復縁できなかったら死のうと思ってた②復縁したいなら、セックスぐらいしないと

元彼と別れて、1ヶ月が過ぎた。
1ヶ月間をどうやって生きながらえたかというと、1ヶ月後に彼に連絡すると決めていたのだった。
冷却期間にしては短すぎるが、「冷却期間とか言って、自分の気持ちに整理をつけさせて諦めさせるための時間を取らせようとする策略じゃん。騙されてたまるか」と勝手に大人の汚さを感じ取り、(彼の中から自分が消えてしまわないうちに会わないといけない)と焦燥感に駆られていた。

私はそうして別れて1ヶ月のタイミングで、不審がられないように何度も何度も推敲した不審なLINEを、彼に送りつけたのだった。

生きた心地がしなかったが、なんと返信があった。

もうメンタルはぐちゃぐちゃで、全力疾走した後のように心臓が破れそうになりながら、他愛もない不審なラリーをなんとか繋げた。付き合っていた頃のように、2、3時間のうちに返信が返ってくることはなく、下手したら1日に一通も返ってこなかった。お前はもう俺にとって友達以下なんだぞという事実を突きつけられているようで生きた心地がしなかったが、それでも私は彼のペースに合わせ、なんとふたたび会う約束をするところまで漕ぎつけた。

私は彼と、再会したのだった。
狭くて陰気な、都内の居酒屋だった。
「てか、なんで俺たち別れたのに会ってんの?」「なんか老けた?笑」
などと付き合っていた頃にはありえなかった軽口を叩かれ、私の別れてからの地獄の1ヶ月を思い返すと正直殺してやりたい気持ちだった。
ここで冷めて仕舞えば良かったものを、私はあの頃の彼を取り戻してやるなどと、どうしようもない夢を見ていた。

私が居酒屋のトイレから戻ってきた時、酔っ払っていた彼は手を広げていた。
私は付き合っていた頃のように、自然に広げた手に飛び込み、彼の膝に座った。
彼に大きな手で後ろから抱きしめられ、頬を寄せられ、体温を感じた。泣きそうなくらい嬉しかった。ワインをがぶ飲みし恐怖を掻き消していたので、素直に付き合っていた頃を思い出し幸福感に包まれていた。とんでもなく愚かで、可哀想で、痛々しい。それでも、1ヶ月ぶりに生きてる心地がした。夢だと思った。地獄からやっと、地上に戻ってこれたと思った。

そこからホテルに向かったのは、当然の成り行きかのようだった。
とても狭い部屋だった。少し動けば天井や壁にぶつかりそうな気さえした。都会のホテルってこんな犬小屋みたいなんだとか笑いながら、私たちはセックスをした。

彼は付き合っていた頃とは全然違った。
もう私のことを好きではないぶん、なかなか果てなかった。いつまでも硬いまま、私なんかモノと同じかのように自分勝手に激しく動いた。付き合っていた頃に優しくされていたより気持ち良くて、ひどく悲しかった。乱暴に抱かれても悲しくなくなる量のワインをなぜもっと飲んでおかなかったんだろうと後悔した。
酔いが覚めかけている冷静な頭の片隅で、俯瞰的な自分が死ぬほど哀れな目で上から見ているのに気づき、慌てて「こうなれてよかったね」と自分に言い聞かせた。

それから私と彼は、1ヶ月に数回会い、ただセックスするだけの関係になった。
彼の車で、コンビニに寄ってご飯を買い、ホテルに行き、朝バイト先まで送ってもらう。付き合っていた時の、"デート抜き"バージョンだ。
私は彼の、「他の女の子とは遊んでないよ」という言葉を信じ、愚かにもそこに復縁の可能性を見出していた。

彼は付き合っていた頃と違い、とてもいい加減だった。0時を回ってから気まぐれに誘われることがほとんどだった。私は怒り、泣き、彼をLINEの長文で詰めようと何度も思ったが、「じゃあもう会わない」と言われるのを何よりも恐れ、送信できずに全部消し、毎回従順に応じてしまっていた。

彼と身体の関係があることが、私の生きる希望だった。雑に誘われ、乱暴に抱かれる。たまに付き合っていた頃と同じように気を使われ、優しくされる。まるで彼が死んだ後に彼そっくりな幻影に抱かれてるような気分だった。

一度だけ避妊をしないでいいよと言ってから、彼は時々許可もなく避妊をしなくなった。私は妊娠してもいいとさえ思っていた。一緒にいられない色んな壁を乗り越えて、あの頃の優しい彼が戻ってきてくれる理由ができると思った。しかし幻影だからなのか、何度したところで一切妊娠しなかった。

正気にならないように自分に言い聞かせていたのに、ある日、正気に戻ってしまった。私は行為中、ふいに泣いてしまった。「なんでゴムつけないの。別れたのにこんなことするのおかしいよ」と、死ぬほど普通のことを口走ってしまった。

彼は真っ青な顔をしていた。そうだよね、俺何考えてたんだろうと言いながら泣きじゃくる私を抱きしめ、謝り倒し、彼もなぜか泣き、そして帰ってしまった。

…終わったと思った。せっかくここまで"楽しく"やってきたのに。私が余計なことを言ったから、全部台無しになった。私だってこうなるように仕向けたも同然なのに、今更傷つくも何もないのに、被害者面したせいで、全部終わったと思った。

ある復縁系YouTuberが、「復縁したいならセックスぐらいしないと、男は繋ぎ止めておけないよ」と言っていた。なるほどと思った。そうかもしれないと思った。
確かに、身体の関係を拒んだところで私が今更彼にとって何の価値があるのか、一つも思い浮かばなかった。

社会人として立派に働いている彼と、かたや留年して大学生をやっている私。
優しく気が利く彼と、愛想のない私。
万人が認めるイケメンの彼と、どこにでもいる可愛さの私。
友達が多く家族を大事にしてる彼と、友達が全然いなくて毒家族と絶縁した私。

…今私が彼に差し出せるものが、他に塵一つも思い浮かばなかった。
そもそも彼にとって私は要らない人間だったからフラれたわけで、今更何かを出し渋ったところで彼にとって必要な人間になれるわけがなかった。
どんなに惨めで苦しくても、人権を失っても、自分の心の痛みなんて無視して、相手にとってのメリットを与えられるだけ与え尽くさないと、「復縁したい」なんて言ってはいけないと思った。
もはやただのヤリモクで会ってくれている彼に、私は感謝すらしないといけないと思った。

「冷却期間を置こう」とか、「自分磨きをしよう」とか、よくある甘ったるい、生易しい嘘で簡単に復縁できるなら、全員こんなに苦しまず復縁できている。復縁活動は、一言で言えばただの地獄である。「相手にいらないと言われた自分を、もう一度いると言わせるための努力」だよ?苦しくないわけがない。人権なんかあるわけない。簡単に復縁できたなら、それはそもそも別れる必要がなかっただけである。ちゃんと振られたら、基本、戻れないと思ったほうがいい。

それでも私は、復縁したかった。復縁できないなら死にたいじゃなくて、彼という価値のある人間に愛されない私は価値がないので死なないといけないと思った。

一度思いっきり被害者面をした私は、それでもまた彼と会い続けることができ、身体の関係を持ち続けた。一年以上も、付き合っていた頃より長い期間希望を抱き、血の涙が出るほど毎日メソメソ泣きながら、彼と連絡を取り、会い続けた。

そして、ある日突然この関係に終止符が打たれる時が来たのだった。

第二章 おしまい


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