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#88【ロード・オブ・ザ・リング】ep.2「この映画がヒーローアドベンチャー映画なわけ」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#88にあたる内容を再編集したものです。

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【ロード・オブ・ザ・リングについて】

 2001年公開
 監督:ピーター・ジャクソン
 音楽:ハワード・ショア

登場人物

 フロド・バギンズ:
 ホビットの青年。ビルボから指輪を受け継ぐ。
 
 ビルボ・バギンズ:
 フロドの養父。指輪の前所有者。
 
 サム・ギャムジー:
 フロドの家の庭師で、フロドの友人。
 
 メリー&ピピン:
 フロドの友人で、旅に同行する。
 
 ガンダルフ:
 放浪の旅をする魔法使い。
 
 アラゴルン:
 サウロンを倒したイシルドゥアの子孫。
 
 レゴラス:
 闇の森のエルフ王の息子。
 
 ギムリ:
 ドワーフの戦士。
 
 ボロミア:
 城郭都市ミナス・ティリスの大将。
 
 ゴラム:
 以前の指輪の所持者だったホビット。
 
 サルマン:
 力のある魔法使い。堕落してサウロンに従う。
 
 サウロン:
 かつて世界を恐怖に陥れた冥王。

【前回の振り返り】

 前回は、明確な状況におけるジャンルの書き分けと内面的な音楽の書き分けについて見ていきました。
 キャラクターや状況に合わせて、かなり詳しく、明確に音楽をかき分けていることであったり、内面的な事柄ですね。
 愛であるとか、旅への希望みたいなものを常に暗い音楽が演奏されている中で演奏されることで、非常に際立ってみえてきましたね。
 この明確な楽曲の書き換えがこの映画との相性もよく、1作目としてのキャラクターの書き分けとしても、世界観の説明にしても、非常に機能しているという話でした。
 旅への希望、指輪を捨てにいくという状況ではヒロイックな楽曲が演奏されているという話をしたのですが、今回はそのヒロイックな楽曲はこの映画にとってのメインテーマと言っても過言ではないので、そのメインテーマの使われ方と意味に関してやっていこうと思います。

【メインテーマの使われ方と意味に関して】

 この楽曲はヒロイックで、勇敢な印象とどこか悲しげな印象の両方を兼ね備えた楽曲です。
 アップルミュージック ロード オブ ザ リング ザ フォローシップ オブ ザ リング ザ コンプリート レコーディングス 2曲目に収録されている「ザ シャイア」0:23あたりから演奏されるフレーズが今作ロードオブザリングのメインテーマと呼べる楽曲になっています。
 このようなフレーズでした。
 (演奏)
 勇ましくもあり温かいけど、どこか悲しげな印象を受けます。
 この楽曲が演奏されるのはまさに前回お話しした、旅立ちに関連して演奏されます。

ポジティブ/ネガティブなメインテーマ シーン1

 38:00
 サムさんが急に立ち止まり、ここから一歩踏み出せば行ったことのない土地になりますというシーンです。
 この時に演奏されています。
 ポジティブな印象とネガティブな印象を持つ楽曲がなぜ採用されたかですが、このシーンでは境遇の変化へと立ち向かう勇気がこの楽曲たらしめている理由に感じます。
 ホビット族というのは、非常に牧歌的な暮らしを好む種族です。
 開拓精神は薄く、領土の拡大や新天地への移動などを好まない種族のため、サムさんは一歩踏み出せば行ったことのない土地になりますとわざわざ言ったことになりますよね。
 しかし映画としては、そんなホビット族だからこそ指輪の魅了に堪えられたのかもしれません。
 主人公の叔父のビルボ・バギンズさんは冒険が好きだったので、指輪の魅了に堪えきれなかったのかもしれませんね。
 そう考えると、主人公のフロドさんはサムさんほど保守的でなく、ビルボさんほど前衛的ではないので、ちょうどいい塩梅だった感じがしますよね。
 少し脱線しましたが、サムさんは外の世界には行ったことがないため、不安を感じています。
 しかしフロドさんを無事送り届けるという使命があるため、ポジティブとネガティブの両端を担った楽曲が演奏されたということになります。
 この映画はとにかく旅立ってはどこかに滞在してまた旅立つ、という停滞と旅立ちをよく繰り返します。
 そして旅立ちには決まってこの楽曲が演奏されています。
 ということはこの楽曲は旅立ちのテーマということになるわけですね。

ポジティブ/ネガティブなメインテーマ シーン2

 次の旅立ちはアラゴルンさんが仲間になったものの、黒の乗り手という幽鬼から逃げるため魔法使いガンダルフさんと待ち合わせをしていた街を後にするシーンでも演奏されています。
 こちら
 57:19
 このシーンでの演奏は若干ネガティブな要素に比重を置いたアレンジになっています。
 こういったバランスが非常に優れていますよね。
 腕の立つアラゴルンさんが仲間になったものの、ガンダルフさんは現れず黒の乗り手からは追われている状況です。
 3:7位でネガティブが多いですよね。
 ですので同じ演奏をするのではなく、状況に合わせて書き換えるため感情移入しやすくなります。

ポジティブ/ネガティブなメインテーマ シーン3

 次のはポジティブが多いパターンです。
 1:33:15
 エルフの里には指輪を置いておけないので、9人で旅に出ることが決まるシーンです。
 9人とは、フロドさんと彼を守る8人の仲間のことですね。
 魔法使いのガンダルフさん、人間族のアラゴルンさんとボロミアさん、エルフ族のレゴラスさん、ドワーフ族のギムリさんそしてホビット族のサムさん、メリーさん、ピピンさんですね。
 この9人の行動は世界がサウロンの手に落ちないために、まあ世界を救うためですかね。
 利益度外視で協力してくれているので、こんなにポジティブなことはありません。
 そのため楽曲もポジティブなアレンジがされています。
 このポジティブなアレンジだ、ネガティブなアレンジだと言っている多くの要因はハーモニーにあります。
 低音を強調したり、ハーモニーを変更しないオルガンポイント(保続音)といった作編曲技術を使うことで、楽曲を細かくかき分けています。
 とまあこの8人がフロドさんを守りながら、指輪を捨てに行く物語がはじまるので、実質今まではプロローグのような作りで、ここからが本編といった感じですね。

ポジティブ/ネガティブなメインテーマ シーン4

 そしてその後にエルフの里から旅立ちます。
 それが
 1:36:07
 9人が大自然の中を活歩するシーンです。
 このシーンで演奏されているアレンジが本来の、いわゆるプレーンに近い感じがしますね。
 まさにロードオブザリングのはじまりはじまりと言ったシーンで演奏されています。
 この楽曲の持つポジティブとネガティブのちょうどいいバランスが、9人の行く末を占っているようにも感じますよね。
 勇敢だけどどこか悲しげな、暖かいけどどこか危うい感じがまさにこの映画自体を体現しているように感じられます。

 ここまでがポジティブとネガティブなメインテーマの演奏で、次に紹介するのはうまく行った時の使われ方です。

うまく行った時のメインテーマ

 2:06:52
 悪鬼バルログから逃げる際に崩れかかる橋から飛び移るシーンです。
 この時はヤバいヤバいの状況からうまく行った状況ですよね。
 それと
 2:01:59
 でも似た使われ方をしています。
 オークに襲われるもののミスリル装備で助かり、みんなで洞窟の出口へと一目散に走るシーンです。
 これもヤバいヤバいから立ち直すシーンですね。
 この2つのシーンではテンポも早くアクション音楽の要素を持っていますね。
 これらの使われ方はインディージョーンズシリーズやアベンジャーズなどでよく使われる手法です。
 というよりアクションヒーローやアドベンチャー映画で使われる手法なんですね。
 なので、ここまでを整理するとこの映画はヒーローアドベンチャー映画のように音楽が書かれているわけです。
 前回やった明確なキャラクターや状況での音楽の書き分けも、メインテーマの使われ方もヒーロー映画やアドベンチャー映画の手法を用いていることが、わかってきます。
 主人公が闘いに不向きなホビット族であることから忘れてしまいがちなのですが、世界を救うために世界を旅するんですから、紛れもなくヒーローアドベンチャー映画ですよね。

 それとこの後にエルフの森にいくのですが、エルフの森を去る時もこのテーマは演奏されます。
 その際は神秘的な要素を追加しています。
 これはエルフの森が神秘的だからですね。
 ということでこの楽曲はメインテーマでありながら、やはり旅立ちのライトモチーフとしても機能していました。

【指輪のライトモチーフ】

 そして、この映画は指輪をめぐった話なので、指輪のライトモチーフも出てきます。
 アップルミュージック ロード オブ ザ リング ザ フォローシップ オブ ザ リング ザ コンプリート レコーディングス 7曲目に収録されている「キープ イット シークレット、キープ イット セーフ」という楽曲の4:29あたりから演奏されるヴァイオリンの音がそうです。
 このようなメロディです。
 (演奏)
 とても神秘的でどこか不安になるメロディですよね。
 このメロディが登場した時は、指輪に関する話の時です。

指輪のライトモチーフ シーン1

 映画冒頭
 1:08
 で指輪の話が登場します。
 この時に初めて演奏されます。
 指輪がどのように作られ、どのようなものなのかが描かれています。
 ここで演奏されているのはまさに指輪のテーマといった感じですね。

指輪のライトモチーフ シーン2

 次がおもしろくて、
 24:57
 何も知らないフロドさんが叔父のビルボさんの家に来た際、玄関に落ちている指輪を拾った時にこのメロディが演奏されます。
 まさに、すべてのはじまりといった感じですね。
 そしてガンダルフさんから指輪の怖さについて教授されます。

指輪のライトモチーフ シーン3

 この後
 32:59
 でも演奏されます。
 小出しに指輪の話をするガンダルフさんが、今一度指輪の怖さを話すシーンですね。

 このように指輪はこの世にあってはいけないものとして、フロドさんを旅へと駆り立てるわけのですが、フロドさんは正直こんな指輪はいい迷惑なわけですよね。
 叔父がどっかから拾ってきたわけのわからない指輪を、危ないから捨ててきなさいと言われるわけです。
 その叔父はどっかいなくなっちゃうし、割とはた迷惑な話なんです。
 なので、劇中フロドさんは色んな人にこんな指輪いらないというんです。
 だけどみんなからは誘惑するなだの、これはお前が持っていなければならないだの言って受け取ってもらえないんですね。
 それでこの時にはこの指輪のテーマは演奏されません。
 なので、このテーマはただただ指輪のライトモチーフとしてではなく、指輪の神秘的なテーマということになります。
 指輪の力であったり惹きつけてしまう魔力がこの楽曲の演奏動機になっています。
 ですので、

指輪のライトモチーフ シーン4

 2:30:24
 ではボロミアさんがフラフラ森を歩いているフロドさんをこっそり追って指輪を取ろうするシーンで演奏されているわけです。
 指輪に魅了されて、指輪が欲しくなっちゃうと指輪の神秘的なテーマが演奏されるというわけですね。

 ただ、ここで難しいのは、エルフの里についた時に、叔父のビルボさんと再会します。
 その時に、指輪をもう一度だけ触らしてくれないかとヤバそうな顔で言われます。
 この時には演奏されていません。
 叔父のビルボさんは指輪にガッツリめに魅了されているので、指輪の神秘的なテーマが演奏されそうなものですが、このシーンで重要なのは、甥を心配する本当は心優しいビルボさんがフューチャーされているので、ヴィラン的な楽曲が演奏されるのですが、すまないと謝ってからおいおい泣いてしまう時には、ネガティブ(悲しげ)なバラードが演奏されます。
 ということで、このビルボさんのシーンは指輪がメインではなくて、迷惑をかけたことを謝りたかったビルボさんがメインのシーンということになります。
 なので、指輪がメインのシーンではこの指輪の神秘的なテーマが演奏されていたというわけですね。
 意外と覚えていないものですが、改めて見返すとライトモチーフが他にも登場しています。
 見返す方はぜひ他のライトモチーフも見つけてみると面白いと思います。

【エンディング】

 ということで、今回はメインテーマとも言える旅立ちのライトモチーフと指輪のライトモチーフについてみてきました。
 とにかく全体を通して言えることは非常に作りが繊細で、細かなアレンジの違いがしっかりシーンに効いているからこそ得られる没入感がこの映画の音楽の醍醐味の一つだと思います。
 そして忘れちゃいけないのが、ヒーローアドベンチャー映画であることですね。
 ファンタジー映画とひとくくりにしてしまいがちですが、音楽はヒーロー映画やアドベンチャー映画の作りでしたね。
 サブスクリプションでは告知通り「セブン」から1曲とどうせですので、ロードオブザリングからは、メインテーマと言える旅立ちのライトモチーフを楽曲分析しようと思います。
 どのような方法で勇敢さと悲しさを共存させているかをみていこうと思います。
 サブスクリプションは過去の特別エピソードも聴き放題で初月無料、月額300円で聴くことができますので、気軽に参加してみてください。
 そして次回は「マイ・エレメント」という映画をやろうと思います。
 音楽はトーマス・ニューマンさんですね。
 このポッドキャストでもショーシャンクの空にで取り上げた音楽家です。
 ニューマン一族と言われている、映画音楽家を多く輩出している家系で本当に素晴らしい音楽家です。
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 あと映画にみみったけでは、お便りも募集しています。
 info@eiganimimittake.comにてお便りお待ちしております。
 やってほしい映画とか、この回が好きだったなど、どしどしお待ちしております。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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