第5回笹井宏之賞応募作 『raindrops』

『raindrops』 枡英児

平凡な人生でした二十五で一人スタバの前を過ぎれば

クリアホルダーまとめて戻す心にも実体があるならこんな色

モニターに映る自分がどこまでも油断している細胞だった

ベッドから転げ落ちれば不細工な僕の形が残ってしまう

通り雨 やり直すなら記憶ごと消えたっていい【Normal End】

お土産のバウムクーヘンつまんでる高層階に朝日は差して

簡単な作業を終えて話したい人がいるからパチンコに行く

宝くじに当たった日から宝くじに当たった夢を何度も見てる

頑張れない日々が続くよ偽物のナイトルーティン笑ってしまう

小夜時雨 もう戻れないなんてことないとは思う【Normal End】

運命は君が本屋に来たことと僕が両目を開けていたこと

半券を大事にしまい直しつつ自然な感想を僕も伝える

首筋を優しく撫でる心臓は僕の急所を避けていたのか

汀から一番遠い砂浜で絵文字を打ってしまっては消す

喜雨過ぎて やる後悔の大きさに泣いてしまえば【Normal End】

企画課の蛍光灯を付け替える僕の糧にもなる光たち

炊き出しに並ぶ人たち全員の顔を覚えてゆくことにする

引き取った保護犬に名前をつける昨日の夢に纏わる名前

いいことをすればするだけ僕が来た道に数多の花 や吸い殻

小糠雨 歩いてこない幸せを放ち続ける【Normal End】

撃ち合って嘲るだけの放送を5400人が見ている

来る者は拒み去る者は追いかける敵であってもアンチであれど

「血塗れの手でごめんね」と真っ白な手を差し出せば大体ウケる

好きなことして生きていく必要もなくて華麗なヘッドショットを

外は梅雨 才能があるならこんなことはしてない【Normal End】

食パンを咥えて角を曲がったら穴にはまった【Normal end】

平凡な人生でいいエビチリのチリの部分を多めに掬う

改札に足止めされていなければあの車掌にも怒られてない

ヤクルトの底に溜まった栄養のように素顔が張り付いている

初雪は素肌に溶けてあまりにも弱いファントムバイブレーション

土砂降りに抵抗しても膝下はずぼらに濡れる【Normal End】

モンスター二本目をいく悪の無い正義があればこういう感じ

声が出る なぜ人間がいるかとか意味が分かって楽しいのかよ

針を呑む草食獣のように眠り肉食獣のように眠った

甘いののあとしょっぱいの食うように飴とフリスク食う 鬱のとき

日照り雨 ここにいるのがあまりにも自然で狂う【Normal End】

右脚の断面きつく包帯に分断されてしまった心

悲しみに係る重さを放棄してとても静かなリハビリをする

友人の見舞いにそっと微笑んで被差別主義者の昼間は長い

出来なくなったことをたくさん浮かべては幻肢痛みたいに噛み締める

雪解雨 個性ってのは生まれつき変わらないもの【Normal End】

学校は大変だろって先生じゃない大人ならみんな言うのに

数学の堀先生の照れ方をみんなが真似るのに似ていない

参観日にもいつも来る父はまた来て担任のスーツはダサい

人生とカードゲームの関係を穴食パンの人に教わる

五月晴 自殺について話すのは有名人が自殺したとき

僕たちは生きるしかない神様の事後報告を受け入れながら

愛情を教えてくれる人がいてキャラメルフラペチーノをねだる

信念を貫かなくていい 虹が何色に見えるか話さない

僕らしく過ごしてみよう矛盾した論理を許す論理の中で

【Normal End】

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