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20.蝋(ロウ)宮殿 行かなきゃならない時もある

町の人々に温かく迎えられたユディシュティラ一行は、到着してしばらく経ったある日、プローチャナに連れられて立派な宮殿へと移り住むことになりました。

もちろんその宮殿は表向きにはドゥルタラーシュトラが甥たちのために建てたことになっていますが、本当はドゥルヨーダナが従兄弟たちを陥れるため
裏工作されたあの建物です。

宮殿の周りには、ぐるりと堀が巡らせてありました。そう、これは敵の侵入を防ぐためではなく、屋敷を燃やした時に住人が外に逃げ出さないようにするため周到に用意されたものでした。

荷ほどきも終えてこれでようやくくつろげるわ、とクンティーは喜んでいます。しかしユディシュティラは緊張を解かずにそっとビーマを呼んで問いかけました。

「なあ、ビーマ。なんだかここはおかしいと思わないか?上手に隠されていてよく見ないと気づかないけれど、この柱は紙のようなもので作られているし、なんだかギー(オイル)の香りもする気がする。まるで全体がロウでできた宮殿みたいだ。わざわざ燃えやすいものばかりを集めて、建てられているような気がしてならないんだけどな・・・」

ビーマも不審に思い家の中を見回り始めます。
その様子を眺めていると、ユディシュティラの頭には出発前にヴィドゥラが言った謎の言葉が思い浮かびました。

『・・・危険は剣や弓だけとは限りませんよ。ほら、か弱いねずみも、
火から逃げる時は穴を掘って隠れるなんて言うじゃありませんか。

どんな方法でも自分の身を守る方法は、必ずあるはずです・・・』

「あ!!」
ユディシュティラの声にびっくりしたビーマは、思わず駆け寄ってきました。
「ど、どうしたんですか、兄さん!」

「ビーマ、分かったよ!なぜヴィドゥラおじさんがあのことわざをわざわざ引用したのか、がさ。危険は剣や弓だけではない・・・そうだ、ドゥルヨーダナ達は僕らをこの家ごと燃やす気なんだ

「なんですって?!」
「し~声が大きい。残念だけど、きっとプローチャナもあっちの仲間なんだと思う。だから聞こえないように気を付けてくれ」

ビーマはそれを聞いて、憤りました。
「だからご丁寧に堀まで掘ってあったのかよ。くそ~あいつらやり方が汚いぞ!!すぐに城に戻って文句を言いましょう!!」

しかし、ユディシュティラは首を横に振ります。

「いいや。そうやって慌てるんじゃないよ。きっと、カウラヴァたちも、
ほとぼりがさめるまではきっと何も起こさないよ。いまなにか言ってもシラを切るだけさ。ある程度日数をおいて忘れた頃に偶然を装って火をつける手はずになっているんだろう」

目をぱちくりさせているビーマに、なおもユディシュティラは続けました。

「いいかい、ヴィドゥラおじさんはこうも言ったんだ。『か弱いねずみも、火から逃げる時は穴を掘って隠れる』と。つまり、これはいつ燃やされても脱出できるように、家の中に穴を掘って万が一は脱出しろという暗示だったんだ!!!」

ユディシュティラは熟考しました。

・・・確かに今すぐ逃げることはできる。けれども、はたして逃げた後彼らの罪を訴えることができるのだろうか?きっと、なんだかんだと言い逃れされるのが関の山だ。

それよりも一旦焼け死んだとして油断させて、その後に自分たちが彼らの前に出てきたらどうだろうか?僕らが死んだと勘違いして油断しているところに、僕らが乗り込んでいったらきっとビックリしてボロを出すに違いない。
王とその息子を糾弾するためにはそれくらいしなきゃ、きっと一蹴されてしまって、また僕たちは悔しい思いをするだろうからな。

もちろん、自分たちが死んだと聞いたらビーシュマおじいさんやドローナ先生は悲しむに違いない。
それだけはとても気がかりだけど・・・


ユディシュティラは、覚悟を決めました。
そしてビーマに今考えたことを話すと彼はとても兄に感心しました。

「兄さんは本当に頭が回るなあ。俺ができることならなんでも申しつけてください!」

ユディシュティラはプローチャナに気付かれないように、残りの兄弟とクンティーにも同様のことを伝え、卑劣な罠から脱出するための策を打ち始めたのです。


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穴を掘るなんて言っても一体どうやったら?と頭を悩ませていた矢先、見知らぬ男がユディシュティラの元に訪れました。
彼は自分を鉱夫だと紹介した後、ヴィドゥラから遣わされたと述べました。

彼はそっと小声で、
「あなたのおじさまから全てを聞いています。私は、こっそり床下に忍び込んで、ガンガー川までつながるトンネルを掘りに来たのです」
と囁きました。

ユディシュティラは手を叩いて喜ぶと、早速彼を招き入れてその日からこつこつトンネルを掘ってもらうことにしました。

たった一人の鉱夫であるうえに音を立てて作業は出来ません。
掘りはじめてから1年経って、やっとトンネルは完成しました。

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サヨナラの挨拶を言いがてら鉱夫はさりげなく、プローチャナがついに明日火をつけようとしているらしい、と教えてくれたので、そのタイミングでパーンダヴァ達はロウ宮殿を脱出することに決めました。


次の日の夜、クンティーは腕によりをかけて豪勢な料理を用意しました。

プローチャナも誘って飲めや歌えやの大賑わい。プローチャナは満腹になって、ついには寝てしまいました。
それを見たユディシュティラはすぐに兄弟たちに合図を送ります。
アルジュナと双子はクンティーを連れてトンネルに入りました。

ビーマはあちこちに火をつけて回ります。
ユディシュティラはトンネルの前で待ち、ビーマが火をつけ終わると二人はトンネルの中に入り、穴が見つからないように蓋を閉めました。


プローチャナがドゥルヨーダナのために作り上げた宮殿は、いとも簡単に火を広げ大きな音を立てて崩れ落ちました。建てた本人とともに。

何事かと起きてきた町の人々は、パーンドゥの住処が燃えているのを見て仰天。しかし時すでに遅く、人々が火事に気付いた時には宮殿はほぼ全壊している状態だったのです。


きっとあの美しい兄弟たちは建物もろとも焼けてしまったに違いないと、
人々は大きく落胆し、次第に泣き声が大きな渦となって溢れます。
反対に、行き場をなくした炎は、ゆっくりと小さくなっていくのでした。


《ガネーシャのひとりごと》
クンティーのご馳走ってなんだったのかな〜
やっぱりいま流行りの南インドカレーかな。
アレー?ここ、北だったかな。
お腹すいたなぁ。

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