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【平成29年】国際私法司法試験 第一問 模擬答案

第一 設問1

1 単位法律関係は国際私法上の概念であるから、性質決定は法廷地法等ではなく、国際私法独自の立場から解釈してこれを行うべきである(国際私法独自説)。本件は、AのDに対する認知の有効性が問題となっているから、認知の成立の問題として性質決定され、その成立については、法の適用に関する準拠法(以下「通則法」)29条2項及び方式については34条が適用される。

2 通則法29条2項は、認知に基づく非嫡出親子関係について、1項前段において出生当時の親の本国法、2項前段において認知当時の認知する者の本国法または子の本国法を選択的に連結点としている。このような選択的連結が採用されたのは、一般に認知による親子関係の成立を認めることが子の保護に資するという、いわゆる認知保護の思想に基づけば、複数の法のいずれかにより認知が認められるなら親子関係を成立させるべきだからである。

  本件では、Dの出生時及び認知当時の、父親となるAの本国は甲国であり、認知当時のDの本国は乙国であるから、同29条1項前段又は2項前段により、本件の準拠法は甲国法または乙国法となる。そして、設問1の記述から、本件認知は同2項前段によって定まる乙国法の要件を満たす。

  また、子の本国法を準拠法とするので、同2項後段のセーフガード条項は問題とならない。

4 方式について、同34条は、婚姻以外の方式の準拠法につき、法律行為の成立を容易にし、当事者の便宜を図るため、当該法律行為の準拠法(1項)または行為地法(2項)の選択的連結が採用されている。

  本件では、認知の準拠法である甲国法、又は行為地法でもある乙国法が準拠法となる。そして、設問1の記述から、本件認知は乙国法の定める方式にて行われているものである。

  以上より、本件認知は乙国法の実質的・方式的要件をみたすため、有効に成立する。

第二 設問2

1 本件請求は、AD間には血縁関係が存在しないことを理由に本件認知の認知無効を確認するものであり、認知による親子関係の成立についての問題と性質決定される。よって通則法29条が適用される。

2 そうすると、同1項前段と同2項前段により、父親であるAの本国法甲国法か、子であるDの本国法乙国法の選択的連結となりそうである。

しかし、同29条の趣旨は前述のとおり親子関係を成立させることにより子の保護を図ることであることから、認知無効による親子関係の不存在については、29条1項前段及び2項前段によって決定されるすべての準拠法で無効となるときに限って認められるべきと解する。

本件でこれをみるに、まず甲国民法によれば、血縁上の父子関係が認知成立の要件であって、認知者の配偶者も認知無効の主張権者となっているところ、BはAの配偶者であるから、本件AD間には親子関係がないならば本件請求の要件は充足する。他方で、乙国民法によれば、そもそも認知無効の主張権者が認知を受けた子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人となっており、認知者Aの配偶者Bは、主張権者という要件を満たさない。

したがって、本件請求は乙国法によれば要件を充足しないため、認められない。

第三 設問3

1 本件は、CがDを代理して、Aの叔父であるEに扶養料の支払いを求めている。つまり、本件は扶養義務の問題と性質決定され、通則法43条1項及び扶養義務の準拠法に関する法律(以下「扶養準拠法」)2条が適用される。

2 扶養義務法2条は、まず扶養権利者の常居所地法を準拠法とし(1項本文)、それで成立しない場合は当事者の共通本国法(同ただし書)、さらに成立しないならば日本法が準拠法となる、補正的連結を採用している。補正的連結を採用したのは、なるべく扶養義務を認めることで扶養権利者の保護を趣旨としたものだからである。また、扶養権利者の常居所地法を第一順位連結としたのは、常居所が扶養権利者の生活に密着した地であり、同人の保護にとってふさわしいと考えられたことによる。

3 まず、扶養権利者Dの常居所地法を検討する。この点「常居所」(通則法43条1項ただし書、39条)とは人の通常の居所をいい、その判断は生活状況、期間、移動の経緯、親族の有無等を総合して行うべきであると解する。

本件では、乙国か日本国がDの常居所地候補であるところ、平成23年5月から同28年8月までの約5年間は日本国にて暮らし、日本の小学校に通う等して日本での生活になじんでいた。しかしAが死亡したのちには日本国にDの親族はおらず、母親であるCはDとともに生活のためにより安定した職業に就ける乙国へ移住した。そして、乙国にはDとCの親族が存在しており、既にDが乙国内の小学校に通学して生月になじんでいることを考えれば、Dが乙国に今後長期にわたって暮らすことは客観的に予測でき、生活期間がいまだ1年未満であったとしてもすでに常居所地は乙国に移転したというべきである。

そうすると、準拠法は乙国法となるところ、乙国民法によれば2親等以内に傍系血族間でのみ扶養義務が認められている。しかし、本件Dからみて、叔父であるEは4親等の傍系血族である(民法726条参照)ため、この要件を充足せず、EにDの扶養義務は認められない。

4 次に、1項ただし書による当事者の共通本国法を検討する。

本件Eは甲国を本国としているが、Dは甲国と乙国の二重国籍となっている。このように、二重国籍である場合の本国法はどのように定めるべきか、問題となる

(1) この点、通則法38条1項を類推適用して1つの法域を本国法とすることも考えられるが、同43条1項が扶養義務の問題につき38条1項を適用除外していること、また扶養義務法2条の扶養権利者保護の趣旨から、扶養義務の問題については、多国籍者はそのすべての国籍を「本国」として案が得るべきであると解する。

(2) そうすると本件では、Dの本国法が甲国及び乙国となる。よって、EDの共通本国法である甲国法が準拠法となる。

    甲国民法によれば、4親等内の傍系血族間には扶養義務が認められているところ、EはDの4親等傍系親族である(前述)。したがって、EにはDの扶養義務が認められるから、扶養義務法2条1項ただし書により、準拠法は甲国法となる。

以上

感想

認知無効の準拠法については、嫡出否認の考え方を流用したんだけど、それでええんだろうか…。

扶養準拠法は、多重国籍に寛大な立場をとってるのが通説、というのは正直知らんかった。まぁ確かに、「通則法の適用が一律に排除されてるにもかかわらず、本国法の規定がない」ってのを、「扶養をなるべく成立させるべき」っていう扶養準拠法の趣旨に合致させれば当然そうなりますわな…。

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