0212noteサムネ

代用はありか?


ツイッター質問箱でこのような質問をいただいた。

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最近ふと
「EDHで本物の高いカードを買う意味はあるのか?」
と疑問に思いました。

スタン、モダン、レガシーなどの競技フォーマットであれば
本物のカードを使用しなければいけないと思いますが、
カジュアルフォーマットにそこまでお金をかける意味はあるのかな?と。

多色でEDHのデッキを組む場合は、
デュアルランドを初め高額な再録禁止カードが必要になりますし。
なんなら再録禁止カードは、全部プロキシでもいいんじゃなかなと感じるようになりました。
(MOなら紙の10分の1以下で組めますし。)
私の周りでも
「EDH用のカードはプロキシで良くね?
競技フォーマットにお金をかけた方が良くない?」
と考える人が増えてきました。
この件について、店主さんはどう思いますか?
やはりプロキシカードはナンセンスだと思いますか?

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最初に。
カードゲームのマナーとしてこれは絶対にやってほしくない。
競技にお金をかけるためだから、
カジュアルは代用でいいという考えも間違っている。
MTGというよりカードゲーム全体として、
競技志向の人もいれば、
カジュアル志向の人もいる。
中には、
競技志向のつもりだけど、
他人からはカジュアルに見られてしまう人だっている。
その人の実力に関わらずだ。

こういう「代用でいいだろ?」という理屈は、
「人に迷惑をかけないなら何をしてもいい。」
という話に近い。
実際にこの
「人に迷惑をかけないなら何をしてもいい。」
を言う人の多くは、
必ずと言っていいほどに人に迷惑をかける。
迷惑をかけていないと思っているのは本人だけだ。

同じ言い方で、
「カジュアルなら何をしてもいい。」
なんて事はないのだ。


トレーディングカードの本質

そもそもトレーディングカードゲームとは何なのか。
という事を考えてほしい。

トレーディングカードゲームの基本の1つは
「自身が持っているカードをどう使うかを自身で考え、
 1つの束(デッキ)にして実力を競い合うもの。」
のはずだ。

代用を許してしまえば、
最初の「自身の持っているカード」という基本部分が無くなる。

持っていないカードの代用を使うという事は、
そのカードを使う資格が無い。
競技じゃないなら代用でいいなんて考えは、
本物を買っている対戦相手に失礼に当たる。

お互いに本物を持って勝負をするからカードゲームなのだ。
カードゲーマーなら
マナーとして、礼儀として本物を使うのは当たり前だと。
カジュアルも競技志向も関係がない。

自分のようなカードショップのオーナーが言うと、
「使いたいなら買え!」
という言い方に捉えられてしまいそうだけれども、
そういうつもりでこれを言うのではない。
営業抜きで書いている。
(普段も基本的に営業抜きで書いているが。)

考えてほしい。

代用を使う(または使いたい)人は、
自分の気持ちとしてはそれでいいかもしれない。
財布も痛まないから気楽でいい。

けれども、
貴方の対戦相手はそうではない事を知ってほしい。
沢山の世の中のプレイヤーは、
それぞれに自分の好きなレギュレーションを選び、
自分の財力でカードを買い、
自分の持っているカードで工夫し、
人によってはカジュアルで、
人によっては競技志向で、
様々にカードゲームを楽しんでいるのだ。

画像1

ちょっと仮想のお話をすれば、
MTGというゲームは、
「貴方は魔法使いになって、
 自身の持つ魔法を1つの魔道書(デッキ)として用意し、
 それを持って相手の魔法使いと戦う。」
「知恵と知識と魔道書を駆使して、
 最強の魔法使いを目指せ!」

というイメージのものだ。
そういうロールプレイングゲームだ。

ロールプレイングという観点からも代用は許したくない。
どこの世界に「代用で書かれた魔法」があるというのだ。
代用の魔道書なんてあるわけがない。
MTGは「あなただけの魔法」を持つべき世界だ。

仮想と言えば、MTGに限らないが、
MTGアリーナ、他のスマートフォンゲーム、
そういったもののどこに「代用」があるのか。
データでやり取りをするあの仮想空間の中で、
「代用」は一切認められるわけがない。

スマートフォンゲームはある意味で最たるものだ。
配布されたキャラクターやアイテムと、
ガチャで出たキャラクターやアイテムしか使えないのだから。

そしてそれが「普通」だ。
当たり前の話だが、代用が認められてしまったら、
大半のスマートフォンゲームが滅びしてしまう。

もし、代用が横行してしまい、
買う人が減って、
ショップが成り立たないのであれば、
その業界全体から皆が撤退してしまうのだ。

実際のところは、
「代用で済むなら代用だけでゲームする層」
だけがプレイヤーでは無いので、
業界が壊滅するところまでは行かないだろうけれども、
傾向やマナーという観点で良い事は無いのは間違いない。

スマートフォンゲーム、MTGアリーナどちらでも同じだが、
よく、
「課金したら負け。」
という考えの人がいる。

それは主観で思っているのは自由。

けれどもゲームを楽しみ、ゲーム代だと思って課金する人もいるのだから、
そのゲームは運営が成り立っているのだ。

MTGはカード資産として手元に残るメリットがあるゲームだが、
基本的な部分ではスマートフォンゲームと同じで、
サービスにお金を払っているのである。
案外とこのサービスにお金を払うという考え方は、
多くの消費者に理解されていない事が多い。

実際のところ、
サービスを十全に楽しむのであれば、
課金をしないほうが負けなのだ。


サービスの提供とは

ゲーム課金の話をしたが、
もっともそれはサービスが適切に提供されているものに限る。
サービスが適切でないものにお金を払うのは確かに負けだ。 
クソゲーにお金を払いたくない人の気持ちは至極当然というやつだ。

別の話で考えてみるとわかるだろうか。
一例ではお酒だ。
ここではどこにでもありそうなカシスで話そう。

画像2

・居酒屋のカシスオレンジ。
・BARのカシスオレンジ。
・キャバクラのカシスオレンジ。
・自宅で作るカシスオレンジ。

この4つは仮にどれも材料を同じにした、
カシスリキュールとオレンジジュースでも、
値段はバラバラになるだろう。
一番安上がりは間違いなく自宅。
BARやキャバクラだったら1杯で千円を超えてもおかしくない。
それでも払う人はいる。
それは何にお金を払っているのかと言えば、
BARの雰囲気、居酒屋の雰囲気、キャバクラの雰囲気、
そしてその雰囲気を作ってくれるバーテンダーさん、
キャバクラのお姉さん、居酒屋の店員さんのサービスなのだ。

「俺は飲めればそれでいいから、
 わざわざお高いBARなんて行きたくない。
 安く済ませたいから外飲みなんて嫌だ。」

そう思うのは自由だ。
けれども人付き合いの中でそれを人前で言うわけにはいかないだろう。
BARの雰囲気、居酒屋の雰囲気、
こういったものは非日常の空気なのだ。

日常から離れてその場の空気に、場所にお金を払う。
これはとても大切な事だ。

もっとわかりやすい例を出すのなら、
アーティストのライブだ。

「俺は歌が聞ければそれでいいから、
 わざわざチケット代を出してライブなんて行きたくない。
 お金払いたくないからライブなんて嫌だ。」

という人はライブの楽しみは一生わからないだろう。
適切なサービスを提供してくれるアーティストであれば、
それは十分にお金を払う価値になる。
そして知らずして無課金、無経験でいる事はもったいない。

同様にして、自分の主観で
「カジュアルにお金なんかかけたくない。」
と思うのは自由。
けれども、それを他人の目の前に持ってきてしまったらマナー違反。
貴方の対戦相手も同じ価値観であるわけではないのだから。

そして、製作社(Wizards of the Coast社)は、
適切なサービスを提供している会社なのだから。
時には
「おい・・・なんでこんなカード作った・・・。」
というカードを弱いカードと強いカードの両方に思う事はある。
けれども、
MTGという、人を魅了してやまないシステムを作ってくれた会社なのだ。
それでもどうしても、何がなんでもお金を払いたくないというのなら、
MTGをやめてしまえばいい。
これは他のサービスとて同じ事。

どんな娯楽であろうとも、
「適切なサービスを提供しているもの(会社、人、物)に対し、
 お金を払おうとしない姿勢でいるのなら、
 その世界にいるべきではない。」
これは資本主義社会の基本とも言える。

少し話は変わるけれども、
この代用のお話にはいくつか経験がある。

店主はEDHでオフ会をした事が過去にあるのだが、
その時に全てのカードを代用にしていた人がいた。
この全てとは、基本土地も含める。

この人のデッキは、
ノートの切れ端を破ってカード名だけを書き、
それを適当なコモンカードと一緒にスリーブに入れただけ。
もう無茶苦茶である。
基本土地すら用意する気がないという。
当然問題が起きた。

・カードの効果を聞かれたら口で説明で時間がかかる。
・場に何が出ているのか他プレイヤーからはわかりにくい。
・皆、自分のデッキを持ち寄っているのに1人だけ代用100枚のデッキ。
・あの人とは対戦したくない。
・1人の人のために3人がカードを読んで時間がかかる。
・自分は卓にいないが見ているだけで不快になる。
・卓のシャッフルでもあの人と同卓はもう避けたい。

これらは全て、参加した方々から、
開催した店主のところに苦情として来た。

実際に自分もこのデッキを見て、
この人と対戦する気は無くなった。

何よりもいちいちカード名を見ないと、
場の状況がわからないゲームなんてしたくない。
代用カードを使われるせいで、
時間の無駄を強要されるなんて馬鹿げている。

これでわかってもらえるだろうか。
代用を使っている人は
「代用で構わないと思っているし、
 人に迷惑をかけていると思っていない。」
しかし、
本人には言えず、不快、迷惑と感じている人がいるという事だ。

この人とはそれっきりだったので、その後どうしているのかわからない。
少なくともこの日参加した人は、この人と連絡先を交換しなかったし、二度と一緒に卓を囲む事も無かった。

別のケースではこんな事もあった。

海外に行った時の事。
見知らぬ人も含めてEDHをしていた。

その人のデッキは青単で、基本土地以外は全て代用カードだった。
前述の人とほぼ同じで、ノートの切れ端にカード名だけ書いてあるものだった。

その時の卓は、

代用オンパレードの外国の人:青単
外国の友人:白青(代用無し)
日本人の友人:青赤緑(代用無し)
店主:青単(代用無し)

だったはず。
全員が青いデッキだった中、代用オンパレードの人以外の3人は、
デッキに本物の《Timetwister》を入れていた。

そして、代用オンパレードの人が連続でカードをプレイした時、
ノートの切れ端に《Timetwister》と書かれたカードをプレイされた。

店主と日本人の友人はその場で言った。

「すまない。君とEDHは出来ない。
 私達はこのカードゲームが好きで、
 人それぞれ、自身の財力でカードを買い、
 その組み合わせでこのゲームをしているんだ。
 《Timetwister》のような高いカードだって買って使っているんだ。
 代用で済まそうと思っている貴方とは一緒にゲームをしたくない。
 失礼ではあると思うけれども我々は退席したい。」

と伝えて、ゲームを終了させてもらった。

その時、この代用オンパレードの人が何歳だったかは知らなかった。
後で知った事だったが、この人は学生だった。

学生だから甘くしても良いという理屈は無い。
学生であろうと社会人であろうと、何が変わるものでもない。
土俵にあがったら皆同じだ。

そして、この学生さんはどうなったか。
言われた瞬間はショックを受けたようだった。
が、この話は後日談がある。

次にもう一度その学生さんに会った時、

「私は貴方に前回言われた時に代用デッキを壊しました。
 その後に自分の持つ資産でもう一度デッキを作りました。
 対戦してください。」
と言ってくれたのだ。

とても嬉しかった。
この学生さんはわかってくれたのだ。
言語の壁を超えて、
この価値観を共有出来た事を含めて嬉しかった。


マナーと心遣い

さて、ここまで話してきて、
基本的に代用は無しと言い切っているけれども、
全く代用を認めないという話でもない。

例えば、
・EDHのデッキを3~4つ持っていて、
どうしても《魔力の墓所/Mana Crypt》を複数持っていない。
対戦時に入れ替えも手間だから代用を使いたい。
・ヴィンテージとオールドスクールのデッキを作ると、
どうしてもパワー9が2周分必要だ。
さすがに1枚制限カードを2周は買えない。
・スタンダードやモダン、レガシー、ヴィンテージで、
メタのトップにあるデッキを2つ用意してデッキの微調整を行いたいが、
4枚採用のカードをデッキ2つ分の8枚を用意出来ない。
・PSA鑑定しているため、普通のデッキに入れられない。
といった場合。

上記のような事情を対戦相手に説明して、
了承を得てから使う事はアリだと思う。

どの条件であろうとも
「そのカードを持っている。」
という事は前提になっている。

常に対戦相手という存在があるのだから、
こういう所で相手にそれを伝える事も大切なマナーだ。

最後に。
トレーディングカードゲームとは、
自分以外の誰かがいて成立するゲームであり、
サービスのお金を払ってこそ維持されているものが娯楽のほとんどであり、
それらは全てマナーやルールというものが存在している。

よく
「○○の人達は民度が低い。」
という話が出る事がある。

それらはその娯楽について、
マナーやルールを守る人の数が少ないから発生するものだ。
幸いにしてMTGプレイヤーは紳士的な人が多いと言われている。

今後の未来でもそう評価してもらえるように、
今プレイヤーの方々はマナーとルールを考えて行動しよう。

カードゲームは勝負事なので、時に喧嘩をしてしまう事もある。
それは人である以上はどこかで起きてしまう。
けれども代用で済ませようという考えは、
そんな勝負事の喧嘩よりもお話にならない事だ。

「自分も楽しむ、相手も楽しむ。」

これは理想論だとは思う。
理想論は無理だとしても、
趣味を楽しみたいという気持ちは皆一緒だ。
そのための大切な事は「自分の持っているカードで挑む事。」だ。
代用カードの使用は上記のような最低限でとどめておこう。
それが「自分も楽しむ、相手も楽しむ。」の第一歩だと思う。

ではまた。


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