下のようになっています。

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文字の一つ一つに対して、画面下部に見える調整が可能です。
コンポーネントを選択するとバウンディングボックスが見えるので、ドラッグとフェーダーによって調整が可能です。

上の図はレイアウトモードなのですが、運用モードにすると、

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このようなUIになり、例えば次のラウンドの選手名等を入れておき、あとはクリックするだけで変更ができるようにもできます。

この運用モード内の要素もドラッグで自由に配置できるので、オーバーレイの位置と対応させ直感的配置にすることも可能です。

ここでは詳細な使用方法は記述しませんが、ほかにも様々な機能がありますので、MTGAに限らずストリーマーなどにもお勧めできます。


機材構成 の前に 〜カンタンは正義〜

では実際の機材構成について解説します。

筆者がリモートでのMTGAの配信案件を相談された時、一番最初に解決しなくてはいけないと感じた点は、

「Discordを2個キャプチャーしてミックスする方法」
「演者へのタイムラグのないゲーム画面の共有方法」

の2点でした。
これを後から決めると全体の仕様が変わり、機材構成が変わってしまうからです。

当初は、2台のPCからゲーム画面をそれぞれHDMI出力し、ハードウェアスイッチャー経由でスケーリングして配信用のPCに入力しようと考えたのですが、自身のオペレーションとコンバーター等の機材が膨大になり過ぎるし、演者用のクリーンフィードの共有方法、タイムラグの解消、サイマル放送の対応の難しさ、いろいろな点からワンオペでやるのは不可能と判断しました。


配信で一番大切な事は、「簡単にできるように準備する事」だと筆者は考えます。

事故らずに最後まで放送を続けるためには、簡単でなくてはなりません。

いざ配信本番がはじまると、何かしらのトラブルが必ず発生します
これは決定事項であり、誰にもこの運命を変える事はできせん。
トラブルは必ずそこに在るのです。

配信スタッフであるあなたは、この事実を受け止め、ナクタムンで試練に挑んだギデオンのように、トラブルを観察し、真の敵を見破らねばなりません。

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[Cruel Reality : MagicStory "BRAZEN"より]

機材構成や設定をできるだけ簡単にする事は、問題解決の助けとなります。

「事故の当事者が冷静さを欠く」という事は、救命救護では原則として考慮せねばなりません。これは配信でも同じことが言えます。一度事故れば、簡単な事すらも出来なくなるのです。

本番中にトラブルは起きます。そのトラブルを「事故」にしない為に、リカバリのしやすさを構築段階から考慮しましょう。

ジョジョの奇妙な冒険 第54巻で「ベイビィ・フェイス」が言ったように、「シンプルが良い」のです。シンプルさと冗長性の同居こそが理想なのです。


機材構成・図解

シンプルで簡単な配信の実現は難しい問題です。

当時、ケーブルやハードウェアスイッチャー、コンバーターを排し全てを配信ソフト上で運用するにはどうすべきか、と考えていた筆者は天啓を得ます。

Discordが多重起動できれば良いのです。

1台の録画PC内にDiscordが2つ起動できれば、そしてその画面をオーバーレイと一緒に録画すれば、「PC1台=FM1卓」の図式が成り立ちます。
そして、PCを増やせばFM卓の録画を増やす事ができ、それは同時にホットスタンバイが増えていく、という事にもなります。

https://support.discord.com/hc/en-us/articles/360035675191-Desktop-PTB-and-Canary-Clients

DiscordのPTB(Public Test Build)バージョンを使用し、録画PC上で多重起動、録画した映像を「演者用配信PC」で配信し、演者に共有、演者が見ているのと同じ放送を「配信PC」上のブラウザでキャプチャーすれば、演者とのタイムラグは起きない。
一見、かなり回りくどいやり方に感じますが、オペレーションはシンプルで簡単です。護身がここに完成しました。

図解します。

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録画PC(図右下)上で「Discord」と「Discord PTB」を起動します。
それをXsplit(配信ソフトは何でもよいです)でキャプチャー、スケールを調整し、オーバーレイのサイズに合わせます。

ここでゲーム音に注意してください。
そのまま録画すると二人のゲーム音がダブってしまいますので、画面上部のプレイヤーの音はミュートしましょう。

Discord上で鳴っているゲーム音がうまく配信ソフトで拾えない場合は「VOICEMEETER BANANA」などの仮想ステレオミキサーを使用するとよいでしょう。

こうして録画した映像を「配信PC 2(図左下)」にコピーします。
録画した映像をXsplit上に配置し、そのレイヤー上部にLOMを配置します。
先ほど作成したロゴも乗せておきましょう。

これをYoutubeで限定公開として配信し、演者には実況解説用として、
配信PCには、映像ソースとして共有します。


メインとなる「配信PC1」で、Discordから演者の映像と声をキャプチャー、Webブラウザからゲーム画面をキャプチャーします。

本番中、配信スタッフとして、演者と同じ実況解説用サーバーで通話をしながら指示を出します。
このままですと、配信に自身の声が乗ってしまいますので、配信ソフト上では自身のマイク(オーディオI/O)をオフにしておきましょう。
配信PC上でDiscordはマイクオン、配信ソフト上はミュートにし、視聴者には聞こえないが演者には声が届く状態を作り出しましょう。

ただ、この状態ですと、例えば幕間に演者の声をPCでミュートすると、自分にも演者の声が聞こえない状態になりますので、LINEグループなどのサブの意思疎通手段を準備しておきましょう。

冒頭のディレイの部分で記述した、「実況しながら1PCで大会の全てを切り盛りするので、あまり複雑な事はしたく無い」パターンの場合、メインの配信PC内でDiscordを多重起動し、配信ソフト上でディレイをかけるだけで、同じ事ができると思います。
ディレイとDiscordの多重起動で多少重くなるかと思いますが、送出のビットレートを調整すれば中堅程度のスペックのあるPCなら実現できるかもしれません。



最後に

以上となります。
冒頭でも書きましたが、分からなければ配信やりますので連絡くださいませ。無償でお手伝いします。
ご質問は、Discordにお送りください。

一緒にEDHやりながら話しましょう。



引用
岡本太郎『壁を破る言葉』(株式会社イーストプレス,2005年,p36)

伊藤 敦.“だらだらクソデッキ vol.1”.晴れる屋.更新日不明.https://article.hareruyamtg.com/article/article_218/,(参照2021-02-07)


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