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幸せな2時間半の休日。

その日は奥さんも私も仕事が休みだったので、久しぶりに近くの大きなデパートに出掛けた。お目当ては地域物産展。その県ならではの美味しいものがたくさ集まっている。

本当は、私は秋の紅葉を撮りに出掛けたかったのだけど、まだ見頃じゃなかったので、その日はあきらめて、彼女を車でデパートまで連れてゆき、私は近くにある花のきれいな公園へ写真を撮りに行くことにした。

デパートまでの道が混雑していて、着いた頃には昼近くになっていた。どうせなら、そのデパートで県産の美味しいものを食べようってことになったのだけど、もう人であふれかえっていて、どこの店も長蛇の列。最後尾にはプラカードを持った店員さんもいたりしてビックリした。(道が混雑していたのもこのせいだったか!)

人がたくさんいる場所は、私はとても苦手なので、早々と食事が出来る店に入った。でも、その店はとても小さかった。その物産展のために作られた店のようで、席が20程度しかなく、すべてカウンター席。しかも席と席とのすき間が限りなく狭い。まだ、4席空いていて、私と奥さんは座って、注文する。すると、すぐに二人のお客さんが座って来た。そしてまた、私はビックリすることになる。

だってそのお二人は、とてもふくよかなおばさま方だったのだ。ひとり1.5席分。合計3席分は必要かと思われた。(ぎゃぉ!)結局、私と奥さんが0.5席分小さくなって(どうやって??)それこそ肩身の狭い思いをして食べた。

まぁ、美味しかったのだけどね。

それからは彼女と私は別行動することにした。「何時間後にこの店に来たらいい?」って彼女に聞いたら、人の多さに彼女は逆に、はしゃぐタイプで「うん、2時間半後ね!」っていう笑顔の返事だった。

すげぇな。2時間半だよ。女性って、よくそんな長時間、買い物を楽しめるものなんだなぁ。感心する。

さて、私は2時間半、近くの公園で写真を撮りながら時間をつぶすことにした。この公園にもたくさんの花や木があるのだけど、まだ、紅葉は少しだけだった。残念。

平日の午後なのに、結構な人たちがいた。ベンチに座っていたり、小さな子供とお母さんが遊んでいたりと、それぞれに穏やかな時間を過ごしていた。

日差しも柔らかくて、とてもあたたかい。

あぁ、こんな風みたいに流れるような時間は久しぶりかなぁ。みんな知らない人たちなのに、同じ時間を共有しているそれだけで、同じ仲間のような気がする。挨拶なんて特別しなくても、横を通り過ぎるだけで、お互いが、心の中で挨拶するような、そんなひととき。

紅葉はまだだけど、きれいな花たちが私を迎えてくれる。私はゆっくりとシャターを切る。ファインダーの中で花たちが輝いている。

あぁ、幸せだなってとても単純に思う。
でも、この単純な気持ちが、とても大切なんだろう。

そうこうしているうちに、あっという間に2時間半が過ぎた。これもビックリだ。長く思えた時間だったけど、結局は、程よくちょうどいい時間だった。

デパートの入り口で彼女を待っていると、両手いっぱいに荷物を抱えてやってきた。本当にうれしそうで、笑顔がキラキラとこぼれていた。

「何を買ったの?」と一言聞いただけで、なんだか物語でも始まるような、彼女のなりの2時間半を語り始める。楽しい買い物が、彼女の幸せのひとつの形なんだろうな。

さて、彼女の話が終わったら、今度は私の番だ。

公園で見つけた珍しい花と、眠っていた赤ちゃんが、突然泣き出して、慌てたお母さんがすぐに赤ちゃんを笑顔に変えたその魔法を、幸せそうな彼女に教えようかな。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一