復縁できなかったら死のうと思ってた③いつもありがとう

元彼とセフレ関係を一年続けた果てに、終わりの日はやってきた。

1月半ば頃、私はいつものように元彼の家に泊まっていた。
翌朝元彼は仕事のため朝早く出て行った。
「お風呂とか、好きに使っていいからね」
と言って出て行ったので洗面所に向かうと、見慣れないヘアオイルが置いてあった。
…彼の趣味じゃないなと思った。アンドハニーなんて彼が選ぶだろうか。

他にセフレがいるのかなと思い、罪悪感を感じつつも軽い気持ちで家探しを始めてしまった。引き出しを開けたりクローゼットを開けると、思っていた以上に色んなものが見つかった。

お泊まりセット。
下着。
彼のものと色違いのパジャマ。
日付が刻まれたペアリング。
ツーショットの写真集。

…セフレではなかった。ちゃんと付き合っている彼女がいるみたいだった。私と全然系統の違う、ショートカットの濃い顔の女の子。満面の笑みで幸せそうにピースを決めていて、その横で元彼はバカみたいに変顔したり、微笑んでいた。

日付が刻まれたペアリングをもう一度見た。7月と書いてあって力が抜けた。
7月?そんなに前から私は彼の浮気相手で、コイツはこの彼女と付き合い始めてから今日の今日まで浮気し続けてたってわけか。
流石にもう、無理だとわかった。ショックも大きかったけど、終わりの見えない地獄の復縁活動を見かねたお釈迦様によって天国から蜘蛛の糸が垂らされた気持ちだった。もうこれを登る以外ないと理解した。

私は彼に全部終わらせるためにLINEした。罵倒してやればよかったけどそんな気力はなかった。どうせもう終わりなんだから、薄汚く浮気し続けていた彼と違い私だけは清らかな気持ちのまま終わりたかった。

実際送ったLINE

本音を言えば、「今カノに申し訳ないから今すぐ家に呼んで、浮気してた2人で土下座しようよ!!!!」と言い出そうと思ったレベルには気が狂っていた。私だけが全部失って傷ついて終わりなんておかしくない?もっと阿鼻叫喚地獄の、登場人物全員死ぬぐちゃぐちゃの結末にならないとおかしくない?って本気で思ったけど、冷静な友達に止められてしまった。止めるなよ。

元彼と会うことになった。綺麗に終わらせるつもりだったけどさすがに怒りも悲しみも込み上げてきてしまって、思考回路が1ミリも理解できないサイコパス野郎とか、私を浮気の共犯者にしやがってとか、1年間嫌われたくなくて飲み込んできた醜い気持ちを全てキレながらぶつけた。

口下手な彼は、青い顔をしつつ、最近メンタルが沈んでたから依存できる人が欲しかっただとか、あとはそこまで深刻に考えてなかった、どうかしていた、ごめんとか言っていた。◯◯を依存させるようなことしてた自覚はあるだとかなんとか。
…依存させる?なんだそれ気持ち悪りぃな。そんな浅い恋愛テク(笑)ごっこで一年も人の気持ち弄びやがって、とすっごい冷めた気持ちになってしまった。

違うでしょ。君は目の前ににんじんがぶら下がってたら追いかけちゃうだけで、これからも一生変わらないし同じこと繰り返すと思うよ。人の気持ちとかもっと真剣に考えたほうがいいよ。このままだとこれからも人のこと傷つけ続けるよ。考えが全然足りないよ。大人のくせに。

私はもう思ったこと容赦なく全部言った。自分のダメだったところだけ反省して、彼は悪くないよと慰めたほうがよっぽど復讐になったと思うけど、そうやって終わったら逆に立ち直れないと思った。ブチギレつつも1年間抱き続けてきた濁流のようなアイラブユーをぶつけている気持ちだった。

私も泣いていたけど彼も泣いていた。
彼は
「俺はなぜか◯◯にだけは家族にも親友にも誰にも言えないことも全部話せてしまう。俺のためにこんなにちゃんと怒ってくれる人は今周りに◯◯しかいない。いつもありがとうッ…!!」
と声を震わせながら言った。
私はなんでも打ち明けられて浮気もできちゃうソウルメイトってか〜?嬉しい〜🥰なーにがいつもありがとうだよ。私たちはもうこれで終わりなんだよばかやろう。
でもそうやってバカなのに、私の思考回路を意外と理解して素直に暑苦しく感謝してくるところは本当に最悪だしめちゃくちゃ好きだったなと思った。

私がこのまま連絡取らなくなったら、もう私のこと忘れられる?と聞いた。彼はその質問は難しすぎて答えられないと言った。私もなんて答えて欲しかったのか全然わからなかった。わかっていることは、これでもう彼とハグもキスもセックスもできなくなったということだ。私が今この瞬間、間違いなくこの手で、復縁という細い細い可能性を、二人が一緒にいる未来を断ち切ったということだった。

彼のことはその後も好きだった。好きだからこそSNSを全部ブロックした。触れられる距離にいたら仕事の悩みを相談して頭を撫でて欲しくなるし、手を繋ぎながら映画を観たくなってしまうし、ご飯も作ってあげたいし、抱きしめたくなってしまうからブロックした。もう戻れないことは100億%理解したので、思っていたより辛くない爽やかな作業だった。

ブロックしてから思い出すこともなくなっていった。あの時からろくでもない人間のまま成長もせずのうのうと生きてるが、復縁という希望に縋って生きるのは完全にやめられた。毎日あんなに焦燥感や絶望感に駆られてメソメソ泣いていたのが嘘みたいに泣かなくなった。全身を突き刺し、痛くて起き上がれなくするような激しい彼への恋慕はなくなった。

この話はこれでおしまいである。
元彼のことは全然忘れてないしあんなにかっこよくて優しくて好きになれる人は今後も現れないと思ってる。趣味悪いとか色々言われるけどほっといて欲しい。今生きてるかも知らないけど、元彼が元彼のことを幸せにしてくれる人と結婚できたらいいねと心から思ってる。
…というのは嘘偽りない本音だけど、まぁ無理だろうな。元彼も趣味が悪いので、私以上の賢くて可愛い良い子を選ぶことは二度とできないだろう。アホなメンヘラに攻略されてざまあねえなって結末になってるのを風の噂で聞く日を楽しみに生きてやろうと思う。

復縁できなかったら死のうと思ってた
〜完〜

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