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#82【シックス・センス】ep.2「アリアトリックミュージックとは、それと美しき人間模様」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#82にあたる内容を再編集したものです。

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【シックス・センスについて】

 1999年公開
 監督:M・ナイト・シャマラン
 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード

登場人物

 マルコム・クロウ:
 小児精神科医の男性。コールのカウンセリングを行う。
 
 アンナ・クロウ:
 マルコムの妻。夫婦仲は冷え切っている。
 
 コール・シアー:
 マルコムの担当する少年。死者の姿が見える。
 
 リン・シアー:
 コールの母。息子の抱える問題がわからず途方にくれている。
 
 ヴィンセント・グレイ:
 マルコムがかつて担当した患者。マルコムを銃で撃つ。

【前回の振り返り】

 前回はこの映画は3つの音楽ジャンルから成り立っているという話をしました。
 ホラー、バラードそしてスロードラマで作られていて、ホラーはそのままですね。
 ホラー映画なので、ホラー音楽が演奏されていました。
 バラードは映画としての彫りの深さというか、ただお化けが出てくるだけではなく、人間ドラマが描かれるシーンでバラードが演奏されていました。
 最後に聞き馴染みのないスロードラマというジャンルが演奏されていました。
 これは物事がはっきりと見えてこない時、ということはプロットに未知の要素があって観客はそれに対して心配している時に演奏される音楽ジャンルです。
 この3つのジャンルを映画のプロットに上手く噛み合わせて描かれていたなんて話をしましたね。

【ホラー音楽について】

ということで今回はホラー音楽について観ていこうと思います。
 今回もネタバレの要素を含みますので、お聞きになる際はご注意ください。
 この作品はお化けが出てくるホラー映画です。
 なので、お化けが出てくるとホラー音楽が演奏されます。
 54:50
 ではお化けが廊下を横ぎります。
 このシーンでは普通にお化けが出てきて、ホラー音楽が演奏されています。
 お化けの登場時に大きな音でパーカッションと不気味なストリングスが演奏されています。
 そのお化けはなにか危害を加えてくるのかどうかわからないことも含め、恐怖の対象です。
 その恐怖の演出としてホラー音楽が演奏されます。
 なので、ホラー音楽はお化けが出てくる時だけに演奏される音楽ではなく、恐怖の演出として演奏されます。
 さらにいうと映像としてのエネルギーレベルが関係します。
 映像のエネルギーが高く、恐怖を感じるシーンはアクション音楽が演奏されるので、一概に恐怖の演出というわけではないということですね。
 映像のエネルギーが低く、恐怖を感じるシーンでホラー音楽は演奏されるということになります。

アリアトリックミュージック

 ではホラー音楽はどのように作られているのか、適当に作っているわけではなく、ホラー音楽にも作り方は存在します。
 ただ、ホラー音楽の作り方自体は#41でやっているので、今回はそこで話さなかったアリアトリックミュージックというものに触れてみようと思います。
 アリアトリックとは現代のホラー音楽でも用いられるアイデアで、これは20世紀のクラシックによって開拓された音楽技法で、偶然性を取り入れた音楽のことです。
 偶然性というのは、例えばジャズのインプロヴィゼーション(アドリブ)演奏とは違い本当の意味での偶然を音楽に取り入れる技法のことです。
 基本的に音楽というのは、作曲家や編曲家、プロデューサーやディレクターなどから、特定の指示を受けて演奏家が演奏に臨むものですが、このアリアトリックというものは、大雑把な指示によって演奏家の判断に任せる音楽のことをさします。
 例えば、フルート奏者に「演奏できる最も高い音をフォルティッシモのスタッカートの8分音符」で演奏するように指示します。
 この例ではアーティキュレーション(演奏方法)、リズム、タイミング、ダイナミクス(強弱)これらは指定されています。
 しかし具体的な音程を指定していません。
 「最も高い音」はフルート奏者によって異なります。
 とても曖昧な指示を出すことで、どのような音程がくるかはわからないですよね。
 このように不確定要素、意外性、偶然性というものを音楽に取り入れることができます。
 しかし、最も高い音というのは実際ある程度は予測可能です。
 恐らくは高音で尖った、フォルティッシモのキンキンとした音が期待できます。
 ヴァイオリンで考えてみると、例えばC-D♭-E♭-Dのパターンを10秒間素早く繰り返し演奏するように指示を出します。
 この場合は他のセクションのプレイヤーとはリズム的な同期をせずに演奏することになります。
 素早く演奏するのは奏者ごとでそのリズム(速さ)も違い、さらに他の楽器との連携をあえてとらないことを意味します。
 これも具体的な演奏が指示されていませんが、ある程度は結果予想できます。
 例えばですが、ピアノでバラバラに弾くとこうなります。
 (演奏)
 大体12から14人いるヴァイオリンセクションで、その演奏をするとバラバラで隣り合う不協和音を高速で演奏するため、クラスターのような効果が起きると予想できます。
 クラスターとは隣接するいくつかの音を同時に演奏することで、音程にならない音の塊を生み出す演奏方法のことです。
 しかしクラスターは同時にかつ持続的に演奏するのに対し、この演奏からは様々な連続した音が生み出されるため、きらめきのような音が期待できます。
 これらがアリアトリックというアイデアですね。
 作曲家のクリストファー・ラウスさんの「トロンボーン協奏曲」という1993年にピュリッツァー賞音楽部門を受賞した楽曲では、クライマックスで3本のトランペットに特定の音程とリズムパターンを与えて、それらを繰り返し演奏するように指示されているのですが、そこには「協調しないように」と記載されていたそうです。
 この記載で各奏者は他の奏者とリズムを合わせることなく各自の繰り返しパターンを演奏することになります。
 詳しく説明すると眠たくなるでしょうから、詳細は省きますがこの協調を否定することで、より混沌としたものになります。
 このような演奏をホラー音楽に取り入れることで、より不確定で不安定な音楽が出来上がり、恐怖演出としての音楽が出来上がるわけです。

【人間模様を感じさせるポジティブなバラード】

 ということで、前回は全体とスロードラマについてやって、今回ホラーをやったので最後にポジティブなバラードで締めようと思います。
 なぜホラー映画にバラード?といった感じですけれども、この映画はホラーを巧みに使ったヒューマンドラマのような側面を持っています。
 人物紹介も交えて、基本的な映画の構造からお話しようと思います。
 ちなみに大ネタバレをかますので、十分にご注意ください。
 まずは、マルコム・クロウさんは小児精神科医で今作の主人公です。
 奥さんが居ますが、以前担当したヴィンセント・グレイさんの事件以降奥さんとの関係はあまり芳しくありません。
 次にコール・シアーくんですが、マルコムさん担当の患者さんですね。
 学校では周囲と馴染めず、なにもないところに向かって喋ったり、急に怖がったりとどうも様子がおかしいわけです。
 その理由はコールくんは死者が見えていて、その死者と交流することができるためだと明らかになります。
 この二人に関係する事象でポジティブなバラードは演奏されます。

マルコムさんに関するポジティブなバラード

 マルコムさんは奥さんとの関係ですね。
 前回も登場した
 40:04
 では結婚当時の映像を懐かしんで見ている時にはバラードが演奏されています。
 しかし奥さんは、仕事仲間の青年とどうも仲が良いようで、青年が出てくると毎度スロードラマやらホラー音楽やらが演奏されます。
 なので奥さんへの気持ちが変わらないことが描かれた先ほどのシーンではバラードが演奏されるものの、基本的にはスロードラマの採用が多いです。
 そしてここから、大ネタバレをするので、聞きたくない方は映画を見てから続きを聴いて下さい。

 いきますよ。(ちょっと一呼吸おいて)
 実はマルコムさんはすでに死亡していて、奥さんは元旦那さんであるマルコムさんの死を乗り越えるために、新しい恋人となりえる青年と仲良くしていたわけです。
 これがわかるのが最後の最後で、マルコムさんは自分が死んでいることに気づくことで、奥さんには前を向いて歩いてほしいと想うわけです。
 そこでバラードが演奏されるんですね。
 とてもよく出来た構成で、マルコムさんと奥さんの想いを感じる時にバラードが演奏されています。

コールくんに関するポジティブなバラード1

 そしてコールくんです。
 コールくんのバラードが演奏されるタイミングは大きくは1つなのですが、分けると2つあります。
 先に細かい方から話すと、親子の絆です。
 1:15:57
 以前も登場しましたが、コールくんの母がうなされているところをコールくんがなだめるシーンです。
 この時はコールくんの優しさや母が子を想う様が描かれていて、その際にバラードが演奏されます。
 このことからバラードが演奏される時はコールくんの優しさが描かれるとわかります。

コールくんに関するポジティブなバラード2

 次に登場するシーンは少し前置きが必要なので、状況を説明します。
 まずコールくんの部屋に少女のお化けが登場します。
 初めはコールくんも怖がっているのですが、勇気を振り絞り交流を図ります。
 するとその少女の亡くなった真相が浮かび上がってきます。
 このことを伝えるために少女の葬儀にコールくんとマルコムさんは向かって、あるビデオを少女の父に渡します。
 そのビデオには少女の死の真相が写っていて、少女の母による毒殺であったことが明らかになります。
 このことを伝えられたのがバラードが演奏されるシーンですね。
 1:25:15
 です。
 この時にコールくんはずっと憎かった死者が見える力で、初めて誰かを助けることができます。
 周りと距離を感じてしまうほどの変わった力をポジティブな方向に克服することができたわけですね。
 これでマルコムさんの仕事は終わりということになります。
 ということで、前向きになったコールくんは演劇で主役なんかしてみたりして、明るい子になりました。
 そしてそんなマルコムさんとの最後の別れのシーン
 1:28:38
 また会えるようなさよならをしようとコールくんが言うシーンです。
 なんだか変わった挨拶ですが、これはマルコムさんが死者であることを唯一知っているコールくんからの最大限の感謝の証ですよね。
 このことからコールくんの優しさがポジティブなバラードの演奏につながっています。
 この二つの事象、マルコムさんは奥さんへの気持ち、コールくんは優しさが描かれるシーンではポジティブなバラードが演奏されています。
 ちなみに最後に頑なに死者が見えることを否定していたコールくんの母とのわだかまりも解消されるのですが、ここではポジティブなバラードがめちゃめちゃ演奏されそうなのですが、演奏はありません。
 演奏はなくても二人の演技が凄すぎて、むしろリアリティのあるシーンに仕上がっているので参っちゃいますよね。

【エンディング】

 ということで、今回はホラー音楽の作り方とバラードの仕掛けについてみてきました。
 本当にいうことなしに名作でしたね。
 ライトモチーフなどの話はなかったのですが、映画として音楽のジャンルだけで語り切れるほどこの映画の脚本が見事でした。
 途中に大ネタバレもありましたが、話すには仕方なかったです。
 というかどうしても話したくなっちゃいましたよね。
 ということでサブスクリプションではシックスセンスからはスロードラマという音楽の作り方をやって、別作品からはソルトという映画をやろうと思います。
 そして次回はジュラシックワールドをやろうと思います。
 マイケルジアッチーノさんですね。
 元となった作品のジュラシックパークはこのポッドキャストで第1回目にやった作品なので、思い出深いシリーズですね。
 その時はジョンウィリアムズさんでしたが、ジュラシックワールドではマイケルジアッチーノさんということで、スパイダーマンノーウェイホームとかズートピアとかこのポッドキャストでもなんども取り上げている音楽家です。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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