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デジタルDJソフトウェア TRAKTOR の話

デジタルDJシステム TRAKTOR の機材を買い替えた。
Native Instruments社の不動のフラグシップ機 KONTROL S8 というコントローラーを使っていたが、KONTROL S4 Mk3 への移行だ。Mk3、すなわち S4 としては第3世代で、大きな変更点として、ターンテーブルの代わりをする丸いパーツ プラッター が回転する。昔からこれが回転するやつが欲しかったのだが、ついに、といったところだ。


そもそも DJコントローラーとはなにか、について簡単に説明しておこう。いまや DJ もデジタル音楽データを PC 上で操って行うのが当たり前の時代、これ専用のソフトウェアとして、Native Instruments社の TRAKTOR や、Serato社の Serato DJ、Pioneer社の rekordbox など複数存在し、それだけでも DJプレイはできないことはない。しかし、同時に複数のノブをいじったり、直感的に(アナログ的に)操作したりすることが多いために、キーボードやマウスでの操作には極端に不向きである。このために、USB などで接続した外部機器でソフトウェアをコントロールする。これが DJコントローラーだ。

デジタルDJ機器で最初にプラッターが回転したのはおそらく2004年発売の CDJ(アナログレコードでなく、CDプレイヤーで DJプレイができる機械)TECHNICS SL-DZ1200-Sではないかと思う。これは1台で10万円を超えており、もちろん DJ をやるには2台必要であるから、学生の身分からすると天文学的金額に思えた(いまでも流石にその額は出せない)。しかし、もともと CDJ の操作感に馴染めず、アナログレコードに固執していた私にこの頃「プラッターが回転するデジタルDJ機器」への憧れが植え付けられたのは間違いない。

私が学生時代に在籍していた軽音楽部は、いわゆる軽音楽部とは違って、「クラブ部」だった。これについては1つ前に公開している記事「私の趣味: 多すぎるので音楽のこと〜D線上の息子と私〜」を参照されたい。

学生時代には自分の機材は持っておらず、軽音楽部の部室にある機材で練習していた。はじめて自宅に機材を手に入れたのは新卒1年目のときで、ターンテーブル2台とミキサーをともにヤフオクで購入した。さらに、この年のうちにデジタルDJソフトウェア TRAKTOR を購入している。TRAKTOR はドイツの企業 Native Instruments の製品で、最初のバージョンは2000年の発売だったらしいが、学生時代には存在すら知らなかった。
なぜ TRAKTOR を選んだのかについては全く記憶になく、シェア的には Serato とかにしておけばクラブに行ってやる時なんかも便利だったのに、と思わないこともない。COVID-19 のせいで、医療従事者がそんなことをできる時代が次いつ来るのかはよくわからないからまあいいか。他社のソフトウェアだと対応コントローラーの選択肢がもっと豊富だったりするけれど、TRAKTOR のコントローラーのデザインの抑制されたトーンというか、落ち着いた感じが気に入っているので、やっぱり僕の選択は間違っていなかったのかも知れない。他社のもののゴテゴテ感がどうも苦手である。なんだか物凄いことができそうではあるけれど。

さて、デジタルDJ といえば、コンピュータが勝手に解析して2つの曲のテンポを合わせてくれる Sync 機能が便利なのだが、そんなものは邪道だとかかなり意地を張って使わずにいた。分かりにくいかも知れないが少し説明を加えると、我が家のデジタルDJ機器の当初の構成は、ターンテーブルとミキサーの接続の中間に特殊なオーディオインターフェイスを挟んで、ここから USB でパソコンに接続して「介入させる」ようにする。その状態でターンテーブルに特殊なレコードを置くと、そのレコードで PC上の曲の再生をコントロールできる仕掛けになっていて(つまり、レコードを手で早回しすると、PC上の曲も早送りになるということ、ちょっと魔法っぽいでしょ)、当時は頑なにそれで手作業でテンポ合わせをしていた。なにぶんまだ Sync の精度も高くなかったのではないかと思う。

そして2014年に KONTROL S8 が発表された。普通 DJコントローラーにはターンテーブルを模した丸いプラッターがついているものだが、S8 はなんとそれがないという斬新なスタイルだ。おそらく、Sync もあるし、プレイスタイルやジャンルによってはスクラッチもしないとなるとプラッターは要らないだろう、他の機能にそのスペース使った方が面白いものを作れる、という意図なのかどうかは知らない(けれど当たらずとも遠からずといったところだろう)。

YouTube などでプロが使うのをみて、これがどうしても欲しくなり、少々無理をして2015年にこれを購入した。元々持っていたミキサーはお払い箱にしたが、ターンテーブルはまだ残していた。しかし、Sync機能がかなり良いことに気がついたのと、S8 を使うと今までできなかったような技が色々と使えることがわかり、テンポ合わせをしている時間が無駄に思えてきて、だんだんと使わなくなっていった。

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中央の KONTROL S8 を stanton のターンテーブルが挟み撃ちにする

レコードしか音源を持っていなかった曲も音楽配信サービスの充実により容易にデジタルデータを手に入れられるようになったのも大きく、レコードの登場頻度がいよいよ下がっていく。そこにきて子どもが産まれたこともあり、物の置き場がなくなったため、数年後に「一旦」ターンテーブルを手放した。
それでも、いわゆるスクラッチ系の技術はいつかは身に付けたかったし、ターンテーブルを再度手に入れるしかないなぁなどという漠然とした思いが頭の片隅に常にあった。

他にもいくつかデジタルDJソフトウェアはあるが、TRAKTOR は "Remix Deck" という機能が特徴的なのと、あとは Native Instruments は一時期 "STEM" というのを流行らせようとしていた。
Remix Deck はループ素材だとかワンショット素材を組み合わせて、即興でリミックスを作ってしまうような機能としか説明のしようがないが、多分何を言っているのかさっぱりわからないと思う。上にもリンクしたが、この動画でカラフルなパッドで操っているのは Remix Deck だ(プレイが異次元過ぎて何をやってるのかわからないかも知れない、僕も何回見たかわからないというほど見たが、ごく一部しか理解できていない。それにしてもこの手の DJ って、なんでみんな後ろ向いてターンテーブルいじったり、くるっと回ってみたりするんだろう、お世辞にもかっこいいとは思えないのだが)。実はこの機能は僕はあまり使えていなくて、S8 の両翼の真ん中辺りはこれをコントロールするために存在するので、S8 の性能をちゃんと引き出せていないなという思いがあった。
STEM というのは、2015年に Native Instruments が発表した新しいオーディオフォーマットで、拡張子は mp4 なのだが、謎技術によって4つのパートがバラバラに格納されている。リンク先の動画を見るのがわかりやすいが、ドラム、ベース、シンセ、ボーカルなど4パートにわかれていて、別々にコントロールできる。動画で使っているのはまさに S8 で、「STEM 使うなら S8 一択だろう…何この神フォーマット…」となったのだけれど、ぶっちゃけた話、この STEM があまり流行らなかったのだ。アーティスト側にはこのために手間をかけるメリットはあまりない気がするし、当然といえば当然だったのかもしれない。それでもこの STEM は DJプレイに使うとめちゃくちゃ楽しいので、僕は結構使っている(が、とにかく曲が少ないのだ、しつこいようだが)。

ところで、こういう音楽をどこで買うかと時々訊かれるのだけれど、僕は Beatport というサービスを使っている。この Beatport で STEM を扱わなくなったころから「S8 じゃなきゃ本当にだめなのか」と思うようになる。S8 は PCなしでは動かないものの、大きな高精細モニターが2つもついていて、これは今でも大きな売りの一つである。確かに PC の画面をほとんど見なくても済むといえば済み、これは購入時点ではかなり魅力的だと思った。しかし例えば、曲をライブラリから探す時に、 S8 の画面上で回転ノブで探して選択してロードできるが、少し顔を上げて目の前の PC のキーボードでタイプして検索した方が早い、とか言ったことにだんだん気付きはじめ、利点の一つである「でかくてきれいなモニター」も、まあなんかテンションは上がる、くらいの感じになっていく。

Sync やループを使いこなすようになると、いよいよエフェクトをかけるのだけでは時間を持て余すようになってきて、「やっぱスクラッチでも勉強して小技入れられるようにしとこうかな」などと思うようになる。

そんななかで、2018年に S4 Mk3 が発売となる。「プラッターが回るのか、マジか…」である。以後3年間悩み続けたが、実売価格もそれなりにこなれてきた。さらに、これで DJ でもやってみようかと購入した人がそんなにハマらなかったとかいうことなのか、かなり綺麗な状態でフリマサイトに放流されるようにもなってきた。S8 は既に発表から8年目に突入していて、ディスコンになればおそらく中古取引価格は上がる(他に似たようなものがないから)が、目玉が飛び出るようなすごい後継モデルが出て下がるかもしれない。故障のリスクに関しては、プラッターがないし、大きく動く部品が少ないためにとても低そうだが、壊れてからでは売れない。今なら S8 の売却価格と S4 Mk3 の購入価格がほぼつり合ってるぞ…とだんだん買い替えの方向に心が動く。

また、S8 を根性で数回外に持ち出してイベントをしたこともあるのだが、とにかくでかい。重い。近々ちょっと遠くに引っ越すことになりそうなので、やはりわずかでもより軽く、小さいのにしたいという事情も出て来た。

というわけで満を持して S4 Mk3 を手に入れることとなった。フリマサイトさまさまだ。

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妖しく赤く光り、プラッターが意味深にゆっくりと回転する

これは起動時のギミックだが、パッドが順に赤く光り、プラッターもゆっくり回転する。たまらんぜ、こりゃ。Mk2 までは S4 はちゃちな質感の部分も結構多かったのだけれども、各パーツの質感がかなりよい。S8 はフラッグシップ機だけあってかなり気合いを入れて作ったのか、あまりチープさを感じる部分はなかったけれども、「S4 Mk3 の方がいいな」と思わせるところが複数ある。

機能としても、MIXER FX というとても賢いエフェクター操作系も思ったよりはるかに楽しめそうだし、これは相当いいんじゃあないか?

それにしてもプラッター回転のモーター音が意外とうるさいな、切ったろか(プラッター動作については2つのモードがあって、従来型の「回らない」ジョグホイールモードと、「回る」ターンテーブルモードが簡単に切り替えられる)などと思いつつ、いずれマニュアルのチュートリアルでもみながらいろいろいじってみることにしよう。

※これまで、S8 を使って録った DJ mix は mixcloud にアップしてある。なかなかに良い出来だと自負しているが、どこがどうなっているのか、DJ になじみがなくて、元の曲を知らないとわからないかもしれない。これを解説する副音声みたいのがあったら面白いかも知れないが、まあ、さすがに需要がなさすぎるだろう。

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